ごちゃ倉庫

09/05

◎君に触れたくて、君が遠くて


2016-3-16 12:00

君に触れたくて、君が遠くて



ー揺れる指先を、つい見つめてしまう。



 君が好きだと僕に言ったのが、今から三ヶ月も前の夏の事だった。


『ずっと…前から君の事が好きでした……』

少し緊張して、震えた声。

オレンジの夕焼けが入る放課後の教室。

その日は極ありふれた、何の変哲もない日だった。
本当にありふれた日だったから、今もその日にちは正確には思い出せない。


 ゆらゆら揺れる夕焼けが入る教室での告白。
ミンミン鳴く蝉の声。

二人の他には誰もいない。
告白によくありそうなありふれたシュチュエーション。


ただ、そこにいたのが、両方とも男だったというのが少し滑稽だけれども。


『好きです、君が…』

告白してきた僕より小さくて控えめな君は何度も小さな声で僕が好きだと言った。


正直、僕は男にも興味なければ、告白した人間にも興味なかった。

僕は淡泊というか、何事も興味を持たない人間だから。

恋愛にも興味なければ、性欲もない。

誰かに恋をするなんて、時間の無駄だと思っていた。
恋をしたって何も得るものがない。なんの特もない。

だから、最初は断ろうとしたんだ。

時間の無駄だし、僕等は男同士だし、
君には興味ないって。




『悪いけど…』
『僕、本当に霧咲君の事が…大好きだからっ!』

僕の断りの言葉を遮るようにそう叫んだ君。

どちらかと言えば消極的で、いつも小さな声でぽつぽつと言葉を零す君だから、その時僕の言葉を掻き消すように叫んだ事に驚いた。

いつも俯いて人を見ない君なのに。

その日は真っ直ぐに僕を見据えていた。



 その日、確かに君は僕を見ていた。
僕だけを見つめ好きだと言った。


『ごめんねこれだけは言っておきたくて』

ヘラリ、と笑う君。

『明日には、この気持ちも忘れるから…』

泣きそうな、顔。揺れる瞳。震える口許。

それを見ていたら、
なぜだが、
胸が、騒いだ。

何故だろう。
わからない。

その感情はまさしく衝動的な、ふって湧いたような感情だった。

『忘れる、から…』
『忘れる…』

忘れ、られる。

モヤモヤした、焦りがまじったような不思議なモノが不意に胸に広がっていく。

忘れられる、だなんて、漠然と、気持ちが揺らいだ。

君が僕を忘れるなんて。

今まで君を知りもしなかったのに、何故だが僕は嫌だった。君に忘れられるのが。

堪らなく嫌だと思った。



だから、なのか


『いいよ』
『え…』
『付き合っても、いいよ』

僕は当初の予定ではない言葉を口にしていた。

全く興味なかった君なのに。

お付き合いなんて、興味、なかったのに。

何故だか、口から勝手に言葉が零れた。


『い、いいの?』
『あぁ、よくわからないが付き合ってもいい』

君にぶっきらぼうに手を差し出す。

君は一瞬、目を見開き

『ありがと…霧咲君…』

パッと咲いた花のように笑い、僕の手を握った。



瞬間。


可愛いと、

目が、





奪われた。


その、

瞬間に


君に

恋に落ちた。
…あの日の告白から、既に三ヶ月がたっている。季節は夏から冬へと変わり、あの時着ていた制服も夏服から冬服へと変わった。今はマフラーをつけていても、だいぶ寒い。


 僕は今でも、君…倉宮裂(そうぐうれつ)とお付き合いなるものをしている。

もう既に三ヶ月。
淡泊で煩わしい事を嫌いな僕がここまで誰かと一緒なのも…非常に珍しい。


きっと、裂のあのほんわかした空気が僕を和ませるからだと思う。

裂の纏うあのほんわかとした温かな空気が、僕には癒しになっていた。


 恋人同士付き合っても、何も得るものなんかないと思っていたのだが、そんな事はなかった。

裂は毎日安らぎと、ほっとした、温かな気持ちを与えてくれる。

 何物にも耐え難い笑顔も、惜しみない愛も。

すべて僕にくれるのだ。

 愛される事は幸せな事だ、裂の愛は僕にそう教えてくれた。

いつしか僕の中では、裂は愛すべき存在になり、今では誰よりも愛しい人になった。
裂はあの頃と同じ笑顔で僕に接するし、好きだとも言う。キスもするし、それ以上の事だってしている。

でも。

あの頃と何故か変わってしまったところもある。


ー裂は
自らの意志で
僕に触れなくなった。


あの頃のように、手を握りあうことすら出来ない。

手が触れない。

僕に触られるのを、怖がっているフシもあった。


僕に飽きたのだろうか?

