ごちゃ倉庫

09/05

◎大変な変態


2016-8-23 13:31

大変な変態





ーどうして、俺は…。


こんな人を好きになってしまったのだろうか。

神様、怨むよ。





「あ…、弟くん…」
「どーも」
「お邪魔してるよ」


ハハッと、まるで王子様のような笑顔を俺に向けるそいつ。

その笑みは一般的にはとても素敵な笑みであろう。

少女漫画ビジョンではないが、周りにキラキラと薔薇が見えた気がする。

ピカピカとした、その爽やか王子様、なオーラ

俺でも一瞬、その笑みに、くらりときてしまう。


ただし、そいつが持っている右手のものがなければの話だけど…。

その右手のものを見ると別の意味でくらりとしてしまう。



「また、やっていたんですか、会長」
「ははっ、だって、なんかもうこれやんないと落ち着かなくって…」
「…変態」

そう呟くと、心から軽蔑した視線をその人に送る。

しかしその人は、俺の冷たい視線などには全くへこたれずに


「続きやりたいんだけど…」

とこれまた綺麗な笑みを浮かべたまま、俺に言葉を返した。

この人はこういう人だ。
今に始まった事じゃない。



「よく、やれますね。人んちで…。兄貴、いつ帰るかもわからないのに」
「その、見つかるか見つからないかの瀬戸際がいいんじゃないか…
実にスリリングでエキサイティングだ。想像するだけで高揚するよ…」

そう言うとその人はうっとりと、夢心地に入るかのように悦の表情を浮かべる。

ほんとに…


「変態」

「なんとでも…。っと…続きやりたいんだけど…みていくのかい?」

「遠慮、します」

「そう…」

残念だ…、とその人はわざとらしく肩を竦めて、またそっと右手のものを鼻先に近づけた。



兄貴の部屋。
真面目な兄貴らしく、教科書の他には特にこれといって何もない。

真面目な兄貴は、部活以外の娯楽以外はあまり興味がないようだった。


ハァハァ…と、荒い息。
零れる熱い吐息

綺麗な、端正な顔なのにその顔は恍惚した、まるで天にでも登ってしまうかのような、快楽をおり混ぜた顔。


嗚呼、俺も大概馬鹿だと思う。

目の前にいる、この変態が好きなのだから。



「くっ…」
「おや…?」
「みん…な…」

やばい。
やばいやばいやばい。
マジでやばい。

変態の変態行為を見ていたら…俺まで変な気分になってきた…。


変態が目の前にいるにも関わらず、俺は床であぐらをかき、ズボンの前を寛げる。


「どうしたんだい?変態と罵っていた君が…

僕に充てられたのかい?」
「うる…せぇ…」

俺はギロリと奴を睨み付けると、ズボンに手を入れた


自分で自分を慰める。
虚しい自慰行為。

更に虚しさに拍車をかけるのが…


「へぇ…、君って綺麗なんだね…、アレ…」
「……」
「真っ赤になって睨んじゃって、かあいいね」


俺が目の前の変態を好きって事だ。

こいつは俺の兄貴しか見えていないのに。


あいつの右手には兄貴の下着。
そう、兄貴の下着。

こいつは今まで兄貴の下着をオカズに兄貴の部屋で、


ーやっていたんだ

アレを。

俺の兄貴、この人にとっても親友のヤツをオカズにして。

しかもこれが初めてじゃない

この人は何度となく親友面してうちにきては、兄貴がいなくなったのを見計らって、その下着を拝借したりしている。


ニコニコ、と兄貴の前ではいい親友面しているのに。

見ていないところでは、こんなにも変態だ。

あまりにモテすぎる変態になるものだろうか。

びっくりな事に、この変態は学年首席で生徒会長。
そしてスポーツ万能。
更には天は二物も与えたのか、整いすぎているほどの美形。


モテない筈がなかった。

そうそう、この変態の名前。


この変態は
伊丹辺南    平 太
(いたんへなん へいた)


という。

俺の兄貴とはクラスメート兼親友らしく、兄貴は会長の事を誰よりも信頼できる頭のいいヤツだと話していた。


…こんなに変態なのに…


「会長が…いけ…ないんだ…」
「ん?」
「こんなとこで…やるから…」
「それはそれは…」

ごめんね?と、ニコリと微笑みながら会長は俺の自分を慰めている手に自分の手を重ねる。

と、トキリと胸が跳ねた。


俺の馬鹿。
「責任、とってあげるよ。かあいい弟くん」
「ん…」

すっ、と手を動かしながら会長は俺の唇を塞ぐ。

「ん…んぅ…」

息継ぎも出来ないほどの、激しいキス。

追うように戯れる、舌。
絡んで、貪って、思考が奪われる。

激しい、キス
激しい、口づけ。


喰らうほどの、口づけ。


「おとうとくん」
「あ…会…長、」

会長が、俺の耳元でゾクリとするような低い声で囁いた。
連動するように、身体に熱が帯びる。

「会…長」

ねぇ、会長。
俺は、弟って名前じゃないです。

俺はあなたにとって、ずっと兄貴の弟なんですか?

会長。ねぇ、会長。

俺を見てはくれないんですか。

俺はただの、あなたにとっては玩具なんですか?

「僕みたいな変態にこんな事されるなんて…」

「んぅ…」

「ねぇ、ーー、君も大概…」


会長は笑う。
俺を翻弄しながら。


絶え間無く動かす、手。

つぃ…と、まるで獲物を前にした獣のように妖しい色をしたその瞳。

嗚呼、その瞳を見つめているだけで……


その俺を狙う会長の瞳を見ただけで


ゾ ク ゾ ク す 



「っくぁ…」

きつく俺を掴む手。
濡れそぼる、手。
卑猥な水音。

こんなの恥ずかしいのに

俺は会長とは、違うのに
なのに



「変態だね」
「ーあ…っ」



頭が真っ白になる。
力が抜ける。身体の全てが弛緩する。


そんな俺をみて会長は至極嬉しそうに


「変態」



俺を罵った。

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