ごちゃ倉庫

09/05

◎お兄ちゃんは竜騎士様


2016-3-16 14:32

お兄ちゃんは竜騎士様



自分とは比べものにならない人間が、身近にいたら…

尊敬するか、それか敵わないと絶望するかのどちらかではないだろうか。


自分にはない魅力にとことん羨望し尊敬の眼差しを向けるか、はたまた自分との違いに歎き卑屈になるか。


 少なくとも八束真央(やつかまお)の場合はそうだった。


真央の身近には、一言で言うと完璧で超人な人間がいる。
なんでも涼しい顔してやってのける、超人のような人間が。

その人物は、名前のように女っぽい真央の顔とは違い、いかにも男っぽい凛々しい顔をしている。

明るく、常にその人の周りには人で溢れ、いつも人の前にたつリーダーシップもある。

女の子からは毎日のように告白されるのを見るし、バレンタインなどは彼の天下だ。

度々、その人物との仲介役に真央を使ってくるのである。

恐ろしくモテるのだ、その人物は。


 周りのその人物への羨望の眼差しを見るたびに、真央は虚しいような…取り残されたような…妙な気持ちになる。

 特に真央は、人よりも特化するものは何もない平凡人間の鏡のような人間だったから。


その超人ともいえる人とのあまりの違いに、激しいコンプレックスを刺激されるのだ。

到底、その人物には敵わないって自覚しているのに。
でも卑屈にならずにはいられない。

 その人物は、自分であって自分でない人間なのだから。
例えるなら、太陽と暗闇だろう。

自分であって自分でない、半身。


 真央の身近にいる凄い人間。
それは、双子の兄だ。
実のただ一人の兄弟であり双子の兄。

双子の兄の名前は京一郎。
双子なのに名前も全く違う二人は二卵性双生児だ。


顔の造作も真央はほにゃっとした、女のような顔であるが京一郎はキリっと男らしい顔つきをしている。
頭も、運動神経もいい、京一郎。

欠点などない男。
昔担任であっか教師でさえ、京一郎以上の優等生は見たことないと惚れ込む程だった。

双子の弟の真央でも、京一郎の程の男は見たことがない。
まるでいいところをすべて取られたようだ…、本当に双子なの?

たまに真央と京一郎の違いに親戚や友人はおろか、自分の両親までそんな言葉をかける。

父親に至っては、母が浮気し出来た子供なんじゃ…、と真央には冷たく当たる日々だ。

本当に双子かどうかなんて普段比べられる真央が知りたいくらいなのに。

誰も真央の事なんか見ない。京一郎だけ。
みんな京一郎さえいればいいのだ。


そんな比べられる毎日に飽き飽きし、真央は一度京一郎から離れようと家出未遂を犯した事がある。

ある事が起き、それは未遂になったけれど。

「はぁ…、」

真央はその時を思い出し、ブルリと震え、溜め息をはく。

高校から家までの帰路。
時刻は6時をさしかかったところだろうか。

 ぼんやりとした綺麗な淡いオレンジの夕日が落ちかけ、暗闇が襲いかかろうとしている。

呑みこまれる、明かり。


知らず知らずのうちに、歩みは早まり、無言で帰路を急ぐ。

暗闇から、逃げるように。

昔から、真央とて暗闇が嫌いだった訳ではない。

それどころか、夜遊びは大好きだった。

女じゃないんだから…と京一郎に注意されても中学の頃は遅くまで家に帰らなかった事もある。


 でも、家出未遂をした日から…、ある事が起こってから真央は暗闇に恐怖を覚えるようになったのだ。


(京一郎…)

やっぱり一緒に帰って貰えば良かった…、と今更ながらに後悔する。

高校でも人気者の京一郎は、三年を押し退け学校の生徒会長様をやっている。

昔から過保護だった京一郎は、真央に起きた事件も知っているので、あれ以来暗くなればいつも一緒に帰ろうとする。

ブラコンなのだ。

人気者の京一郎を独占する平凡な真央を、周りはいい顔はしない。
いつも京一郎が見えないところで「一人で帰れないの?」と野次ってくるのだから。


 反発するように、一緒に帰ろうと言う京一郎を振り切った真央だけれど…

やはりまだあの事が頭から抜けない

(…大丈夫。もう何年前の事だと思ってるんだ…)

あの、事件。

真央が家出し、友人の家に泊まりにいこうとした時。

真央は見知らぬ男に襲われ、無理矢理身体を割かれ、それだけじゃなく殺されかけた。

その時急いでやってきた京一郎がいなければ、死んでいたかもしれない。

 京一郎は真央を襲った犯人を、殺すのではないかという程倒れるまで殴りかかり、その後、呆然とする真央をギュと抱きしめた。
涙を流しながらゴメンと。

事件直後は話せない程ショックを受けた真央だったが…

京一郎がいたから何とか立ち直れた。

京一郎が、いつも見守ってくれたから。


(京一郎…、)

