第一種目

「皆、準備は出来ているか!? もうじき入場だ!」

 1-Aの控え室に飯田の元気な声が響く。コスチュームは公平を期すため着用不可となっており、莉緒たちは体操服姿で待機をしていた。

「緑谷」
「轟くん……何?」
「客観的に見ても実力は俺の方が上だと思う」
「へ!? うっ、うん……」
「おまえオールマイトに目ぇかけられてるよな。別にそこを詮索するつもりはねえが……おまえには勝つぞ」

 轟が緑谷に宣戦布告し、緑谷も「僕も本気で獲りに行く!」と、それに応える。
 莉緒は轟のことを『闘志を内に秘めるタイプ』だと思っていたので、意外に思いながらその様子を見ていた。しかもA組全員ではなく緑谷だけに宣戦布告。ますます不思議だ。




『雄英体育祭! ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル! どうせてめーらアレだろ、こいつらだろ!? ヴィランの襲撃を受けたにも拘わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星! ヒーロー科、1年A組だろぉぉ!?』

 プレゼントマイクの実況に合わせるように莉緒たちA組が登場すると、場内が歓声に包まれた。
 収容人数12万の体育祭会場は満員となっており、この大人数の中で最大のパフォーマンスを発揮できるか、これもまたヒーローとしての素養を身につける一環となっている。
 全員の入場後、1年生の主審であるミッドナイトが取り仕切る。

「選手宣誓! 1-A、爆豪勝己!」

「え〜、かっちゃんなの!?」
「あいつ一応、入試一位通過だったからな」

 爆豪が両手をズボンのポケットに突っこんだまま号令台に上り、A組の生徒たちは心配そうな顔でそれを見る。

「せんせー、俺が一位になる」
「絶対やると思った!」

 予想通りの爆豪らしい宣誓に、切島からの素早いツッコミが入る。莉緒は思わず笑ってしまったが、他のクラスからは盛大なブーイングを浴びていた。

「さーて、それじゃあ早速第一種目行きましょう。いわゆる、予選よ! 毎年ここで多くの者が涙を飲むわティアドリンク! さて運命の第一種目、今年は……コレ!」

 ミッドナイトが指さした先には『障害物競走』と書かれていた。
 計11クラスでの総当たりレースとなっており、コースはこのスタジアムの外周約4km。自由さが売り文句の雄英ではコースさえ守れば何をしたって構わないらしい。
 ミッドナイトの説明が終わり、全員がスタートゲートに並ぶ。ランプが点灯し、カウントダウンを告げる。

「スターーーート!!」

 ランプが青になると同時にミッドナイトのスタートの合図、そしてゲートを潜ろうとする人たち。狭すぎるゲートのせいでかなり揉みくちゃになっており、中々前に進むことができない。このスタート地点がもう、最初のふるい。

 轟が開始早々、氷結攻撃で後続の人たちを凍らせる。莉緒はそれをひょいっと軽く避け、A組の生徒たちも上手く避けて轟に続いていた。
 ミッドナイトが障害物競走は「第一種目」と言っていたので、莉緒はSP温存のためスキルを使わずに突破しようとしていた。現在装備しているカグヤは“速”のステータスが高いので速さには自信がある。

『さぁ、いきなり障害物だ! まずは手始め、第一関門、ロボ・インフェルノ!』

「入試ん時の0ポイントヴィランじゃねえか!」
「マジか、ヒーロー科あんなんと戦ったの!?」
「多すぎて通れねえ!」

 目の前に現れたのは大量の巨大ロボット。一般入試用に使われていた仮想ヴィランらしく、初めて見た莉緒はその大きさに驚いていた。

 先頭を走る轟はロボットを凍らせて動きを止める。

「あいつが止めたぞ! あの隙間だ、通れる!」
「やめとけ。不安定な体勢の時に凍らしたから……倒れるぞ」

 他のクラスの生徒は動かないロボットの隙間を潜って進もうとしたが、轟の言葉通りバランスを崩したロボットが倒れてくる。

『1-A、轟! 攻略と妨害を一度に! すげえな! アレだな、もうなんか……ズリィな!』

 莉緒は目の前にいるロボットの脚、胴体、肩を足場にして駆け上がる。ロボットの頭に到着した頃には爆豪も登って来ていた。

「あ、爆豪くんだ」
「あ? おめェもいんのかよ!」
「考えること同じだったね、頭上から攻略!」
「チッ! 言っとくけどなぁ、おめェには絶対負けねえ!」
「……?」
「なに不思議そうな顔しとんだ!」
「だって爆豪くん言ってたじゃない、一位になるって。それって誰にも負けないってことでしょ?」

