薄く開いた目から光が入り込み、眩しくて瞬きを繰り返す。規則正しい機械音が鳴り続ける真っ白い部屋は、どこか既視感を覚えさせる。
「……望月さん? 望月さん聞こえますか!?」
スクラブを着た女性が莉緒に声を掛けた。
それに答えようとするが、言葉は音にはならず空気が漏れるだけだった。息で呼吸器が白くなる。
「今、先生を呼んできますからね!」
――帰ってきたんだ……。
女性の後ろ姿を見つめながら、莉緒はそう思った。
足早に白衣を着た先生と先ほどの女性が現れ、莉緒の体調を確認していく。言葉を発することができない莉緒は、僅かに動く指先で返事をした。そして診察が終わる頃には、再び眠りへと落ちていった。
手を通じて温もりが莉緒の中に流れ込む。
それに気づいて目を覚ましたとき、視界に人影が映った。
「……あ、いざわ先、生……?」
「――!?」
弾かれたように顔を上げた相澤はどこか驚いているようで、莉緒は思わず「……ふふ」と笑い声を漏らしてしまった。戦闘時以外で相澤のこのような姿が見られるのは珍しい。
「……体調はどうだ? 喋れるか?」
「は、はい……」
ベッドの背もたれを起こして莉緒が体勢を整える。
先ほどまであった呼吸器はなくなっており、喋りやすくなっていた。
相澤が今までのことを説明してくれたのだが、莉緒は二週間ほど意識不明の状態にあったらしい。眠っていた感覚はほんの一瞬だったため、莉緒は驚いて目を瞬かせた。どうやら荼毘から受けた熱傷と、オール・フォー・ワンの“個性”を無理やり破ったことによる体への負荷。その影響で眠り続けていたそうだ。
あの後、オール・フォー・ワンはオールマイトによって倒され、当のオールマイトは元々の活動限界のこともありヒーロー活動の引退を余儀なくされた。
そして、これらのことを受け、雄英高校は全寮制へと変わった。というのも、オール・フォー・ワンはタルタロスに収容されているが、死柄木たちは依然として行方知れずだ。オールマイトの弱体化が世間に晒された以上、敵 が活性化する可能性も高い。全寮制とは生徒たちをより強固に守り育てていくための手段なのだ。
そこまで話して、相澤は一度言葉を切った。
莉緒は突然与えられた情報の量に何も言えず、ただ相澤の顔を見つめる。
「すまなかった」
「……どうして先生が謝るんですか?」
「俺はおまえたちを守る立場にありながら、守りきることができなかった。保護者としても失格だ」
「ちがい、ます……先生は何も悪くない」
相澤たちは林間合宿でも敵意に対して警戒しており、いつも生徒のために行動していた。それなのに――。
莉緒が敵 に捕まっているときに見せられたテレビでの謝罪会見。記者に責められる先生たち。それらを思い出して、言いようのない気持ちに苛まれる。
「それがヒーロー、そして教師というものだ」
「ちがう……私が弱かったから。私が、先生たちの足を引っ張った」
小さい頃からテレビを通して見てきたNo.1ヒーロー。雄英高校に入りその背中を間近に感じ目指してきたが、肝心なときに役に立つことができなかった。それどころか人質にされるなんて、完全に足手まといだ。
「おまえはまだヒーローの卵だ。自分を責める必要はない」
ふがいない自分への苛立ちから、涙が溢れてくる。
相澤は困ったような顔で、でも優しい手つきで莉緒の頭をポンポンと撫でた。その静かなリズムが心地よくて身を委ねていると、廊下から急いでいるような足音が聞こえ、それはどんどんと近くなっていく。そして、莉緒の病室のドアが大きな音を立てて開けられた。
「相澤くん! 望月少女が目を覚ましたと聞いたが――相澤くん!? 何を泣かせているんだい!」
勢いよくドアを開けたのは、ガリガリの姿のオールマイトだった。彼の左腕には先の戦闘の影響か、包帯が巻かれておりアームホルダーで腕を吊られている。
そんなオールマイトは、ベッドの上で涙を流す莉緒を見て一方的に相澤を責めてきた。勝手に悪者にされた相澤は、面倒くさそうな表情で深いため息を吐いた後、口を開く。
