職場体験、当日。
「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ、落としたりするなよ」
「はーい!」
「伸ばすな『はい』だ、芦戸。くれぐれも失礼のないように! じゃあ行け」
駅構内で相澤の話があった後、それぞれの希望先事務所に移動を始める。
「あれ? 轟くんもこっち?」
「ああ。望月はどこの事務所にしたんだ?」
オファーリストを貰った日に同じような会話をしたが、あの時はそれどころではなくなってしまった。それ以降、職場体験について話す機会がなく、お互いどこの事務所に行くのか分からずじまいだった。
「……私は、エンデヴァー事務所だよ」
「っ!」
「前にトップヒーローのところって言ったと思うけど、オファーが来てた中でエンデヴァー事務所が一番実績があったから。まぁ、No.2ヒーローだしね」
エンデヴァー事務所からオファーを貰ったことに疑問はあったが、トップヒーローの元で経験を積めるのは願ってもない機会だ。莉緒は迷わなかった。
「轟くんの気持ちを蔑ろにするつもりはないけど、ヒーローとしての功績は事実だと思うから」
轟がエンデヴァーをよく思っていないことを聞いており、その理由も理解している。だからこそ言い辛かった。不快な気持ちにさせてしまったのではないか――と、莉緒は不安に思った。
「……俺も親父の事務所にした」
「――え?」
しかし、轟の返答は莉緒が予想していたものではなかった。
「赦したわけじゃないし、赦す気もない。ただ奴がNo.2と言われる事実を体験し、受け入れるために選んだ」
「轟くん……」
「まぁ、あいつと顔を合わせるのは癪だけどな」
「ふふ。凄いなぁ」
『なりたい自分』になるために前を向いて歩き始め、父親とも向き合おうとしている轟に感服する。
莉緒は「職場体験先でもよろしくね」と声をかけ、一緒に目的地へと向かった。
ビルが建ち並ぶオフィス街。その中でも、ひと際大きなエンデヴァー事務所。
まずは相棒 ――通称、“炎のサイドキッカーズ”のメンバーでもある“バーニン”に事務所を案内してもらう。ヒーロー活動についての話も聞きながら、一通りの説明の後、更衣室へ向かった。
「あれ? 轟くん、戦闘服 変えたんだね」
着替え終わって莉緒が部屋を出ると、轟が待っていた。彼の戦闘服 は以前の白を基調としたものではなく、紺色の新しいものになっている。
「ああ。耐熱性があるやつと、体温調節もできるように変えてもらった」
「恰好良いね、似合ってるよ!」
莉緒は「それに、ほら!」と言いながら、自分の着ているジャケットの袖を轟の戦闘服 に近づけ、色を見比べる。
「私と同じ色! お揃いだね!」
「……ああ」
莉緒の満面の笑みに、轟はそっと視線を逸らしていた。
「焦凍くんと莉緒ちゃん、準備できた? これからエンデヴァーさんのところに挨拶に行くからついて来て!」
バーニンに連れられエンデヴァーのいる執務室に通される。部屋にはエンデヴァーと他の相棒 が数人おり、何やら話しをしていた。
莉緒たちの入室に気付いたエンデヴァーは、見ていた書類を机に置いて席を立ち、向かってくる。
轟は自身で職場体験先を選んだとはいえエンデヴァーに不快感を露わにしているようで、目を合わせようとしない。エンデヴァーの方は轟が来たことを喜び話しかけているが、軽くあしらわれていた。
莉緒は轟からエンデヴァーの話を聞き少し身構えていたのだが、目の前の光景に肩の力が抜ける。轟の態度はさておき、もっとギスギスした感じを想像していたのだ。
二人のやり取りを意外そうに見ていると、その視線に気付いたのかエンデヴァーが莉緒の方を向いた。
「……体育祭での君と焦凍の戦いを見せてもらった。身体能力、“個性”ともに素晴らしかった!」
「あ、ありがとうございます」
「だからこそ、君には焦凍の踏み台になってもらう」
エンデヴァーの思わぬ言葉に、莉緒は固まる。