 爆豪は選手宣誓で莉緒を含め、全生徒に宣戦布告したのだ。改めて自分に宣言しなくても爆豪の闘志は伝わっている――そう言うつもりで返事をしたのだが、

「てめェはほんと、俺の神経を逆なでしてくるなァ!」
「え、何でそうなるの!?」

 莉緒の返答が気に入らなかったのか、爆豪に文句を言われてしまった。瀬呂と常闇が合流してもなお、何かと文句を言ってくる爆豪と並走していると第二関門が見えてきた。

『オイオイ第一関門チョロイってよ! んじゃ、第二はどうさ!? 落ちればアウト、それが嫌なら這いずりな! ザ・フォール!』

 そびえ立つ幾つもの柱。間隔を開けて立てられている柱同士を足場となるロープが結んでいる。底は真っ暗闇で見ることができず、その様子から相当深いことがうかがえる。

 爆豪は両手の爆破を使って先に進んで行く。莉緒には爆豪のような機動力がないため、ロープの上を走って攻略していた。
 前世、怪盗でこの世界では機動力を補うためにパルクールを習得している。このくらいのバランス力はお手の物だ。

『先頭が一足抜けて下はダンゴ状態! そして早くも最終関門、かくしてその実態は一面地雷原! 怒りのアフガンだ! 地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!』

 先頭は最終関門に到達していた。莉緒も第二関門を突破し、轟からやや遅れる形で最終関門の地雷原へ辿り着く。
 スピードを緩めることなく走り続けていると、足元から時計の針のような音が鳴り、派手な音がして地雷が爆発する。

『おっと、A組の望月が地雷を踏んだぞ! って、あれ? 何だ何だ!? 望月は地雷が効かないのか!? ここで追い上げる!』

 カグヤには火炎反射スキルがあるので地雷に躊躇する必要はない。
 先頭の二人がお互いを引っ張り合っているおかげで追いつくことができたが、莉緒に気付いた爆豪はあからさまに不機嫌そうな顔をする。轟を引っ張りながら、こちらにも妨害を仕掛けてきた。莉緒はそれを避けると更にスピードを上げ、跳んだ。
 爆豪の肩に片手をついて前方宙返りのようにして飛び越えていく。降り立った先の地雷を踏んで轟と爆豪を妨害。

『うおおお! よろこべ男ども! 望月がここで先頭に立ったぜ! にしても、すげぇ身体能力だな!』

「クソがァ! 俺を使いやがって!」
「お互いに足を引っ張り合ってるから抜かれちゃうんだよー!」
「うるせぇ!」

 轟と爆豪は引っ張り合うのを止めて追いかけてくる。莉緒は二人を警戒しつつゴールを目指していたのだが、後方から爆発音が響いた。

『後方で大爆発!? 何だあの威力!? A組緑谷、爆発で猛追! っつーか、抜いたああー!』

 爆風で金属板に乗って飛んできた緑谷が莉緒たちを追い抜く。しかも着地する時に金属板を地面に叩きつけて地雷を爆発させ、先ほどの莉緒と同じような妨害を仕掛けてきたのだ。

「きゃあっ!」

『緑谷、間髪入れず後続妨害! なんと地雷原即クリア! さァさァ序盤の展開から誰が予想出来た!? 今一番にスタジアムへ還ってきたその男、緑谷出久の存在を!』

 そのまま緑谷が1位で通過。爆発こそ莉緒には効かなかったが、煙で遮られた視界のせいで一瞬足が止まってしまい、轟と爆豪の二人に抜かれてしまった。結果、莉緒は4位でフィニッシュした。




「ようやく終了ね。予選通過は上位43名、残念ながら落ちちゃった人も安心しなさい。まだ見せ場は用意されてるわ! そして次からいよいよ本選よ! 私はもう知ってるけど〜、コレよ!」

 全員がゴールし終わったのでミッドナイトが結果発表を行う。そして次の種目が掲示され、そこには『騎馬戦』と書かれていた。

「参加者は2〜4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ! 基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど一つ違うのが、先ほどの結果にしたがい各自にポイントが振りあてられていること!」

 誰と組み合わせるか、何人で組むかによって騎馬のポイントが変わる仕組みになっている。

「与えられるポイントは下から5ずつ! そして1位に与えられるポイントは1000万! 上位の奴ほど狙われちゃう下克上サバイバルよ!」