■□10■□

愛している人に愛されてない。
今まで愛だと思っていたものはいつわりで、本当は復讐を思いつくまで憎まれていた。
このせつなさをなんと表したらいいんだろう。
真相をしってから、ずっと探し続けている。

憎しみの先にある愛情を…。
たった一つの愛している、を。
複雑な迷路の先の光を探し続けている。


―――

「…やめ…やめてくださ…」
生まれたままの姿でベッドの上で、菜月は与えられる刺激にビクビクと体を跳ねさせた。
菜月のアナルには左右に大きく動くグロテスクな男性器を模したピンクのバイブが挿入されている。
バイブの先にはブツブツとした突起物もついていて、菜月の中を抉るように動いては、もどかしいほどの射精感を促す。
菜月はふさぎ留められた射精感に悶え、悶絶する。
バイブは冷たくてなんの温かみもない。
何度も与えられる刺激に、気持ちよさを通り越し、苦しさを感じてしまう。

赤く腫れ上がってしまったアナルは、もう何度も異物を受け入れていた。バイブだけじゃなく、アナルプラグや拡張器など、どこで手に入れたかわからない道具も使われたことがある。
今挿入されているバイブは、使われた道具の中では、まだマシな部類であった。

「話を…利弥さ…」
「だまれ…」
アナルの中に入っているバイブを強引に引き抜かれる。
菜月のペニスは尻の刺激だけで、固く張り詰めて天を向いている。

すぐにでも逃げ出したいのだが、あいにく、菜月の手には手錠が嵌められており頭上で一まとめにくくりつけられていた。
足さえもM字に開かれたまま固定され、動かすことすらままならない。
乳首には洗濯ばさみもつけられており、時折引っ張られたり弄られていた。
何度目かの射精の後、菜月がすぐにイカないように、尿道口には綿棒が突き刺さっていた。


「やだぁぁ…利弥さ…やぁぁ、取って、これ取って!」

理性などなくしてしまったように、泣き叫ぶ菜月。
しかしどれだけ理性をなくしても、利弥はルームチェアに座ったまま、冷たく一瞥するだけであった。
利弥は、酒を片手に、つまらなそうに菜月をみていた。

ここのところ、利弥は家に帰ると、浴びるように酒を飲んでいる。
菜月に真相を知られ、自棄になっているようだ。
こんな生活、続けたら絶対に身体を壊しそうなのに。
今はなにを言っても、利弥の耳には届かない。
やさぐれて、復讐だといって菜月を苛む利弥しか、いない。

 あの菜月が好きだった利弥はいないのだ。


「利弥さん…」

荒い呼吸で菜月は、利弥の名を呼ぶ。

「利弥さん」
利弥のほうへ手を伸ばしてみるけれど、利弥のカラダは遠い。
どんなに手を伸ばしても、届かない。
(ああ、すごく、遠い。遠すぎる…)

ぽたり、とシーツに涙が落ちる。
ぽたり、ぽたり、とシミは大きくなっていく。
 
「利弥さん…」
「なんだ…」
「…ほしいです…利弥さんが…欲し…い…バイブはいや…だ…」
愛のない行為は嫌だと思っているのに。心と体と思考は一体化しない。

(こんなの…おかしい…。こんなの俺じゃないのに)
セックス狂じゃないんだから、無理やり抱かれて屈したりはしない。
そう行為の前は何度思っても、結局いつも堕ちてしまう。
狂おしいほどの快感に、自分の意志は簡単に飲み込まれ、愛のないだけのセックスに身を委ねてしまう


(欲しいよ…ほしいほしいほしい。アレがほしい)
調教された身体は、どうすれば自分のカラダが満足するかしっている。
利弥に抱かれる前は、なにも知らない身体であったのに、今は貪欲に欲しがってしまう。
男なのに、男に貫かれ、喜びに尻を振ってしまう。


(利弥さん…)
ゆらり、と利弥がルームチェアから離れ、菜月がいるベットの前にたった。

「おまえは…」
利弥は一言そういうと、ジ、と菜月の身体を見つめる。

一秒…二秒…三秒…。
どれほど見続けていただろう。


「あっ…」
なにもいわず、利弥は菜月の身体を抱きしめた。
とくり…とくりと、触れ合った胸板に耳を寄せれば利弥の心臓の音が聞こえる。規則正しい、心拍音。

 利弥は菜月の乳首についた洗濯ばさみを外し、赤くなった乳首をそっと摘んだ。
今まで散々摘まれていた乳首は、少しの刺激でも過剰に反応する。
艶めかしく、菜月の吐息が零れ落ちた。


「…痛い…か…」
「…ピリピリする…」
「そうか…」

菜月の言葉に一瞬、利弥は微かに眉をよせた。

まるで…

(俺が痛いのに…利弥さんも痛がっているみたい…。後ろめたさみたいな)

利弥が菜月のことを凌辱しているのに…
利弥が菜月の身体を気遣い、眉を潜めたと思うのは、都合がよすぎるだろうか。


(利弥さん…)
クリクリと弄られる乳首。
時折そっといたわるように撫でる指先は優しかった


「ん、」
「菜月…」
「利弥さん…」

(キス…したいな…)
利弥の唇に視線がいく。
キスがしたい。
もう一度、あのキスがほしかった。
 
「利弥さん…お願いします…。俺、欲しいです…。あなたの」
キスが欲しいです。
その言葉は口にする前に利弥が口を開く。

「欲しいのか?
ならねだってみろよ。
おねだりの仕方教えただろう」
「んぁ…」
グルリ、と菜月の蕾のフチを利弥の指先がなぞる。
ぞくぞく、と身体が戦慄く。

「できるだろ?菜月」
「…は…んん…」

菜月はコクリと頷くと命じられるまま、四つん這いになると、両手で尻タブを拡げる。


「俺のここに…」
何度、強制されても、言葉を言うのは躊躇われる。
ジワジワと頬に熱が集まった。

「俺…」
「どうした?言わないとこのままだぞ…」

そっと触れるか触れないかのタッチでペニスを触られる。
菜月は「ああっ、」と甲高い声をあげて、身体を崩した。

「利弥さんの太いの…いっぱい…」

「聞こえないな…」

「太いおちんちん、いっぱい入れてください!
ぐちゃぐちゃにして!俺を壊して!俺をあなたの女にしてください」
「俺のものがほしいのか?」
「そう…俊弥さんの…太い…の…ください」

あまりの羞恥に涙がボロボロと零れる。
こんなの自分じゃないのに。
まるで、利弥の身体に狂っている女のようだ。
身体だけ欲しいだなんて。

「淫乱」

利弥はそれに満足げにクスリと笑うと、背後から覆いかぶさるように、四つん這いになっている菜月の腰に手をそえた。




ぐちゅ、ぐちゅ、ぱんぱん…。

結合音と、水音が、辺りに響く。

「あぁ…ん…、としや…さぁん…」

今日もまた、菜月の切なく甘い声が部屋の中に響いた。

愛のない、虚しい、行為。
終わりの見えない行為に、眦に涙が浮かんだ。



  
百万回の愛してるを君に