あんな女優にだって負けないわ

 新年早々、豪華な出演者で送られる特別番組。ガラル地方の放送局から全地方にて放送されているその特番を始まりと同時に観賞していた視聴者は、CMが明けるなり急に始まっていた食事シーンに一瞬衝撃を受けた。進行役としてMCを受け持っていたガラルで人気の芸能人も、突然の食事タイムにツッコミを入れつつ場を盛り上げている。
 雑煮と呼ばれた煮込み料理はガラルでは馴染みが無く、ゲスト出演となっているカントー、ジョウト組の中で一番しっかり者のワタルの口から、雑煮に関する簡単な説明を聞いた、同じく馴染みの無い別地方の視聴者を中心に、美味しそう、やら、食べてみたい、やらのコメントが寄せられる。生中継特有のSNSと連動したそのコメントを早速読み上げたMCは、ワタルへと作り方等、雑煮に関する更なる質問を投げかけた。

 『ミソと言えば、確かカントー地方やジョウト地方でよく使われる調味料でしたよね?作り方などはご存知でしょうか?』
 『あー…。味噌は大豆と呼ばれる豆を、麹という菌と一緒に発酵させたものでして。地域や家庭なんかで味や色などが変わったりします。今回のはジョウト地方でよく食べられる白味噌を使ったスープですね。そこに餅や根菜類を入れて煮込むスープを『雑煮』と呼び、新年に良く食べられる郷土料理です。』
 『なるほどぉ!因みにワタルさんは、お料理なんかは普段されるんですか?』
 『お恥ずかしながら、料理はからきしで。主に食べる専門です。』
 『まあ、めちゃくちゃカンペ丸読みしてたから、お察しだよな。』
 『そういうグリーン君だって殆ど料理しないじゃないっスか。』
 『このメンバーの中なら一番出来ますぅ。』

 軽い茶々を挟みながら場の盛り上げに貢献するグリーンやゴールドに対し、元から口数の少なかったレッドと、食べ盛りのユウリは黙々とお椀の中の消費に勤しんでおり、放送中ですよ、とMCからツッコミを喰らう。それにスタッフ陣からも笑い声が上がり、視聴者がリアルタイムで投稿するコメント欄にも、ガチ食い勢w、やら、ホシガリスみたいに頬っぺた膨らませるユウリちゃん可愛すぎ、等と言った内容が送られていた。
 即席で雑煮に関するカンペを作成したユウも、これ以上食事シーンで番組が滞るのは申し訳ないと、お代わりしようとするレッドの手を画面外から叩き、さっさと持ち場へと戻らせる。余った残りは、まだまだ食べられそうなグリムや、結局増量するために食べられなかった彼女で消費するつもりだ。

 『レッドさん、お代わりしようとして怒られましたね。』
 『まだ食べられたのに…』
 『いや、この後ずっと食べてるのかよ。』
 『一緒に便乗した俺等が言うの何スけど、食べすぎっスよ。元々お零れ貰っただけなンスから。』
 『そうなんですよね!実はこのお雑煮、セキエイリーグのスタッフさんが作られたもので、当初は食事シーン入る予定は無かったんです!ほら、さっさと次に行きますよ!』

 突然前振りもなく食事シーンに入った理由をざっくりと説明したMCが、軌道修正と言わんばかりに手を軽く叩いて、当初の予定だったコーナータイトルを読み上げる。その後ろで、食べ終えたお椀を戻すワタルと、それを受け取る為に画面端に手元だけほんの少し映ったユウの手を見逃さなかった一部の視聴者が、番組公式コメントや自身のSNSアカウントから、セキエイリーグのスタッフって、もしや番様では?と言った投稿を残した為、予期せぬところで、またこのドラゴン夫婦(仮)が大バズりする事となった。


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