轟はアステリオス・賊神 の顕現に驚いたようだったが、炎を出すと顔つきが変わった。
核がある広間から轟が出て行き、それを追いかける。莉緒が出入り口を通過するタイミングで氷が地面を這って襲ってきた。
――出入り口を使って私の回避範囲を狭めるなんて、轟くんは戦闘慣れしてる!
莉緒は攻撃が迫っているにもかかわらず、避ける様子も焦りも見せずにそんなことを思っていた。
遠くで尾白の心配そうな声が聞こえたが、轟の氷は当たらなかった。正確には莉緒の元に届いた氷だけ渦を描くように吸い込まれていった。
アステリオス・賊神 は元々は氷結が弱点だったが、氷結吸収スキルでそれを補っている。轟の氷結攻撃は莉緒を傷つけることはなく、むしろ氷結攻撃をすることによって体力が回復する。また、氷結吸収は自動効果スキルなので体力、精神力を使うこともない。
「おまえ、今のはなんだ。炎の“個性”だけじゃないのか?」
「今は訓練中だよ、ネタばらしするにはまだ早いんじゃないかな?」
今度は莉緒から轟に仕掛け、廊下での交戦が始まった。
お腹を目がけて回し蹴りを入れると、轟は右の手のひらに氷を纏いガードする。衝撃でパキパキと音を立てながら氷が割れた。
お返しとばかりに轟が莉緒の軸足を払いにかかるが、すかさずバク転をして距離を取る。間髪入れずに轟が右腕を振り上げそこから氷が現れるも、最初の攻撃と同様に渦を描きながら莉緒に吸い込まれていった。
莉緒は突き出されている轟の腕を掴み、今までのやり取りでできた氷を足場に壁宙返りをする。勢いを利用して背負い投げ、轟を地面に叩きつけた。しかし確保テープを出そうと莉緒が片手を離した隙に逃げ出され、間合いを取られる。
「……なるほどな」
「?」
「俺の氷は吸い込まれたように見えたが、すべての氷が対象じゃねえ。氷でガードしたときは吸収されず、殴ろうとして出した氷は吸収された。つまり同じ氷でも攻撃の意思を持ったものは吸収され、そうじゃないものは吸収されない」
「へー、すごいね轟くん。まさか今のやり取りだけでわかるなんて」
轟の言うことはほぼ正解だ。前世とこの世界では戦闘スタイルや敵の攻撃方法が違うため、ペルソナのスキルが多少異なっている。
だから今、莉緒を閉じ込めるように周りに展開された氷を吸収する術はない。
しかし――
「ティタノマキア!」
莉緒の背後に再び現れたアステリオス・賊神 によって、周りにある氷が溶け出す。
轟はこれを待っていたのか、溶けてできた僅かな隙間から莉緒に向かって氷を纏っていない右手を繰り出してきた。
「終わりだ!」
溶けた氷はまだ一部分のため、これでは攻撃を避けるためのスペースがない。
拳を振り上げた轟と莉緒の視線が交わる。その瞳を見つめながら莉緒は不敵に笑い、呟いた。
「――残念」
パキィィンと高い音が響く。
莉緒を守るように現れた分厚い透明の盾。“あの事件”の時と同じ、物理反射スキルによるものだ。
轟は自分の攻撃に弾かれて吹き飛んでいた。
「ごめんね。あの時、轟くんの足払いを避けたりしてたから反射されるなんて思わなかったよね。物理攻撃はスキルで反射できるってわかってても、つい体が動いちゃうから」
「……っく! 吸収に反射? おまえ、本当になんの“個性”だよ」
「それは終わってからのお楽しみでしょ? 向こうの応援にも行きたいから、そろそろ終わらせようか」
莉緒は腰のベルトに固定していた刀を抜いて構えた。刃渡りは懐刀くらいしかなく、戦闘服 のジャケットに隠れるようになっている。そのため、轟は刀の存在に気付いていなかったようだ。
懐刀には用いることの少ない鍔と刃渡りに見合わない長めの柄。その独特な刀を振り下ろすと、短かったはずの刀身が倍以上に伸びる。細身で刃文の小乱れがよく働いている優美な立ち姿が異彩を放っている。
見た目は日本刀そのものだが、携帯用の太極剣のように伸縮するようになっていた。
「安心していいよ、模造刀だから本当には切れない。まぁ、でも当たったら痛いよね。痣できちゃうかも」
