ごちゃ倉庫

09/05

◎釣った魚に餌をやり続ける方法2


2016-3-16 14:38

釣った魚に餌をやり続ける方法



一目惚れ…というものを初めてした。

初めて男を好きになった。
近付くのに三ヶ月かかった。
あいつの1番になる為に二ヶ月かかった。
(ゲボクに近かったが)


 好きだと言うのに一年かかった。

 付き合えるまでに、一年かかった。

キスをするのにそれから三ヶ月。
身体を重ねるのに更に半年。

 随分月日がかかったと思う。
途中何度も諦めようかと思った。

付き合えた時は本当に嬉しくて嬉しくて。
何度も何度も頬を抓った。


だから

だから
いつも不安で堪らない。

この状態が。
この関係が。

あいつが、いつか俺の前から消えてしまいそうで。


いつもいつも。
不安でたまらない。
あいつを繋ぎ止めていられるか、毎日不安でたまらない。
あいつが…好きだから。
失う事なんて、考えられないくらい、好きだから。

あいつが誰よりスキだから。
誰よりも大切にしたいと思っているから。

今が、怖いんだ。



 「ハァハァ…」


全力疾走で道路をかけぬける。冷たい風が、頬を叩き、髪を混ぜる。
いつもは綺麗にセットしている髪は乱れ、ぐしゃぐしゃになっているだろう。

ヤバいヤバい。
マジやばい。走りながら、腕時計をみやる。

時計は約束時間よりも5分過ぎていた。

ヤバいヤバい。

絶対ヤバい。

なんでこんな日に限って遅刻してしまったんだ。
今日は玲と付き合って一年目の記念日なのに。


生真面目で女王様なあいつは他人の遅刻には厳しいからなぁ…


俺は氷の微笑みを浮かべながら待っているであろう恋人を思い浮かべる。


『ゲボクがいい根性してるじゃん』

嗚呼これくらい絶対言いそうだ。
いや、これくらいならいい。

『時間もちゃんと守れないの?じゃあ他の犬と付き合うからお前はもういらないよ』

これくらい言うかもしれないいや、言いそうだ。
機嫌が悪いあいつなら。

俺はダラダラと背中に伝う冷や汗を感じながら、地面を強く蹴り待ち合わせ場所へと急いだ。

俺の恋人、北里玲は高校の時の同級生だ。

玲は昔からクールでツン、としていて周りとは線を引いているようだった。

容姿も容姿で、そんな玲の性格を表すように、まるで百合の花のように凛としていて、計算されつくしたような、中性的な美貌をしていた。

男なのに綺麗で、妙に色気があって。
冷静で、何があっても動じなくて。
高校生なのに妙に大人びた、冷静な物持ちは見るものみんなを魅力し、男子校の中の高嶺の花とも言われていた。

だから。
玲を狙う人間も多かった。

というか、学校のほとんどのヤツは玲に魅了されていた気がする。
男なのに。
男なのに、同じ男を引き付けてやまなかった。
女に対する気持ちを、俺だけじゃなくみんな男の玲に持っているようだった。

頭のいい生徒会長や、どこぞの族這ってる族長やら。

とにかく俺が知るだけでも両手の数じゃ足りないくらい告白を受けていた。
玲を女の代わりにしようとしていた奴だって、沢山いた。
玲はいつもさらりと交わしていたようだけど。

フェロモンでも出ているというのだろうか。
玲の傍にいると、妙な色気に充てられるのだ。

だから、俺だけ玲の特別になれた時は本当に嬉しかった。

例えゲボクでも。

玲の側にいられるんだから。

 けして対等な関係でいたいとか願っている訳じゃない。

ただ、側にいたい。
俺の願いはそれだけだった。

傍にいる、それだけでいいんだ。
多くは望まない。


 それでちゃんと恋人同士なの?と聞かれれば非常に答えるのが辛いところなのだが…でも、いいんだ。
 そんなの。

例えゲボクでも、玲が俺の10分の1も俺を思っていなくても。
俺をそんなにも思ってなくても。

俺は玲の事が好きだから。

だから玲の側にいられるだけで…

それだけで。

それだけで、俺の心は満たされ、幸せになれるんだ。

玲の愛情まで欲しがるのは、欲張りすぎるってもんだ。


 恋は惚れた方が負けってよく言うよな。
確かに俺はずっと玲に勝てそうにない。

いつも玲の事を思い、玲で俺の世界は回っている。



よく釣った魚には餌をやらない、とか言うけど俺にしてみればそんなのありえない。

釣った後も餌をやり続けてやり続けて。何度も大好きだと告げてご機嫌を取って。
慣れない魚を逃げないように囲っている。
ご機嫌をあげて、太らせて俺だけしか頼れない魚になればいいと思っている。

