オールマイトはセントラル広場に降りると、一瞬で残党を倒した。鋭い眼光で死柄木たちを睨みつけ、莉緒と緑谷を抱えて距離を取る。
「オール、マイト先生……」
「望月少女、緑谷少年、よく頑張ったね」
「……先生、あの大きいのは脳無。ショック吸収だと、あの男、死柄木が言っていました」
「望月少女、ありがとう。緑谷少年、彼女と一緒に安全なところへ」
オールマイトはニカっと笑うと脳無に向かい攻撃を仕掛ける。しかし緑谷の時と同様に脳無には効いていなかった。
「さっきのあの子の攻撃の方が効いてたよ。矢で連続攻撃してくるやつ。脳無にダメージを与えたいなら、ゆうっくりと肉をえぐり取るとかが効果的だね」
「わざわざサンキュー! そういうことなら、わかりやすい!」
オールマイトが脳無の背後に周り、腰を掴むとバックドロップを決めた。爆発が起こったような衝撃が響く。
「緑谷くん、救けてくれてありがとう。先生の邪魔にならないように移動しよっか」
「ううん、僕こそ望月さんに救けてもらったし。相澤先生は二人に任せてるから大丈夫だよ! それより、腕大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。緑谷くんは指大丈夫なの?」
莉緒が緑谷と一緒に移動をしていると、バックドロップの衝撃で舞っていた土煙が晴れた。そこには倒れている脳無――ではなく、黒い靄によって上半身をワープさせ地面から顔を出した脳無の姿があった。脳無はオールマイトの両脇腹に爪を突き立てており、そこから血が流れている。
「望月さん、僕……」
「待って、緑谷くん!」
それを見た緑谷は莉緒の制止よりも早く駆け出して行った。黒い靄が揺らめき、緑谷の方へ広がる。
「どっ……け、邪魔だ! デク!」
莉緒が行動を起こすよりも先に爆豪の攻撃が黒霧を襲った。爆豪はそのまま黒霧の本体を掴んで押さえつける。続いて乾いたような音が響き、脳無の体が凍った。轟の氷結攻撃に次いで切島も現れる。
「スカしてんじゃねえぞ、モヤモブが!」
「平和の象徴はてめェら如きに殺れねえよ」
「かっちゃん! 皆……!」
轟の氷結のおかげで脳無の手が緩み、その隙にオールマイトが抜けだす。
「攻略された上に全員ほぼ無傷……すごいなぁ、最近の子どもは。恥ずかしくなってくるぜ敵 連合! 脳無、爆発小僧をやっつけろ、出入り口の奪還だ」
脳無が起き上がると凍っている体が音を立てながら砕け、右の手足がなくなる。
「身体が割れてるのに動いてる……!?」
「皆、下がれ! なんだ!? ショック吸収の“個性”じゃないのか!?」
「別にそれだけとは言ってないだろう。これは“超再生”だな。脳無はおまえの100%にも耐えられるように改造された超高性能サンドバック人間さ」
無くなったはずの手足が生え、大きな目がぎょろっと動き爆豪を捉えた。脳無の姿が消えると、凄まじい音がして周りの木々が激しく揺れる。あまりの速さに莉緒は目で追うことができなかったが、オールマイトが庇ったおかげで爆豪は無事だった。
「……加減を知らんのか」
「仲間を救ける為さ、しかたないだろ? さっきだってホラ、あの子とそこの地味なやつ。あいつらが俺に攻撃してきたぜ? 他が為に振るう暴力は美談になるんだ、そうだろ? ヒーロー?」
“あの子”と言った時に死柄木が莉緒を見る。
その後も「暴力は暴力しか生まないのだと、おまえを殺すことで世に知らしめるのさ!」と、主張をするが、オールマイトに「自分が楽しみたいだけの嘘つき」と言われ、ニタっと笑う。
「3対6だ」
「モヤの弱点はかっちゃんが暴いた……!」
「とんでもねえ奴らだが、俺らでオールマイトのサポートすりゃ……撃退できる!」
「ダメだ! 逃げなさい!」
戦いに参加するつもりだった轟たちをオールマイトが止める。
「……さっきのは俺がサポートに入らなけりゃ、やばかったでしょう」
「それはそれだ轟少年! ありがとな。しかし、大丈夫! プロの本気を見ていなさい!」
「……先生、これくらいのサポートはさせてください」
莉緒はトランぺッターに付け替え、オールマイトに向かってヒートライザを唱えた。続けてランダマイザを使うと紫と黒の渦が現れて、脳無の攻撃・防御力・命中・回避率を低下させる。
