職場体験も終わり、翌日――莉緒は轟と一緒に登校していた。
ちなみにエンデヴァーへの謝罪はすんなりと受け入れてもらえた。それどころか、「何かあったら連絡しろ」と、“轟炎司”のプライベートな連絡先をゲットした。これは隣を歩いている轟には内緒だ。
「おはよー」
久しぶりに足を踏み入れた教室は職場体験の話で盛り上がっていた。各々どんな経験をしたのかを語り合っている。
先日のこともあり、莉緒と轟、緑谷、飯田の四人は自然な流れで集まった。お互いの怪我の様子などを確認していると、上鳴がヒーロー殺しの件で声をかけ、それを皮切りに他の生徒も会話に参加してくる。
「……心配しましたわ、莉緒さん。怪我はありませんか?」
「私はかすり傷程度だったから大丈夫だよ! 心配かけてごめんね、百ちゃん。皆は職場体験どうだったの?」
「ウチは避難誘導とか後方支援で、あんたたちみたいに交戦はしなかったけどね」
「それでもすごいよ。実際に経験しておくと、いざという時に行動できるようになるしね。お茶子ちゃんは?」
莉緒はそばにいる麗日に感想を聞いたのだが、「コオォォオ」と口から深い息を吐く彼女は別人のオーラを放っていた。
「お、お茶子ちゃん?」
「『とても有意義だった』らしいわよ、お茶子ちゃん」
「麗日、目覚めちゃったんだってー」
「す、すごいね……立ち姿も様になってる」
正拳突きをしている麗日に驚きながらも、莉緒は蛙吹や芦戸たちにも職場体験の感想を尋ねた。しかし、彼女たちの答えを聞くよりも先に上鳴の声が耳に届く。
「でもさあ確かに怖えけどさ、動画 見ると、一本気っつーか執念っつーか、かっこよくね? とか思っちゃわね?」
「上鳴くん……!」
「え? あっ、飯……ワリ!」
何気なく発した上鳴の言葉を緑谷が止めた。
飯田がどのような思いでステインと戦っていたのかを知っているだけに、莉緒は心配そうな表情で成り行きを見守る。
「いや……いいさ。確かに信念の男ではあった。クールだと思う人がいるのもわかる。ただ奴は信念の果てに“粛清”という手段を選んだ。どんな考えを持とうとも、そこだけは間違いなんだ」
飯田は後遺症が残った左手を見つめていた。
「俺のような者をもうこれ以上出さぬ為にも、改めてヒーローへの道を歩む!」
力強い声と表情、そして覚悟。
吹っ切れたような飯田に、莉緒の心も晴れやかになる。
「さァ、そろそろ始業だ。席につきたまえ!」
いつも通りのその様子に莉緒が思わず笑みをこぼすと、そばにいた轟と視線が交わった。
「皆ー! 席につくんだー!」
「五月蠅い……」
飯田の張り切ったような大きい声に、常闇が文句を言う。
そんな、日常。そんな和やかなひとコマに、莉緒と轟は顔を見合わせ、穏やかに微笑んだ。
「ハイ、私が来た。ってな感じでやっていくわけだけどもね。ハイ、ヒーロー基礎学ね!」
久々のオールマイトの登場だが、ヌルっと授業が始まる。
今回は職場体験直後ということもあり、救助訓練レースを行うことになった。場所は運動場γ 。複雑に入り組んだ迷路のような細道が続く密集工業地帯で、5人もしくは6人4組に分かれて訓練を行う。オールマイトが救難信号を出し、誰が一番に助けに来るかを競う訓練だ。
初めの組は緑谷、尾白、飯田、芦戸、瀬呂の5人。他の生徒は、5人それぞれの行動を映し出す巨大映像パネルの下にある“OZASHIKI”と書かれたスペースで観戦することになっている。
莉緒は耳郎と八百万のそばに座っていた。
「うーん、強いて言うなら緑谷さんが若干不利かしら……」
「確かにぶっちゃけ、あいつの評価ってまだ定まんないんだよね」
「何かを成す度、大怪我してますからね……」
「緑谷くんのこと期待して観てて良いと思うよ」
「莉緒、何か知ってんの?」
「ふふ、秘密!」
スタートの合図と共に5人が一斉に駆け出して行く。莉緒が勿体ぶったような言い方で期待を寄せていた緑谷は、建物の上をピョンピョンと飛んで工業地帯を攻略している。濡れたパイプに足を滑らせ1位とはならなかったが、それでも以前と比べると見違えるものがあった。
「なるほど、莉緒さんはこれを知っていたんですのね」
「うん。一週間ですごい変わったよね、私も見習わないとなぁ」
二組目で莉緒の番が回ってくる。