「まだ手数があんのか」
「どんな“個性”の敵 を相手にするかわからない以上、手数は多いに越したことはないよね。備えあれば憂いなし。インフェルノ」
轟は氷の壁を作り出し防御を行う。しかし頭上に炎の球が現れ、そこから真っ赤に燃える一筋の放射熱線がそれを薙ぎ払った。氷の壁が跡形もなく消滅し地面から激しい炎が上がる。
莉緒は炎の海と化した場から離れる轟を待ち構え、氷のガードを刀で砕く。
砕いた氷の残骸を蹴り飛ばして攻撃すると、轟は左手を前に出した。しかし、はっと驚いたような表情をして手を下す。
莉緒はその隙を見逃さず、刀による一撃が轟のみぞおちに入る。
「はっ……くっ……!」
轟の不自然な動きに疑問を持つも、莉緒は距離を詰めていく。
「このままだと負けちゃうよ、ヒーロー」
お腹を押さえて唸っている轟に容赦なく攻撃を仕掛ける。寸止めのつもりだったが轟が刀身を掴み刀のみを凍らせた。
莉緒は轟の対応の早さに感嘆するも、表情を引き締めるともう一つの武器を手に取った。
「……チェック」
「!?」
「さすがにもう降参して欲しいな」
「……今度は銃か」
「手数は多いに越したことないって言ったでしょ?」
前世と同じデザインの遠隔武器――デザートイーグルを轟の頭に突きつけると、観念したように両手を上げた。
逃げられないように気を付けながら確保テープを巻いていく。
「轟くん、確――」
『ヒーローチーム、WIN!!』
「――保! って……あ、あれ?」
『ごめん、望月さん! 障子に核取られた!』
『莉緒ちゃんごめんね〜!』
『なるほど。障子くんすごいね! 私も助けに行けなくてごめん!』
莉緒は巻いたばかりの確保テープを解き、倒れたままの轟に手を差し出す。
「負けちゃった。轟くんに足止めされたよ、やられた!」
「……勝負自体はおまえの勝ちだろ」
轟は差し出された手を思案顔で見た後、その手を取る。しかし、ぐいっと引っ張られた莉緒は踏ん張ることができずに体勢が崩れた。
――そう言えば、氷溶かしちゃったから滑りやすくなってたんだ!
今更ながらそのことを思い出したが、もう遅い。片手は轟、もう片方は銃を持っており受け身の取れない莉緒はそのまま倒れ込む。
「っきゃあ!」
「……っ!」
衝撃を覚悟した莉緒だったが、轟の胸に優しく抱きとめられた。
「ご、ごめんね。轟くん、大丈夫?」
「ああ。おまえ、戦闘中はあれだけ動き回ってたくせにな」
「うぅ、終わって気が抜けちゃったんだよ。助けてくれてありがとう」
莉緒が上体を起こすと至近距離で轟と目が合った。
存在を主張するかのような引き込まれるアイスグリーンの瞳。戦闘中、あれだけ睨まれて見てきた瞳だが改めて近くで見ると――
「……きれいな瞳」
「……は?」
「え、何か変なこと言ったかな?」
「……いや」
「あ、そういえば蹴りとか刀でお腹ケガしてない? やっぱり痣できちゃうかな?」
「おい! 大丈夫だ、そんなヤワじゃねえ」
戦闘服 を捲って確かめようとする莉緒の手は轟に掴まり止められてしまった。
「そう? なら良いけど……っていうか轟くん強いね、攻撃防がれてばっかりで悔しい!」
「そっちの方こそ。そもそも刀に銃って本当にヒーロー志望か?」
「失礼な! 爆豪くんじゃないけど、戦闘っていうのはやるかやられるかでしょ? 守りたいものを守るためには敵 に遠慮なんてしないよ」
「おまえ……」
「なーんてね。刀はさっきも言ったように模造刀だし。この銃も、見てて――」
莉緒は銃の引き金を引く。
発砲音の後、現れたのは細い縄をひし形に目を透かして編み込まれている捕獲用の網だった。
「……便利だな」
「でしょ? 殺傷能力はないから安心してね。スナイプ先生みたいな精度の高い射撃ができたら攻撃性を持たせられるんだけどね」
「おまえ――」
「望月莉緒。おまえじゃなくてちゃんと名前で呼んで欲しいな」
「ああ、悪かったな望月」
「いいよ、それで?」
「……いや、いい。何でもない」