「お? これは……望月少女もありがとね。怪我もしてるんだ下がってなさい」
そう言われ、莉緒は頷いて後を任せた。
そこからはもう、オールマイトの独壇場だった。ショック吸収の“吸収”を上回る攻撃、再生も間に合わないほどの攻撃のラッシュ。
「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの!敵 よ、こんな言葉を知ってるか!? Plus Ultra !!」
オールマイトの攻撃により、脳無はUSJの天井を突き破って飛んで行く。
「さすがだ、俺たちの出る幕じゃねえみたいだな……」
「緑谷! ここは退いたほうがいいぜ。却って人質とかにされたらやべェし。望月も行こうぜ!」
切島に言われ移動を始めるが、莉緒の体は眠気に襲われ動きが鈍くなっていた。脳無相手にスキルを連発したためSPが減り、体が警鐘を鳴らしているのだ。
莉緒は緩慢な体を必死に動かし、敵 に悟られないようにしていた。
「な……緑谷!?」
切島の驚いたような声が聞こえ、莉緒が振り返る。そこにはオールマイトと敵 の間に飛び入る緑谷と、そんな彼に今にも触れそうな死柄木の姿。
「ジャアクフロスト、ダイアモンド――!?」
咄嗟にスキルを唱えるも必要なSPが不足しており技が発動しない。緑谷の元に駆け寄ろうとした莉緒だが、それよりも先に死柄木の手に銃弾が当たった。
「ごめんよ皆、遅くなったね。すぐ動ける者をかき集めて来た」
USJの入り口には雄英が誇る教師陣が並んでいる。死柄木を止めたのはスナイプによる射撃だった。
「1-Aクラス委員長、飯田天哉! ただいま戻りました!!」
さすがにこの教師陣は相手にできないのか、死柄木が撤退しようとする。それをスナイプが射撃で追い詰め、13号がブラックホールで黒霧を吸い込もうとしている。
先生たちの登場に莉緒は安心して気が抜け、今まで張りつめていたことで忘れていた腕の痛みに襲われる。
「君は貰っていこうかな……」
「!?」
すぐそばから死柄木の声が聞こえた。手だけ黒い靄でワープさせた死柄木が莉緒の腕を掴んでいる。
今の莉緒はスキルを使えず、死柄木の“個性”で塵になったため刀もない。銃には攻撃性はなく、そもそも掴まれていない方の腕は脳無によって砕かれていて使い物にならない。
連れていかれないように必死に踏ん張るが、腕の痛みと眠気で力が入らない。
――意識が、持たない……っ!
踏ん張る力が弱くなり、体が死柄木の方へ倒れる。
「望月!!」
もうダメ――莉緒がそう思った時、お腹に誰かの腕が回り引っ張られた。
パキパキパキと氷の音がする。
「と、どろきくん……?」
「……ッチ、今回は失敗だったけど、今度は殺すぞ平和の象徴オールマイト……またね、望月ちゃん?」
死柄木は黒霧とともに消えていった。それを見て安堵した莉緒は力が抜けてしまう。
「おい、望月! 大丈夫か?」
「轟くん、ありがと。ごめん、もう、むり……」
遠のく意識に逆らうことができず、莉緒はそのまま気を失ってしまった。
「望月? おい、望月!!」
「轟! 望月! 大丈夫か!?」
轟や切島が声を掛けるが返事はない。莉緒は苦しい表情をしており、額には汗が滲んでいた。
「轟! 望月の腕!!」
莉緒の左腕からは血が垂れ、大量の血を吸った袖は重たくなり色も変わっていた。戦闘服 のジャケットが紺色のため、彼らは今まで気付かなかったようだ。
轟が傷つけないようにゆっくりと袖を捲る。
「うわ!? 何だよコレ、ひでぇ……」
左腕が赤く腫れあがり、血が出ている箇所や内出血のせいで紫や黄色、緑色に変色している肌。
先ほど轟や切島たちと一緒に敵 と対峙していた時は負傷している様子を見せていなかっただけに、予想よりも酷い状態に二人は息を呑んだ。
「轟ちゃん! 莉緒ちゃんは無事かしら?」
相澤を他の先生に託したのか、蛙吹が広場まで戻ってきた。
「莉緒ちゃん、私たちや相澤先生を逃がすために一人であいつらに向かって行ったの。その腕、あの黒くて大きな男に掴まれていたところね」
「……なるほど、腕を潰されたってわけか。粉砕骨折してるかもしれねえな」
「望月、ガッツ溢れるぜ……!」
「早く莉緒ちゃんを先生たちの元へ連れて行きましょう」
「わかった」
轟は意識のない莉緒を抱きかかえると、驚いたように顔を覗き込んだ。しかし、すぐに何事もなかったかのように歩き始める。
