第二種目

「上に行く者には更なる受難を! 雄英に在籍する以上、何度でも聞かされるよ! これぞPlus Ultra更に 向こうへ! 予選通過1位の緑谷出久くん、持ちポイント1000万!」

 騎馬戦の制限時間は15分。割り振られたポイントの合計が騎馬のポイントとなり、騎手はそのポイント数が表示されたハチマキを装着することになっている。ハチマキを取られても騎馬が崩れてもアウトにはならない。そのため、43名からなる騎馬10〜12組がずっとフィールドにいることになる。

「“個性”発動アリの残虐ファイト! でもあくまで騎馬戦、悪質な崩し目的での攻撃等はレッドカードで一発退場とします。それじゃ、これより15分。チーム決めの交渉タイムスタートよ!」

「おい、兎女! 俺と組め!!」
「え〜、爆豪くんと?」
「何が不満なんだてめェは! 俺と組んだら、さっき利用しやがったことを許してやる!」

 爆豪は障害物競走の終盤で踏み台にして追い抜いたことを根に持っているようだ。そんな爆豪の周りには、彼と組みたい人が集まってきている。

「やだ」
「あ!? んだと!」
「だって私、兎女って名前じゃないし。それに爆豪くん乱暴そうなんだもん」

 そもそも戦闘服コスチュームを着てない今、兎面がないため『兎』要素はない。強いて言うならカグヤのうさぎの耳くらいなのだが、爆豪はあだ名を変える気はないらしい。

「クソが! この俺がわざわざてめェを誘ってんだぞ!」
「ふふふ、うそうそ。爆豪くんには私より相性が良い人がいるんじゃない?」
「あ?」
「例えば切島くんとか、瀬呂くんとか! 爆豪くん勝手しそうだから合ってるかなって思って」

 身体強化などのサポートはできるが、それ以外のサポートやフォローとなると莉緒の“個性”では難しい。
 思案し始めた爆豪に手を振ってから離れ、チームを組むために周りを見回す。仲の良い耳郎たちと組もうと思ったのだが、爆豪と話しているうちにチームを決めたようだった。

「……ねえ」
「ん? ――っ!?」

 背後からの呼び掛けに返事をした途端、意識が飛ぶ。頭の中に靄がかかり、体が自分の意志で動かせなくなった。

「……わ! びっくりした」

 しかしそれは一瞬のことで、すぐに意識は戻った。
 目の前には紫色の髪の毛の男子生徒。体育祭前に他のクラスが敵情視察をしに来た際、宣戦布告を行った普通科の生徒だった。

「今のあなたの“個性”?」
「……どうして!?」
「今の私には状態異常は効かないから」

 カグヤの瞬間回復――状態異常になっても、すぐに回復してくれる自動スキルだ。

「私とチーム組む?」
「はぁ? なんでだよ、俺はあんたに“個性”を使おうとしたんだぞ!?」
「“個性”を使っていいんだから、いいんじゃないの?」
「そうじゃなくて!」
「皆、もう固まってるし時間もあまりない。作戦の話し合いもしたいから、君が同じチームになってくれると嬉しいんだけど?」
「……」
「よし、沈黙は了承と受けとります! 私は望月莉緒、よろしくね。君は?」
「……心操人使。」

 心操の“個性”は『洗脳』――命令できる範囲はあるが、自分の問いかけに答えた人を意のままに操ることができる。

「へ〜、良い“個性”だね!」
「良い? アンタ、本気でそう思ってんのかよ」
「どうして? こんなことで嘘なんかつかないよ。ちなみに私の“個性”はペルソナって言って色々できます!」
「雑な説明だな」
「他のメンバーは決まってるの?」
「聞けよ」

 どうやらメンバーは決まっているらしく、連れられて行くと同じクラスの尾白とB組の男子生徒がいた。

「尾白くん、同じチームになったからよろしくね」
「……」
「……尾白くん?」

 挨拶をしても返事がない。目線を合わせることもせず、無表情のまま固まっている。

「話しかけても無駄だよ」
「……心操くんの“個性”?」
「ああ」
「……そっか」

 莉緒も洗脳されそうになったため、もしかしてとは思っていた。先ほど心操に言った通り、“個性”を使用することを前提とした体育祭なので心操が悪いわけではない。

 武術が得意だという尾白は日頃から筋トレをしており、鍛えていることを教えてもらっていた。尾白はとても真面目な人なので、こんな形での参加は不本意だろう――莉緒はそう思った。
 しかし、心操から洗脳の解き方は教えてもらえず、他人の状態異常を回復させるペルソナは所持していない。

