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 この間オンボロ寮で天麩羅パーティーをした事が、ジャックくんを除く他のマブ達にもバレてしまったようで、朝から随分とブーイングを頂く羽目になった。何でもユウちゃんがポロっと溢してしまい、そのままジャックくんが参加していた事もバレたらしい。何で自分達は呼んでくれなかったのだ、と臍を曲げるトラッポラくんに、そうだぞ、と同意するスペードくん、ウィルさんに怒られるのを覚悟で僕も行きたかった、と落ち込むフェルミエくん、そして、またジャックばかり、と不貞腐れるセベクくん。
 助けてりっちゃん、とマブのブーイングには悉く弱いユウちゃんのヘルプを受けて、今度の週末に急遽マブでのお泊り会が実施される事となった。会場は当然ながらオンボロ寮。初めは各寮長を中心に、レディのいる寮に泊まるなんて、とジェントルマンらしい難色を示す声が上がったそうだが、ユウちゃんがお泊り会楽しみ、と周囲に溢していたのを聞いた途端、手のひらを百八十度回転させたらしい。可愛い女の子の可愛い楽しみを潰すのは野暮、と各寮で満場一致となったそうだ。

 「そういう訳なんで。私とジャックくんの外泊届をお願いします。」
 「…ちなみに、ディナーのメニューは?」
 「それ聞いてどうするんですか?来ても入れないですし、出しませんよ。」
 「ッチ。」

 キングスカラー寮長を捕まえて外泊届へのサインを求めれば、不満そうな様子で、また一年坊主共だけ良い思いしやがって、と捨てセリフのようなものを吐いてから、大人しく届に受領サインをしてくれた。マブ達が美味しい思いをするのは腹立たしいが、何だかんだ妹分のように可愛がっているユウちゃんの楽しみを潰したくないと、この人も他の寮長と同じ考えのようだ。まあ、だからと言ってお裾分けする事も何もないのだが。一度甘やかすと定番化しそうだし。
 物欲しげに物陰からクルクルと咽喉を鳴らすブッチ先輩の事も華麗にスルーし、走り込みから帰ってきたジャックくんへ、今し方サインをもらった外泊届の控えを渡す。何が食べたいか試しに聞いてみたところ、ジャックくんが答える前に物陰と背後から、肉、と声を揃えて返答が来た。アンタ等には聞いていない。


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 フロイド先輩がたこ焼き好きだって聞いたから、この間モストロラウンジで少しお裾分けしてもらう事になったんだけど、私が想像していたたこ焼きじゃない、まんま蛸を焼いたものが出てきて悲しかったので今度こそちゃんとたこ焼きが食べたいです。ノンブレスでそう言ったユウちゃんの眼がまたハイライトを迷子にさせていたので、お泊り会初日のディナーはたこ焼きに決定した。私の知っているたこ焼きとも違ったら怖いから念のため確認したところ、無事同じものだと確認が取れたので、早速購買部へ足を運ぶ。たこ焼きをするにしても、肝心のたこ焼き器が無かったのだ。

 「という事で、こんな形状の鉄板、出来れば銅板とかありますか?」
 「インストックナウ!こんなこともあるかと、極東の地域から取り寄せてあるよ。」

 どういう用途で使うのかわからなかったけれど、具材を丸めて焼く料理があるんだね、といつもの営業スマイルで、一度に三十二個焼ける銅板のたこ焼き器を取り出すサムさんに、お礼を伝えて二枚購入し、ついでにサイズの合う卓上の魔導コンロも購入した。今度たこ焼きをお裾分けする事を条件に、格安の値段で手に入ったのは有難い。ユウちゃんと折半して購入する事になっていたが、それでも安いに越した事は無い。
 無事にたこ焼き器も手に入った事をチャットで報告すれば、涙を流して土下座するスタンプがユウちゃんから大量に送られてきた。そんなに食べたかったのか、たこ焼き。


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 そうしてお泊り会当日。各々着替えやらパーティーゲームグッズやら、お泊りセットを持参して部活終了後にオンボロ寮へと集合した。これから二泊三日のお泊り会のスタートである。普段はグリムくんと寮に住み着いているゴースト達と過ごしているユウちゃんは、話し相手が増えた事に先程からずっとニコニコと嬉しそうに笑っている。確かにこの辺鄙な寮で一人と一匹と三体(と数えるのが正しいのか不明だが)だけでは、寂しさもあるだろう。年頃の女の子ともなれば余計に。
 何はともあれ、部活終わりで腹ペコなマブ達の要望に応え、早速たこ焼き製作にとりかかる事となった。蛸だけでは面白くなかろうと、グリムくんの好きなツナ、安かった鶏の挽肉を甘辛く炒めたもの、サーモンとチーズも具材として用意した。先ずはスタンダードに蛸を入れて、どんどんと整形して返していく。ピックで丸めていく独特の調理法が、マブ達には新鮮な光景だったようで、先程から返すたびに、おおぉ、と歓声が上がっている。