「轟!? おまえ……」
「……ケロ」
「何だ?」
「……いや、おまえ男らしいぜ」
「お姫様だっこね」
「……ん、ここは?」
「あ! 望月さん目が覚めたんだね!」
「緑谷くん? ……みんなは!?」
「みんな無事だよ! ここは保健室。望月さんの怪我はリカバリーガールが治してくれて……あ、まだ点滴されてるから動いちゃだめだよ!」
クラスメイトの無事を聞き安堵する莉緒。上体だけ起こして周りを見回すと、そこにいたのは緑谷とリカバリーガール、そして――
「……どちら様ですか?」
「どちらって、あっ!!」
緑谷の隣のベッドにはガリガリに痩せ細った金髪の男性がおり、莉緒が声を掛けると慌てだした。
「わ、私は、その……」
「あ! えっと、この人は……」
「……もしかして、オールマイト先生ですか?」
「「!?」」
「お腹の包帯、脳無にやられたところでは? それに目が……雰囲気も。オールマイト先生みたいな力強くて安心する感じがします」
「……望月少女」
莉緒の推測が当たっていたのか、金髪の男性は観念したように話し出す。
自分がオールマイトであること、敵 との戦いで重傷を負い、手術や後遺症のせいでこの姿になってしまったこと。また、活動制限ができてしまったこと。そして、この姿のことは秘密――ということ。
「わかりました。緑谷くんは知っていたから、あの時飛び出して行ったんだね」
「あ、うん」
「先生、ありがとうございました。私、先生みたいに皆に安心感を与えられるヒーローに……いえ、そんな先生を超えるヒーローになります」
「……私こそ望月少女の魔法のおかげでギリギリまで姿を保つことができた。こちらこそ礼を言わせてくれ。君は強くなるさ」
「はい、強くなります。これからもご指導よろしくお願いします」
ニカっと笑うオールマイト。姿が変わってもオールマイトはオールマイトで、莉緒は安心していた。
「リカバリーガール、怪我治してくださってありがとうございます」
「まったく、無茶をして。でも、事情が事情だけに小言も言えないね。気を付けんさいよ」
莉緒がリカバリーガールからペッツを貰い、緑谷から気を失った後のことを聞いていると、保健室のドアが開いた。
「失礼します」
「あれ、塚内くん。また来たの?」
「ひどい言い草だな。そこの彼女、そろそろ起きたころかなと思ってね」
「……?」
状況が読み込めず、キョトンとする莉緒。
「初めまして……ではないんだけど。私は塚内直正、警察さ」
「……警察の方?」
「君たちのクラス全員に事情聴取をお願いしていてね。体調が悪いようなら出直すけど、どうする?」
「いえ、大丈夫です」
大方の内容は先生や他の生徒から聞いていたのか、簡単な確認だけだった。
「君は死柄木に連れ去らわれそうになったらしいね」
「はい。私の“個性”が脳無の物理攻撃を反射し、死柄木のは無効化しました。そのせいだと思います」
「そうか……しかし、大きくなったね」
「……?」
「10年くらい前かな。まだ新人だった頃、敵 を倒した女の子がいると聞いて現場に駆け付けたことがある。衝撃を受けたよ。でも、まさかその時の女の子が雄英に入ってヒーローを目指しているなんてね」
「え、まさか……!?」
「君はあの頃と変わってないね。救けたいって強い心を持っている、よく頑張ったね」
“あの事件”で警察から事情聴取をされた際、莉緒の体調を気遣ってくれた若い警官の面影と塚内が重なった。
頭を優しく撫でられ、目頭が熱くなる。
「望月さん!?」
「おいおい、塚内くん。女の子を泣かすんじゃないよ」
「すまない、そんなつもりじゃなかったんだが……」
「ち、違うんです! 私が勝手に……塚内さんのせいじゃありません! ただ――」
昔の自分を知っていて、こうやって褒めてくれる人はいなかった。そしてこれからもいないと思っていた。
――オールマイト先生や緑谷くん、他にも私を救けてくれた人がいて……でも、褒められたってことは少しは成長したと思ってもいいかな? お父さん、お母さん。
塚内は優しく、莉緒の頭をなで続けた。
「オール、マイト先生……」
「望月少女、緑谷少年、よく頑張ったね」
「……先生、あの大きいのは脳無。ショック吸収だと、あの男、死柄木が言っていました」
