ごちゃ倉庫
◎スキーするめ、君が好き。
2016-3-16 11:56
スキーするめ、君が好き。
真冬のゲレンデ。
スキー場に流れるは、冬の女王広瀬香美の曲。
真っ白な雪は、太陽に反射し、眩しい。
スキー場に来ている客は、皆楽しそうにスキーをしている。
…一部を除いては。
「まぁた、女の子に囲まれて…あーあ、嫌になっちまう。くそ、死ねッヤリチン野郎が…死ね死ね」
女に囲まれたイケメンをみて、ギリギリと歯ぎしりを立てる男。
名前を葛葉紫苑(くずはしおん)という。都内某所に在籍する大学生だ。
紫苑は女の団体に囲まれ、困ったように笑う男にキッと牙を向く。
グルル…とまるで犬のように唸りながら。
「紫苑、仕方ないだろー、お前の彼氏はスーパーモデルさんで、今やテレビに出ている人気者!方やお前はただの平凡童顔な大学生。仕方ない仕方ない」
「うっせー!俺はどうせ平凡だ!でもなんだ、司のあのでっれでれな顔!恋人がいるってのに…」
一緒にスキーに来ていた大学の同期・松葉冬月はおかんむりな紫苑にやれやれ、っとばかりに肩を落とす
紫苑の目先にいるのは、漣司(さざなみつかさ)
まごうことなく紫苑の彼氏である。
ただその漣という男は、超がつくほど顔が整い背もスラリとしたイケメンさんなのだが。
紫苑と漣は、家がお隣りの幼なじみだったりする。
「あー、そうだよ、あいつはモテるよ。
でもな、俺が好きだと言っておきながらへらへらしたりだとか、相変わらず女といるとイライラすんだ!あーむかつく!!」
「イケメン彼氏を持つと大変だねぇ」
「しかも、しかもだよ!つい昨日ベッドで、他の女見ないって言ったばかりなのに!」
「まぁまぁ」
紫苑がこうやって漣の事で松葉に愚痴るのはいつもの事だ。
別に、漣は浮気者というわけではないが、女がほっとかない程のイケメンなのだ。
何もしなくても、女がよってくるほどの。
告白したのは漣からであったが、いつも女にちやほやされている漣を見ると、紫苑は気が気でないらしい。
度々女に囲まれた漣をみてヤキモチをやき、ウジウジとしていた
「どうせ俺はスルメなんだー」
ついには、泣きまねをして、顔を両手で隠す紫苑。
「スルメ?」
なんだ、スルメって。
松葉は紫苑の言葉に小首を傾げる。
「あいつが言っていたんだ、俺の事『スルメ』みたいだって」
「スルメ…ねぇ」
スルメ、といえば食べるスルメだろうか?
松葉はぼんやりと頭を回転させ、スルメを脳裏に描く。美味しそうな焼きスルメを…
「スルメ美味しいじゃん」
「スルメだぜー」
可愛くもないし、かっこよくもないし、第一恋人がスルメってなんだよ、っと紫苑は眉を吊り上げながら吠える。
「どうせ、俺はっ!スルメのように枯れてますよーだっ」
「いやいや、きっとそういう意味で司は言ったんじゃ…」
「俺だって…俺だってなぁ…」
「あ、インストラクターの先生!ほら、いくよ、紫苑!俺達滑れないから頼んでいたんだろ」
松葉はぐちぐちと泣きながら愚痴を零す紫苑を引っ張り、頼んでいたインストラクターの友達を探す。
インストラクター、といっても本業ではなく、松葉の彼氏の友達でスキーを教えるのが上手いヤツがいるからついでに…と教えてくれたのだ。
当初は漣が滑れない紫苑と松葉教える予定であったが、漣も久しぶりのスキーという事で滑りたいらしく紫苑の申し出を無下に断った。
まぁ、そりゃ滑れないやつの面倒なんて普通はみたくないよなーと紫苑もスキー場につくまえは仕方がないと思っていたのだが、女の子に囲まれている漣をみると紫苑の怒りはふつふつと沸き立つ。
(スキーくらい教えてくれたって……)
そもそも、付き合ったものの漣はモデルで多忙だから滅多に一緒にいられない。
一緒にいれば一緒にいるで、すぐSexになだれ込むし。
甘い空気なんかない。
もしかして体目当てなんじゃ…と昨日、行為を拒否したものの結局、そのまま抱かれてしまうし。
