・
(ドラックか…。世の中、物騒な時代になったもんだなぁ…)
「お客様…」
「う、うぉ…」
光正がぼんやりとしていたところで、唐突に声をかけられた。
声の主は、いつぞやのイケメンであった。
(まだ辞めてなかったのか…)
隆盛の嫉妬でてっきり辞めさせられたかと思っていたが、予想に反しイケメンはまだ辞めていなかったようだ。
それにしても、男はいつの間に光正に近づいたのだろう。
まったく気配を感じなかった。
「お前…」
「いらっしゃいませ、ご注文は?」
「見てわかんねぇか?もう頼み終わってる」
もう帰るところだよとぶっきらぼういえば、男は気にした様子はなく
「おかわりは?」と再注文を催促する。
「そんな金ねぇ。今からパチンコ行くところだしよ」
「パチンコ…ですか…。充分お金あるじゃないですか…」
「軍資金だ、余分な金はない」
「余分な金ね…。…さっきの人と知り合いですか?」
「さっきの人?」
「大柄の人ですよ」
吉澤のことを言っているのだろう。
お前には関係ねぇし誰がいうか…、とそっぽを向く光正に対し、実はあの人僕の姉さんの恋人だったんですよね、とイケメンはぽつりと零した。
「ま、マジか…?泰造の…?嘘…あいつが?」
(恋人って、いまも恋人なのか?泰造、いつのまに…!)
兄貴以外にもいっぱしに好きなやつ出来たのか…あの朴念仁が…!
驚き半分、感傷深い思いに光正が浸っていると…
「嘘ですよ」
さらりとイケメンは嘘だと告げる。
「は?」
「だから、嘘です。あなたが素直に言ってくれないので、カマかけてみたのですが…、そうですか、あの男は泰造といって貴方の知り合いなのですね…」
「う、嘘…って…」
「はい、嘘です。
僕には姉もいませんし、ただあなたとの関係が気になっただけなので…」
きっぱりと言い切る男には、微塵の悪びるようすもない。
「なんで嘘なんか…」
「素直に貴方が教えてくれないからですよ…」
僕嘘つきなんで…と食えない顔で笑う男に、いらぁ…と光正の怒りの焔が静かに燃え上がる。
人間、どうしても好きになれない人種がいるが、きっと目の前のイケメンはそのカテゴリに入るだろう…と光正はニコニコと微笑んでいる目の前の男を睨みながら思った。
「なんで、お前まだここにいるんだ…」
「ここに、とは…?」
「俺の兄貴になにか言われなかったか?この店の店長の…知り合いなんだがよ…」
さすがに千歳の恋人と馬鹿正直に告げることもできず、知り合いと濁して問うと男は「ああ、そういえば店長のお知り合いという方に呼び出されましたね」と応える。
どうやら、隆盛はしっかり恋人に悪い虫がつかないようにしっかり釘はさしていたらしい。
だが、辞めさせるには至らなかったようだ。
「会って早々辞めろと言われましたよ。ですがこちらも急に辞めろと言われましてね…」
「だろうな…」
「正当な理由がない限りいきなり解雇はおかしいと思いませんか?
僕が店側に不利益を被ることをしたのならば、解雇も致し方ないかと思いますが。僕は至極真っ当に働いていましたし。解雇の正当な理由は一切ないとお伝えしました」
「至極真っ当…?」
人の胸を揉んでおいてか?