 莉緒の複雑な気持ちを置いてけぼりにし、作戦会議が始まった。作戦は簡単なものだった。
 前半はハチマキを取られてもいいから目立たずにいること。ポイントの散り方を把握しておいて後半に攻めること。

「私が前騎馬でもいいかな? 私の後ろにいた方が皆を“個性”で守りやすいから」
「わかった」

『よォーし、組み終わったな!? 準備はいいかなんて聞かねえぞ。いくぜ、残虐バトルロイヤル! スタート!』

 プレゼントマイクの掛け声に合わせて飛び出して行く騎馬たち。
 莉緒たちは全体の動きを把握するために混戦した場所を避け、一歩引いて観戦する。移動中にすれ違ったB組の騎馬に自分たちのハチマキを奪われた。

「心操くん、大丈夫?」
「ああ、問題ない」

 B組の人の“個性”でハチマキは奪われたが、心操に怪我はなく胸をなでおろす。
 ハチマキがなくなってからはポイントの動きを把握するのに徹した。圧倒的ポイント数を持つ緑谷が狙われているが、常闇たちのおかげで逃げ切っているようだ。
 爆豪が騎馬から離れて飛んでいるのを見た莉緒は『……やっぱりね』と思わずにはいられなかった。

 残り時間が半分を切ったところで、緑谷と轟が対峙する。
 その様子を観察していると、轟チームである八百万の腕から棒が創造され始める。その棒が地面に突き刺さり、八百万の隣にいる上鳴から電気が迸っているのが見えた。

「トランペッター!」

 轟チームがこれから行うことに気付いた莉緒は、すぐさま行動に移す。
 青い光に包まれながらトランぺッターが顕現すると、同時に透明な盾も現れ上鳴の放電を反射する。間一髪間に合ったと思ったら、次は轟の氷結攻撃。これはトランぺッターが吸収したため、体力を回復するだけに終わった。

 莉緒が自分たちのチームに被害がなくて安堵していると、轟と視線がぶつかった。八百万の造った絶縁シートで反射攻撃は効いていなかったが、轟は莉緒の行動に気付いているようだった。

「……今のは」
「これが私の“個性”、ペルソナだよ。今のはトランぺッターの電撃反射と氷結吸収スキル」 
「……」

 心操はどこからともなく現れた莉緒のペルソナと、目の前で行われたことに言葉が出ないようだ。

「心操くん?」
「いや、何でもない。そろそろ俺たちも動こうか」
「うん。狙うならB組の鉄哲くんか拳藤さんのチームかな?」
「そうだな」

『そろそろ時間だ、カウントダウンいくぜ! エディバディセイヘイ!』

 カウントダウンの声が響くなか、心操の指示で鉄哲チームのハチマキを奪うことになった。心操は鉄哲チームの口を開かせると“個性”で意識を奪いハチマキを取る。すれ違いざまに騎馬同士が接触する。
 プレゼントマイクの『タイムアップ!』という声と一緒に、背後――後騎馬から聞き覚えるある声が聞こえた。

「……あれ、俺……?」
「尾白くん、意識戻ったんだ!」
「望月さん……あれ? 騎馬戦は?」
「あ、実は――」

 騎馬戦が終わりプレゼントマイクが読み上げる順位を聞きながら、莉緒は状況が呑み込めていない尾白に何があったのか説明しようとする。

「望月さん」

 しかし、尾白に説明するよりも先に心操が話しかけてきた。

「おかげで3位通過できたよ、ありがとう」
「あ、こちらこそ……」
「恵まれてる“個性”で良いよな」
「……え?」

 莉緒は何を言われたのか理解できず、固まってしまった。心操はなおも続ける。

「見た目はともかく、ヒーロー向きの“個性”で羨ましいよ。あんな“個性”だと苦労知らずだろ。まぁ、あんたたちみたいな恵まれた人間にはわかんないだろうけど」

 ――恵まれている? 苦労知らず?
 確かに、先ほどのように攻撃を反射・吸収したりと汎用性は高い。しかし、だからと言って今まで何もしてこなかったわけではない。
 ヒーローを目指す切欠になった出来事、そしてこれまでのことが莉緒の脳内を駆け巡る。