そんな感じだ。

この関係は、俺の奉仕があって、成り立っている関係。俺がほれぬいて尽くしているからこそ、続いている脆い関係だ。


もし…
もしも俺が

今のように玲に奉仕するだけの生活を辞めたら。

釣った魚に餌をやらなくなったら。

玲はやはり、違う場所にいってしまうんだろうか。
俺の利用価値がなくなれば。
玲は…
俺をあっさり捨ててしまうんだろうか。

 いつも不安で堪らない。

付き合えたからと言って玲がすぐにいなくなりそうで。

いつも、不安で仕方ない。
この関係が幸せだから。
幸せだからこそ、不安が付き纏って離れない。
この幸せは幻だと言ってきかない。


 不安を打ち消すように、タン、と地面を蹴る。

現在、目的地近くの公園。この公園は子供がよく遊んでおり、今日も例により数人の子供がキャッキャッ笑いながら駆け回っていた。


玲との待ち合わせの駅前まであとすこし。

玲はちゃんと待っていてくれるだろうか。

先に帰ったなんて事はないだろうか。

数分前にメールを一応したが…玲だからなぁ。
帰っていないことを祈ろう

「あっ…」

ぼんやり走っていた俺の視界に、コロコロところがってきたボール。
子供の…だろうか。

ボールは勢いよく公園から道路へと転がっていく。

それを追いかけるように、小さな子供がボールの後に続く。
とてとて、と音がしそうな可愛らしい走り方で。

「って…」

急に飛び出すなんて危ないんじゃ…。と不安に思っていた時

パッパー。とクラクション。
間の悪い事に一台のトラックが子供に突っ込んできた。

激しいクラクション。
前方にはトラック。


危ない…
間に合うか…?


俺は瞬時に道路に走りボールを追っていた子供を抱え込む。


クラクションが鳴り響く。

そして…ー

2016-3-16 14:39

釣った魚に餌をやり続ける方法2



ーSIDE玲

「はー」
もう何度とない溜息が口から漏れた。ドキドキ…と胸は有り得ないくらい早く鳴っている。
恋する乙女か…俺は。恥ずかしい。
でも、仕方ない。
大好きなやつとのデートなんだから。こうも興奮するのは仕方がないんだ。
昨日だって、まともに寝られなかったんだから。


「はー」

腕につけた時計を覗く。そわそわする心を落ち着かせて。

馬鹿、みたいにあいつがくるのを待ち望んでる。

俺を一心に好きだと言う、あいつを。
俺が好きなあいつを。


俺の名前は北里玲。
そして、俺の恋人であり彼氏の名前は小宮悠聖。
高校の同期だ。

高校時代、俺は何故か高値の華と言われ、男子校の中アイドルのように奉られていた。
母親ゆずりの俺の美貌が、血の毛の多い高校男児にはむらむらきたらしい。
おかしいだろ。俺、女顔でも一応男だっていうのにさ。

今まで、沢山告白されたし、それどころか男なのに男に抱かれそうになった事が多々ある。

俺が悠聖を知るようになったのも、俺が可笑しな3人組に襲われそうになっている時だった。
悠聖が俺を助けてくれたのだ。

柔道部で負けなしだった悠聖は、俺を襲っていた3人をひとりで簡単に倒し、更には俺が泣きやむまで俺の傍にいてくれた。
優しいやつなのだ、あいつは。

スッゴイヘタレだけど。

ヘタレだけど、誰より男らしいし優しいし頼りになる。


以来、俺は悠聖に密かに恋をしていた。
男なんて俺を女の代わりとして見るから嫌悪の対象だったのに。

恋って人を変えるんだな。
自分でも自覚あるくらい、俺ははちゃめちゃで俺様で自分1番な人間だったのに。
今じゃ、悠聖が傍にいないとなんか落ち着かない。
イライラする。