ブラコンな、過保護な双子の兄。

自分との違いに、泣きたくなるくらい凄い兄。

その兄に羨望し、違いに絶望し。

しかしいつも比較されるのを嫌がりつつも真央は兄を嫌いにはなれなかった。

それどころか真央は…。


(京一郎…)

ギュッと拳を握る。

真央は、あれ以来京一郎の事を双子の兄以上の想いを抱いている。

兄弟以上の…いけない思い。

京一郎本人には…知られてはいないと思う。

京一郎はブラコンで、しかも鈍感な男だから…。


自分を想っている相手にてんで気付かないのだ。

(こんな気持ち…もし知られたら…。

それだけじゃない、もし…俺が、ここのところ毎日京一郎の夢を見ているだなんて知られたら…)


恋心を自覚して以来、真央はよくよく京一郎に似た男の夢を見る。

ただその夢は普通とは少し可笑しいもので。

真央がなぜか女になっていて、京一郎も京一郎本人ではなく京一郎に似た男が出てくる夢なのだ。


髪が腰まである、綺麗な女の真央。

それから変わらずカッコイイ京一郎。


しかも二人は恋人なんじゃないかと思うくらい、いい雰囲気なのだ。

夢の中の京一郎に似た男は、いつも真央に接する以上に慈しむような視線で真央を見守る。
真央に似た、女を。

時に二人は夢の中で抱き合ったり、キスを交わしたり。


見た瞬間はとても幸せな気持ちでいられるのに。

夢を見終わった後は、言いようのない切なさに襲われる。

叶わない幸せの夢を見終わった後の虚しさ

(京一郎は俺の…事なんて…。俺、なんて…)


京一郎は誰にでも優しい。
でも裏を返せば、誰にも本当は優しくない。


 昔、京一郎に告白していた女の子が噂をしていた。
京一郎は優しいけれど誰もみていないと。
京一郎は、ずっと、片思いをしている人のだと。

そして、その人は京一郎にとって身分違いも甚だしい、凄い人間なんだ、と…。


(完璧な京一郎でさえ、謙遜する凄い人
誰にも疎まれる俺とは違う。)

諦めなくてはいけないと思っている。
京一郎と自分は、身分違いや釣り合わないという話依然の問題なのだから


兄弟で、男同士。
双子で、いつも一緒。


京一郎にとって、真央は…

『もう、真央を傷つけない。俺が…、命をかけても…』

(ただ…守られるだけの存在…、なんだ。それ…だけの…)


視線を落とす。
ただでさえ暗闇なのに、京一郎の事を考えていたら更に暗くなってしまった。

自分のマイナス思考に嫌気がさす。


「…あれ…」

たまたま視線を落とした先。道の真ん中
暗闇でよく見えないのだが、手の平ほどの何かが落ちていた。

手の平ほどの、小さな何か。

手鏡?のようにも見える。

(何…あれ…)

普段、道に落ちているものなどさほど気にしないのに。

何かに惹かれるように、真央はそのモノに手を伸ばす。


(何…コレ…)

そのモノに触れた時…


「駄目だー、まおっ…それはっ…」
「…えっ…」
「まおっー」


京一郎の叫び声。
京一郎が、来てくれた…そう感じた瞬間、意識は途切れた。







 次の瞬間、
頭の鈍い痛みとともに…

「っ…!」
「よぅ…ひめさま。今まで散々、逃げてくれたな…」
世界は変わっていた。
不思議の世界へと。



周りは山々。
そして白い綿菓子のような雲。

遠くの方にはまるで、中国のような、城がある。

景色も何気なくパソコンの写真素材でみた中国の景色によく似ている。


 真央を片手で荷物のように小脇にかかえながら、不気味に笑う男。

男の背には、まるでファンタジーかなにかのように黒い羽が生えている。

そして


「そ、空ッ…空飛んで…」

ありえない事に男は、真央を片手で支えながら背中に生えた己の黒い羽をパタパタ動かし空をとんでいたのだ。

蝶々のように、パタパタと…。


「…、や…やだ…、離…」
「お?ここで死ぬのが希望かい?こいつぁイイヤ。
あいつもいないし、丁度イイ」
「え…」

死ぬ…って…。
まさか…
まさか…、自分をこのまま…!?