(まさかスルメって昨日拒否したから枯れているって意味か…)
紫苑はふと湧いた考えに頭を抱えた。
「あぁ、いた!彼だよ、紫苑」
「ふぇ…?」
怒り爆発だった紫苑だが、松葉に声をかけられようやくはっと、意識を戻した。
と、そこには…
「うわ…」
漣には及ばぬものの、なかなか顔の整った甘い顔をしたイケメンがいた。
ホスト、みたいな。
甘い雰囲気を醸し出すイケメンが。
イケメンは紫苑達を見つけると、にっこりと微笑みながらやってくる。
「やぁ、葛葉君に松葉君…だよね?」
イケメン君は二人をちらりと見つめ、友好的に笑いながら、手を差し出した。
(あ、握手か…)
普段漣を見慣れているはずの紫苑でも、一瞬、その顔に見惚れ反応が遅くなってしまった。
そのイケメンの、甘い雰囲気に呑まれて。
「僕は御子柴新(みこしばあらた)宜しくね」
「は、はぁ」
イケメンの笑顔をみて、ついぽーっとなる、紫苑。
きつく握り返される手。
骨張った以外にも男らしい手に少しドキリとする。
元々、紫苑はかなりの面食いだ。
そりゃ、美形の見本とでもいうような彼氏がいるが、漣と付き合う前はあれこれイケメンに一目惚れしてきた紫苑である。
これだけのイケメンに見惚れてしまうのは仕方ない。
漣と付き合ってなかったら、今頃この人いいな…と思っていたに違いない。
紫苑は知らないが、紫苑の一目惚れ率は半端なく高く、付き合う前などは漣は紫苑が恋に落ちる度にヤキモキしていた。
「じゃ、じゃあ早速いこうか…葛葉…下の名前を聞いてもいいかな?」
「はぁ、紫苑です」
「紫苑くん…ね。さ、いこうか」
にっこりと笑いながら、御子柴は馴れ馴れしく紫苑の肩を抱く。
スキンシップ…にしては妙に馴れ馴れしく。
ぐぃっ、と肩を寄せて密着している。
それも、紫苑だけに。
(うーん、嵐の予感?)
松葉はチラリと、漣に視線を移す。
漣は周りに女の子を侍らせながら、射るような視線でこちらを睨んでいた
*
「う、うひゃあ…!御子柴さん!ヤダッそんな…」
「ほら、大丈夫」
「こ、腰なんて…」
「ほら、もっと腰を下げなきゃ。ゆっくりでいいから」
「う、うーん」
紫苑は言われた通り、恐る恐る腰を下げる。
っといっても紫苑はスキー初心者。かなりへっぴり腰だったが。
そんな腰を、堂々と支えているのが御子柴だ。
只今、スキー滑りの練習中である
「ほら、もっと落として!そんなんじゃ進まないよ!もっといきたいでしょ」
「う、うん…」
意識すればするほど、紫苑の足は明後日の方向へいく。
っと。
「う、うわっ」
ついには、足が絡まって転んでしまった。
ちょうど、紫苑が転ぶ事を見越していた御子柴は腕を広げていて、上手い事紫苑を抱き留める。
「あ、あの、ごめんなさい」
「いやいや、紫苑くん、凄いほっそりしてるね。ウェアでこれだもん。実際脱いだら凄そうだね」
「へ?あははそんな。俺普通すぎる身体つきですよ」
御子柴の言葉に紫苑は何の疑いもなく、あはははと笑って帰す。
御子柴の顔にはうっすらと、《下心》が見え隠れしているというのに。
ふと、ぎゅっと、そのまま強く抱きしめられる紫苑。
スキー場なので、男同士が抱き合っていても、皆『転びそうになったんだな…』と理解してか、わざわざ紫苑達を見つめる人間などいない。
それを良いことに、御子柴は紫苑の身体にすっぽりと収まる身体を抱きしめ堪能する。
(俺って抱きまくら?いやいや、司以外の人間に抱きしめられるなんて!)
「あ、あのっ、御子柴さんっ」
「……すまない…。君が…君が亡くなった妹に似ていたんで、…つい」
御子柴は申し訳なさそうにそう言うと、紫苑の身体を抱きしめていた腕を解く。
さみしげに、笑う口元。
「え…」
「妹も、ちょうど、君のような体型だったんだ。元気で跳ねっ返りで」
御子柴は、悲しげな顔をしながら笑む。
その口調からは、妹を懐かしむような声色が孕んでいて…。
(まさか、妹さん死んじゃって…?)