「……そう? 今更だけど、これからよろしくね轟くん」
「ああ」
轟と握手をしたところで葉隠たちがやって来たため、一緒にモニタールームに移動する。
講評が行われ、他のチームの訓練も見学し無事に授業が終わった。
「そういえば、望月って何の“個性”なん?」
「それ私も思ったー!」
「吸収したり反射したり、どういった“個性”なのかしら?」
放課後になり帰り支度をしていた莉緒に、上鳴と芦戸、蛙吹が話しかける。
「私のはペルソナっていうんだけど……上鳴くんってゲームとかする?」
「おお、するする!」
「私の“個性”はFFでシヴァやイフリートを召喚してるような感じかな? 召喚したペルソナはそれぞれスキルを持ってて、私はそのスキルを使用できるんだ」
ペルソナの多くは吸収や反射スキルを持っていること、対象の属性はそれぞれ異なっているためペルソナによっては注意が必要なことを説明する。
「戦闘訓練の時も思ったけど、すっげーチートじゃん、それ!」
「でもペルソナのスキルを使うと物理攻撃は体力、魔法は精神力が減っちゃうんだよね。あ、精神力はドラクエとかで言うMPみたいなものね」
「へー、それが減るとどうなるん?」
「体力はもちろん動けなくなるし、精神力が少なくなると眠くなるんだよね」
精神力――前世ではSPと呼んでいたが、それが減るにつれて睡魔が襲い、ゼロになると強制睡眠状態となる。そうなってしまえば戦闘中はただの足手まといだ。
「轟ちゃんとの戦いで後半にスキルを使わなかったのは、そう言う理由からなのかしら?」
「うん、蛙吹さんの言う通り。私は体力も精神力もまだ上限が低いから乱発できなくって……」
「そうだっだのね。私のことは梅雨ちゃんと呼んで」
「私のことも莉緒でいいよ! よろしくね、梅雨ちゃん!」
「ずるーい、私も三奈でいいよ」
「俺も俺も! 電気でいーぜ!」
「上鳴はダメ!」
「なんでだよ!!」
そのまま言い合いを始めた芦戸と上鳴を莉緒が宥めていると、他の生徒も集まってきた。
「轟との対戦では氷結吸収と打撃を反射するスキルを持ってたってことか?」
「うん、切島くん当たり! 正確な名前は物理反射なんだけど、対応できない攻撃もあるから万能ではないんだよね」
「いや、改めて聞いても望月の“個性”強いな」
「砂藤くん、ありがとう。でも増強型の“個性”って良いよね〜! 私は魔法で攻撃力を強化しても威力がイマイチだから羨ましいな」
「お、そうか? そう言われると照れるな」
莉緒は筋肉がつきにくい体質なのか、力が弱くスキルで補っても見劣りする。そのため砂藤のようなパワー系には憧れていた。
「莉緒って何かやってたの? 接近戦もすごかったし、体の使い方がうまいよね。ウチらモニター見ながらびっくりしたし」
「本当? 小さい頃から近接格闘術やパルクールとかを教わってたから、活用できてよかった」
「望月さんの咄嗟の判断力も素晴らしいものがありました。私も見習わないといけませんわ」
「ありがとう、八百万さん……あ、百ちゃんって呼んでもいいかな? 私のことも名前で呼んでくれると嬉しいな」
「もちろんです、莉緒さん!」
耳郎や八百万たちは褒めてくれたが、轟に防がれた攻撃が多く莉緒は内心悔しい思いをしていた。
今後の対策について考えていると、近くの席から椅子を引く音が聞こえる。
「あれ、轟くんもう帰るの? 今、皆で反省会してるよ?」
「俺はいい。おまえ……望月の“個性”も聞けたからな」
「あ、教えるの忘れてたね。ごめん」
「いや、気にしなくていい」
「……轟くん、本気出してなかったよね?」
莉緒が「左手の動きおかしかったし」と付け加えると、轟は黙ってしまった。
戦闘後に聞いた轟の“個性”は半冷半燃。右で凍らせ左で燃やす。あの時、左は使わなかった。
「ごめんね、責めたいわけじゃないの。でも、今度は本気の轟くんに勝ちたいな」
「……俺は、戦闘に於いて熱 は絶対に使わねえ」
「……轟くん?」
「それだけだ。じゃあな」
――何か地雷踏んじゃった、かも……?