「望月少女、ありがとう。緑谷少年、彼女と一緒に安全なところへ」
オールマイトはニカっと笑うと脳無に向かい攻撃を仕掛ける。しかし緑谷の時と同様に脳無には効いていなかった。
「さっきのあの子の攻撃の方が効いてたよ。矢で連続攻撃してくるやつ。脳無にダメージを与えたいなら、ゆうっくりと肉をえぐり取るとかが効果的だね」
「わざわざサンキュー! そういうことなら、わかりやすい!」
オールマイトが脳無の背後に周り、腰を掴むとバックドロップを決めた。爆発が起こったような衝撃が響く。
「緑谷くん、救けてくれてありがとう。先生の邪魔にならないように移動しよっか」
「ううん、僕こそ望月さんに救けてもらったし。相澤先生は二人に任せてるから大丈夫だよ! それより、腕大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。緑谷くんは指大丈夫なの?」
莉緒が緑谷と一緒に移動をしていると、バックドロップの衝撃で舞っていた土煙が晴れた。そこには倒れている脳無――ではなく、黒い靄によって上半身をワープさせ地面から顔を出した脳無の姿があった。脳無はオールマイトの両脇腹に爪を突き立てており、そこから血が流れている。
「望月さん、僕……」
「待って、緑谷くん!」
それを見た緑谷は莉緒の制止よりも早く駆け出して行った。黒い靄が揺らめき、緑谷の方へ広がる。
「どっ……け、邪魔だ! デク!」
莉緒が行動を起こすよりも先に爆豪の攻撃が黒霧を襲った。爆豪はそのまま黒霧の本体を掴んで押さえつける。続いて乾いたような音が響き、脳無の体が凍った。轟の氷結攻撃に次いで切島も現れる。
「スカしてんじゃねえぞ、モヤモブが!」
「平和の象徴はてめェら如きに殺れねえよ」
「かっちゃん! 皆……!」
轟の氷結のおかげで脳無の手が緩み、その隙にオールマイトが抜けだす。
「攻略された上に全員ほぼ無傷……すごいなぁ、最近の子どもは。恥ずかしくなってくるぜ
脳無が起き上がると凍っている体が音を立てながら砕け、右の手足がなくなる。
「身体が割れてるのに動いてる……!?」
「皆、下がれ! なんだ!? ショック吸収の“個性”じゃないのか!?」
「別にそれだけとは言ってないだろう。これは“超再生”だな。脳無はおまえの100%にも耐えられるように改造された超高性能サンドバック人間さ」
無くなったはずの手足が生え、大きな目がぎょろっと動き爆豪を捉えた。脳無の姿が消えると、凄まじい音がして周りの木々が激しく揺れる。あまりの速さに莉緒は目で追うことができなかったが、オールマイトが庇ったおかげで爆豪は無事だった。
「……加減を知らんのか」
「仲間を救ける為さ、しかたないだろ? さっきだってホラ、あの子とそこの地味なやつ。あいつらが俺に攻撃してきたぜ? 他が為に振るう暴力は美談になるんだ、そうだろ? ヒーロー?」
“あの子”と言った時に死柄木が莉緒を見る。
その後も「暴力は暴力しか生まないのだと、おまえを殺すことで世に知らしめるのさ!」と、主張をするが、オールマイトに「自分が楽しみたいだけの嘘つき」と言われ、ニタっと笑う。
「3対6だ」
「モヤの弱点はかっちゃんが暴いた……!」
「とんでもねえ奴らだが、俺らでオールマイトのサポートすりゃ……撃退できる!」
「ダメだ! 逃げなさい!」
戦いに参加するつもりだった轟たちをオールマイトが止める。
「……さっきのは俺がサポートに入らなけりゃ、やばかったでしょう」
「それはそれだ轟少年! ありがとな。しかし、大丈夫! プロの本気を見ていなさい!」
「……先生、これくらいのサポートはさせてください」
莉緒はトランぺッターに付け替え、オールマイトに向かってヒートライザを唱えた。続けてランダマイザを使うと紫と黒の渦が現れて、脳無の攻撃・防御力・命中・回避率を低下させる。
「お? これは……望月少女もありがとね。怪我もしてるんだ下がってなさい」
そう言われ、莉緒は頷いて後を任せた。
そこからはもう、オールマイトの独壇場だった。ショック吸収の“吸収”を上回る攻撃、再生も間に合わないほどの攻撃のラッシュ。
「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの!