「……オールマイトさん、誤解です」
「じゃあ何故、望月少女が泣いているんだい!? しかもその手は何だ! 私は見てはいけないものを見てしまったのか!?」
「違います。というか、頭を撫でるくらいオールマイトさんだってしているでしょ」
「む? そうだったか?」
「そうですよ。あと、大きな声を出すのもやめてください。多方面にあらぬ誤解を生みますし、ここは病院ですよ」
「そ、それはすまん。だが、まさか相澤くんが望月少女と懇ろな関係だったとは――」
「…………はぁ」
話の通じないオールマイトに、相澤が再び大きなため息を吐いた。
「っ、ふふ!」
「望月?」
「どうしたんだい、望月少女!? もし君が本気だというのなら、私はちゃんと二人の関係は秘密に……」
「あははっ! ごめんなさい、何か面白くって!」
勝手に妄想を繰り広げて、秘密を知ったことにちょっとウキウキしているオールマイト。対して、疲れたような顔の相澤。二人の対比とやり取りが楽しくて思わず笑い声を漏らしてしまった。
莉緒に笑顔が戻ったのを見て、相澤の表情がわずかに緩む。彼の安堵など知らぬまま、莉緒は笑い続けた。状況が理解しきれていないオールマイトは、キョロキョロと莉緒と相澤の顔を見比べて不思議そうにしている。
「ふふふ――っ、いたッ!」
笑いすぎたのか、莉緒が急に脇腹を押さえて蹲る。
病衣に血が滲んでいるのを見たオールマイトは、急いでナースコールを押した。看護師が病室に来て相澤たちを雑に追い出すと、包帯の取り替えと着替えをしてくれた。思った以上に血が出ていたようで、病衣にも包帯にもべっとりとした血が付いている。
処置を終えた看護師が出て行き、入れ替わりで相澤たちが再び病室に戻る。そのすれ違いざま、看護師はオールマイトに騒がないように強めに釘を刺した。しょぼんと小さくなるオールマイト。その様子がおかしくて静かに笑う莉緒は、相澤とオールマイトの視線が看護師の押す医療用ワゴン――それに載せられた、血に染まった病衣と包帯に向いていることに気づかなかった。
「……ごめんなさい、助かりました」
「私が一番ナースコールに近かったからね! 望月少女は気にしなくていいさ」
「それもなんですが、そのことだけじゃなくて……。私が、あの時――」
「――君が謝ることはないんだよ。君はあのような状況にありながら、“個性”を使って私を救けようとしてくれた」
莉緒の言いたいことを察したのか、オールマイトは言葉を被せてきた。
神野の悪夢と呼ばれているらしい、あの戦い。莉緒はトランぺッターのスキルで味方のステータスを上げ、オール・フォー・ワンにはステータス降下スキルを使用した。カグヤのスキルで足止めもしたが、オールマイトやオール・フォー・ワンの勢いに押され、莉緒はそれ“だけ”しかできなかったのだ。
「君は自分ができる精一杯のことで私を救けた。私は望月少女に感謝をしているのに、何を謝る必要があるんだい?」
「でも……っ!」
「望月少女。私を、救けてくれてありがとう。私のヒーローだったよ、君は、間違いなくね」
その言葉が胸の奥に静かに落ち、一筋の滴が莉緒の頬を伝った。
オールマイトは、莉緒を優しく抱き締めて頭を撫でる。今のオールマイトは痩せ細った姿にもかかわらず、力強くて安心するところは変わらない。彼の腕の中で、莉緒は声を押し殺して泣いた。そして、いつの間にか泣き疲れて眠ってしまった。
静かな病室に、穏やかな寝息だけが聞こえる。
「思った以上に滅入っているようだね……」
「仕方ありませんよ。しっかりしてるように見えてもまだ15、16の子どもです。爆豪の話やこの負傷……精神的にも肉体的にも追い詰められたところに、あなたの引退だ」
二人は声を潜めて言葉を交わす。
莉緒の負傷もそうだが、爆豪から聞いた話は想像以上に惨いものだった。
バーの中でのやり取り。敵 相手に毅然と返答していたという莉緒。
