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朝、目が覚めて一番最初に見る顔が1番好きな人だったら、きっと凄い幸せな気分でその日1日を迎えることができるんだろうな。
朝のまどろみとともに、一緒に溶けてしまいそうな温かな気持ち。
なんて、今までそんな乙女チックな可愛らしい妄想をしていたけれど。
いざ、好きな人と朝を迎えてみると、幸せだと感じる前にやってくるのは、驚きなんだと痛感した。
「え…な、夏目くん…!?」
朝、隣でスヤスヤと寝息をたてている夏目くんが目に入り、僕の身体はピシリと彫刻のように石化した。
え…、どうして、夏目くんがここに?
なんで…、ふたりとも裸…なんだ?
なんで、僕も夏目くんも何もきてないの???
一つ深呼吸して、落ちついてみると蘇ってくるのは昨夜のあられもない記憶だった。
好きだと言い合って、想いが通じて……そのまま流されるままに身を任せて。それで…そうだ、昨日、僕はここで夏目くんと…。
昨夜のことが次々と脳裏に浮かび上がり、恥ずかしさでぼっと体中の熱が上がる。
あまりの恥ずかしさに、思い出すのを止めてしまいたいのに、止めようと思えばおもうほど鮮明に昨夜の記憶が蘇っていく。
まさか、想いが通じたからといってその日のうちにセックスしてしまうなんで…。
そりゃ、僕だって出会いを求めてお店に行って、その日のうちにだいて貰ったことはあったけど、あんなに理性がなくなってしまうことはなかった。
結局、昨夜は1度だけじゃ足りず、2度も3度も、思春期の男子学生かっていうくらい、求めてしまった。
でも、他人の(椎名先生の)家でやるなんて…。
しかもエロエロな単語を連発する夏目くんにつられて、僕まで卑猥な単語を連発してしまって…、
思い返せば返すほど穴があったら入りたい気分だ。
もっと欲しいだの、もっと激しく抱いて…だの…。
いい年して何言ってんだ、って呆れるくらい、口はペラペラと淫猥な言葉を吐いて。
AV女優さながらに、喘いでしまった気がする。
思い出すだけで、恥ずかしくて、死にそうだ…。
抱き合ったことに、けして後悔はない。後悔はないのだが…。
(夏目くんにどんな顔して会えばいいんだよ〜!
まともに目を見て話せないよ…)
うがーと、叫んでしまいたくなる気持ちを押し込めて、ベッドから起きあがる。
夏目くんが処理してくれたのか、身体に鈍い痛みはあったけれど身体は綺麗にされている。
シーツも2人分の精液でドロドロになっていたのに、今はきちんとベッドメイクされていた。
このまま裸というわけにもいかないので、ベッドの近くに置いてあった服を着替えた。
「昨日のことは…本当にあったことなんだよね…。
まだ現実感なくて、夢みたいだけど…」
…やっちゃったんだよね。ほんとに、最後まで。
他人の家でやってしまうなんて。
でも、昨日は僕も夏目くんも止まれなかった。
夏目くんの指に、言葉に、体温に、全てに呑み込まれて。
このまま、一つになりたいという気持ちが強くなって…ーー。
「すっごく、夏目くんを近くに感じた…。今までで、1番」
夏目くんも、僕を近くに感じてくれたのかな。
起きたら、僕と同じような気持でいてくれるかな…。
ほぅ…とため息をついて…、ふと視線にうつったものを見て、一瞬息をするのを忘れる。
視線の先。
床に落ちていた夏目くんのスーツの近くに落ちていたのはーーー夏目くんと先生が写った1枚の写真だった。
「なんで…」
なんでこんなものが…?夏目くんのスーツから落ちたんだろうか。
それに、この写真は…ーーー。
RRR…
呆然としている僕を尻目に、ベッド下にあった夏目くんのスマートフォンが鳴った。
しばらくすると、着信は切れたのだが、スマートフォンの待ち受け画面には夏目くんと先生のツー・ショットが写っていた。
なんだ…
なに、これ…ーーー。
「ん…、宮澤さん…?」
「…僕、もう帰ります」
「…え…?宮沢さん…??」
「冗談で抱くなんて…、僕の気持ち知ってたんですか?僕だったら、代わりにできると思いました?」
「なんの話…宮澤さん…!待ってください…!」
呼び止められたけれど、今はまともに夏目くんのかおを見て冷静に話せる自信がない。頭の中ぐちゃぐちゃだ。
僕は、そのまま走って椎名先生の部屋から逃げ出した。
夏目くんよりかどんくさい僕だけれど、流石に夏目くんは服を着ていなかったから、すぐには追いつけなかったらしい。
しばらく僕は全力疾走で、あてもなく道を走っていた。