花束と棘


 貴方の孤独に寄り添おうだなんて大それたことは少しも言えなくて、貴方に忘れないで欲しいだなんて我儘を言う強さもなくて、きっと貴方がどんな覚悟で、どんな思いで、いずれしにゆく私をたった一度の一途に選んでくれたのかなんて、本当にそのことの重さがわかるのは、私が息を引き取る時なのだと、そんなことなどとうにわかっているのに、それでも貴方を好きだということ以外に上手く伝えられない私を、どうかこれからも許して欲しい。

「なんですか、これ」
「買った、俺が」
「見ればわかりますけど……なんで?」

 目を向く大輪の薔薇に、彼のすらりとした小さな顔が隠れてしまいそうなほどに寄せ集められた大きな青い花束を抱えて、ロウさんが息苦しそうに跳ねた呼吸を吐いた。
 珍しく、全力で走ったのだろう。私よりも2度ほど低い体温の肌の上に汗が浮かんでいる。つう、と顎先を這う汗の様をぼんやりと眺めながら、低い声が「ニル」と呼ぶのを聞いていた。

「ごめん」
「えっ……」
「別にものでどうとかは思ってねえけど」

 強引に差し出された花束が、胸元でくしゅ、と音を立てる。おずおず指を伸ばすとやわらかい春の匂いがした。つんと鼻先をさす草木の匂いが、くるしいほどにこの人の不器用さを思わせて、指先が震える。

「大した、喧嘩じゃなかったのに」
「知ってる」
「私もう、怒ってなんかないのに」
「知ってる、そんなの」
「こんなしてもらうような、ことじゃないのに」

 ぎゅ、と花束を抱きしめると、頬に少しだけ整えられた棘が触れた。ロウさんが困ったように少し眉を寄せて、涼しい目元を細めながら「わかんねえけど、とりあえずあいつらに花持ってけって言われたから」と言う。そんなもんやるかと悪態でもついたくせに、こうやって言われたままに馬鹿みたいに大きな花束を持ってきて、こんなに不器用に真っ直ぐに愛してくれる白狼の、腹の底から一途なひとの悠久に近い何百年を、どうして私が縛っていいのだろうか。「ロウさんの馬鹿、」と呟くと、こちらを知ってか知らずか細い眉を寄せて、軽く小突かれる。

「おい、お前が言うな」
「わたし、馬鹿でいいですもん」
「なんだそれ」
「こんなでかい花束持ってくるロウさん見てたら、かっこよすぎてもう全部、どうでも良くなっちゃう」

 ごめんなさい、大好きです、とそう言って、思いっきりその固い胸元に顔を預けてやった。嘘みたいに大きな花束ごと抱き止めて、しょうがねえなと言うようなため息をついて、ロウさんが私の髪を雑に撫でる。貴方を好きだとしか言えない私を、どうか許して欲しい。貴方の覚悟の少しだってきっとわからないくせに、それでも貴方の記憶にありたいと思う私を、どうか、どうか、許して欲しいと、それだけをずっと思っている。