ユウうゆ�A
最初の印象・モノマネが上手い人、テニス部の人、小春ちゃんのことが好きな人。確かにクラスの中心になるようなタイプなのは分かってた。
「ユウジって結構優しいところあるよね」なんて、8組の女の子達が話してるのが聞こえてきて思考停止してしまった。だってそういう…恋愛的な人気もあるとは全然考えてなくて、なんでそこを分かってなかったんだろうっていう疑問も自分に対してある。小春ちゃんと一緒にいるところばかり見てたから全然考えられなかったのかもしれない。
ていうか結構優しいところってなに?やさしい?聞き耳立てるつもりじゃなかったんだけど、そんな話は嫌でも耳に入ってくるというか。小春ちゃんのお陰でレディーファーストとまではいかなくとも気の利かせ方がうまいだとか、思わず首を傾げてしまうような内容が聞こえてくる。私いまどんな顔してるんだろう、机に伏せて横髪で顔を隠した。
「こはるちゃん……」
「ウワッ胡桃ちゃんどないしたん!?顔色悪いで!!」
近くで小春ちゃんの声がしたので、ゆっくり顔を上げながら話しかける。一緒に話してたらしい謙也くんは「大丈夫か?」と純粋に心配の眼差しを向けてくれるあたり優しい。いや、優しいって謙也くんみたいな人のことだよね?もうわからん…。渦中の人は珍しく小春ちゃんの近くにいないらしい。少し目線をさまわせたら「あっユウくんならおらへんよ」と手を振られた。
「ユウくんってモテるの?」
謙也くんまで小春ちゃんの方に向き直った。あ、知らんのや…。小春ちゃんが「モテるわけあらへん」ってバッサリ言ってくれると期待してたら「う〜ん……どやろか……」なんて困った顔で濁されるからふわ〜っと口から魂が抜けていく感覚さえした。
よく考えたら私って一氏ユウジくんのことを全然知らないのかな、去年は同じクラスだったけどその一回きりだし。私が知ってるユウくんって、最初の印象からあんまり変わってないんだなぁ。
黙ってしまった私に「いや、でも」と何か声を掛けてくれようとした謙也くんの口は小春ちゃんの手によって強く塞がれていた。
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全国レベルのテニス部ともなると練習試合の応援に来る女の子たちなんかもいて、すごい人気やなあ…とか思ってたけどまさか自分もそこに並ぶ日が来るとは。とは言っても木陰から隠れるように声だけ聞いてるだけやけど。休憩どころか試合中でさえ誰かがボケてツッコミ入れてみんな笑ってる、いつも通りの光景。
あれから、質問の答えに放心していたら小春ちゃんに「胡桃ちゃんが彼女なんやからなーんも気にせんでええんよ」と優しく言われたので私の中の『優しい』解釈がますます分からなくなっていた。
この数人の中にもユウくんに恋してる子がいるのかもしれない。それってすごく嫌かも…でも嫌とか言える立場…?とか考えてたけど、あーもう!暑い!これだから夏は苦手、外にいるだけでえらい、と今まで考えてたことを忘れるように自分を鼓舞しつつ立ち上がる。同時に買ったばかりのキャップは目まで隠れるくらいに落ちてきてしまった。帽子ももうアンタ今日は帰りやって言うとるんか?なんてエセ関西弁で投げかけつつキャップのつばを持ち上げた時だった。
「ユウジのカノジョや!!そうやんなぁ!?」
真横にセミでもとまったのかと思ったくらい大音量で声を上げられて、ついに私の心臓も止まったかと思った。
周りの女の子の視線がこちらを向いた気がする。いや、女の子どころかたぶん四天宝寺側の観客みなさんの視線さえ感じる気がする。日陰で涼んでたはずなのに汗が止まらなくなってきた。
遠山金太郎くん、知ってる知ってる、白石が金ちゃん金ちゃん言ってる子。
白石わたしこの状況どうしたらいいの?
視線とマシンガントークの金ちゃんに耐えられず思わず「ち、ちがうよ」と否定して逃げようとしたら「ウソや!?そうなん!?」「でもワイこないだ見たで!?」と着いてきてしまったのでちょっと泣きそうなくらい必死に黄色と緑のユニフォームの人物を探す。試合中の人を呼ぶ訳にはいかない、白石、白石はいませんか!?と保健の授業で習った救命措置のように内心は叫びつつ、必死に俯いたまま目線を動かす。
「コラ金ちゃん!!他所様に迷惑掛けたらアカンやろ!」
「あ、し、しらい」
後ろから聞こえた白石の声に、名前を言い切る前に振り返って失神するかと思った。
白石のモノマネとか、するんだ、初めて聞いた……。
それはもう長い時間沈黙があったように感じたけど、多分この間二秒くらい。
「なんやぁユウジか!白石か思ったわ!」
「って、白石がカンッカンに怒っとったで?はよベンチ戻らな毒手が」
「もっ戻る!!戻るから毒手は勘弁や白石──!!」
食い気味にそう叫んで走っていった金ちゃんを見て「まるで嵐やな……」と呟いたユウくんは一緒には戻らないらしい。多少コートから離れたもののまだ少し視線が痛い。心臓も痛い。
「お前彼女とちゃうかったんや?ふうん」
「ちゃうくないです…」
でもだって、あんな目立ち方してたらはいそうです!なんて素直に言えなくない?何されるかもとかじゃなく、単純に怖くて。言い訳が頭をぐるぐる回ってる。「まあ今のは金ちゃんが悪いけど」とため息をついてるのでちょっとホッとした。全面的に私が責められたらさすがに泣いちゃってたかもしれん。
「俺の彼女お前やろ、アホ」
「はひ」
「今世紀最大の大馬鹿者や」
「……ごめん」
「お前の脳みそなんて小春に比べたらミジンコ程度しかあらへんのやから余計なこと考えんなや」
よくもまあそうスラスラと罵詈雑言を並べられる、と関心さえしてきた。振り返って戻ろうとするユウくんの髪の隙間から見えた赤い耳と遠くでスマホを構えてOKサインを出してる財前くんを見るに、怒られてるわけではないらしい。ごめんね、ってまた背中に呟いた。
「昼過ぎにはすぐ解散するから、大人しく待っとれ」
まるで決闘するかのような言い方された。その決闘を受けて立とうと「待ってるね」と出した声は信じられないほど小さかったようで聞き返されてしまったけど。私の腕を掴んで数歩歩いて木陰に押し込むと、被っていたキャップのつばを思いっ切り下げられた。驚いている隙に走って戻って行ったらしい。やれやれといった風に散らばった視線の心地が悪すぎて顔も熱すぎて、ただただ時間まで俯くことしか出来なかった。