珍しく、ニルが熱を出した。39度の高熱は、人間の弱い身体ではすっかり堪えたようであの四六時中喧しくては叶わないニルが珍しく萎れて布団にくるまっている。時折死にやしないかと確認するたび、真綿で首を絞められたような心持ちだった。そっと汗ばんだ額に手をやる。薄い皮膚の下の血液が熱く滞っていた。
「ロウさん、明日は晴れるといいですね」
不意になんの脈絡もなくそういって、ニルが嘘みたいにしおらしく、力無く、うっそりと笑う。
「お前、天気の話とかすんな」
「なんで」
「死ぬ前みたいで縁起悪い」
ぎゅっと手を握った俺に、ニルは急にあはは、と高い声を上げた。張りはないが、いつものニルの声だった。馬鹿みたいにうるさくて、馬鹿みたいに素直な女の声だ。彼女の笑い声ときたら酷く喧しいので、どんなに遠くに至って見分けられる自信があった。この世に、生きている限りは。
「心配しなくたって風邪如きで死にませんよう」
ニルが弱々しくつぶやいて、ゆったりと目を閉じた。
お前なんか俺の人生の半分も生きてくれやしないくせに、お前がそうやって笑うから、お前を知る前に戻れなくなってしまった。永遠なんかないのに、そんなもの信じてもいないのに、あるわけなんかないことなど、己が一番知っているのに、この女の命が永遠であればいいと思ってしまう。柄でもないので、やめた。孤独よりぬるくてやわらかい繭の中で、残されることよりも、お前のいない一瞬の方を選べなかったのは、俺の方だったといつかお前がいなくなった時にでも言ってやろうと、そう思った。