USJ −襲来−

 水曜日、PM0:50――ヒーロー基礎学の時間。
 今回は災害水難なんでもありの人命救助レスキュー訓練を行うことになっており、少し離れた訓練場に向かうため戦闘服コスチュームに着替えた生徒たちはバスに乗り込んでいた。

「轟くん、隣座ってもいい?」
「ん? ああ」
「ありがとう」

 莉緒が空いていた席に座ると、隣の轟は目を瞑って寝る体勢に入った。
 全員が着席した後、バスが動き始める。

 移動中のバスの車内では各々の“個性”の話となった。

「派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪だな。望月も強いけど、召喚するやつが怖いんだよな」
「ケッ!」
「爆豪ちゃんはキレてばかりだから人気出なさそう」
「んだとコラ! 出すわ!」
「ホラ」

 切島の言葉に気取った態度を見せた爆豪だったが、蛙吹の発言に身を乗り出して怒りだす。

「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」
「てめェのボキャブラリーは何だコラ、殺すぞ!」

 爆豪の斜め後ろに座っていた莉緒は、蛙吹と上鳴の爆豪いじりに「ふふ」っと笑い声を漏らす。

「何笑っとんだこの兎女!」

 勢いよく振り返る爆豪。莉緒は一瞬、誰のことか分からずにキョトンとした顔をする。
 莉緒の戦闘服コスチュームには側頭部に兎面があるのでそれを模したものだろうか。あだ名のセンスに疑問を残しながらも、莉緒はイライラしている様子の爆豪に返答をする。

「梅雨ちゃんの言ったこと当たりそうだなって思って。私が爆豪ヒーローに助けられたら泣いちゃいそうだもん、怖くて」
「ハァァア!? てめェみてえな女はぜってー泣かねえよ!」
「要救助者に安心感を与えるのもヒーローの役目だよ?」
「語ってんじゃねえ!」
「あ、爆豪くん。轟くん起きちゃうから静かにしてね」

 莉緒が人差し指でシーっとすると爆豪が怒りでわなわなと震えだす。怒号が飛び出る直前に相澤から注意され、爆豪は不完全燃焼のまま鎮火した。
 騒がしくしていたためか、隣に座っていた轟が身じろぎをする。

「ごめん、眠れなかったね」
「いや、大丈夫だ。起きてたから」

 相澤から睨まれるのが嫌なため、その後のバス内は静かなものだった。
 莉緒は先ほど切島から言われた「ペルソナが怖い」という言葉を思い出し、自分も爆豪のように怖がられて人気がでないのでは――と、不安に思い密かに落ち込んでいた。




「すっげー! USJかよ!?」

 バスが着き莉緒たちの目の前に広がるのは水難事故、土砂災害、火事などを想定して作られた演習場。それはさながらアミューズメント施設のようだった。

「その名もウソU災害S事故Jルーム!」

 宇宙服をイメージした戦闘服コスチュームの先生――スペースヒーロー『13号』の言葉に、生徒たちは『本当にUSJだった』と驚いたような表情をしている。

「えー始める前にお小言を一つ二つ、三つ……四つ……」

 13号の指が話しに合わせて増えていく。

「皆さんご存知だとは思いますが、僕の“個性”は“ブラックホール”。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」
「その“個性”でどんな災害からも人を救い上げるんですよね」

 緑谷に同意するように、隣にいた麗日がすごい勢いで首を縦に振る。

「ええ……しかし、簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう“個性”がいるでしょう。超人社会は“個性”の使用を厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます。しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる“いきすぎた個性”を個々が持っていることを忘れないでください」

 そして13号は続ける。相澤の個性把握テストは自身の力が秘めている可能性を知るため、オールマイトの対人戦闘訓練はそれを人に向ける危うさを体験するため――と。

「この授業では、心機一転! 人命の為に“個性”
をどう活用するかを学んでいきましょう。君たちの力は人を傷つける為にあるのではない。救ける為にあるのだと心得て帰って下さいな。以上、ご清聴ありがとうございました」
「ステキー!」
「ブラボー! ブラーボー!」

 ペルソナ能力とパレスを使い、私欲のために人を利用し殺す人たち。同じ能力を人のために使い、それに立ち向かった怪盗団。
 傷つけるために“個性”を使うヴィラン。救け、守る為に“個性”を使うヒーロー。

 ――ジョーカーたちが理不尽な世の中を変えようとしたみたいに、私はこの世界でヒーローとして人々を救けていきたい。
 莉緒は覚悟を胸に、演説に拍手を送った。

「そんじゃあ、まずは……」

 相澤が訓練の説明を始めようとした時、何か嫌なものが莉緒の体を這う。似たようなものを11年前にも感じたことがあった。
 不意に広場に目線を向ける。

「あ、相澤先生!」
「……?」
「広場に……!」

 大きな噴水があるセントラル広場に黒い靄が渦巻いている。そこから人の手、そして覗き込むような顔が見えた。
 黒い靄が広がり、その中から武装した集団が出てくる。

「一かたまりになって動くな! 13号、生徒を守れ!」
「何だアリャ!? また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「動くな、あれはヴィランだ!」