スタートの合図と同時にトランぺッターのヒートライザでステータスを上げ、ジャアクフロストの大氷河期で氷の柱を造り出した。
足元にできた氷の柱は莉緒の体を持ち上げるように高くそびえ立ち、いとも簡単に建物の上へと連れていく。“速”のステータスが高いカグヤに付け替え、後はパルクールの技を使って進んだ。
走っては跳び、別の建物へと飛び移り回転して受け身をとる。密集工業地帯で足場が多く、地形を活かしやすいからこそできることだ。
「フィニッシュ! 望月少女、おめでとう!」
一番でゴールした莉緒はオールマイトから『助けてくれてありがとう』と書かれたタスキをかけてもらった。
「ありがとうございます、オールマイト先生!」
憧れのオールマイトから褒められ、莉緒は頬を染めながら喜んだ。
その後、残りの組のレースを観戦し授業は終わった。
「うーん」
「莉緒ちゃん、どうしたの?」
女子更衣室で戦闘服 を脱ぎながら考え込んでいる莉緒に、葉隠が心配そうに声をかける。
「機動力をどう補えばいいのか悩んでて……」
「えー、でも莉緒ちゃん一番だったよ?」
「広いとはいえ運動場だったし建物の足場があったから何とかなったけど、これがもっと広い平地とかだったら……と思って」
「莉緒は氷が使えるんだし、轟がやってたようにすればいいんじゃないのー?」
芦戸がそう助言する。
轟は今日の救助訓練レースで氷の足場を造り出して進んでいた。莉緒も建物に上がる時には使っていたのだが――
「私の場合、使いすぎるとSP切れを起こしちゃうから到着した時には強制睡眠してるかも……それに威力の調節はできるけど、轟くんみたいな細かい制御はできないんだよね」
「莉緒ちゃんの“個性”は万能な分、制約が多いのね」
蛙吹の言う通りだ。スキルには効果時間や効果範囲、最大威力などの決まりがある。ペルソナのスキルは、これがもう完成形なのだ。そこからどう成長させ、発展し応用させていくのか。そもそも、それができるのかも分からない。
反射・吸収スキルの発動を自分の意思で行えるなど、前世と少し違った部分はある。しかし、あれは単純にスイッチを切り替えるだけで、スキルの内容自体は変わっていない。
でも、可能性はあるのかもしれない――莉緒は再び考え込みながら、着替えを再開する。
「そ・れ・よ・り・も〜!」
「ひゃあ!? え、ちょっと三奈! どこ触ってるの!」
「前から引き締まってたけど、さらにキュッてなってる! 職場体験の影響かなー?」
芦戸が莉緒の体――特に腰回りを触っている。
着替え途中のため、制服のスカートは穿いているが上半身はまだ下着姿だ。
「あはは、くすぐったいよ!」
「じゃあ、私はこっち!」
「きゃあ!」
「莉緒ちゃんの胸って着やせして見えるよね!戦闘服 も着物だし、制服もそんな感じに見えないのに脱いだらすごい!」
「んぅ……ちょっと、透ちゃん!?」
「やわらか〜い!」
葉隠にブラジャーの上から胸を触られる。感触を確かめるように胸を揉んでいるのが手袋の動きで伝わる。
「やっ! ま、待って! 私より百ちゃんとか皆の方が……」
「莉緒ちゃんの場合はこのギャップだよねー! 筋肉がつきにくくてスラッとしている割に、ここはしっかり成長してるし!」
葉隠の片方の手が、ついでとばかりに莉緒の太ももを撫でる。
「は、ぁっ……誰か、助けて!」
「あ、莉緒ちゃん、その水色のブラジャーかわいい!」
「お茶子ちゃん、今そこじゃないから!」
「あ、ホントだ! この前の黒のレースとかピンクのも似合ってたけど、それも良いねー!」
「ひぅ……ッ! 三奈はいい加減、私の腰撫でまわすのやめて! 透ちゃんも!」
「「えー?」」
芦戸と葉隠に止めるように言うも、二人は楽しそうに笑うだけだ。
「まぁまぁ、お二人とも。莉緒さんが困ってますから」
「百ちゃん、天使!」
「早く着替えないと時間がなくなっちゃうわ」
「ですよねー、梅雨ちゃんの言う通り! ほら二人とも離して!」
「「えー!?」」
「っん……ほら!」
「「はーい」」
やっと解放された莉緒は荒い呼吸をしながら地面にうなだれる。耳郎が慰めるように莉緒の肩に触れた。
莉緒が耳郎にお礼を言おうと顔を上げた時、隣の部屋から声が聞こえた。