 悠聖って大柄でのそっとしてるけど、あれで結構人に慕われているし…柔道では負けなしでかっこいいんだ。

だから、悠聖から告白されたときは本当にうれしくて。
家に帰ってから、夢じゃないかと何度も自分の頬をつねったものだ。


本当は、たぶん悠聖が思っている以上に、俺は悠聖の事が好きだ。
大好きだ。
本人には言ってないけど、悠聖が柔道で出ている試合は必ず見に行ったし、悠聖に近づく女には嫉妬したり…。悠聖の写真で…その…、夜いけないこともしたことがある。
悠聖が好きになってくれるように、あいつにわからないようにわざと挑発したこともある。

俺はあいつが思っている以上に好きなのだ。ただ、素直になれないだけで。
もし、悠聖が俺じゃなくて女となんか付き合っていたら…俺はきっと嫉妬でその女をどうにかしていたかもしれない。それくらい好きなんだ。


悠聖は俺と付き合っているにも関わらず、未だに俺のいう事をなんでも聞く。
それこそ、奴隷みたいに。
俺たち恋人同士じゃないのかな。
俺はいうこと聞いてくれるから悠聖を好きになったんじゃない。
俺は何でも言いたいことを聞いてくれる執事が欲しかったわけじゃない。

悠聖だから欲しかったのに。

もっと、我儘いってもいいのに。もっと、恋人らしく接していいのに。

俺は、ちゃんと悠聖が好きなのに。
どうやったら、ちゃんと悠聖に伝わるんだろう。
なんで悠聖は、釣った魚に餌をあげ続けているんだろう。
これ以上、餌という優しさだけ貰っていると…怖くなる。

悠聖は、俺の愛なんかいらないんじゃないかって。
自分が愛していればなんでもいいって。
そう思っている気がして。


 俺は、ただ悠聖に愛されたいわけじゃない。もちろん、愛されたいけれど。
俺だって愛したい。
愛したいし、悠聖にも俺に愛されていると知ってほしいんだ。
ちゃんと、好きだって。

悠聖だけの一方通行な愛じゃないって。
両想いの対等な恋人だって。

ちゃんと、言いたいんだ。

今日こそは…。
悠聖に、言おうと思う。ちゃんと、好きってことを。
昨日、夜寝る前に何度もシュミレーションしたから…たぶんちゃんと言えると思う。


ピルルルル

「ん?」

ひっそりと決意をしたところで、胸元にある携帯が震えた。
ディスプレーには見知らぬ番号。
誰だろう…。こんな番号のやついたかな…。
不思議に思いながら、通話ボタンを押し…


「もしもし…?私、○○病院に勤めている看護婦ですが。あの、小宮さんが貴方に電話しろって…。あの、彼、事故にあって…今病院にいるんですけれども」

悠聖ガ、事故ニアッテ、病院二?

「あの、それ…」「実は、ボールを追いかけていた子供を庇って…それで…」

「え、」

聞こえた言葉に、携帯を落とした。




バクバクと、心臓が嫌な音を立てる。
俺は近くの駅でタクシーを拾い、すぐさま、悠聖がいると言われた病院へ向かった。
電話は近くの病院からだったのだ。

悠聖が、トラックに跳ねられて、病院にいるって。

病院の受付で悠聖の事を聞き、悠聖の部屋で行く。

大丈夫だ…と、心の中で言い聞かせても嫌な予感は収まらない。
最近、この手の交通事故で死んだドラマを見たから猶更。

さらには病院廊下を歩いている最中に、

「ほら…、さっき急患で運ばれた体格のいい男の子いたでしょ?トラックに跳ねられて死んでしまったんですって。がっちりした若い男の子だったのに…」


と小耳に聞いたから俺の思考は尋常じゃない。

体格がいい、若い男の子。これは悠聖にも当てはまる。
悠聖の特徴といえば、体格がいいことだから…。しかも、トラックにはねられたなんて。
さっき、電話かけていた看護婦も同じことを言っていた。
俺は逃げ出したくなる足を叱咤し、部屋へ向かった。