オールマイトの攻撃により、脳無はUSJの天井を突き破って飛んで行く。
「さすがだ、俺たちの出る幕じゃねえみたいだな……」
「緑谷! ここは退いたほうがいいぜ。却って人質とかにされたらやべェし。望月も行こうぜ!」
切島に言われ移動を始めるが、莉緒の体は眠気に襲われ動きが鈍くなっていた。脳無相手にスキルを連発したためSPが減り、体が警鐘を鳴らしているのだ。
莉緒は緩慢な体を必死に動かし、
「な……緑谷!?」
切島の驚いたような声が聞こえ、莉緒が振り返る。そこにはオールマイトと
「ジャアクフロスト、ダイアモンド――!?」
咄嗟にスキルを唱えるも必要なSPが不足しており技が発動しない。緑谷の元に駆け寄ろうとした莉緒だが、それよりも先に死柄木の手に銃弾が当たった。
「ごめんよ皆、遅くなったね。すぐ動ける者をかき集めて来た」
USJの入り口には雄英が誇る教師陣が並んでいる。死柄木を止めたのはスナイプによる射撃だった。
「1-Aクラス委員長、飯田天哉! ただいま戻りました!!」
さすがにこの教師陣は相手にできないのか、死柄木が撤退しようとする。それをスナイプが射撃で追い詰め、13号がブラックホールで黒霧を吸い込もうとしている。
先生たちの登場に莉緒は安心して気が抜け、今まで張りつめていたことで忘れていた腕の痛みに襲われる。
「君は貰っていこうかな……」
「!?」
すぐそばから死柄木の声が聞こえた。手だけ黒い靄でワープさせた死柄木が莉緒の腕を掴んでいる。
今の莉緒はスキルを使えず、死柄木の“個性”で塵になったため刀もない。銃には攻撃性はなく、そもそも掴まれていない方の腕は脳無によって砕かれていて使い物にならない。
連れていかれないように必死に踏ん張るが、腕の痛みと眠気で力が入らない。
――意識が、持たない……っ!
踏ん張る力が弱くなり、体が死柄木の方へ倒れる。
「望月!!」
もうダメ――莉緒がそう思った時、お腹に誰かの腕が回り引っ張られた。
パキパキパキと氷の音がする。
「と、どろきくん……?」
「……ッチ、今回は失敗だったけど、今度は殺すぞ平和の象徴オールマイト……またね、望月ちゃん?」
死柄木は黒霧とともに消えていった。それを見て安堵した莉緒は力が抜けてしまう。
「おい、望月! 大丈夫か?」
「轟くん、ありがと。ごめん、もう、むり……」
遠のく意識に逆らうことができず、莉緒はそのまま気を失ってしまった。
「望月? おい、望月!!」
「轟! 望月! 大丈夫か!?」
轟や切島が声を掛けるが返事はない。莉緒は苦しい表情をしており、額には汗が滲んでいた。
「轟! 望月の腕!!」
莉緒の左腕からは血が垂れ、大量の血を吸った袖は重たくなり色も変わっていた。
轟が傷つけないようにゆっくりと袖を捲る。
「うわ!? 何だよコレ、ひでぇ……」
左腕が赤く腫れあがり、血が出ている箇所や内出血のせいで紫や黄色、緑色に変色している肌。
先ほど轟や切島たちと一緒に
「轟ちゃん! 莉緒ちゃんは無事かしら?」
相澤を他の先生に託したのか、蛙吹が広場まで戻ってきた。
「莉緒ちゃん、私たちや相澤先生を逃がすために一人であいつらに向かって行ったの。その腕、あの黒くて大きな男に掴まれていたところね」
「……なるほど、腕を潰されたってわけか。粉砕骨折してるかもしれねえな」
「望月、ガッツ溢れるぜ……!」
「早く莉緒ちゃんを先生たちの元へ連れて行きましょう」
「わかった」
轟は意識のない莉緒を抱きかかえると、驚いたように顔を覗き込んだ。しかし、すぐに何事もなかったかのように歩き始める。
「轟!? おまえ……」
「……ケロ」
「何だ?」