『オイラのリトルミネタは、もう立派なバンザイ行為なんだよォォ!』
「――え、峰田くん?」
その声に驚いて耳郎と顔を見合わせる。
蛙吹が「そこじゃないかしら」と、隣の男子更衣室を隔てる壁――正確にはその壁に空いた穴を指さした。
『望月の甘い声と着やせボディ! 八百万のヤオヨロッパイに芦戸の腰つき! 葉隠の浮かぶ下着! 麗日のうららかボディに蛙吹の意外おっぱァアアア!!』
耳郎が壁の穴にイヤホンジャックを通し、それが覗こうとしていた峰田の目に刺さったようだ。『目から爆音があああ!』と隣の部屋で峰田が騒いでいる。
「ありがと響香ちゃん!」
「何て卑劣……! すぐにふさいでしまいましょう!」
耳郎にお礼を言う葉隠と、“個性”を使って穴をふさぐ八百万。
莉緒は壁の穴を見て重大な事実に気付いてしまった。
「……ちょっと待って。今までのやりとり、隣の部屋まで聞こえてないよね? ね?」
青ざめた表情で皆の顔を見回す。
芦戸と葉隠は「え〜?」や「えへ」っと言葉を濁して莉緒から顔を背けた。他の皆からは同情的な目で見られている。
「うそだよね……? お願い、誰か大丈夫だって言って!」
「……ドンマイ、莉緒」
「響香……」
耳郎からの非情な宣告を受け、莉緒の体は怒りで震えはじめた。
「三奈! 透ちゃん!」
女子更衣室では莉緒の怒声と、芦戸と葉隠の「ごめーん!!」と言う謝罪が響いた。
慰められながら着替え、莉緒たちが更衣室を出たタイミングで隣の男子更衣室のドアが開く。
男性陣は莉緒の姿に気付くと気まずそうに目を逸らした。しかし、峰田と上鳴だけは彼女の制服姿――特に胸の辺りを凝視していた。
視線を感じた莉緒は、胸を隠すように自分を抱き締める。
「ばか! えっち!」
顔を赤くさせながら二人を睨みつけたが、残念ながらあまり効果はなかったようだ。
瀬呂が「いや、だからさっきから寒いって!」っと轟に注意していたが、莉緒には何のことか分からなかった。
ちなみにエンデヴァーへの謝罪はすんなりと受け入れてもらえた。それどころか、「何かあったら連絡しろ」と、“轟炎司”のプライベートな連絡先をゲットした。これは隣を歩いている轟には内緒だ。
「おはよー」
久しぶりに足を踏み入れた教室は職場体験の話で盛り上がっていた。各々どんな経験をしたのかを語り合っている。
先日のこともあり、莉緒と轟、緑谷、飯田の四人は自然な流れで集まった。お互いの怪我の様子などを確認していると、上鳴がヒーロー殺しの件で声をかけ、それを皮切りに他の生徒も会話に参加してくる。
「……心配しましたわ、莉緒さん。怪我はありませんか?」
「私はかすり傷程度だったから大丈夫だよ! 心配かけてごめんね、百ちゃん。皆は職場体験どうだったの?」
「ウチは避難誘導とか後方支援で、あんたたちみたいに交戦はしなかったけどね」
「それでもすごいよ。実際に経験しておくと、いざという時に行動できるようになるしね。お茶子ちゃんは?」
莉緒はそばにいる麗日に感想を聞いたのだが、「コオォォオ」と口から深い息を吐く彼女は別人のオーラを放っていた。
「お、お茶子ちゃん?」
「『とても有意義だった』らしいわよ、お茶子ちゃん」
「麗日、目覚めちゃったんだってー」
「す、すごいね……立ち姿も様になってる」
正拳突きをしている麗日に驚きながらも、莉緒は蛙吹や芦戸たちにも職場体験の感想を尋ねた。しかし、彼女たちの答えを聞くよりも先に上鳴の声が耳に届く。
「でもさあ確かに怖えけどさ、
「上鳴くん……!」
「え? あっ、飯……ワリ!」
何気なく発した上鳴の言葉を緑谷が止めた。
飯田がどのような思いでステインと戦っていたのかを知っているだけに、莉緒は心配そうな表情で成り行きを見守る。
「いや……いいさ。確かに信念の男ではあった。クールだと思う人がいるのもわかる。ただ奴は信念の果てに“粛清”という手段を選んだ。どんな考えを持とうとも、そこだけは間違いなんだ」
飯田は後遺症が残った左手を見つめていた。
「俺のような者をもうこれ以上出さぬ為にも、改めてヒーローへの道を歩む!」
力強い声と表情、そして覚悟。
吹っ切れたような飯田に、莉緒の心も晴れやかになる。
「さァ、そろそろ始業だ。席につきたまえ!」
いつも通りのその様子に莉緒が思わず笑みをこぼすと、そばにいた轟と視線が交わった。