莉緒は浮かない表情をしながらそう思った。
核がある広間から轟が出て行き、それを追いかける。莉緒が出入り口を通過するタイミングで氷が地面を這って襲ってきた。
――出入り口を使って私の回避範囲を狭めるなんて、轟くんは戦闘慣れしてる!
莉緒は攻撃が迫っているにもかかわらず、避ける様子も焦りも見せずにそんなことを思っていた。
遠くで尾白の心配そうな声が聞こえたが、轟の氷は当たらなかった。正確には莉緒の元に届いた氷だけ渦を描くように吸い込まれていった。
アステリオス・
「おまえ、今のはなんだ。炎の“個性”だけじゃないのか?」
「今は訓練中だよ、ネタばらしするにはまだ早いんじゃないかな?」
今度は莉緒から轟に仕掛け、廊下での交戦が始まった。
お腹を目がけて回し蹴りを入れると、轟は右の手のひらに氷を纏いガードする。衝撃でパキパキと音を立てながら氷が割れた。
お返しとばかりに轟が莉緒の軸足を払いにかかるが、すかさずバク転をして距離を取る。間髪入れずに轟が右腕を振り上げそこから氷が現れるも、最初の攻撃と同様に渦を描きながら莉緒に吸い込まれていった。
莉緒は突き出されている轟の腕を掴み、今までのやり取りでできた氷を足場に壁宙返りをする。勢いを利用して背負い投げ、轟を地面に叩きつけた。しかし確保テープを出そうと莉緒が片手を離した隙に逃げ出され、間合いを取られる。
「……なるほどな」
「?」
「俺の氷は吸い込まれたように見えたが、すべての氷が対象じゃねえ。氷でガードしたときは吸収されず、殴ろうとして出した氷は吸収された。つまり同じ氷でも攻撃の意思を持ったものは吸収され、そうじゃないものは吸収されない」
「へー、すごいね轟くん。まさか今のやり取りだけでわかるなんて」
轟の言うことはほぼ正解だ。前世とこの世界では戦闘スタイルや敵の攻撃方法が違うため、ペルソナのスキルが多少異なっている。
だから今、莉緒を閉じ込めるように周りに展開された氷を吸収する術はない。
しかし――
「ティタノマキア!」
莉緒の背後に再び現れたアステリオス・
轟はこれを待っていたのか、溶けてできた僅かな隙間から莉緒に向かって氷を纏っていない右手を繰り出してきた。
「終わりだ!」
溶けた氷はまだ一部分のため、これでは攻撃を避けるためのスペースがない。
拳を振り上げた轟と莉緒の視線が交わる。その瞳を見つめながら莉緒は不敵に笑い、呟いた。
「――残念」
パキィィンと高い音が響く。
莉緒を守るように現れた分厚い透明の盾。“あの事件”の時と同じ、物理反射スキルによるものだ。
轟は自分の攻撃に弾かれて吹き飛んでいた。
「ごめんね。あの時、轟くんの足払いを避けたりしてたから反射されるなんて思わなかったよね。物理攻撃はスキルで反射できるってわかってても、つい体が動いちゃうから」
「……っく! 吸収に反射? おまえ、本当になんの“個性”だよ」
「それは終わってからのお楽しみでしょ? 向こうの応援にも行きたいから、そろそろ終わらせようか」
莉緒は腰のベルトに固定していた刀を抜いて構えた。刃渡りは懐刀くらいしかなく、
懐刀には用いることの少ない鍔と刃渡りに見合わない長めの柄。その独特な刀を振り下ろすと、短かったはずの刀身が倍以上に伸びる。細身で刃文の小乱れがよく働いている優美な立ち姿が異彩を放っている。
見た目は日本刀そのものだが、携帯用の太極剣のように伸縮するようになっていた。
「安心していいよ、模造刀だから本当には切れない。まぁ、でも当たったら痛いよね。痣できちゃうかも」
「まだ手数があんのか」
「どんな“個性”の
轟は氷の壁を作り出し防御を行う。しかし頭上に炎の球が現れ、そこから真っ赤に燃える一筋の放射熱線がそれを薙ぎ払った。氷の壁が跡形もなく消滅し地面から激しい炎が上がる。
