「へぇ〜、安室さんねぇ。初めまして。その安室さんはこちらで何を?」
世那は思わぬ人物との再会に、表情がわずかに引きつった。
彼女は口角だけで笑いながら、嫌そうに降谷に問う。
「上の階にいらっしゃる毛利探偵に弟子入りしていまして、事件の合間にこちらでアルバイトをしてるんですよ」
「ふーん」
自分で聞いておきながら、世那は興味なさげに返事をする。
降谷の登場に反応したのは、世那だけではなかった。
「なに、世那先生の知り合い? イケメンじゃん」
釘崎は興味深そうにニヤニヤとしながら、世那と降谷を見比べる。
それに対し、世那は深いため息をついた。
「真人のやつを調べてるときに会ったのよ。ってか野薔薇は私より前から店にいたじゃん、今さら店員の顔見たの?」
「そのときは財布のことしか考えてなかったもん。ってか、世那先生もじゃん」
「私もあんたたちしか見てなかったわ……」
世那は気だるげにテーブルに頬杖をつくと、生気のない目で降谷を見上げる。
「はぁ、ここじゃなくていつもの銀座の寿司屋にでもすればよかったのに……。そしたらこんな面倒くさそうな――いや、厄介そうな……うーん、胡散臭そうな人と会うこともなかったのに」
随分な言い草に、安室の皮を被った降谷が青筋を立てているとも知らず、世那は言葉を続けた。
「もしかして悟の呪い? ねぇ、あんたたち。ちょっとあいつ祓ってきてよ」
「無理ですよ世那さん。相手、特級ですよ」
「てか世那先生、普段は一級だけど“卍解”ってやつ使えば特級になるんだろ?」
「私の術式は他の呪霊に影響を与えやすいから、限定霊印って言って術式を制限されてるの。卍解するためには夜蛾さんに限定解除申請して許可を得ないと無理なのよ。
「へー、そうなんだ」
世那は降谷だけでなく五条のことも扱き下ろしているが、それに異を唱える生徒はいない。むしろ、これくらいの扱いが丁度いいとでも思っているのか、当たり前のように世那の言葉を受け入れている。
「つーか、俺から聞いといて何だけどさ……世那先生、この人の前でそんなこと喋って平気なの?」
「いいわよ別に。どうせ
「おや。会って日が浅いのに、僕のことをよくわかっていただけてるようで嬉しいですね。この後、時間空いてますか? 僕、もう上がりなんです。わからないことが多くて、本業の方からお話を伺いたいと思ってたんですよ」
降谷のにこやかな笑顔と丁寧な言葉遣いに、世那は肌が粟立つのを感じた。
真人の件での降谷としての彼と、今の喫茶店の店員である安室透としての彼。その変わりように、うすら寒さを覚えた。
公安警察でありながら喫茶店で働き、別の顔と名前を使い分けている――それだけで、彼が抱えているものの重さが伝わってくる。あまりにも見事な別人ぶりに、世那は『この人も大変なんだな』と勝手に同情を抱く。とはいえ、自分に面倒が降りかかるのならば容赦なく振り払う。
「時間は空いてません。可愛い生徒たちとランチしに来てるのわかりませんか?」
「もちろん、あなたの可愛い生徒たちもご一緒で構いませんよ」
「遠慮してくださいって言ってるんです。ただでさえ人手不足で大変なのに、安室さんに割く時間はありません。用があるなら正式なルートでしてください」
世那は、面倒くさそうに手で払いのける仕草をした。
「ほら。安室さんは早くオーダー取って、私のために美味しいオムライスを作ってください」
「……ホォー、わかりました」
降谷の顔の筋肉がひきつっているが、世那は素知らぬふりで注文を続けた。
「何かこの人、五条先生に似てね?」
「胡散臭いところとかな。世那さんが苦手なのもわかるな」
「イケメンなのにウザいところもね」
虎杖たちは小声でやり取りをしているが、その声は降谷にもばっちりと届いている。
『この先生にして、この生徒ありだな』と降谷に思われているとは知らず、虎杖たちは会話を続けていた。
世那と降谷――第一印象が最悪な二人の関係は、さらに悪化したのだった。