嫌な冷や汗をかき、男の顔を仰ぎ見る。

男は青くなっている真央にニヤリと口端をあげ


「サヨーナラ…、おひめさま…?」


真央の支えた手を離した。

 ふわっと身体が男から離れる。


「きょういちろううー!」
投げ出され一直線に落ちる真央の身体。

夢なのか…?何が…いきなり…。

祈りにも似た気持ちで京一郎の名を叫ぶ。

上空から凄い勢いで落下し続ける真央。
地面はみるみるうちに近づいてくる。

もう駄目だ…と絶望に目をつむった…その瞬間。


「もう…大丈夫だ」

自分の大好きな…声が耳に入った。
優しく温かな声。

落ちてきた真央を見事横抱きし受け止めてくれた…人。


「京一郎…」

京一郎だ。京一郎が助けてくれたのだ。

あの時と同じように…。

いつも、自分を助けてくれる京一郎。


京一郎がいれば、もう安心だ。
ほっと安堵の溜め息をはく。


「真央、すまない…遅れた」

「ううん…いい…よ…
助けてくれてありがとう。京一郎に助けられてばっかだ…
俺、京一郎がいなかったら…」

「真央、」
「…京一郎…、

…って…」

真央は京一郎の胸辺りまで視線を落とし、次の瞬間、固まった。


「な、な、な…」

 京一郎の足元。
そこには緑色の沢山のウロコのようなモノがある。
今まで自分がみた事のない、モノ。


目をこらし全体を見てみる。
と、自分達が乗っているそれがなんなのかわかり驚きのあまり顔が白くなった。


「りゅ…竜…」

今真央達が乗っているのは竜だった。
それも、中国の文書に載っているような大きな竜。
ドラゴン。



「京一郎…、これ…」
「俺の首…捕まってろ、真央」
「えっ…」
「飛ばす」
「は?待て京一ろ…」

真央が何かをいうまえに、京一郎は竜に何か呪文見たいな言葉を投げかける。

竜はウ゛ォ、とひとつ鳴き京一郎の指示を受け、猛スピードで空を切るように走った。


下手をすれば振り落とされそうだ。

真央は突然自分に起こった展開についていけずに、ただただ京一郎に抱き着くだけだった。



「まいたか…」

どれくらいたっただろうか。
京一郎は後ろを振り返り、何かを確認してから、真央を降ろした。
竜の背へと。


「京一郎…、これ…何…
竜だよな?これ。どうして…ってかなんで、俺…」

混乱したように矢継ぎ早、言葉を震わせる真央。

京一郎は安心させるように真央を背後から抱きしめると

「真央は俺が守るから…何があっても」

耳元で囁くようにそういった。

ここが何処なのか。
何故竜がいるのか
あまつ、京一郎の言うことを竜は聞いているのか。
先程の男は。

聞きたい事は沢山あったが、京一郎が与える温もりでパニックになっていた頭が冷静になった。


京一郎の言葉は本当に不思議だ。

温かくて優しくて、安心する。実の親よりも。


(京一郎…やっぱり好きだ…)

「京一郎…、もう大丈夫だよね…」

不安を抑えながら真央が京一郎の名を呼ぶ。

京一郎は口を一回ギュと真一文字に紡ぐと言いづらそうに口を開く。


「真央が考えている通り、ここは日本じゃない。異次元だ。絶対に大丈夫かはいえない。奴らがまた襲いかかる恐れもあるから」

「い、異次元?なんで…、ほんと?嘘は…」

「嘘じゃない。
俺と真央は昔この世界にいたんだ。

こう見えて俺は竜騎士なんだ。
空飛ぶ人間、ドラゴン。日本にはいないだろう


諭すように京一郎は言う。
確かにいない。
ドラゴンも、空飛ぶ人間も。

では、自分と京一郎は…、

「なんなの、ここ…京一郎…」
「今は…話せない」

「話せないって…
京一郎、これからどうするの…俺達、帰れるの」

訳のわからない世界にきて、説明も何もないなんて。不安で仕方がない。

真央のそんな視線に気付いたのか、京一郎は

「…大丈夫だ
今から竜の里へいく…、族長に奴らに見つかった事を言おう。
その時、今の話をしよう」

言いながら、真央に微笑んだ。

京一郎がそういうのなら、きっと大丈夫なのだろう。他でもない、京一郎がいうなら…。


「わかった…信じる」

真央はそう言うと、自分の腹に回していた京一郎の手に自分の手を重ねた。


「真央」

「うん?」

「俺は、何がなんでもお前を護ってみせる
約束だ」


「…うん。」

気恥ずかしげに顔を赤らめ俯く真央。

真央はまだ気付いていない。

京一郎の瞳に、決意の焔が揺らめいていた事に。

まだ気付いてはいなかった…。


竜はいく。竜の里へ。
これからの運命へと誘う為。

これからの、

物語の


始まりへと……

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