「……いや、おまえ男らしいぜ」
「お姫様だっこね」
「……ん、ここは?」
「あ! 望月さん目が覚めたんだね!」
「緑谷くん? ……みんなは!?」
「みんな無事だよ! ここは保健室。望月さんの怪我はリカバリーガールが治してくれて……あ、まだ点滴されてるから動いちゃだめだよ!」
クラスメイトの無事を聞き安堵する莉緒。上体だけ起こして周りを見回すと、そこにいたのは緑谷とリカバリーガール、そして――
「……どちら様ですか?」
「どちらって、あっ!!」
緑谷の隣のベッドにはガリガリに痩せ細った金髪の男性がおり、莉緒が声を掛けると慌てだした。
「わ、私は、その……」
「あ! えっと、この人は……」
「……もしかして、オールマイト先生ですか?」
「「!?」」
「お腹の包帯、脳無にやられたところでは? それに目が……雰囲気も。オールマイト先生みたいな力強くて安心する感じがします」
「……望月少女」
莉緒の推測が当たっていたのか、金髪の男性は観念したように話し出す。
自分がオールマイトであること、
「わかりました。緑谷くんは知っていたから、あの時飛び出して行ったんだね」
「あ、うん」
「先生、ありがとうございました。私、先生みたいに皆に安心感を与えられるヒーローに……いえ、そんな先生を超えるヒーローになります」
「……私こそ望月少女の魔法のおかげでギリギリまで姿を保つことができた。こちらこそ礼を言わせてくれ。君は強くなるさ」
「はい、強くなります。これからもご指導よろしくお願いします」
ニカっと笑うオールマイト。姿が変わってもオールマイトはオールマイトで、莉緒は安心していた。
「リカバリーガール、怪我治してくださってありがとうございます」
「まったく、無茶をして。でも、事情が事情だけに小言も言えないね。気を付けんさいよ」
莉緒がリカバリーガールからペッツを貰い、緑谷から気を失った後のことを聞いていると、保健室のドアが開いた。
「失礼します」
「あれ、塚内くん。また来たの?」
「ひどい言い草だな。そこの彼女、そろそろ起きたころかなと思ってね」
「……?」
状況が読み込めず、キョトンとする莉緒。
「初めまして……ではないんだけど。私は塚内直正、警察さ」
「……警察の方?」
「君たちのクラス全員に事情聴取をお願いしていてね。体調が悪いようなら出直すけど、どうする?」
「いえ、大丈夫です」
大方の内容は先生や他の生徒から聞いていたのか、簡単な確認だけだった。
「君は死柄木に連れ去らわれそうになったらしいね」
「はい。私の“個性”が脳無の物理攻撃を反射し、死柄木のは無効化しました。そのせいだと思います」
「そうか……しかし、大きくなったね」
「……?」
「10年くらい前かな。まだ新人だった頃、
「え、まさか……!?」
「君はあの頃と変わってないね。救けたいって強い心を持っている、よく頑張ったね」
“あの事件”で警察から事情聴取をされた際、莉緒の体調を気遣ってくれた若い警官の面影と塚内が重なった。
頭を優しく撫でられ、目頭が熱くなる。
「望月さん!?」
「おいおい、塚内くん。女の子を泣かすんじゃないよ」
「すまない、そんなつもりじゃなかったんだが……」
「ち、違うんです! 私が勝手に……塚内さんのせいじゃありません! ただ――」
昔の自分を知っていて、こうやって褒めてくれる人はいなかった。そしてこれからもいないと思っていた。
――オールマイト先生や緑谷くん、他にも私を救けてくれた人がいて……でも、褒められたってことは少しは成長したと思ってもいいかな? お父さん、お母さん。
塚内は優しく、莉緒の頭をなで続けた。