「っおい! 望月にまでふざけたこと言ってんじゃねえぞ!」
「と、轟くん! 大丈夫、気にしてないから!」
「望月!!」
先に反応したのは轟で、鋭い目つきでエンデヴァーに食ってかかるが、それを莉緒が慌てて止める。不服そうな顔をしている轟を落ち着かせながら、口を開く。
「……だって私は、エンデヴァーさんを踏み台にして、オールマイトを超えるヒーローになるために、ここに来たんだから」
「お互い様ですね」と、エンデヴァーの目を見て何でもないように笑顔で返す。今度はエンデヴァーや轟、相棒 の人たちが固まる番だった。
しばらく沈黙が続いた後、急に笑い声が部屋中に響く。相棒 の人たちが笑っており、耐えきれないのかお腹を押さえている人までいる。
「おい! 笑うな!!」
「す、すみませんエンデヴァーさん。でも……ッハハハ! 莉緒ちゃんが強心臓過ぎて……いや〜、大物になりそう!」
エンデヴァーに睨まれながら答えたのは男性の相棒 だった。
「フン! まぁ良い……やれるものならやってみろ。おまえたちは今から相棒 と対戦し、戦闘能力の底上げを行う。二日後にはヒーロー活動に帯同してもらうから、足を引っ張らないようにせいぜい頑張ることだな」
それだけ言うと、エンデヴァーは荒々しく部屋を出て行った。
「……望月、おまえ恰好良いな」
「気にしてないとは言ったけど、イラっとはしたから大口たたいちゃった」
「クソ親父が悪かったな」
「いいよ、それよりもエンデヴァーさん怒ったかな? 部屋出て行っちゃったし……」
莉緒は心配そうにエンデヴァーが出て行った部屋のドアを見つめる。
「あはは、大丈夫! 元々エンデヴァーさんはこの後用事があって、二人のことは私が任されてるから! さァ、ついてきて!」
目じりにたまった涙を拭いながら、バーニンが言う。莉緒はその言葉に安堵し、轟と一緒に事務所内にあるトレーニングルームに向かった。
そこからはエンデヴァーの言った通り、ひたすら相棒 との戦闘訓練が始まった。
エンデヴァー事務所の人たちは莉緒の“個性”を氷に関するものだと思っていたらしく、他のペルソナを使って火を出すと驚いていた。体育祭の時に相澤が解説していたが、エンデヴァーは轟に夢中で聞いていなかったのかもしれない。
訓練では経験の差から莉緒の方が分が悪かったのだが、“個性”のおかげで相棒 相手でも何とか連勝することができた。時折、エンデヴァーが様子を見に来ては轟に何かを言っていたが、莉緒のことは観察するだけだった。
ちなみに、エンデヴァー事務所は宿泊施設が完備されている。そのため、訓練終了後は与えられた個室でゆっくりと眠りについた。
職場体験二日目の夜、明日からヒーロー活動に帯同するため訓練が早めに終わった。
莉緒が轟と談笑しながらタオルで汗を拭っていると、エンデヴァーがトレーニングルームに現れた。莉緒の目の前で足を止め、鋭い眼光でこちらを見ている。
「……望月、おまえの相棒 との対戦映像、雄英での訓練映像も取り寄せてすべて確認した。確かに“個性”は強い。しかも、それにかまけることなく戦闘術も学んでいる」
「……あ、ありがとうございます」
轟以外、眼中にないと思っていたエンデヴァーからの言葉に反応が遅れてしまった。
「確かに万能な“個性”だが制約もあり、それ故、欠点をつかれると弱い。“個性”が使えない相手、使えない状況ではおまえの非力な腕では俺のような体格を持つ敵 を倒すことはできない。ましてや、要救助者を運ぶなんてこともできまい」
エンデヴァーの言葉はもっともで、莉緒は言葉を返せない。
USJ襲撃事件では死柄木や脳無に捕まり、何もできなかった。緑谷に手伝ってもらわなければ相澤も運べなかった。
「ヒーローにも適材適所があるが、おまえは『俺を踏み台にしてオールマイトを超える』と言った。なら、すべてを可能にしてみせろ!」
「……はい!」
