委員長決め

 翌日、朝のホームルーム。

「さて、急で悪いが今日は君らに学級委員長を決めてもらう」
「「「学校っぽいの来たー!」」」

 相澤の言葉に一斉に手を挙げてアピール合戦が始まる。
 委員長とは言わば雑務係だ。普通科であれば積極的になろうとする人はいないが、ヒーロー科では違う。集団を導くトップヒーローの素地が鍛えられるため立候補する者が多く、このクラスでもほとんどの生徒が手を挙げていた。

「静粛にしたまえ!」
「「!!」」
「“多”をけん引する責任重大な仕事だぞ。『やりたい者』がやれるモノではないだろう! 周囲からの信頼あってこそ務まる聖務。民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというのなら、これは投票で決めるべき議案!」
「そびえ立ってんじゃねーか! 何故発案した!」

 投票を謳いながらも真っ直ぐに挙げ、主張している飯田の右手。

「日も浅いのに信頼もクソもないわ飯田ちゃん」
「そんなん皆、自分にいれらぁ!」
「だからこそ、ここで複数票を獲った者こそが真にふさわしい人間ということにならないか!? どうでしょうか先生!」
「時間内に決めりゃ何でも良いよ」

 結局、多数決で学級委員長を決めることになった。その結果、複数票を獲得したのは緑谷の3票と八百万の2票。

「僕、3票ー!?」
「僕に1票!? いったい誰が入れてくれたんだ!?」

 緑谷が得票数に驚いているなか、飯田も自身の票数に驚き感動しているようだ。
 飯田に票を入れたのは莉緒だった。委員長がやりたいのにもかかわらず、クラスのためを思い投票を提案した彼なら向いていると思ったからだ。
 しかし、飯田のその口ぶりと得票数から自分には入れなかったようで、八百万からは「他に入れたのね……」と呆れられ、砂藤からは「おまえもやりたがってたのに……何がしたいんだ飯田」とツッコミを入れられていた。
 こうしてA組の委員長は緑谷に、副委員長は八百万に決まった。




「あれ? 皆がいない……」

 お昼の時間となり、お弁当を持ったまま『ランチラッシュのメシ処』で狼狽える莉緒。
 耳郎や葉隠たちと一緒に食べる予定だったが、水筒を忘れたため一度教室に戻っていた。「席を取っておくから」と言ってくれた彼女たちを探すも見つからない。残念ながらスマホも忘れており、先ほど教室に戻った時に気付かなかったことが悔やまれる。

「おーい、望月一人か?」
「突っ立ってどうしたんだ?」
「あ、上鳴くんに切島くん。響香たちが席を取っておいてくれてるはずなんだけど、見つからなくて……」
「まぁ、これだけの人がいるからな。探すのも大変だなぁ」

 大食堂では多種多様な一流の料理が安価で味わえるため、切島の言う通りたくさんの生徒が利用している。

「それなら望月、俺らと一緒に食おうぜ!」
「え、でも……」
「早く食わねぇと昼休みの時間なくなるぞ」
「……そうだよね。じゃあ、ご一緒させてもらおうかな?」
「おう!」

 耳郎たちには後で謝るとして、莉緒は上鳴からの誘いを受けることにした。

「望月は弁当なんだな」
「うん。今、一人で暮らしてるから節約! でもランチラッシュのご飯美味しそうだし、たまには学食も食べてみようかな」
「美味いぞ。ほら、食ってみるか?」
「いいの?」
「おい、止めろって!」

 莉緒と上鳴が隣り合って座り、向かいには切島が座っている。
 上鳴がご飯を箸につまんで差し出してくるので、莉緒はそのままかぶりつこうとする。いわゆる『あ〜ん』というやつだが、それを見ていた切島が慌てて二人を止めた。

「止めんなよ! いいとこだったんだから!」
「止めるに決まってるだろ!」
「お、望月の弁当も美味そうだな。くれよ!」
「いいよ、どーぞ?」
「だーから! 止めろって!」

 今度は莉緒がお箸を上鳴の口元に持っていく。すると、またもや聞こえる制止の声。先ほどと同じやり取りに莉緒は思わず笑い声を漏らす。

「望月?」
「ごめん、ごめん。まだ入学したばかりなのに二人ともすごく仲良くていいな〜と思って」

 莉緒が「笑ってごめんね」と言うと、二人は照れているようだった。

「そ、そんなん望月だって耳郎たちと仲良いじゃん!」
「うん。でも皆ともっと仲良くなれたらいいな」

 そんな他愛もない話をしながら仲良くご飯を食べていた時、急に警報のような音が鳴り響いた。

《セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみかに屋外へ避難して下さい》

「セキュリティ3……?」
「なんだ?」

 何のことか分からず三人で首を傾げていると、警報と放送でパニックになった生徒たちが勢いよく押し寄せ、人の波に飲み込まれてしまった。出口に向かう生徒でごった返し、満員電車のようにすし詰め状態となっている。
 “個性”の影響もあり、体格が良い人が多い雄英では莉緒のような小柄な女子生徒はすぐに埋もれてしまう。
 
「……っ!」
「望月、掴まれ!」

 切島に手を引かれ壁際に移動する。それ以上人ごみに流されることはなかったが、それでも押し寄せる人の圧は変わらない。

「大丈夫か!?」
「うん、何とか……ありがとう切島くん」
「どうなってるんだ、これ……」

 あまりの人の多さに身動きが取れない。下手に動けばまた人の波に逆戻りだ。
 いったい何が起こっているのか――莉緒が思索に耽ていると、後ろから誰かに押され目の前の切島に抱きついてしまった。

「わっ! ご、ごめん!」
「……ッ!」
「切島くん? ごめんね、大丈夫?」
「お、おう……」

 莉緒が謝罪しながら切島の様子を伺うが、顔を背けられ目線は合わない。

「んだコレっ……て、あー! 切島、おまっ! 何一人だけおいしいポジションになってんだよ!」

 合流してきた上鳴は、切島が莉緒に抱きつかれているのを見て文句を垂れる。

「っるせーな! しょうがねえだろ!」
「本当にごめんなさい……」
「い、いや望月が悪いわけじゃねえから!」

 このままでは切島にも悪いし何より恥ずかしい。莉緒が体を動かそうとするが、このひしめき合ったなかでは難しかった。

「(うわ、首筋に望月の息が当たる。ってか、すっげー良い匂いするし、柔らかい……って何考えてんだ俺!)」
「何赤くなってんだよ切島!」
「う、うるせー!」

 非常口の上に張り付いた飯田が状況を説明し混雑が収まるまで、切島は上鳴に野次られながら必死に耐えていた。

 このお昼休みの出来事により緑谷が委員長を辞退し、飯田が委員長に決まった。
 ちなみに切島はお昼休み以降、莉緒の顔を見て話すことができなかった。不思議に思った峰田が上鳴から事情を聞き憤慨するのはまた別の話。