一松と十四松が家を出てから30分も立たないうちに戻ってきた。


「たっだいま〜!」

「おかえり〜……って、ぇえ!!女の子!?しかもお姫様抱っこ!?」

僕は驚いた。
だってコミュ障の一松が女の子抱きしめて帰ってくるんだから。



“なまえの家に行く”

と言って2人が出て行ったのだから、この子が例のなまえちゃんに違いない。



「“プリンセスの騎士(ナイト)”という称号を我が弟に授けようではないか」



ぇえ〜!!ちょっと待って!!いつの間にカラ松バスローブに着替えたの!?

なまえちゃんビビっちゃってるし!!




「なまえちゃん、久し振り♪高2の時同クラだったトド松だよっ!覚えてる?」

「俺は3年の時一緒だったおそ松!」



「は、初めましてチョロ松です」


うわーっ、よく見たら超美人っ!

いきなり連れて来られて今はキョドってるけどこんな子に笑顔向けられたらたまんねーーっ!!



「チョロ松兄さん、鼻の下伸びてるよ」


はっ!しまった!!
ついうっかり……って、後ろの一松チョー怖ぇえよ!!




「ま、そんな硬くならずに、ゆっくりしてってよ!」

流石おそ松兄さん!
女の子が来てもエロ本読む手を全く止めない。

ブレないね!!



他の兄弟達もポーカーの続きをしたり、鏡とにらめっこしたり。

連れて来た当の本人、一松なんてなまえちゃん放ってネコと戯れ出す始末。



かく言う僕も、なまえちゃんと接点がなかった為話し掛けにくいんだけどね。


つい口が滑って家に来た経緯とか、なんでAVやってんの?とか言ったらもう人生アウトな気がする……



『あの……そろそろ、』

なまえちゃんがそう言って腰を上げると、今までなまえちゃんに背を向けていた一松が彼女を見ずに手を伸ばしてきた。

一松背中に目でもあるの……?



その手はなまえちゃんのか細い手首を掴んでいて。


「帰ってどうすんの?」

『私なら大丈夫だから』

「だいじょばないでしょ、まだ居るよアイツ」


そういえば彼女、口元やまぶたが少しアザになっている。


『でも帰らないと、皆さんの迷惑になるし』

「誰が迷惑だなんて言ったの?」

「そーだよ♪泊まってっちゃいなよ!」


いいぞトド松!

やっぱり彼女は訳アリなんだな――


「今宵俺たちが出逢えた奇跡を……共にワインで乾杯しないか?」

「触んなクソ松、殺すぞクソ松」


あちゃー、カラ松。
流石にアゴクイはまずいっしょ。


「ニート達、母さん買い物行くけど夕飯食べたいものある?」

「肉ーっ!」
「お刺身ーっ!」
「はいはいははいはーい!!いいっすかいいっすか!?」

「……えーっと、」
「十四松です!」


母さん!?
二十数年間六つ子の母親やってきてまだ区別付かないの!?



「俺、イナゴ食いたい!!」
「……保留ね」


保留って何!?却下でしょ!
母さん、平成の世でイナゴは流石にないよーーっ!!


「あら、珍しいわね?女の子がうちに居るなんて」

『お、お邪魔しています』

「夕飯食べてく?」


「あ、コイツ一生居るから」



っオーイ!!一松ぅうう??
ドン引きだから、彼女ドン引きしてっから!




「まぁ!私ず〜〜〜っと女の子欲しかったのよぉ」

ここにきてそんなカミングアウトある!?
男6人!悪かったね!!


『いや、あの…』

「だったら生活用品買いに行かなきゃね♪行ってきまぁ〜す!」


「「「い、いってらっしゃ〜い……」」」





楽になれる此方側、ずっと苦しむ彼方側





買い物から戻ってくるとなまえちゃんはいくらか安堵した表情を見せた。

言いくるめられたのか、納得したのかわからない。


それでも素直に夕飯の席に着き、団欒に混ざっている。


母さんめちゃくちゃ嬉しかったんだろうな、我が家は久し振りのすき焼きで僕たちは霜降り肉を取り合った。


その様子を見て、なまえちゃんは笑った。


微笑んでいた、と言った方がいい位僅かな違いだがそれには向かいに座っていた一松も気付いたようだ。


「……なまえ、なくなるから食え」

『――!うん、ありがとう』


彼女は此方側を選んだようだ。


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