 「何これ、どうやってんの?」
 「僕もやってみていいか?」
 「いいよ。」
 「わーも!わーもやってみたい!」

 興味を示したスペードくんとフェルミエくんにそれぞれピックを渡し、返し方について実演を交えて説明する。しかし、理解する事と出来る事は別物のようで、上手く返せずぐちゃぐちゃになる生地に、二人は早々に白旗を降った。ある程度形が崩れても最終的に丸まってくれるのがたこ焼きの良いところなので、気にせず何度か返して修復していけば、それに対してもまた歓声が上がった。
 銅板のお蔭で熱伝導も早く、あっという間に完成したたこ焼きを皿に盛ってユウちゃんに手渡せば、綺麗にソースとマヨネーズを柵状にかけて鰹節と青のりを塗す一連の流れに、再び上がる歓声。トラッポラくんなんて焼く段階から動画を撮っていたらしく、それを早速SNSことマジカメにアップしていた。

 「やべぇ。即座に良いね付きまくるし、ケイト先輩とフロイド先輩、それにジャミル先輩から詳細教えろってめちゃくちゃ催促入ってくる。」
 「ケイト先輩とジャミル先輩は何となくわかるけど、何でフロイド先輩?」
 「『これぞ本当のたこ焼き』ってコメント入れたからだと思う。」
 「成程ね。私の方にもチャット飛んで来たわ。」

 トラッポラくんとユウちゃんの会話を聞き流しつつ、第二陣として今度はツナ、挽肉を半分ずつ焼いていく。火が通るのを待つ間に、先程完成したたこ焼きを幾つか分けてもらい、半分に割って熱を逃しながら一口。外側はカリッと、中はトロッとした食感に、我ながらいい出来だと、内心で自画自賛していると、グリムくんの語彙力が高い食レポが披露された。それも動画に収めたらしいトラッポラくんが、先程の投稿の続きとしてマジカメにアップしたところ、爆発的に先程の動画の閲覧数と評価数が伸びたらしい。天才的な食レポは、マジカメをバズらせるようだ。

 「やべー。フロイド先輩が今からこっち来るっていうんだけど。」
 「今オンボロ寮にはツノ太郎の有難い加護が掛かっているから、来ても勝手に入れないし、無断で侵入しようとしたら雷落ちるよって伝えておいて。」
 「待って、何その防犯機能…めちゃくちゃ怖いんですけど?」
 「あ、マブは無条件でオーケーにしているから、いつでも好きなタイミングで入れるよ!でもそれに同伴したマブじゃない人には雷が落ちるよ!」
 「怖い。機能も怖いけど、そんなヤバいもんをホイホイ渡すツノタロー?も怖い。」
 「そもそもツノタロウだれ。」
 「ディアソムニアの角の人。名前教えてくれなくて、好きに呼べって言ったから、グリム命名でツノタロウって呼んでる。」
 「んなっ!?」
 「それってドラコニア寮長では?」
 「はぁぁ!?あのマレウス・ドラコニア寮長をツノタロウ呼び!?」

 驚愕に固まるマブ達の声に混ざり、外からヒギャァッ、と汚い悲鳴が聞こえてきて、一時シンと室内が静まる。顔を合わせたジャックくんとセベクくんがそっと窓から外の様子を伺ったところ、どこからともなく落ちてきた雷に打たれて黒焦げになった学園長の姿があったんだとか。学園長マジカメやってんのかよ、というトラッポラくんのツッコミだけが虚しく室内に響いた。
 余談だが、学園長ともあろう人間がレディの暮らす寮に無断で侵入しようとしていましたよ、とクルーウェル先生へ報告したところ、あのクソ鴉今度こそ焼く、と返ってきたので、既に外で雷に打たれて黒焦げになっています、と追加で報告しておいた。その後、外から、クロウリイイイィィィ!!!という叫び声が聞こえたので、無事回収されていったのだろう。その頃にはマブ達も再びたこ焼きパーティーを楽しんでいたので、完全に蚊帳の外の出来事である。