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利弥の家だと紹介されたのは、セキュリティ対策万全の都心にある高層マンションであった。
マンションはファミリー向けのもののようで、部屋は4つあり一つ一つの部屋も大きい。窓から覗く夜景も凄く綺麗で、まるで高級ホテルのようでもある。
マンションをみたとき、菜月はとんでもない人についてきてしまったかもしれない…と安易な返事を返した自分に、後悔した。

菜月が退院すると、利弥は宣言通り菜月を引き取ってくれて、部屋も菜月ようにと用意してくれた。
菜月に与えられた部屋は、利弥の4つの部屋の中で一番狭いものの、今まで住んでいた部屋の倍はある。ベッドをいれても、まだスペースに余裕があった。


「俺こんな一部屋なんて貰えないよ。もっと隅の方でいいし…。こんなベットだっていらないし。ほんとに部屋の片隅でいいから」
と菜月が言っても利弥は「どうせ使ってないから」というばかり。

さらには、「それとも、私の部屋にきたいのか?」などと揶揄う始末だ。
さすがに、利弥の世話になるからといって、プライベートな空間である利弥の部屋までは侵入することはできない。
揶揄われている…とわかっているのに、菜月が利弥の部屋の隅でいいといえば、本当に自室に招いて自分のスペースを与えてしまいそうな強引さもあった。


「そこまでしなくていいよ…。ただ置いてくれれば」
そう反論してみても、
「そこまでしたいんだ。だから、おとなしく子供は甘えていなさい」といなされる。
しまいには、「私は君を甘やかすと約束しただろう?あいつの代わりになって、世話になるって君も約束したじゃないか」と言われれば何も言えなくなる。
怪我をしてしまい、居酒屋のバイトは首になったし、ガソリンスタンドのほうも休職扱いになってしまった。
今、ここで利弥に追い出されてしまえば、本当に路頭に迷ってしまうのだ。

 甘やかさないで、やさしくしないでほしい…。ただ部屋においてくれるだけでいい。
そういっても、利弥は大人の包容力で菜月を甘やかす。
 そのあまやかしようは相当なもので、このままでは自分がダメ人間になってしまうのではないか…と不安になってしまうくらい、なにからなにまで世話を焼いてくれた。





 菜月の不眠症は、事故にあった日がピークだったようで、利弥の家に引き取られてから前よりかは少しだけ眠れるようになった。
苦手だった秋の初旬が終わる季節になったからかもしれない。
といっても、相変わらず悪夢に魘されることはあったし、怪我の痛みで飛び起きてしまうことも多々あった。

 夜眠るのが怖い。
悪夢を見るのが怖い。
その症状は、引き取られてからも変わらない。
住む場所と季節が変わったからといって、長年の悩みは改善されることはない。
しかし、これ以上迷惑かけるわけにもいかないので、不眠症であることは利弥に告げずにいた。



  
百万回の愛してるを君に