戦闘訓練

 いよいよ本格的に学校生活が始まった。
 午前は必修科目・英語等の普通の授業があり、昼は大食堂で一流の料理を安価で食べることができる。
 そして、午後の授業が始まる。

「わーたーしーがー! 普通にドアから来た!」

「オールマイトだ、すげえや本当に先生やってるんだな!」
銀時代シルバーエイジのコスチュームだ! 画風が違いすぎて鳥肌が……」

 オールマイトの登場に教室内にざわつきが広がる。もちろん、幼い頃からオールマイトのファンだった莉緒も内心とてもドキドキしており、高揚を抑えきれなくなってる。

「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う課目だ。早速だが今日はコレ、戦闘訓練!」

 オールマイトが生徒に“BATTLE”と書かれたカードを見せる。

「そしてそいつに伴って、こちら! 入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた戦闘服コスチューム!」

 教室の壁がゴゴゴゴゴっと音を立て、格納ボックスが姿を見せた。それぞれの出席番号が書かれたケースが並んでいる。

「「「おおお!」」」
「着替えたら順次グランド・βベータに集まるんだ! 恰好から入るってのも大切な事だぜ少年少女! 自覚するんだ、今日から自分はヒーローなんだと!」




「莉緒の戦闘服コスチューム、恰好良いね。何かサムライって感じ!」
「ありがとう! 響香のもロックな感じで良いね、似合ってるよ!」

 耳郎に褒められ、莉緒は自分の戦闘服コスチュームを確認する。
 紺色の太もも丈のジャケット。中はミニ丈の白い着物になっており、その下にはアンダースコートのように同じ色のホットパンツを穿いている。
 帯はジャケットと同じ紺色で、帯留めの代わりに茶色のベルト。同じベルトがもう一つ斜めについており、両サイドに武器を固定している。
 左腕には銀色の籠手、足元は膝下までの白いブーツとそれを覆うように同色の膝あて。

 前世でパレス探索中に時折着ていた服だ。リーダーであるジョーカーが莉緒たちの知らぬ間にゲットしており、着せられたのを覚えている。
 ちなみに怪盗衣装の方にしなかったのは、露出があって恥ずかしかったからだ。

 左側頭部には兎面。フォックスの狐面と同じ造りで、莉緒の仮面には両側に飾り房がついている。
 仮面は思い出深く大切なものだったのでサポート会社に作成をお願いしていた。というのも、この世界では“個性:ペルソナ”のためペルソナ使用時に仮面を必要としないようだ。

 更衣室の鏡に映る莉緒の姿は、髪や瞳の色を除けば前世とまったく一緒だ。
 身長くらいは伸びても良かったのに――と、小柄な自分に不満を持ちながらも、サポート会社の人が忠実に再現してくれた戦闘服コスチュームに感動していた。

「莉緒ちゃん、恰好良い! 私なんて要望ちゃんと書かなかったからパツパツスーツんなった、はずかしい……」
「お茶子ちゃんも似合ってるよ! お茶子ちゃんの“個性”に合ってるもん、宇宙っぽい!」
「えへへ、そう言ってもらえるとありがたい」

 談笑しながらグラウンドへ向かうと、ほとんどの生徒が集まっていた。周りを見回すと思い思いの戦闘服コスチュームを着ており、その姿から性格が分かるようで面白い。
 戦闘服コスチュームの観察に夢中になっていると、ブドウのような頭の男子生徒――峰田実がこちらを見ていることに気付いた。

「どうしたの?」
「その戦闘服コスチューム、絶対領域っぽくて良いと思うぜ。ただ、着物は身体のラインがわかりにくいからダメだ。まぁ、オイラくらいになるとそれでも見抜けるけどな!」
「……?」

 莉緒は峰田が言っていることが理解できず首を傾げる。耳郎から「無視した方がいい」とアドバイスされ、舐めるような視線を送る峰田から距離を取った。

 全員集まったのを確認したオールマイトは紙に書いたカンペを見ながら、これから行う対人戦闘訓練――『ヴィラン組』と『ヒーロー組』に分かれた2対2の屋内戦の説明を始めた。
 一通りの話が終わった後、ボックスから順番にくじを引く。