エンデヴァーの慧眼には、さすがNo.2ヒーローだと敬服せずにはいられない。短期間、短時間で自分のことを見抜かれてしまった。
「戦い方を見るに今までも鍛えてきたんだろうが、筋肉がつきにくい体質のようだな。まずは人体の急所や関節をすべて把握すること。それに、古武術をもとにした筋力に頼らない動きの方が合っているかもしれん」
「あの……エンデヴァーさん」
「む? なんだ?」
「ありがとうございます」
職場体験を始めてまだ二日目だが、莉緒はここにこれて良かったと心から思った。
「フン! このエンデヴァー事務所を職場体験に選んだからには生半可では困るからな」
「ふふ」
「笑うな、望月!」
――この人も、轟くんと同じように変わろうとしているのかもしれない。
父親としてのエンデヴァーの姿を知らず、初対面での印象も良いとは言えない。それでも、今、莉緒と話すエンデヴァーからは人間味を感じる。
長年No.2ヒーローの座をキープしておりヒーローとしての実績はもちろんだが、バーニンを始め相棒 たちからの信頼も厚い。本来は冷酷な人間ではないのだろう。
「前例通りなら保須に再びヒーロー殺しが現れる。しばし保須に出張し活動する!」
エンデヴァーは「おまえたちも笑ってないで市に連絡しろぉ!」と相棒 に言うと、トレーニングルームを去って行った。
エンデヴァーに続いて相棒 の人たちもトレーニングルームから出て行くなか、バーニンから「今日はもう休んでいいよ」と言われ莉緒と轟は宿泊エリアに向かった。
「……望月は凄いな」
「ん? いきなりどうしたの?」
「いや、俺があんな話しをした後にもかかわらず、親父相手に笑ったりしてたから」
「んー、まぁ、私はヒーローとしてのエンデヴァーさんしか見たことがないから、轟くんと感じ方が違うのはしょうがないんじゃないかな」
莉緒は轟ではない。彼の気持ちに寄り添い思いやることはできても、すべてを理解することはできない。
「轟くんは轟くんのペース良いんだよ」
「……そうか」
「うん! あ、轟くんのお部屋あっちだったよね? また明日ね、おやすみ!」
「ああ、おやすみ」
莉緒は手を振って轟と別れた。自室代わりの部屋へと戻った莉緒は、スマホのアドレス帳にある『飯田天哉』の文字を眺める。
保須市――。
先ほどエンデヴァーが言っていた市街地の名前だ。飯田の職場体験先の事務所がある場所で、彼の兄の事件があった場所でもある。
体育祭の裏で飯田の兄はヒーロー殺し――敵 名、“ステイン”に襲われた。飯田が体育祭を早退したのは、兄の病院に駆けつけたからだ。
休校明けには何でもない風を装っていたが、飯田が保須市の事務所を職場体験に選んだのと無関係には思えない。
莉緒は飯田に送るメールの内容を打ちこんだが、送信ボタンを押すことはできなかった。
「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ、落としたりするなよ」
「はーい!」
「伸ばすな『はい』だ、芦戸。くれぐれも失礼のないように! じゃあ行け」
駅構内で相澤の話があった後、それぞれの希望先事務所に移動を始める。
「あれ? 轟くんもこっち?」
「ああ。望月はどこの事務所にしたんだ?」
オファーリストを貰った日に同じような会話をしたが、あの時はそれどころではなくなってしまった。それ以降、職場体験について話す機会がなく、お互いどこの事務所に行くのか分からずじまいだった。
「……私は、エンデヴァー事務所だよ」
「っ!」
「前にトップヒーローのところって言ったと思うけど、オファーが来てた中でエンデヴァー事務所が一番実績があったから。まぁ、No.2ヒーローだしね」
エンデヴァー事務所からオファーを貰ったことに疑問はあったが、トップヒーローの元で経験を積めるのは願ってもない機会だ。莉緒は迷わなかった。
「轟くんの気持ちを蔑ろにするつもりはないけど、ヒーローとしての功績は事実だと思うから」