突っ込む光正に対し、「貴方ぐらいにしかしてませんよ」と男は飄々と返した。
「1人でもしていたらアウトだろ…」
「いやぁ、貴方の胸が僕好みの胸だったんで…。
まぁ、それはおいておくとして、あの方は貴方のお兄さんだったんですね。
似てませんね」
「よく言われるよ…」
美青年で、年齢を感じさせない隆盛に対し、モブで人混みに紛れ込むほどの強面の光正。
こうして本当に兄弟なのか?と問われたことは1度や2度じゃない。
理屈派で疑り深い隆盛に対し、いい加減でめんどくさがりやの光正。
ちなみに、隆盛がA型で光正はB型である。
「貴方の方が素直で単純で、僕は好きですよ」
「それはけなしてるのか?」
「褒めているんですよ…」
「貶しているようにしか聞こえねぇ」
「被害妄想が激しいのではないでしょうか?」
その言葉こそ、貶しているだろ…といいかけて、口を閉じる。
あのリベートが得意な理屈屋の隆盛に辞めろと言われて、辞めなかった男だ。
隆盛にすら、一度も口で勝てたことのない光正が隆盛の辞めろという脅しに屈しなかった男と口で勝負しても勝てる見込みはないだろう。
丸め込まれるのがオチだ。
「おや、だんまりですか?」
「お前と喋っても俺になにひとつ得はねぇしな…。帰る」
「そんなことは言わずに…。そうだ、珈琲、奢りますから。奢りならまだいてくださいますよね…」
まだいてくださいよと強請る男に、「しらねえやつに奢られる筋合いはねぇよ」と光正は席を立ち上がった。
「坂本ですが…」
「は?」
「だから、僕の名前です。坂本珠樹《さかもとたまき》と申します。これで、もうお知り合いですよね?しらないやつではないですよね?」
「いやいや、名前だけ教えられても…。」
「困った人ですね…。他にナニが知りたいんです?」
「いや、なにもしりたくねぇし…。お前みたいな得体の知れねぇやつとは関わり合いになりたくねぇな…」
「何故です?」
僕は貴方のことをとても知りたいんですよ…ー?。
そういってにんまりと笑う男に対し、光正は知らず知らずのうちに身震いした。
まるで、得体の知れないものに直面したような…、自分の知らないなにか≠ノ睨まれたような感覚に襲われた。
(なんだってんだ…、こんな…)
光正は、そんな自分が知られたくなくて急いで勘定をとり男の横を通り抜ける。
目力だけで臆してしまう自分なんて、仕置屋の名が廃る。
こんな睨まれただけで、恐怖に陥ってしまったなんて神保辺りに知られればヤリチンもついにやれない男が出たか…!と笑われてしまいそうだった。
「そうそう、僕がここにいる理由なんですけどね、名探偵と取引をしたんです」
すれ違い様、男はぽつりとけれど光正に聞こえるように呟いた。
「取引…?兄貴が…?」
あの千歳以外のことは基本どうでもいいと思っている男が、吉澤など気心の知れた関係ならばともかく、初対面の男に対して取引など受けるか?
投げかけられた言葉に、立ちとまりそれも嘘か?と尋ねると男は不敵な笑みを返す。
「…流石、名探偵ですよね…。
僕が探している人に出会う手立てもご教示してくださいまして…」
「兄貴が人探しを?あの兄貴が、か?」
「はい…。なので、ようやく会うことができます。
僕が探し求めていた…対《つい》に…」
「対? 」
恋人でも探していたのだろうか?
「昔、結婚の約束でもした運命の相手でも探していたのか…?
わざわざ探偵に頼むなんて、酔狂なやつだな…」
「…僕としても、最初は自力で見つけるつもりだったのですが…
ちょっとゆっくりもしていられなくなりましてね…。
うるさい蠅も飛び回っているようですし。
相手に嗅ぎつかれる前に、僕の対にしようかと。」
(対にする…って恋人にするってことだよな?対ってそういう意味だよな?
そんな相手の意見も聞かずについにできるものなのか?)
