回廊からは三人のご家族が青い芝生の上をゆっくりと横切って行かれるのが見えた。たっぷりしたローズピンクのドレスを着た奥様、あやされながら抱かれるまだ首もすわらない幼子。その少し後を附いていくカルト様。

隠そうともせず、いや隠す必要など無いのだ。教育方針の決定はもはや覆らなかった。それだから奥様は慈悲の表明として晴れた日の同刻にはカルト様を伴い、時間をかけて北の邸の庭園をひと回りする。ナマエ様の視線を止むことのない雨のように受けながら。

定期報告は受けておられるのだからお身体の具合に問題ないことは承知しているだろう。しかし動物がその子を取り上げられて悲しがるのと全く同じ静けさで、日ごと回廊の下の庭に現れる小さな庭の影を見つめるさまは、同年齢かつ共感値の高い人員として、そうしてだからこそ若奥様のお世話を任じられた私から見れば単純に痛ましかった。少々痛ましすぎた。無論、われわれ執事とご家族とは全てにおいて別格の存在であるという前提は頭と体に刻み込まれているものの、ナマエ様に関しては皆がそうと考えている訳ではなかった。況してや感じている訳でもなかった。

他のご家族、とりわけ彼女の夫君のような無情や威厳をもたず、身につけようともせず、ただ私のような者を頼りにするナマエ様の小鳥のようなお姿には絆されてしまいそうになる。私はそのために生まれた親愛を不敬と捉えられ、一線を超えたとして処刑された者がすでに三人居ることをよくよく言い聞かされた上でこの役に就いた。だから慰めの言葉をかけることもなかった。ただここにいて悲しみを眺めることが私の仕事だった。しかし私は彼女と共にいた。
最も幸福でありそれゆえに烈しい悲嘆をともなうはずのこの十数分を、ひとりで過ごされようとはしなかった。彼女は私に退出を命じなかった。事実としてナマエ様は私という執事の存在を望まれたのだと内心にささやかな誇りをもてば、イルミ様のあの眼差しが脳裡を睨めつけていった。

この習慣が始まってから数週間になる。ナマエ様が涙を流したことは一度もなかった。しかし時間が始まればひたすらに息を詰めておられた。彼女はすでに諦めを覚えてしまっていた。したがってこれみよがしに悲しみを見せることはなかったけれど嘆息できるほどの余裕はまだ持てないようだった。徐々に見えなくなっていく自らの子の姿を最後まで追う横顔はしんとして青褪めていた。
ナマエ様は謁見──これが慈悲の時間の正式な呼称だった──が終わっても直ぐ部屋に戻ろうとはせず、想像の中にある何かを見つめるように茫としたまま窓の外を眺めていた。冷えた暗いこの回廊でわれわれ二人のすべてが薄闇に溶け込む。一瞬その輪郭を失う。二人とも石像のように動かなかった。夜に向けて灯された光の下に新しい影ができるまで。

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