 相澤はゴーグルをかけ、首に巻いている捕縛武器を緩めると戦闘態勢に入った。

「先生は!? 一人で戦うんですか!? あの数じゃいくら“個性”を消すっていっても、イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の“個性”を消してからの捕縛だ。正面戦闘は……」
「一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号、任せたぞ」
「先生待って! 数分間しか持たないからあまり意味ないかもしれませんが……」

 莉緒はヴィランに向かおうとする相澤を止めると、ペルソナをトランぺッターに変更しヒートライザを唱えた。

「先生のステータスを強化しました……無事に帰ってきてくださいね」
「ああ、ありがとな」

 相澤は莉緒の頭をくしゃくしゃと撫でると広場に飛び出して行く。ヴィランの“個性”を消し、捕縛武器で敵同士をぶつけて数を減らす。
 相澤が圧倒している間に生徒たちは13号に連れられ避難を始めるが、そこに黒い靄が現れ出入り口を塞がれてしまう。
 揺らめいていた靄が人の形をとると、話し始めた。

「初めまして。我々はヴィラン連合。せんえつながら、この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして。本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるハズ……ですが、何か変更があったのでしょうか? まぁ、それとは関係なく……私の役目はこれ」

 ヴィランが靄を広げて仕掛けてこようとするが、その前に爆豪と切島が飛び出し攻撃を与える。しかし、二人の攻撃は効いていなかった。

「二人とも避けて! そこは13号先生の攻撃線上!」

 莉緒が爆豪と切島に向かって叫んだ。
 13号は“個性”を使って黒い靄を吸い込もうとしていたのだが、二人が目の前に来てしまったため攻撃することができない。
 靄が莉緒たちに向かって広がり、包み込んだ。

「望月くん、こっちへ! 早く!」

 莉緒は飯田が引っ張ってくれたおかげで救かったが、数名の生徒はいなくなってしまった。

「飯田くん、ありがとう」
「当たり前だ! 皆は!? いるか!? 確認できるか!?」
「散り散りにはなっているがこの施設内にいる」

 障子が“個性”で仲間の気配を確認しているなか、莉緒は今この状況でできる解決策を考えていた。そして、そばにいた飯田の腕を掴む。

「飯田くん、行って!」
「望月くん何を!?」
「彼女の言う通りです……委員長!」
「は!!」
「君に託します。学校まで駆けてこの事を伝えて下さい」

 本来なら侵入者用の警報器があるがその警報は鳴らず、そして電話も圏外になっていた。相澤が広場で“個性”を消し回っているにも拘らず無作動なのは、それらを妨害可能な“個性”がいて即座に隠したのだろう。
 莉緒と13号は、それを見つけ出すより飯田が駆けた方が早いと判断したのだ。

「しかしクラスを置いていくなど委員長の風上にも……」
「行けって非常口!」

 渋る飯田を砂藤が急かす。

「外に出れば警報がある! だからこいつらはこん中だけで事を起こしてんだろう!?」
「外にさえ出られりゃ追っちゃこれねえよ! おまえの脚でモヤを振り切れ!」
「救う為に“個性”を使って下さい!」
「食堂の時みたくサポートなら私超できるから!」

 砂藤、瀬呂、13号、麗日に背中を押され飯田の表情が変わる。同時に足元が光り輝き、飯田は驚いたように莉緒を見た。

「望月くん、今のは……」
「ヒートライザ。飯田くんのステータス上げたから今ならもっと早く走れるよ。だからお願いね」

「手段がないとはいえ、敵前で策を語る阿保がいますか」
「バレても問題ないから語ったんでしょうが!」

 13号が黒い靄に向かって“個性”であるブラックホールを使った。しかし、黒い靄のワープゲートにより攻撃を背後に飛ばされ、自身の“個性”により13号の背中がチリとなって吸い込まれる。

「13号、災害救助で活躍するヒーロー。やはり戦闘経験は一般のヒーローに比べ半歩劣る。自分で自分をチリにしてしまった」
「「先生ー!」」
「飯田くん、走って! 早く!」

 一瞬、硬直してしまった飯田だが莉緒に言われ走り出す。
 応援を呼ばれると困るのか黒い靄が飯田に襲い掛かり、それを障子が阻止する。莉緒は13号のことを芦戸にお願いし、障子に加勢した。
 刀を振るって攻撃するも靄が散るだけで当たっていない。それでも攻撃を続けていると刀が何かに弾かれ高い音を出した。

「お茶子ちゃん、あれ! 刀が当たった!」
「莉緒ちゃん!? ……わかった!」

 莉緒は黒い靄が着ている部分を指さし、麗日に呼びかける。考えが伝わったのか、麗日は飯田を背後から襲うおうとしていた黒い靄の身体を掴み、“個性”を使って飛ばす。瀬呂がテープを貼り付けて行動を制限し、飯田はその隙にドアを開けUSJの外へ。

「応援を呼ばれる……ゲームオーバーだ。でも、その前に……」

 黒い靄が突如、莉緒に方へ向かって揺らめいた。

「莉緒ちゃん!?」
「望月!!」

 麗日や瀬呂が焦ったように声をかけるが、莉緒の体は暗闇に包まれていった。