「I……?」
「あ、莉緒ちゃん私と一緒!」
「透ちゃんもIだったんだ、よろしくね!」
「あれ、君たちも? 俺もなんだけど……」

 くじ引きの結果が葉隠と同じで喜んでいると、柔道着のような戦闘服コスチュームに尻尾を持つ、尾白猿夫と名乗った男子生徒が話しかけてきた。

「私たちのチームは三人……?」

「おっと、言い忘れていたね。A組は21人だから三人チームができるよ! 人数的に不利、有利なチームが出てくるけど、『ヒーロー』になったら不利な状況だろうと関係なく戦わなくてはいけない。有利なチームはその有利さを生かして連携し戦ってくれ!」

 莉緒たち三人はアイコンタクトを取り、『頑張ろうね』とガッツポーズをとる。

「続いて最初の対戦相手はこいつらだ!」

 オールマイトが対戦相手用のボックスからボールを取り出す。その結果、Aチームの爆豪と飯田がヴィラン役、Dチームの緑谷と麗日がヒーロー役に決まった。
 A、Dチーム以外のメンバーはオールマイトと共に地下にあるモニタールームに移動することになった。

「さぁ、君たちも考えて見るんだぞ!」

 モニタールームには複数のモニターが設置してあり、色々な角度から様子を伺うことができるようになっている。

 爆豪と飯田が入って5分後、ヒーローチームの緑谷と麗日が建物内に侵入する。
 序盤は奇襲を仕掛けてきた爆豪に対し緑谷が上手く立ち回る展開になっていたが、爆豪が手榴弾型の籠手についているピンを抜いた瞬間、状況は一変した。

 けたたましい爆発音が響き、強い光が辺りを眩ます。
 建物の一部は爆発の影響で崩壊しており、あまりの光景に莉緒の背中に冷や汗が流れた。

 ――これはさすがにやりすぎだよね? 屋内戦での建物倒壊はヴィランにとってもマズいはず……。
 莉緒がそう考えていると、オールマイトが同じようなことを無線で爆豪に伝えていた。
 しかしそれは爆豪を更に怒らせてしまう結果となったようで、緑谷に考える暇を与えないかのような攻撃を繰り返す。

「リンチだよコレ! テープ巻きつければ捕らえたことになるのに!」
「ヒーローの所業に非ず……」
「緑谷もすげえって思ったけどよ……戦闘能力に於いて爆豪は間違いなくセンスの塊だぜ!」

 一方的な展開にモニタールームで見ていた生徒から批判の声が上がる。
 モニターには逃げる緑谷とそれを追う爆豪の姿が映し出されていた。観戦している生徒に音声は聞こえないが、それでも二人が何か叫びあっているさまが見てとれる。
 緑谷の表情は敗けを認めたものではなく力強い目をしていて、その眼差しは莉緒の前世の記憶を呼び起こさせる。

 物静かでクール。でも、強い意志と行動力を持ち、己が信じた正義の為にあまねく冒涜を省みない彼の姿。

 ――見た目も性格も緑谷くんとは違うのに、彼と重なる……。
 莉緒は側頭部の兎面を取り胸元で強く握り締める。
 目線はモニターに向いているのに莉緒の意識はここではなく、決して色褪せることのない確かな記憶に思いを馳せていた。

「ヒーローチームWIN!」

 オールマイトの勝敗を告げる声が聞こえ、莉緒は我に返った。急いで状況を確認すると麗日が核を回収しており、負けた爆豪と飯田はほぼ無傷。勝った緑谷は満身創痍の姿で気を失っていた。
 緑谷は小型搬送用ロボット『ハンソーロボ』で保健室に運ばれ、残りの三人はオールマイトに連れられモニタールームに移動する。

 講評の後、場所を移し第二戦を行うことになった。次の対戦では莉緒たちIチームがヴィラン役、Bチームの轟と障子がヒーロー役。

「透ちゃん、尾白くん。頑張って勝とうね!」
「もちろん!」
「二人ともよろしくね」

 緑谷のボロボロになった姿を見た莉緒は、より一層のやる気を出していた。