しかしながら、裂は僕に愛しているといい、口づけをねだる。
望み通りキスをしてあげれば、ほにゃり、と顔を破顔させ嬉しそうに笑う。

あの頃と同じように、愛されている…と思う。


なのに。
何故なんだろう。

裂が僕に触れられるのを嫌がるのは。


 ー揺れる指先を、つい見つめてしまう。

裂の指先が、遠くて、辛い。

先に恋をした方が負け、なんてよく言うけれどそんなのはデタラメだ。
今ではきっと僕の方が裂に夢中なのだから。


君の、その手に、触れたくてたまらない。

君のその手を握りしめたくてたまらない
「…裂、」

帰り道。冬の気配が訪れ辺りは薄暗く寒い。
もうあの告白された熱い夏の気配なんて、ちっともない。


裂と手を繋いであるければ、この寒さは少しは温かくなるだろうか……。

夏の間は手が汗ばんでいても触れられたのに。


裂と、手を繋ぎたい。


付き合ってからずっと僕の隣を歩いている裂。

手を伸ばせば、裂の手に触れられる位置。

なのに触れない。
触らしてはくれない。

恋人、なのに。

触れたくて堪らないのに。


「裂、」
「霧咲くん?」

きょと…と僕の顔を見つめ小首を傾げる、裂。

愛しい、可愛い、触れたい。

その手に。


「裂」

思いきって手を伸ばし、裂の手をそっと、触れる。


瞬間、ビリっとしたモノが僕の中を流れた。

「駄目っ」

僕の手に触れたその瞬間、裂はばっ、っとその手を僕から離す。

その大袈裟までの激しい拒絶に、シクリ、と胸が痛んだ。


「ご、ごめん、霧咲くん…あの、僕……」
「…いいよ、裂は触られるのが嫌みたいだもんね」
気にするな…と笑えば、裂はくしゃりと顔を歪ませた。

あれ、やっぱり僕上手く笑えていないのかな?

本当は裂にどうして避けるんだって怒鳴りたいのを我慢して優しい笑顔、を作っているつもりなのに。

ポーカーフェイスは得意なつもりだったんだけどな……。

なんとも言えない沈黙が…

僕等二人の間を走る。



「ごめんね、あのね…僕、」
「…ごめんじゃなくて……。
どうして君に触れちゃ駄目なの?僕は君に触れたくて堪らないのに」
「霧咲くん…」
「君に、触れたいよ。君に触れたいんだよ!」

ここがどこか…なんて知った事じゃない。

気持ちが、抑えられない。


今は歩道にいるのだというのにぎゅと、裂を抱きしめる。


ーバチッ
と、その瞬間、音がする程の強い静電気が流れた。かなり強い静電気のようだ。

「ーつっ」
「霧咲くん!ごめ…」

裂はすまなそうな顔をしながら、また、僕の腕から離れようとする。
しかし、ここで裂を逃がしては、僕等はこの関係を改善出来ないまま、またうだうだで終わってしまう。

僕は逃げようとする裂を何とか抑えこみ、もう一度きつく抱きしめる。


「ごめ…なさい…」
「?なんで裂が謝る?」

「今ばちってしたの…僕のせいだから…」
「は?」


ばちってしたの?
バチリと静電気は今一瞬流れたがそれの事か…?


「なんで…」
「僕…静電気体質だから…。だから冬は触られるとバチバチしちゃうんだ…」
「え?」
「本当は…夏の時みたいに霧咲くんに触りたかったけど……霧咲くんに痛い思いさせたくなかったんだ。僕の静電気体質ってかなり凄いから…

普通の人より何倍も、電気流れるみたいで……

ビリって静電気のアレ、痛いでしょう?

霧咲くんには痛い思いさせたくなくて」
「は…え?」

静…電気?
って、乾燥した冬によくなるあの……

「裂は…僕が嫌いになったんじゃ…」

不安だった思いを口にすれば

「そんな事絶対ない!」

裂はそうきっぱりと断言する
静…電気。
そうか…静電気、だったのか。

裂があんなに僕の事をさけていた理由は。


僕に静電気の痛みをさせない為に、裂は僕が触れるのを逃げていた…と。


良かった。
裂が僕に触れたくないと思っていなくて。
本当に、良かった。

裂に愛されたままで、良かった。



「ははっ…」
「霧咲くん?」
「良かった…裂に嫌われてなくて」
「霧咲くん…そんな…」
「僕は裂が思っている以上に裂に惚れているんだよ。

君に触られないだけで、嫌われたかと思って不安でどうしようもなかった」


手が遠くて。
裂が遠くて。
君が遠くて。

触れられ、なくて。

堪らない、気持ちになった。

触れられなかっただけで。
存在が遠くなった気さえした。


裂に、触れたかった。
ずっと。
「裂が…好きだよ」
「霧咲くん…」
「裂を、愛してる」

抱きしめている裂の耳元で低く囁く。
裂の顔はじわじわと、赤く染まった。





「今度、静電気防止グッズ買いに行くから…それまでは…ビリビリ我慢しようか」
「…うん…」

手を繋ぐ。指先まで、絡めて。

一瞬、ビリ、っと静電気が流れたが気にしない。

だってこれは幸せの痛みだから。

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百万回の愛してるを君に