莉緒は炎の海と化した場から離れる轟を待ち構え、氷のガードを刀で砕く。
砕いた氷の残骸を蹴り飛ばして攻撃すると、轟は左手を前に出した。しかし、はっと驚いたような表情をして手を下す。
莉緒はその隙を見逃さず、刀による一撃が轟のみぞおちに入る。
「はっ……くっ……!」
轟の不自然な動きに疑問を持つも、莉緒は距離を詰めていく。
「このままだと負けちゃうよ、ヒーロー」
お腹を押さえて唸っている轟に容赦なく攻撃を仕掛ける。寸止めのつもりだったが轟が刀身を掴み刀のみを凍らせた。
莉緒は轟の対応の早さに感嘆するも、表情を引き締めるともう一つの武器を手に取った。
「……チェック」
「!?」
「さすがにもう降参して欲しいな」
「……今度は銃か」
「手数は多いに越したことないって言ったでしょ?」
前世と同じデザインの遠隔武器――デザートイーグルを轟の頭に突きつけると、観念したように両手を上げた。
逃げられないように気を付けながら確保テープを巻いていく。
「轟くん、確――」
『ヒーローチーム、WIN!!』
「――保! って……あ、あれ?」
『ごめん、望月さん! 障子に核取られた!』
『莉緒ちゃんごめんね〜!』
『なるほど。障子くんすごいね! 私も助けに行けなくてごめん!』
莉緒は巻いたばかりの確保テープを解き、倒れたままの轟に手を差し出す。
「負けちゃった。轟くんに足止めされたよ、やられた!」
「……勝負自体はおまえの勝ちだろ」
轟は差し出された手を思案顔で見た後、その手を取る。しかし、ぐいっと引っ張られた莉緒は踏ん張ることができずに体勢が崩れた。
――そう言えば、氷溶かしちゃったから滑りやすくなってたんだ!
今更ながらそのことを思い出したが、もう遅い。片手は轟、もう片方は銃を持っており受け身の取れない莉緒はそのまま倒れ込む。
「っきゃあ!」
「……っ!」
衝撃を覚悟した莉緒だったが、轟の胸に優しく抱きとめられた。
「ご、ごめんね。轟くん、大丈夫?」
「ああ。おまえ、戦闘中はあれだけ動き回ってたくせにな」
「うぅ、終わって気が抜けちゃったんだよ。助けてくれてありがとう」
莉緒が上体を起こすと至近距離で轟と目が合った。
存在を主張するかのような引き込まれるアイスグリーンの瞳。戦闘中、あれだけ睨まれて見てきた瞳だが改めて近くで見ると――
「……きれいな瞳」
「……は?」
「え、何か変なこと言ったかな?」
「……いや」
「あ、そういえば蹴りとか刀でお腹ケガしてない? やっぱり痣できちゃうかな?」
「おい! 大丈夫だ、そんなヤワじゃねえ」
「そう? なら良いけど……っていうか轟くん強いね、攻撃防がれてばっかりで悔しい!」
「そっちの方こそ。そもそも刀に銃って本当にヒーロー志望か?」
「失礼な! 爆豪くんじゃないけど、戦闘っていうのはやるかやられるかでしょ? 守りたいものを守るためには
「おまえ……」
「なーんてね。刀はさっきも言ったように模造刀だし。この銃も、見てて――」
莉緒は銃の引き金を引く。
発砲音の後、現れたのは細い縄をひし形に目を透かして編み込まれている捕獲用の網だった。
「……便利だな」
「でしょ? 殺傷能力はないから安心してね。スナイプ先生みたいな精度の高い射撃ができたら攻撃性を持たせられるんだけどね」
「おまえ――」
「望月莉緒。おまえじゃなくてちゃんと名前で呼んで欲しいな」
「ああ、悪かったな望月」
「いいよ、それで?」
「……いや、いい。何でもない」
「……そう? 今更だけど、これからよろしくね轟くん」
「ああ」
轟と握手をしたところで葉隠たちがやって来たため、一緒にモニタールームに移動する。
講評が行われ、他のチームの訓練も見学し無事に授業が終わった。
「そういえば、望月って何の“個性”なん?」
