新しい出会い

「お父さん、お母さん。行ってきます」

 あれから11年――。
 莉緒の両親はまだ一度も目覚めていない。

 ピリッとした真新しい制服に身を包み、莉緒は二人の寝顔を見つめる。高校の制服姿を見てもらうため、朝から病室に来ていたのだ。
 
 ――お父さんやお母さんのような人を少しでも減らせるように、私はヒーローになる。
 莉緒は病室に並ぶ家族写真を愛おしげ見た後、覚悟を胸に今日から入学する雄英高校へと向かった。




 莉緒が1-Aと書かれた大きなドアを潜ると、まだ数名の生徒しか来ていなかった。
 期待と緊張、不安が入り混じる教室はもの静かだった。

「おはよう」

 莉緒は自分の席を確認して荷物を置くと、先に来ていた女子生徒に話しかけた。イヤホンをしているショートカットの女子生徒は莉緒の存在に気付くと笑顔を返す。

「私は望月莉緒。これからよろしくね」
「ウチは耳郎響香。こちらこそよろしく」
「響香ちゃんね。私のことは莉緒でいいから」
「ウチも呼び捨てでいいよ」

 莉緒が耳郎との話に花を咲かせていると、制服が宙に浮かんでいる女子生徒が話しかけてくる。驚いた顔をする二人だったが、“個性”が透明化だと聞いて納得する。
 葉隠透と名乗った明るい子の参戦で更に話が盛り上がり、三人は担任の先生が入ってきたことに気付かなかった。

「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

 寝袋から現れた覇気のない先生――相澤消太と名乗った担任に体操服を着てグラウンドへ出るように言われ、莉緒たちは訳も分からないまま従うことになった。

 外に出るとB組や他の科の生徒たちはおらず、A組の21名が広いグラウンドを独占している。
 集まった生徒を前に、担任の相澤は「個性把握テストを行う」と淡々とした口調で言った。

「個性把握テスト?」
「入学式は!? ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事に出る時間ないよ。雄英は“自由”な校風が売り文句。そしてそれは“先生側”もまた然り」

 突然のことで理解が追い付いていない生徒を見ながら相澤は続ける。

「ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横とび、上体起こし、長座体前屈。中学の頃からやってるだろ? “個性”禁止の体力テスト。国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けている。合理的じゃない。まぁ、文部科学省の怠慢だよ」

 相澤はあきれたように言いながら、一人の男子生徒に話しかけた。

「爆豪。中学の時ソフトボール投げ何mだった」
「67m」
「じゃあ、“個性”を使ってやってみろ。円からでなきゃ何してもいい。早よ、思いっきりな」

 爆豪と呼んだ生徒に測定用のボールを渡す。ボールを受け取った爆豪は軽く体をほぐすと、野球選手のように思いっきり振りかぶり、空に向かって投げた。

「死ねぇ!」

 爆音とともにボールが空高く飛ぶ。それを見つめながら莉緒は思った。
 ――死ね?

「まず、自分の『最大限』を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 相澤が計測された結果を生徒たちに向ける。その端末には705.2mと記録されていた。

「へー、すごいねバクゴーくん? 私の“個性”だと飛ばないもん」
「ウチも厳しいな」

 莉緒が驚いていると、周りの生徒も爆豪の結果に盛り上がりをみせた。
 「705mってマジかよ」、「“個性”思いっきり使えるんだ! さすがヒーロー科!」と、興奮したように口々に話していると、誰かが言った「面白そう!」に相澤が反応する。

「……面白そう、か。ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい? よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」
「「「はあああ!?」」」
「生徒の如何は先生の“自由”。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」

 全員が信じられないといった表情をしているなか、相澤だけが不敵な顔で笑っていた。