治ってきているとはいえ、病衣や包帯が真っ赤になるほどの出血だ。事件当時がどれほど酷かったのか容易に想像できる。それでも折れなかった彼女の心――相澤は『ヒーローの卵』や『15、16の子ども』とは言ったが、その姿はもう立派なヒーローのように思えていた。
「……正直、望月少女の援護がなければ私の体は持たなかった。それに攻撃が通りやすくなったのも彼女のおかげで、だからこそギリギリ勝てた。なのに本人がそれをわかっていない、とはな……」
「望月の補助スキルについては、自分もUSJのときに受けました。本人は慣れているのか、他者がスキルによってどれだけ恩恵を受けるか認識してないようですね」
USJでの事件――相澤は脳無の攻撃によって負傷したのだが、リカバリーガールから『この程度で済んだのは運がよかった』と言われていた。それが“運”ではなく、ひとえに莉緒の援護によるものだと相澤は確信していた。
「……リハビリはもちろんとして、メンタルケアの方にも力を入れないとね。そう言えば、退院の目処は立っているのかい?」
「問題なければ一週間ほどで退院できるそうです。リハビリはヒーロー基礎学の授業と一緒にやる予定です。望月は技の一つ一つが必殺技みたいなもんですし、クラスメイトのあいつらがいた方が気がまぎれるでしょう」
「そうだね……」
「――というか、オールマイトさん」
相澤の声のトーンが、少し低くなった。
オールマイトはそれに気づいていないのか、寝てしまった莉緒の背中をトントンと叩いている。
「なんだい?」
「頭を撫でるだけではなく、抱き締めてますよね?」
「――ッ!? あ、いや、これは違うんだ!」
「それにせっかく泣き止んだと思ったのに、また泣かせましたね?」
「え!? それは、その……」
「見てはいけないものを見てしまって、保護者として複雑なんですが……」
「あ、相澤くん!?」
「オールマイトさんが本気なら誰にも言いませんが、轟には知られないように気をつけてください」
「なぜ轟少年!? あ、そもそも違うんだ! あの、これは……Nooo!」
相澤のこれでもかという仕返しに、なすすべもなく狼狽えるオールマイト。
病室で騒いでしまったオールマイトは、また看護師に雷を落とされ、こっぴどく怒られていた。
「……望月さん? 望月さん聞こえますか!?」
スクラブを着た女性が莉緒に声を掛けた。
それに答えようとするが、言葉は音にはならず空気が漏れるだけだった。息で呼吸器が白くなる。
「今、先生を呼んできますからね!」
――帰ってきたんだ……。
女性の後ろ姿を見つめながら、莉緒はそう思った。
足早に白衣を着た先生と先ほどの女性が現れ、莉緒の体調を確認していく。言葉を発することができない莉緒は、僅かに動く指先で返事をした。そして診察が終わる頃には、再び眠りへと落ちていった。
手を通じて温もりが莉緒の中に流れ込む。
それに気づいて目を覚ましたとき、視界に人影が映った。
「……あ、いざわ先、生……?」
「――!?」
弾かれたように顔を上げた相澤はどこか驚いているようで、莉緒は思わず「……ふふ」と笑い声を漏らしてしまった。戦闘時以外で相澤のこのような姿が見られるのは珍しい。
「……体調はどうだ? 喋れるか?」
「は、はい……」
ベッドの背もたれを起こして莉緒が体勢を整える。
先ほどまであった呼吸器はなくなっており、喋りやすくなっていた。
相澤が今までのことを説明してくれたのだが、莉緒は二週間ほど意識不明の状態にあったらしい。眠っていた感覚はほんの一瞬だったため、莉緒は驚いて目を瞬かせた。どうやら荼毘から受けた熱傷と、オール・フォー・ワンの“個性”を無理やり破ったことによる体への負荷。その影響で眠り続けていたそうだ。
あの後、オール・フォー・ワンはオールマイトによって倒され、当のオールマイトは元々の活動限界のこともありヒーロー活動の引退を余儀なくされた。
そして、これらのことを受け、雄英高校は全寮制へと変わった。というのも、オール・フォー・ワンはタルタロスに収容されているが、死柄木たちは依然として行方知れずだ。オールマイトの弱体化が世間に晒された以上、
