ごちゃ倉庫

09/05

◎るーむめーとは会長様


2016-8-23 13:23

るーむめーとは会長様





その人は所謂、生徒会長様で、みんなの憧れの的で。


最低な、人でした。




「ぅ…」

朝っぱらから息苦しさとともに口にぬるぬるとした生暖かな感触を感じ、目を覚ます。

ぬるぬると温かな。

それでいて息苦しい。

何…病気?

と目を見張れば、視界いっぱいに端正な顔。

俺が苦手…というか大嫌いな会長の…。

俺のルームメイトである生徒会長様だ。


「な、またっ」
「うっせぇな…黙れよ」

会長は五月蝿そうに俺を一瞥し、言葉を封じるかのようにもう一度俺の唇をふさぐ。

ささやかに抵抗してみるが、俺の抵抗など会長にとってはなんてことないのだろう。

今日も長い事唇を奪われ、翻弄された。

くちゅ…、とわざとらしい音。

唇を離される頃には、腰くだけになり、ベッドからすぐには起き上がれない。
そんな俺をみて会長は「ばーか」と零すとケラケラ笑いながら、部屋からでていった。

…ゆるすまじ、会長。

俺は今日もまた打倒会長を心に秘めて、拳を握る。

会長のファンからすれば、俺は羨ましい存在なのだろう。いや、羨ましいを通りこして殺したい存在かもしれない。


数々の会長の親衛隊の仕打ちを思いだし、ブルブルと身体が震えた。


俺の名前は村瀬小太郎。
小さくうるさいとよく言われる村瀬家の末っ子だ。

ここ、間宮男子学園という全寮制の高校で毎日過ごしている訳なんだけど。

でもねぇ…聞いてくださいよ。


何の因果か俺、全生徒の憧れの的である生徒会長様と同室になってしまったんです。

と、そもそもこの学園の寮は同学年の二人で一つの部屋を使うって事で、生徒会長のみ己の部屋を持つ事が出来るのね。


んで、俺も4月までは同級生のやつとほどほどにいい関係のルームメイトをしていた訳さ。


なのに…
なのにさ!


俺の不注意でたまたま裏庭で事をやっていた(何かは察してね)会長を見て以来、何かと会長は俺を構うようになってしまったのさ…。

嗚呼かなしや。

なんでもこの学園はほぼ会長の独擅場らしく…


いきなり、俺の部屋の同室になれ、だもん。

それを許す寮長も寮長だけどさ。


同室になってからは、会長に毎日のようにキスで起こされている。

これははっきり言って嫌がらせ以外のなにものでもない。


だって俺、会長の事好きでもなんでもないし、俺は副会長の親衛隊に入っているんだから。


この学園は男子校で、しかも全寮制。なので少なからず、男同士の恋愛がある。

それは女の代わりにするだけの恋だったり、本気の恋だったり、ただ欲を吐き出すだけの関係だったり。


もちろん、ノーマルな人だっているよ。
ただ悲しいかな…、この学園の風習にあてられて、男好きになるのも事実。

現に俺は元ノーマルだったんだけど、今では生徒会長副会長の添三重雫様にゾッコンラブ!


んなもんで、雫様の親衛隊にまで入ってしまっている。

この親衛隊、ってのはアイドルなんかの親衛隊と同じ。

その人が好きで好きで堪らない人の集まりだ。

といっても俺達副会長の親衛隊は大変穏便派。
副会長の幸せを願い日夜動いている。

他の親衛隊と違うのは副会長が誰かと仲良くしていたところで制裁なんかしないし、もしも副会長が誰かを好きになったらその時は辛いけど影で応援する、って暗黙のルールもある。


俺は副会長が大好きだし、何より副会長の親衛隊隊長である文屋さんが大好きだ。
だから、親衛隊である事を誇りに思っているんだけど…。


「おい…チビ」
「っ!おまえ…」

先程出ていった会長が、何を思ったか再び姿を現した。

ギロリ…と威嚇するように睨んでみても、相変わらず会長はヘラヘラ。

こいつむかつく。

会長のせいで俺がどれだけ苦労しているのかも知らないで…。


会長にも当然、親衛隊はある。しかも副会長と違って超過激なヤツ。

会長と同室になって以来、陰口は日常茶飯事。階段から突き落とされる事も多々ある。


会長には勝手にキスされるは(しかもファーストキスも奪われた)馬鹿にされるは…


親衛隊からは毎日のように嫌がらせをうけるは…

ほんと、会長と同室になってからいいことなんてありゃしない。


出来るなら今すぐ一秒でも早く部屋を変えて欲しい。ほんと切実に。


会長だって、俺を同室にしたのなんかただの暇潰しでしかないんだから…。

玩具か、俺は…


「会長…あの、」
「ん…、やる。手、出せ」
「へ?」

言われるがままに手を出す。
と会長はその手を取り、手の平に飴を落とした。

イチゴの画が袋にかかれた、イチゴキャンディー。
…キャンディー?


「会長…、何…コレ」
「やる…」
「は?」
「じゃーな…」

会長は飴を渡すと、またヒラヒラと手を振って部屋からでていった。

呆然とする俺を残して。


何…あれ…。なんでキャンディー?

ほんと、よくわかんない人だ。


気分屋でわがままでエロくて。

自己中で。
俺様で


ほんと…
「早く部屋かわんないかなー…」

早く部屋を変わって欲しい。

じゃないと…

「俺は玩具じゃないんだよ」

じゃないと、俺は

いつか会長の玩具である事に傷付いてしまいそうになるから…。

毎日毎日キスされれば、少しは引きずられる。
大嫌いだけど。
大嫌いだけど…さ。

でもそれだけじゃない気持ちも少しは出てきているから。



手の平、貰ったばかりのイチゴキャンディーを転がす。

たかが飴玉一つ貰っただけなのに…

知らず知らずのうちに、笑みが零れた。

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