「皆ー! 席につくんだー!」
「五月蠅い……」
飯田の張り切ったような大きい声に、常闇が文句を言う。
そんな、日常。そんな和やかなひとコマに、莉緒と轟は顔を見合わせ、穏やかに微笑んだ。
「ハイ、私が来た。ってな感じでやっていくわけだけどもね。ハイ、ヒーロー基礎学ね!」
久々のオールマイトの登場だが、ヌルっと授業が始まる。
今回は職場体験直後ということもあり、救助訓練レースを行うことになった。場所は運動場
初めの組は緑谷、尾白、飯田、芦戸、瀬呂の5人。他の生徒は、5人それぞれの行動を映し出す巨大映像パネルの下にある“OZASHIKI”と書かれたスペースで観戦することになっている。
莉緒は耳郎と八百万のそばに座っていた。
「うーん、強いて言うなら緑谷さんが若干不利かしら……」
「確かにぶっちゃけ、あいつの評価ってまだ定まんないんだよね」
「何かを成す度、大怪我してますからね……」
「緑谷くんのこと期待して観てて良いと思うよ」
「莉緒、何か知ってんの?」
「ふふ、秘密!」
スタートの合図と共に5人が一斉に駆け出して行く。莉緒が勿体ぶったような言い方で期待を寄せていた緑谷は、建物の上をピョンピョンと飛んで工業地帯を攻略している。濡れたパイプに足を滑らせ1位とはならなかったが、それでも以前と比べると見違えるものがあった。
「なるほど、莉緒さんはこれを知っていたんですのね」
「うん。一週間ですごい変わったよね、私も見習わないとなぁ」
二組目で莉緒の番が回ってくる。
スタートの合図と同時にトランぺッターのヒートライザでステータスを上げ、ジャアクフロストの大氷河期で氷の柱を造り出した。
足元にできた氷の柱は莉緒の体を持ち上げるように高くそびえ立ち、いとも簡単に建物の上へと連れていく。“速”のステータスが高いカグヤに付け替え、後はパルクールの技を使って進んだ。
走っては跳び、別の建物へと飛び移り回転して受け身をとる。密集工業地帯で足場が多く、地形を活かしやすいからこそできることだ。
「フィニッシュ! 望月少女、おめでとう!」
一番でゴールした莉緒はオールマイトから『助けてくれてありがとう』と書かれたタスキをかけてもらった。
「ありがとうございます、オールマイト先生!」
憧れのオールマイトから褒められ、莉緒は頬を染めながら喜んだ。
その後、残りの組のレースを観戦し授業は終わった。
「うーん」
「莉緒ちゃん、どうしたの?」
女子更衣室で
「機動力をどう補えばいいのか悩んでて……」
「えー、でも莉緒ちゃん一番だったよ?」
「広いとはいえ運動場だったし建物の足場があったから何とかなったけど、これがもっと広い平地とかだったら……と思って」
「莉緒は氷が使えるんだし、轟がやってたようにすればいいんじゃないのー?」
芦戸がそう助言する。
轟は今日の救助訓練レースで氷の足場を造り出して進んでいた。莉緒も建物に上がる時には使っていたのだが――
「私の場合、使いすぎるとSP切れを起こしちゃうから到着した時には強制睡眠してるかも……それに威力の調節はできるけど、轟くんみたいな細かい制御はできないんだよね」
「莉緒ちゃんの“個性”は万能な分、制約が多いのね」
蛙吹の言う通りだ。スキルには効果時間や効果範囲、最大威力などの決まりがある。ペルソナのスキルは、これがもう完成形なのだ。そこからどう成長させ、発展し応用させていくのか。そもそも、それができるのかも分からない。
反射・吸収スキルの発動を自分の意思で行えるなど、前世と少し違った部分はある。しかし、あれは単純にスイッチを切り替えるだけで、スキルの内容自体は変わっていない。
でも、可能性はあるのかもしれない――莉緒は再び考え込みながら、着替えを再開する。
「そ・れ・よ・り・も〜!」
「ひゃあ!? え、ちょっと三奈! どこ触ってるの!」
「前から引き締まってたけど、さらにキュッてなってる! 職場体験の影響かなー?」
芦戸が莉緒の体――特に腰回りを触っている。
着替え途中のため、制服のスカートは穿いているが上半身はまだ下着姿だ。
「あはは、くすぐったいよ!」
「じゃあ、私はこっち!」
「きゃあ!」
「莉緒ちゃんの胸って着やせして見えるよね!
