菜月が家に帰ると…今日もまた、家には電気がついていた。
今日も利弥は早いらしい。
菜月は家に入る前に、一つ、深呼吸をする。

「…、よし、っと」

一息ついて、意を決し、ドアノブに手をかける。

「ただい……ん、けほ、」

玄関を開けた途端、酒臭い匂いに菜月は蒸せた。
咽びかえるほどの、アルコールの匂い。

「なに…」
菜月は蒸せそうになりながらも、部屋に入る。

「利弥さん、」
「…っ」
「ただいま」

声をかければ、利弥は酒臭い匂いをさせたまま、ソファーから立ち上がると、ぶつかるように菜月に近付き菜月の身体を抱きしめた。
存在を、確かめるように。




「俺は逃げません」

決意も込めて、きっぱりと、菜月は言った。
ピクリ、と菜月を抱きしめていた利弥の身体が動く。

「なぜ…」
利弥の声が、上ずる。

「俺はお前に復讐するっていってるんだぞ…
何故逃げ出さない?何故、まだ俺の隣にいるんだ」
「利弥さんと…もっと話し合わなきゃいけないと思うから」

逃げられないじゃなく、逃げない。
逃げたくない。


「俺はもっと利弥さんを知りたいから。だから逃げません。一緒にいます」


利弥は菜月の言葉に、ふん、と馬鹿にしたように笑う。


「あいにく俺はないな。お前なんかとは話したくもない」
「一緒にすんでいるのに」

「住んでいるんじゃない、飼ってるんだ
お前に絶望を与える為に」

冷たい視線で自暴自棄に笑う利弥。
そんな利弥を菜月は、目をそらさず、じっと見つめていた。

先に視線を反らせたのは利弥だった。



「俺の予定ではもっとお前を俺に惚れさせてから調教なりなんなりしてから、捨てるつもりだった。お前の父親のように」
「っ…俺を…」
「人も動物も、信頼している人間に捨てられるのが1番辛いからな。だから俺もお前に愛を囁き…俺に依存したところでボロ雑巾のように捨てるつもりだった…。お前の父親は、俺の父親を監禁し、飽きたら捨てたんだ。だから、同じ思いをお前にもさせようと思った…。お前に復讐すれば、自由になれると思った」

利弥は顔を背けたまま、ぼそりと呟く

「おかあさんのこと、初めてきいた。家族の事、あんまり話してくれないから」
「酒飲んでいるからな。それに…もう隠すこともないだろう?ばれたんだから…」

「そうだね…。俺、もう知っちゃったんだ。ね、利弥さん、復讐って楽しい?」
「なに?」
「だから、楽しいって聞いたの」

利弥はしばし沈黙した後、ああ、と続ける。
「お前の悲しんだ顔はゾクゾクする」
利弥は菜月の身体を引き寄せて、首筋を噛んだ。
菜月の白い首に、歯型がしっかりと残る。

「お前の白い肌はさぞかし血が似合うだろうな」
「利弥さん…」

「怖いか…菜月俺が」
吐息が耳を擽る。


「怖いだろう、俺が」
「怖く…ない。俺は、子供じゃないよ」

現実を知ったうえで、ちゃんと向き合える。

「俺は、利弥さんが好きだよ。
俺、利弥さんの事、好き…、。あんな事されても…」

その言葉に迷いはない。

「それでも利弥さんがすきなんだ」
「マゾか」

利弥はそう苦々しい顔で吐き捨てると逃げないよう抱きしめていた、菜月の腕を解いた。

菜月はなおも利弥に縋った。


「あれから俺ね、何度も自分に問い掛けたよ。

利弥さんが好きだった。
でもそれは無茶苦茶にされる昨日までだって。

でもなんか違うんだ…

なんかしっくりこないんだ…

それでずっと考えて…さっき、気づいたんだ。
俺はまだ利弥さんが好きだって。
まだ、大好きだって」



昨日まで利弥が好きだった。
そして無理矢理犯され憎まれてもなお、利弥が好きだ。
これが、紛れも無い菜月の本当の気持ち。


利弥は眉をひそめ、苦々しい苦虫を潰したような顔をしながらクルリと菜月に背をむけた。

「ねぇ利弥さん」

振り返ることのない背に、声をかける。

「好きだよ」
「…」
「利弥さんが俺を嫌っていても、俺は利弥さんが好きだよ」

胸が高鳴る。
好き。
どんなに疎まれたって、この気持ちに嘘はつけない。

「利弥さん、ちゃんと俺を見てよ…俺は…!」
「そんなによかったのか?無理矢理やられたのが…」
「違う」
「ならおのぞみどおりやってやる」
「違うって」
「せいぜい泣けば、いい。
お前にできることなどそれだけなんだからな」


利弥は菜月の腕を掴んで、ソファーへと菜月の身体を投げた。

そして嫌がる菜月を押さえ付けると、そのまま菜月に馬乗りになり菜月の服を脱がせた。

あとはまた…昨日と同じような怒涛の行為だった。



  
百万回の愛してるを君に