口から出かけた言葉は、男の笑みの前に消える。
「慎重にいきすぎて逃げられてしまうってこともありますし。
てっとり早く捕まえるには名探偵の力を借りるのが一番だな、と思いまして…」
(捕まえるって、虫かよ…。
こんなやつに、探されるのなんてお気の毒な人間もいるもんだ。)
探されている人間に心の中で合掌し、光正は男に背を向ける。
「ま、見つかっておめでとうと言っとく。
ついでに、俺はお前に用はないから、もう話しかけてくんなよ…」
光正は最後にそう捨て台詞を吐いて、店から出て行った。
なので、
「ええ…。せいぜい束の間の自由を満喫してくださいね…。
僕のシュメッターリング=v
そう、男が静かに呟いていたのをしらない。
「お客様…」
「う、うぉ…」
光正がぼんやりとしていたところで、唐突に声をかけられた。
声の主は、いつぞやのイケメンであった。
(まだ辞めてなかったのか…)
隆盛の嫉妬でてっきり辞めさせられたかと思っていたが、予想に反しイケメンはまだ辞めていなかったようだ。
それにしても、男はいつの間に光正に近づいたのだろう。
まったく気配を感じなかった。
「お前…」
「いらっしゃいませ、ご注文は?」
「見てわかんねぇか?もう頼み終わってる」
もう帰るところだよとぶっきらぼういえば、男は気にした様子はなく
「おかわりは?」と再注文を催促する。
「そんな金ねぇ。今からパチンコ行くところだしよ」
「パチンコ…ですか…。充分お金あるじゃないですか…」
「軍資金だ、余分な金はない」
「余分な金ね…。…さっきの人と知り合いですか?」
「さっきの人?」
「大柄の人ですよ」
吉澤のことを言っているのだろう。
お前には関係ねぇし誰がいうか…、とそっぽを向く光正に対し、実はあの人僕の姉さんの恋人だったんですよね、とイケメンはぽつりと零した。
「ま、マジか…?泰造の…?嘘…あいつが?」
(恋人って、いまも恋人なのか?泰造、いつのまに…!)
兄貴以外にもいっぱしに好きなやつ出来たのか…あの朴念仁が…!
驚き半分、感傷深い思いに光正が浸っていると…
「嘘ですよ」
さらりとイケメンは嘘だと告げる。
「は?」
「だから、嘘です。あなたが素直に言ってくれないので、カマかけてみたのですが…、そうですか、あの男は泰造といって貴方の知り合いなのですね…」
「う、嘘…って…」
「はい、嘘です。
僕には姉もいませんし、ただあなたとの関係が気になっただけなので…」
きっぱりと言い切る男には、微塵の悪びるようすもない。
「なんで嘘なんか…」
「素直に貴方が教えてくれないからですよ…」
僕嘘つきなんで…と食えない顔で笑う男に、いらぁ…と光正の怒りの焔が静かに燃え上がる。
人間、どうしても好きになれない人種がいるが、きっと目の前のイケメンはそのカテゴリに入るだろう…と光正はニコニコと微笑んでいる目の前の男を睨みながら思った。
「なんで、お前まだここにいるんだ…」
「ここに、とは…?」
「俺の兄貴になにか言われなかったか?この店の店長の…知り合いなんだがよ…」
さすがに千歳の恋人と馬鹿正直に告げることもできず、知り合いと濁して問うと男は「ああ、そういえば店長のお知り合いという方に呼び出されましたね」と応える。
どうやら、隆盛はしっかり恋人に悪い虫がつかないようにしっかり釘はさしていたらしい。
だが、辞めさせるには至らなかったようだ。
「会って早々辞めろと言われましたよ。ですがこちらも急に辞めろと言われましてね…」
「だろうな…」
「正当な理由がない限りいきなり解雇はおかしいと思いませんか?
僕が店側に不利益を被ることをしたのならば、解雇も致し方ないかと思いますが。僕は至極真っ当に働いていましたし。解雇の正当な理由は一切ないとお伝えしました」
「至極真っ当…?」
人の胸を揉んでおいてか?