「んぅ……ちょっと、透ちゃん!?」
「やわらか〜い!」
葉隠にブラジャーの上から胸を触られる。感触を確かめるように胸を揉んでいるのが手袋の動きで伝わる。
「やっ! ま、待って! 私より百ちゃんとか皆の方が……」
「莉緒ちゃんの場合はこのギャップだよねー! 筋肉がつきにくくてスラッとしている割に、ここはしっかり成長してるし!」
葉隠の片方の手が、ついでとばかりに莉緒の太ももを撫でる。
「は、ぁっ……誰か、助けて!」
「あ、莉緒ちゃん、その水色のブラジャーかわいい!」
「お茶子ちゃん、今そこじゃないから!」
「あ、ホントだ! この前の黒のレースとかピンクのも似合ってたけど、それも良いねー!」
「ひぅ……ッ! 三奈はいい加減、私の腰撫でまわすのやめて! 透ちゃんも!」
「「えー?」」
芦戸と葉隠に止めるように言うも、二人は楽しそうに笑うだけだ。
「まぁまぁ、お二人とも。莉緒さんが困ってますから」
「百ちゃん、天使!」
「早く着替えないと時間がなくなっちゃうわ」
「ですよねー、梅雨ちゃんの言う通り! ほら二人とも離して!」
「「えー!?」」
「っん……ほら!」
「「はーい」」
やっと解放された莉緒は荒い呼吸をしながら地面にうなだれる。耳郎が慰めるように莉緒の肩に触れた。
莉緒が耳郎にお礼を言おうと顔を上げた時、隣の部屋から声が聞こえた。
『オイラのリトルミネタは、もう立派なバンザイ行為なんだよォォ!』
「――え、峰田くん?」
その声に驚いて耳郎と顔を見合わせる。
蛙吹が「そこじゃないかしら」と、隣の男子更衣室を隔てる壁――正確にはその壁に空いた穴を指さした。
『望月の甘い声と着やせボディ! 八百万のヤオヨロッパイに芦戸の腰つき! 葉隠の浮かぶ下着! 麗日のうららかボディに蛙吹の意外おっぱァアアア!!』
耳郎が壁の穴にイヤホンジャックを通し、それが覗こうとしていた峰田の目に刺さったようだ。『目から爆音があああ!』と隣の部屋で峰田が騒いでいる。
「ありがと響香ちゃん!」
「何て卑劣……! すぐにふさいでしまいましょう!」
耳郎にお礼を言う葉隠と、“個性”を使って穴をふさぐ八百万。
莉緒は壁の穴を見て重大な事実に気付いてしまった。
「……ちょっと待って。今までのやりとり、隣の部屋まで聞こえてないよね? ね?」
青ざめた表情で皆の顔を見回す。
芦戸と葉隠は「え〜?」や「えへ」っと言葉を濁して莉緒から顔を背けた。他の皆からは同情的な目で見られている。
「うそだよね……? お願い、誰か大丈夫だって言って!」
「……ドンマイ、莉緒」
「響香……」
耳郎からの非情な宣告を受け、莉緒の体は怒りで震えはじめた。
「三奈! 透ちゃん!」
女子更衣室では莉緒の怒声と、芦戸と葉隠の「ごめーん!!」と言う謝罪が響いた。
慰められながら着替え、莉緒たちが更衣室を出たタイミングで隣の男子更衣室のドアが開く。
男性陣は莉緒の姿に気付くと気まずそうに目を逸らした。しかし、峰田と上鳴だけは彼女の制服姿――特に胸の辺りを凝視していた。
視線を感じた莉緒は、胸を隠すように自分を抱き締める。
「ばか! えっち!」
顔を赤くさせながら二人を睨みつけたが、残念ながらあまり効果はなかったようだ。
瀬呂が「いや、だからさっきから寒いって!」っと轟に注意していたが、莉緒には何のことか分からなかった。