801号室 小宮悠聖
病室の前に書かれたネームプレート。
騒ぐ胸をなんとか落ち着かせ、勢いよくドアを開ける。

ガラララ、と大袈裟に響く病室のドア

でも…一人部屋の病室の中には…


「誰も…いない…」

誰もいなかった。
シンとしている。

無音。
ベッドはもぬけの殻。
ひらひら、とむなしくカーテンが舞っているだけだ。


なんで、いない…。
ここって言われたのに。
ここは悠聖の部屋なのに。

なんで、こうもシンとしているんだ…。

悠聖は…
悠聖は…
なん…で…
いない…の…

『ほら…、さっき急患で運ばれた体格のいい男の子いたでしょ?トラックに跳ねられて死んでしまったんですって』

蘇る、嫌な声。
まさか、悠聖は…。
まさか…。

そんなまさか…だよな…。

最悪の想像が頭を駆け巡る。
「どうして…どうしていないんだよぉ…」

返事のない、部屋。持ち主のいないベッド。寒々しい部屋。
俺の声だけが、そこに空しく響く。

「悠聖の…馬鹿…俺…言ってないのに…俺」

まだ、言ってない。俺、悠聖が好きだって。悠聖が本気で好きだって。
言ってないのに。それなのに、こんなのって…。


なんで…。酷い…。俺…
いきなり、こんな…事故だなんて。
俺は信じない。
信じられない。
こんな…こんな…

こんな可笑しな展開って、ない。
今日のデート楽しみにしたいたのに。
今日こそ、好きっていうつもりだったのに。

なのに。

「あんまりだよぉ…、あんまりじゃんかよぉ…悠聖」

悠聖。悠聖。
なんで、なんで…っ
どうして、トラックなんか。なんで、俺を置いて。
事故で…

こんな、お別れで。

こんな、こんなさよなら聞いてない。
こんなさよならなんて…俺…。

「なんで死んじゃうんだよぉ…好きなのに…。悠聖ぇ…」
「玲…?」


「え…」

瞬時に涙が引っ込む。かけられた、優しい声はよく知っているものだったから。
ゆっくりと、声のした方へと振り返る。
そこには包帯をぐるぐると巻かれた悠聖の姿。
悠聖、だ…。

え…なんで…。
無事…だったの…か…?

「よか…た…」
「玲、どうした…」
「心配…かけやがって…」
「え…、って、玲どうして泣いて…」

ぽかん、と間抜け面しながら俺を見つめる悠聖。
馬鹿、馬鹿馬鹿。俺は、死んだと思ったのに。死んじゃったかと思ったのに。

なんでそんなピンピンして、俺を間抜け面して見ているんだよぉ!

「知るか、お前なんか、知るか…もう…」
「玲、ごめん。ごめんってば…俺、玲が泣き顔に弱いんだってば」

あわあわと、俺の様子を窺う悠聖。
この、ヘタレ。誰のせいで俺がこんな風になっているか…わかっているんだろうな…。

…悠聖のせい。
悠聖が、好きだから、だ。
俺がこんな早とちりするのも悠聖だから。

他の誰にもこうはならない。

「なんでもいう事聞くから…な、?あ、デートいけなくて、ごめんな」

ぎゅ、っと俺を抱きしめる悠聖。宥めるように…やっているんだろうか。
ぎゅっと抱きしめられれば、お小言なんか何も言えなくなってしまう。
こいつ…、本当はヘタレのふりしたタラシなんじゃ…。


「いう事聞くって?なら、ずっと、俺の傍にいろ。俺よりも先に死ぬなんて許さない」
「玲」
「お前の為じゃない。俺の為に生きろ」

恥ずかしい事言っているなぁって、自分でも自覚する。でも、言わずにはいられない。
俺はただ思われているだけの人間じゃないから。悠聖が好きだから。
だから、ずっと一緒にいたいんだ。
俺の為に、悠聖はずっと幸せで長生きしてほしいんだ。

それくらい、わがまま、いいだろ?
だって、俺は女王様なんだから。


「他には?」
「他…」

他…、何があるだろう…。
頭がこんがらがってすぐには、言えない。何をしてほしいか、なんて。
でも、とりあえずは…。

そうだな…

「俺に、キスをしろ」

悠聖の、キスが欲しい。
温もりが、欲しい。


「了解」

すっと、両頬を包む。
顔が近づく。
俺の大好きな顔が。

俺の好きな、かっこいいんだけど、ヘタレな、その顔が。

俺は近づいてくる顔に、そっと瞳を閉じた。

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百万回の愛してるを君に