突っ込む光正に対し、「貴方ぐらいにしかしてませんよ」と男は飄々と返した。
「1人でもしていたらアウトだろ…」
「いやぁ、貴方の胸が僕好みの胸だったんで…。
まぁ、それはおいておくとして、あの方は貴方のお兄さんだったんですね。
似てませんね」
「よく言われるよ…」
美青年で、年齢を感じさせない隆盛に対し、モブで人混みに紛れ込むほどの強面の光正。
こうして本当に兄弟なのか?と問われたことは1度や2度じゃない。
理屈派で疑り深い隆盛に対し、いい加減でめんどくさがりやの光正。
ちなみに、隆盛がA型で光正はB型である。
「貴方の方が素直で単純で、僕は好きですよ」
「それはけなしてるのか?」
「褒めているんですよ…」
「貶しているようにしか聞こえねぇ」
「被害妄想が激しいのではないでしょうか?」
その言葉こそ、貶しているだろ…といいかけて、口を閉じる。
あのリベートが得意な理屈屋の隆盛に辞めろと言われて、辞めなかった男だ。
隆盛にすら、一度も口で勝てたことのない光正が隆盛の辞めろという脅しに屈しなかった男と口で勝負しても勝てる見込みはないだろう。
丸め込まれるのがオチだ。
「おや、だんまりですか?」
「お前と喋っても俺になにひとつ得はねぇしな…。帰る」
「そんなことは言わずに…。そうだ、珈琲、奢りますから。奢りならまだいてくださいますよね…」
まだいてくださいよと強請る男に、「しらねえやつに奢られる筋合いはねぇよ」と光正は席を立ち上がった。
「坂本ですが…」
「は?」
「だから、僕の名前です。坂本珠樹《さかもとたまき》と申します。これで、もうお知り合いですよね?しらないやつではないですよね?」
「いやいや、名前だけ教えられても…。」
「困った人ですね…。他にナニが知りたいんです?」
「いや、なにもしりたくねぇし…。お前みたいな得体の知れねぇやつとは関わり合いになりたくねぇな…」
「何故です?」
僕は貴方のことをとても知りたいんですよ…ー?。
そういってにんまりと笑う男に対し、光正は知らず知らずのうちに身震いした。
まるで、得体の知れないものに直面したような…、自分の知らないなにか≠ノ睨まれたような感覚に襲われた。
(なんだってんだ…、こんな…)
光正は、そんな自分が知られたくなくて急いで勘定をとり男の横を通り抜ける。
目力だけで臆してしまう自分なんて、仕置屋の名が廃る。
こんな睨まれただけで、恐怖に陥ってしまったなんて神保辺りに知られればヤリチンもついにやれない男が出たか…!と笑われてしまいそうだった。
「そうそう、僕がここにいる理由なんですけどね、名探偵と取引をしたんです」
すれ違い様、男はぽつりとけれど光正に聞こえるように呟いた。
「取引…?兄貴が…?」
あの千歳以外のことは基本どうでもいいと思っている男が、吉澤など気心の知れた関係ならばともかく、初対面の男に対して取引など受けるか?
投げかけられた言葉に、立ちとまりそれも嘘か?と尋ねると男は不敵な笑みを返す。
「…流石、名探偵ですよね…。
僕が探している人に出会う手立てもご教示してくださいまして…」
「兄貴が人探しを?あの兄貴が、か?」
「はい…。なので、ようやく会うことができます。
僕が探し求めていた…対《つい》に…」
「対? 」
恋人でも探していたのだろうか?
「昔、結婚の約束でもした運命の相手でも探していたのか…?
わざわざ探偵に頼むなんて、酔狂なやつだな…」
「…僕としても、最初は自力で見つけるつもりだったのですが…
ちょっとゆっくりもしていられなくなりましてね…。
うるさい蠅も飛び回っているようですし。
相手に嗅ぎつかれる前に、僕の対にしようかと。」
(対にする…って恋人にするってことだよな?対ってそういう意味だよな?
そんな相手の意見も聞かずについにできるものなのか?)
口から出かけた言葉は、男の笑みの前に消える。
「慎重にいきすぎて逃げられてしまうってこともありますし。
てっとり早く捕まえるには名探偵の力を借りるのが一番だな、と思いまして…」
(捕まえるって、虫かよ…。
こんなやつに、探されるのなんてお気の毒な人間もいるもんだ。)
探されている人間に心の中で合掌し、光正は男に背を向ける。
「ま、見つかっておめでとうと言っとく。
ついでに、俺はお前に用はないから、もう話しかけてくんなよ…」
光正は最後にそう捨て台詞を吐いて、店から出て行った。
なので、
「ええ…。せいぜい束の間の自由を満喫してくださいね…。
僕のシュメッターリング=v
そう、男が静かに呟いていたのをしらない。