轟がエンデヴァーをよく思っていないことを聞いており、その理由も理解している。だからこそ言い辛かった。不快な気持ちにさせてしまったのではないか――と、莉緒は不安に思った。
「……俺も親父の事務所にした」
「――え?」
しかし、轟の返答は莉緒が予想していたものではなかった。
「赦したわけじゃないし、赦す気もない。ただ奴がNo.2と言われる事実を体験し、受け入れるために選んだ」
「轟くん……」
「まぁ、あいつと顔を合わせるのは癪だけどな」
「ふふ。凄いなぁ」
『なりたい自分』になるために前を向いて歩き始め、父親とも向き合おうとしている轟に感服する。
莉緒は「職場体験先でもよろしくね」と声をかけ、一緒に目的地へと向かった。
ビルが建ち並ぶオフィス街。その中でも、ひと際大きなエンデヴァー事務所。
まずは
「あれ? 轟くん、
着替え終わって莉緒が部屋を出ると、轟が待っていた。彼の
「ああ。耐熱性があるやつと、体温調節もできるように変えてもらった」
「恰好良いね、似合ってるよ!」
莉緒は「それに、ほら!」と言いながら、自分の着ているジャケットの袖を轟の
「私と同じ色! お揃いだね!」
「……ああ」
莉緒の満面の笑みに、轟はそっと視線を逸らしていた。
「焦凍くんと莉緒ちゃん、準備できた? これからエンデヴァーさんのところに挨拶に行くからついて来て!」
バーニンに連れられエンデヴァーのいる執務室に通される。部屋にはエンデヴァーと他の
莉緒たちの入室に気付いたエンデヴァーは、見ていた書類を机に置いて席を立ち、向かってくる。
轟は自身で職場体験先を選んだとはいえエンデヴァーに不快感を露わにしているようで、目を合わせようとしない。エンデヴァーの方は轟が来たことを喜び話しかけているが、軽くあしらわれていた。
莉緒は轟からエンデヴァーの話を聞き少し身構えていたのだが、目の前の光景に肩の力が抜ける。轟の態度はさておき、もっとギスギスした感じを想像していたのだ。
二人のやり取りを意外そうに見ていると、その視線に気付いたのかエンデヴァーが莉緒の方を向いた。
「……体育祭での君と焦凍の戦いを見せてもらった。身体能力、“個性”ともに素晴らしかった!」
「あ、ありがとうございます」
「だからこそ、君には焦凍の踏み台になってもらう」
エンデヴァーの思わぬ言葉に、莉緒は固まる。
「っおい! 望月にまでふざけたこと言ってんじゃねえぞ!」
「と、轟くん! 大丈夫、気にしてないから!」
「望月!!」
先に反応したのは轟で、鋭い目つきでエンデヴァーに食ってかかるが、それを莉緒が慌てて止める。不服そうな顔をしている轟を落ち着かせながら、口を開く。
「……だって私は、エンデヴァーさんを踏み台にして、オールマイトを超えるヒーローになるために、ここに来たんだから」
「お互い様ですね」と、エンデヴァーの目を見て何でもないように笑顔で返す。今度はエンデヴァーや轟、
しばらく沈黙が続いた後、急に笑い声が部屋中に響く。
「おい! 笑うな!!」
「す、すみませんエンデヴァーさん。でも……ッハハハ! 莉緒ちゃんが強心臓過ぎて……いや〜、大物になりそう!」
エンデヴァーに睨まれながら答えたのは男性の
「フン! まぁ良い……やれるものならやってみろ。おまえたちは今から
それだけ言うと、エンデヴァーは荒々しく部屋を出て行った。
「……望月、おまえ恰好良いな」
「気にしてないとは言ったけど、イラっとはしたから大口たたいちゃった」
「クソ親父が悪かったな」
「いいよ、それよりもエンデヴァーさん怒ったかな? 部屋出て行っちゃったし……」
莉緒は心配そうにエンデヴァーが出て行った部屋のドアを見つめる。
「あはは、大丈夫! 元々エンデヴァーさんはこの後用事があって、二人のことは私が任されてるから! さァ、ついてきて!」
目じりにたまった涙を拭いながら、バーニンが言う。莉緒はその言葉に安堵し、轟と一緒に事務所内にあるトレーニングルームに向かった。