そこまで話して、相澤は一度言葉を切った。
莉緒は突然与えられた情報の量に何も言えず、ただ相澤の顔を見つめる。
「すまなかった」
「……どうして先生が謝るんですか?」
「俺はおまえたちを守る立場にありながら、守りきることができなかった。保護者としても失格だ」
「ちがい、ます……先生は何も悪くない」
相澤たちは林間合宿でも敵意に対して警戒しており、いつも生徒のために行動していた。それなのに――。
莉緒が
「それがヒーロー、そして教師というものだ」
「ちがう……私が弱かったから。私が、先生たちの足を引っ張った」
小さい頃からテレビを通して見てきたNo.1ヒーロー。雄英高校に入りその背中を間近に感じ目指してきたが、肝心なときに役に立つことができなかった。それどころか人質にされるなんて、完全に足手まといだ。
「おまえはまだヒーローの卵だ。自分を責める必要はない」
ふがいない自分への苛立ちから、涙が溢れてくる。
相澤は困ったような顔で、でも優しい手つきで莉緒の頭をポンポンと撫でた。その静かなリズムが心地よくて身を委ねていると、廊下から急いでいるような足音が聞こえ、それはどんどんと近くなっていく。そして、莉緒の病室のドアが大きな音を立てて開けられた。
「相澤くん! 望月少女が目を覚ましたと聞いたが――相澤くん!? 何を泣かせているんだい!」
勢いよくドアを開けたのは、ガリガリの姿のオールマイトだった。彼の左腕には先の戦闘の影響か、包帯が巻かれておりアームホルダーで腕を吊られている。
そんなオールマイトは、ベッドの上で涙を流す莉緒を見て一方的に相澤を責めてきた。勝手に悪者にされた相澤は、面倒くさそうな表情で深いため息を吐いた後、口を開く。
「……オールマイトさん、誤解です」
「じゃあ何故、望月少女が泣いているんだい!? しかもその手は何だ! 私は見てはいけないものを見てしまったのか!?」
「違います。というか、頭を撫でるくらいオールマイトさんだってしているでしょ」
「む? そうだったか?」
「そうですよ。あと、大きな声を出すのもやめてください。多方面にあらぬ誤解を生みますし、ここは病院ですよ」
「そ、それはすまん。だが、まさか相澤くんが望月少女と懇ろな関係だったとは――」
「…………はぁ」
話の通じないオールマイトに、相澤が再び大きなため息を吐いた。
「っ、ふふ!」
「望月?」
「どうしたんだい、望月少女!? もし君が本気だというのなら、私はちゃんと二人の関係は秘密に……」
「あははっ! ごめんなさい、何か面白くって!」
勝手に妄想を繰り広げて、秘密を知ったことにちょっとウキウキしているオールマイト。対して、疲れたような顔の相澤。二人の対比とやり取りが楽しくて思わず笑い声を漏らしてしまった。
莉緒に笑顔が戻ったのを見て、相澤の表情がわずかに緩む。彼の安堵など知らぬまま、莉緒は笑い続けた。状況が理解しきれていないオールマイトは、キョロキョロと莉緒と相澤の顔を見比べて不思議そうにしている。
「ふふふ――っ、いたッ!」
笑いすぎたのか、莉緒が急に脇腹を押さえて蹲る。
病衣に血が滲んでいるのを見たオールマイトは、急いでナースコールを押した。看護師が病室に来て相澤たちを雑に追い出すと、包帯の取り替えと着替えをしてくれた。思った以上に血が出ていたようで、病衣にも包帯にもべっとりとした血が付いている。
処置を終えた看護師が出て行き、入れ替わりで相澤たちが再び病室に戻る。そのすれ違いざま、看護師はオールマイトに騒がないように強めに釘を刺した。しょぼんと小さくなるオールマイト。その様子がおかしくて静かに笑う莉緒は、相澤とオールマイトの視線が看護師の押す医療用ワゴン――それに載せられた、血に染まった病衣と包帯に向いていることに気づかなかった。
「……ごめんなさい、助かりました」