「それ私も思ったー!」
「吸収したり反射したり、どういった“個性”なのかしら?」
放課後になり帰り支度をしていた莉緒に、上鳴と芦戸、蛙吹が話しかける。
「私のはペルソナっていうんだけど……上鳴くんってゲームとかする?」
「おお、するする!」
「私の“個性”はFFでシヴァやイフリートを召喚してるような感じかな? 召喚したペルソナはそれぞれスキルを持ってて、私はそのスキルを使用できるんだ」
ペルソナの多くは吸収や反射スキルを持っていること、対象の属性はそれぞれ異なっているためペルソナによっては注意が必要なことを説明する。
「戦闘訓練の時も思ったけど、すっげーチートじゃん、それ!」
「でもペルソナのスキルを使うと物理攻撃は体力、魔法は精神力が減っちゃうんだよね。あ、精神力はドラクエとかで言うMPみたいなものね」
「へー、それが減るとどうなるん?」
「体力はもちろん動けなくなるし、精神力が少なくなると眠くなるんだよね」
精神力――前世ではSPと呼んでいたが、それが減るにつれて睡魔が襲い、ゼロになると強制睡眠状態となる。そうなってしまえば戦闘中はただの足手まといだ。
「轟ちゃんとの戦いで後半にスキルを使わなかったのは、そう言う理由からなのかしら?」
「うん、蛙吹さんの言う通り。私は体力も精神力もまだ上限が低いから乱発できなくって……」
「そうだっだのね。私のことは梅雨ちゃんと呼んで」
「私のことも莉緒でいいよ! よろしくね、梅雨ちゃん!」
「ずるーい、私も三奈でいいよ」
「俺も俺も! 電気でいーぜ!」
「上鳴はダメ!」
「なんでだよ!!」
そのまま言い合いを始めた芦戸と上鳴を莉緒が宥めていると、他の生徒も集まってきた。
「轟との対戦では氷結吸収と打撃を反射するスキルを持ってたってことか?」
「うん、切島くん当たり! 正確な名前は物理反射なんだけど、対応できない攻撃もあるから万能ではないんだよね」
「いや、改めて聞いても望月の“個性”強いな」
「砂藤くん、ありがとう。でも増強型の“個性”って良いよね〜! 私は魔法で攻撃力を強化しても威力がイマイチだから羨ましいな」
「お、そうか? そう言われると照れるな」
莉緒は筋肉がつきにくい体質なのか、力が弱くスキルで補っても見劣りする。そのため砂藤のようなパワー系には憧れていた。
「莉緒って何かやってたの? 接近戦もすごかったし、体の使い方がうまいよね。ウチらモニター見ながらびっくりしたし」
「本当? 小さい頃から近接格闘術やパルクールとかを教わってたから、活用できてよかった」
「望月さんの咄嗟の判断力も素晴らしいものがありました。私も見習わないといけませんわ」
「ありがとう、八百万さん……あ、百ちゃんって呼んでもいいかな? 私のことも名前で呼んでくれると嬉しいな」
「もちろんです、莉緒さん!」
耳郎や八百万たちは褒めてくれたが、轟に防がれた攻撃が多く莉緒は内心悔しい思いをしていた。
今後の対策について考えていると、近くの席から椅子を引く音が聞こえる。
「あれ、轟くんもう帰るの? 今、皆で反省会してるよ?」
「俺はいい。おまえ……望月の“個性”も聞けたからな」
「あ、教えるの忘れてたね。ごめん」
「いや、気にしなくていい」
「……轟くん、本気出してなかったよね?」
莉緒が「左手の動きおかしかったし」と付け加えると、轟は黙ってしまった。
戦闘後に聞いた轟の“個性”は半冷半燃。右で凍らせ左で燃やす。あの時、左は使わなかった。
「ごめんね、責めたいわけじゃないの。でも、今度は本気の轟くんに勝ちたいな」
「……俺は、戦闘に於いて
「……轟くん?」
「それだけだ。じゃあな」
――何か地雷踏んじゃった、かも……?
莉緒は浮かない表情をしながらそう思った。