「……心操くんの言う『ヒーロー向き』って何? 『恵まれた人間』って何?」
「それは――」
「私は程度の差はあっても、ヒーローになるために向き不向きの“個性”なんてないと思ってる。“個性”を生かすも殺すもその人の努力次第だよ」
「俺のこの“個性”知っててそんなこと言えんのかよ!」
「言えるよ。最初に言ったよね、“良い個性”だって」

 莉緒は心操の“個性”が対ヴィランに関して有用だと思った。だからこそ悔しかった。A組の男子生徒と比べ、心操の体力・筋力・運動量などヒーローとして必要な要素が劣っていることが。

「チーム組んでみて思ったけど、心操くんは上背はあるけど筋力はない。一芸だけじゃヒーローは務まらない。ヒーローには素の身体能力や戦闘能力も必要なんだよ……心操くんは今まで何してたの?」

 一芸だけじゃヒーローは務まらない――USJの時に相澤が言っていた言葉だ。あの時の無力さから、莉緒はその言葉の重みを痛感していた。

「……っそれは!」
「尾白くんの鍛えられた体を見てわからない? それは尾白くんが『恵まれてる』からじゃなくて、今までずっと努力してきたからなの。私だって……私だって、“個性”だけでここまで来たわけじゃない」
「……」
「他人の努力を見ないふりして羨んで、『恵まれてる』なんてひどいよ。私たちの努力をなかったものにしないで」

 心操の目を見据えてはっきりと言い切った。

「……望月さん」
「え、あ……! 私――」
「……行こう?」

 莉緒と心操の間に流れる険悪な雰囲気を止めたのは尾白だった。目が据わっていた莉緒の瞳に光が灯ると、先ほどまでとは別人のように狼狽え始めた。

「あ、あの。心操くん……」

 やってしまった、言い過ぎた――と、後悔が襲い謝罪の言葉を口にしようとするが、心操は莉緒たちを見ることもなく歩いて行ってしまった。
 
 莉緒には莉緒のバックグラウンドがあるように、心操にも理由があるのかもしれない。それを聞きもせず、一方的に自分の意見だけを述べてしまった。しかも捲し立てるように言葉を連ねていたため、心操は口を挟めなかったかもしれない。
 莉緒はため息を吐いた後、心操との今までのやり取りを思い出し両手で顔を覆うとしゃがみ込んだ。

「え!? 望月さん大丈夫!?」
「……うん、大丈夫です。尾白くん、止めてくれてありがとう」
「いや、びっくりしたけど……でも望月さんの気持ち、嬉しかったから。ありがとう」
「お礼を言われるようなことじゃないよ。むしろ尾白くんのこと持ち出しちゃって謝りたいぐらいなのに……」
「俺は気にしてないから望月さんも気にしないで。それより俺、第二種目の記憶が全然ないんだけど……」
「あ、そうだった! あのね――」

 第二種目で尾白が心操の“個性”で洗脳され、操られていたことを説明する。

「心操くん、“個性”の解き方は教えてくれなくて。尾白くんはどうして意識が戻ったの?」

 莉緒は「心操くんが解いたのかな?」と、ぽつりと言葉を漏らす。

「いや、違うと思う。鉄哲チームの騎馬とぶつかってから、そっからの記憶はハッキリしてるんだ」
「もしかして衝撃によって解けるってこと?」
「うん、その可能性が高い」
「そっか。私、尾白くんの洗脳解くことができなくて……ごめんね」
「望月さんが気に病むことじゃないよ。望月さんは心操の洗脳を破ったんだろ? 俺が未熟だっただけだよ」

 「だから気にしないで」と優しく諭してくれる尾白に、落ち込んでいた莉緒は次第に笑顔が戻る。

「おい、二人とも何をしてるんだ!? お昼の時間だぞ!」

 飯田がいつまでもステージに残っている二人を呼びに来る。莉緒は尾白と顔を見合わせて笑った後、A組メンバーがいる列へと加わっていった。