「私が一番ナースコールに近かったからね! 望月少女は気にしなくていいさ」
「それもなんですが、そのことだけじゃなくて……。私が、あの時――」
「――君が謝ることはないんだよ。君はあのような状況にありながら、“個性”を使って私を救けようとしてくれた」
莉緒の言いたいことを察したのか、オールマイトは言葉を被せてきた。
神野の悪夢と呼ばれているらしい、あの戦い。莉緒はトランぺッターのスキルで味方のステータスを上げ、オール・フォー・ワンにはステータス降下スキルを使用した。カグヤのスキルで足止めもしたが、オールマイトやオール・フォー・ワンの勢いに押され、莉緒はそれ“だけ”しかできなかったのだ。
「君は自分ができる精一杯のことで私を救けた。私は望月少女に感謝をしているのに、何を謝る必要があるんだい?」
「でも……っ!」
「望月少女。私を、救けてくれてありがとう。私のヒーローだったよ、君は、間違いなくね」
その言葉が胸の奥に静かに落ち、一筋の滴が莉緒の頬を伝った。
オールマイトは、莉緒を優しく抱き締めて頭を撫でる。今のオールマイトは痩せ細った姿にもかかわらず、力強くて安心するところは変わらない。彼の腕の中で、莉緒は声を押し殺して泣いた。そして、いつの間にか泣き疲れて眠ってしまった。
静かな病室に、穏やかな寝息だけが聞こえる。
「思った以上に滅入っているようだね……」
「仕方ありませんよ。しっかりしてるように見えてもまだ15、16の子どもです。爆豪の話やこの負傷……精神的にも肉体的にも追い詰められたところに、あなたの引退だ」
二人は声を潜めて言葉を交わす。
莉緒の負傷もそうだが、爆豪から聞いた話は想像以上に惨いものだった。
バーの中でのやり取り。
治ってきているとはいえ、病衣や包帯が真っ赤になるほどの出血だ。事件当時がどれほど酷かったのか容易に想像できる。それでも折れなかった彼女の心――相澤は『ヒーローの卵』や『15、16の子ども』とは言ったが、その姿はもう立派なヒーローのように思えていた。
「……正直、望月少女の援護がなければ私の体は持たなかった。それに攻撃が通りやすくなったのも彼女のおかげで、だからこそギリギリ勝てた。なのに本人がそれをわかっていない、とはな……」
「望月の補助スキルについては、自分もUSJのときに受けました。本人は慣れているのか、他者がスキルによってどれだけ恩恵を受けるか認識してないようですね」
USJでの事件――相澤は脳無の攻撃によって負傷したのだが、リカバリーガールから『この程度で済んだのは運がよかった』と言われていた。それが“運”ではなく、ひとえに莉緒の援護によるものだと相澤は確信していた。
「……リハビリはもちろんとして、メンタルケアの方にも力を入れないとね。そう言えば、退院の目処は立っているのかい?」
「問題なければ一週間ほどで退院できるそうです。リハビリはヒーロー基礎学の授業と一緒にやる予定です。望月は技の一つ一つが必殺技みたいなもんですし、クラスメイトのあいつらがいた方が気がまぎれるでしょう」
「そうだね……」
「――というか、オールマイトさん」
相澤の声のトーンが、少し低くなった。
オールマイトはそれに気づいていないのか、寝てしまった莉緒の背中をトントンと叩いている。
「なんだい?」
「頭を撫でるだけではなく、抱き締めてますよね?」
「――ッ!? あ、いや、これは違うんだ!」
「それにせっかく泣き止んだと思ったのに、また泣かせましたね?」
「え!? それは、その……」
「見てはいけないものを見てしまって、保護者として複雑なんですが……」
「あ、相澤くん!?」
「オールマイトさんが本気なら誰にも言いませんが、轟には知られないように気をつけてください」
「なぜ轟少年!? あ、そもそも違うんだ! あの、これは……Nooo!」
相澤のこれでもかという仕返しに、なすすべもなく狼狽えるオールマイト。
病室で騒いでしまったオールマイトは、また看護師に雷を落とされ、こっぴどく怒られていた。