「あの、俺…別に抱きしめられても嫌じゃないですからっ!」
お人よしの紫苑は、ついそう口にしてしまった「紫苑くん…なら君をもう一度抱きしめてもいいかな」
躊躇うように伺う御子柴。
こんな姿を見せられれば、人がいい紫苑は断れない。
「もちろんで」
紫苑は御子柴にコクリ、と頷こうとした。
その時だ。
「駄目だ」
低い、機嫌の悪そうな声が聞こえたのは。
べりっと、剥がすように御子柴から紫苑を奪い、無理矢理自分の胸の中に隠すかのように抱く声の主。
聞き覚えのある声にドキリと胸が鳴る。
「…あ…」
「こいつは、俺のだ」
「司…」
御子柴に、牽制するかのように低く威嚇する漣。
紫苑は突然現れた漣に?マークでいっぱいになる。あれだけ頼んでも、スキーの練習なんか見ないで自由に滑りたいと言っていたのに。
「こいっ…」
漣はそのまま、紫苑の腕をひき、泊まっているロッジへと向かう。
漣ほど力もなかったし、上手く滑れない紫苑は、大人しくなすがまま、漣に引っ張られていた。
「司!あーもう、勝手にスキー板外して!俺滑る練習してたのに!」
泊まっている部屋に戻り、紫苑が抗議しても漣はツン、と不機嫌そうに明後日の方向を向いている。
「司!」
「…他の男なんて、みてんじゃねー…アホ紫苑」
「は?」
ポツン、っと漣が言った言葉にぽかんと口が開く。
散々、女の子に囲まれて、王様のような顔をしていたのはどこのどいつだろうか。
「あんな…、抱かれやがって」
「あれは、俺が転んだから」
「知るか」
漣は紫苑の言葉も聞かずに紫苑の側により早急に、口づけを落とす。
焦れたような、荒々しい口づけ。
口端こぼれ落ちる、どちらともない唾液。
「司…」
キスで浮された紫苑はとろんとした瞳で漣を見上げる。
(ヤバいな…)
漣はそんな紫苑の顔にキスを降らせながら、熱くなっていく下肢に自嘲する。
「紫苑、」
「俺…枯れたスルメかもしんないけど…でも、司が好きだから」
「は?」
「抱かれんの、恥ずかしいけど…ちゃんとするから…だから捨てんなよ」
紫苑は気恥ずかしいのかそう言うとすぐ視線を下にやる漣は紫苑の言葉に可愛いなと思いつつ、
「スルメって…なんだ?」
紫苑の言った言葉に疑問を抱いた。
「はぁ?お前がいったんじゃないか!俺の事スルメみたいだって!」
「あ、あぁ、アレか……」
途端、漣は顔を赤らめ口元に手をやった。
「司?」
「あれは…だな、」
モゴモゴ、っと言葉を零す漣を怪訝そうに見つめる紫苑。
いつもの漣らしくない態度に紫苑は違和感を感じる。
「司、」
「お、お前は付き合えば付き合うほど味が出てくるなって。そういいたかったんだ、俺は!」
「え?枯れているんじゃなくて…?」
「恋人を枯れているなんて思うか、アホ」
「そっか…良かった。俺、枯れてないんだ…」
ほっとしたように紫苑は司の胸元で息をはく。
そんな紫苑が、溺愛している漣にはやはり可愛くて。
嫉妬した事も相まって、漣はプチプチと手早く紫苑のシャツのボタンを外す。
「ここで?」
「いいだろ?」
「嫌じゃ、ないけど…
でも、松葉がきたら、」
「みせりゃあ、いい」
「そん……んぁ…」
紫苑の言葉は、漣の唇で掻き消される。
漣に強気でこられれば紫苑は逆らえないのだ。
(まったく…)
しょうがないな…と思いながら紫苑は目を閉じる。
好きな人に愛されている喜びをひっそり噛み締めながら………。
結局、何をされてもモテモテでも、紫苑は漣が好きなのだ。
「はぁ、可愛かったな、紫苑くん。華奢な腰、つぶらな瞳」
紫苑が漣に連れ去られた後。
紫苑がいなくなった後を、御子柴はうっとりした顔で見つめていた。
「あの、御子柴さん…まさか、」
恐る恐る、松葉は御子柴に声をかける。
だって、御子柴の瞳は……
「はぁ、奪っちゃおうかなー」
恋する人間のモノだったのだから。
「あの、御子柴さん。紫苑には漣司という……」
「うん、そうしょう。あんな可愛い純粋そうな子、滅多にいないし。僕の嘘に簡単に騙されて一緒になって泣きそうになった子なんて初めてだし」
ふふふ、っと御子柴は声をたてて笑う。
先程の、妹が〜といいながら紫苑を抱きしめたのはまっかな嘘だったということだ。
「御子柴さん……」
「紫苑、君を、僕のものにするよ……」
御子柴が、松葉の言葉などまったく耳に入らない様子でニヤリと不適に笑う。
また厄介事が出てしまいそうだ…と松葉はここにはいない、目をつけられた恋人達に激しく同情した。