そこからはエンデヴァーの言った通り、ひたすら
エンデヴァー事務所の人たちは莉緒の“個性”を氷に関するものだと思っていたらしく、他のペルソナを使って火を出すと驚いていた。体育祭の時に相澤が解説していたが、エンデヴァーは轟に夢中で聞いていなかったのかもしれない。
訓練では経験の差から莉緒の方が分が悪かったのだが、“個性”のおかげで
ちなみに、エンデヴァー事務所は宿泊施設が完備されている。そのため、訓練終了後は与えられた個室でゆっくりと眠りについた。
職場体験二日目の夜、明日からヒーロー活動に帯同するため訓練が早めに終わった。
莉緒が轟と談笑しながらタオルで汗を拭っていると、エンデヴァーがトレーニングルームに現れた。莉緒の目の前で足を止め、鋭い眼光でこちらを見ている。
「……望月、おまえの
「……あ、ありがとうございます」
轟以外、眼中にないと思っていたエンデヴァーからの言葉に反応が遅れてしまった。
「確かに万能な“個性”だが制約もあり、それ故、欠点をつかれると弱い。“個性”が使えない相手、使えない状況ではおまえの非力な腕では俺のような体格を持つ
エンデヴァーの言葉はもっともで、莉緒は言葉を返せない。
USJ襲撃事件では死柄木や脳無に捕まり、何もできなかった。緑谷に手伝ってもらわなければ相澤も運べなかった。
「ヒーローにも適材適所があるが、おまえは『俺を踏み台にしてオールマイトを超える』と言った。なら、すべてを可能にしてみせろ!」
「……はい!」
エンデヴァーの慧眼には、さすがNo.2ヒーローだと敬服せずにはいられない。短期間、短時間で自分のことを見抜かれてしまった。
「戦い方を見るに今までも鍛えてきたんだろうが、筋肉がつきにくい体質のようだな。まずは人体の急所や関節をすべて把握すること。それに、古武術をもとにした筋力に頼らない動きの方が合っているかもしれん」
「あの……エンデヴァーさん」
「む? なんだ?」
「ありがとうございます」
職場体験を始めてまだ二日目だが、莉緒はここにこれて良かったと心から思った。
「フン! このエンデヴァー事務所を職場体験に選んだからには生半可では困るからな」
「ふふ」
「笑うな、望月!」
――この人も、轟くんと同じように変わろうとしているのかもしれない。
父親としてのエンデヴァーの姿を知らず、初対面での印象も良いとは言えない。それでも、今、莉緒と話すエンデヴァーからは人間味を感じる。
長年No.2ヒーローの座をキープしておりヒーローとしての実績はもちろんだが、バーニンを始め
「前例通りなら保須に再びヒーロー殺しが現れる。しばし保須に出張し活動する!」
エンデヴァーは「おまえたちも笑ってないで市に連絡しろぉ!」と
エンデヴァーに続いて
「……望月は凄いな」
「ん? いきなりどうしたの?」
「いや、俺があんな話しをした後にもかかわらず、親父相手に笑ったりしてたから」
「んー、まぁ、私はヒーローとしてのエンデヴァーさんしか見たことがないから、轟くんと感じ方が違うのはしょうがないんじゃないかな」
莉緒は轟ではない。彼の気持ちに寄り添い思いやることはできても、すべてを理解することはできない。
「轟くんは轟くんのペース良いんだよ」
「……そうか」
「うん! あ、轟くんのお部屋あっちだったよね? また明日ね、おやすみ!」
「ああ、おやすみ」
莉緒は手を振って轟と別れた。自室代わりの部屋へと戻った莉緒は、スマホのアドレス帳にある『飯田天哉』の文字を眺める。
保須市――。
先ほどエンデヴァーが言っていた市街地の名前だ。飯田の職場体験先の事務所がある場所で、彼の兄の事件があった場所でもある。
体育祭の裏で飯田の兄はヒーロー殺し――
休校明けには何でもない風を装っていたが、飯田が保須市の事務所を職場体験に選んだのと無関係には思えない。
莉緒は飯田に送るメールの内容を打ちこんだが、送信ボタンを押すことはできなかった。