花より団子


「お前の味噌汁がいっちゃん美味いよ」

 不意に、伝えたくなった。夕飯に出されたあさりの味噌汁はきっちりと塩抜きされており、塩分が程よい。ニルの料理の極意は「勘とノリ」だそうなので、実際のところは彼女がいうように加減は毎日違うのかもしれないが、小柳にはあまり違いはわからなかった。変わらず美味い、と思う。それだけ言って黙って黙って味噌汁を啜り始めた小柳に、ニルが素っ頓狂な声を上げた。

「えっなにその新手のプロポーズみたいな!?」
「うるせー……」

 新手というよりはどちらかといえば旧式だろ、と付け足して小柳は鯖の骨を除ける。ニルはそれに確かに!とだけ呟いて、神妙な顔つきで味噌汁を啜った。きゅっ、と顔を顰める。

「え、今日味薄くないですか?」
「なんでお前が文句言うんだよ。美味いやろ」

 思わずそう突っ込んだ小柳に、ニルが首を横に振る。

「ロウさん何作っても美味いって言ってくれるからなあ……」
「……美味いんだからいいだろ、何が不満なんだよ」
「いや、ロウさんってかっこいいんですよね、そういうところが」

 ニルはちょっと肩をすくめてそれだけいうと、箸を持ち直した。
 食えない女である。黙って鯖を噛みながら、ぼんやりとニルの伏せたまつ毛の隙間を見た。己には顔色ひとつ変えずにかっこいいだの好きだのと平気でいうくせに、自分が褒められるとどこまでも素直でない。照れているのかむず痒いのか、ほんのり耳の先が赤かった。

「……ニル」
「なんですか」
「はは、」

 声を上げて笑った小柳に、きゅっ、と眉を寄せたニルが小柳の方を仰ぎ見る。目の縁までうっすらと血色が良い。黙って茶碗を置いたニルが気まずそうに目を伏せた。

「お前、めちゃくちゃわかりやすくて助かるわ」

 小柳はそれだけ言うと、満足そうに目を細めて箸をとる。それを追いかけるようにして、彼女の丸い目がじとりと恨めしそうにこちらを見上げた。

「……わかってるなら言わないでくださいよう」