北東の町、シオンタウン。死んでしまったポケモンを供養する塔、ポケモンタワーがあるこの町は、死という概念に身近に接しているためか、住民たちの態度が固く、旅のトレーナーたちも滅多に寄り付かない。そのことを先に知っていたボクは、シオンタウンでは新しい情報を望めないだろうと考え、雨が降りしきる中町を通り過ぎて道路を歩いていた。
「それにしても、すごい雨だなあ」
バッグの中から折りたたみ傘を取り出し、なるべく水たまりを避けて歩く。雨の音自体は嫌いではないが、こう強く降られてしまえば服は濡れるし湿気で髪は纏まらないし、嫌なことばかりだと多少げんなりしてしまう。
段々と暗く染まる脳内を、頭を振ってなんとか切り替える。楽しいことを考えよう。例えば、今後会うポケモンのこととか。どんな子でも可愛いだろうけれど、次は美人さんに会ってみたい。そんな風に思考を切り替えようとした矢先、どんと強い衝撃がボクを襲った。次いで傘を持っていた方の腕が強く引っ張られ、体が斜めに傾く。
「ちょ、な、なに!?」
目を白黒させて突然の侵入者に目をやれば、数日前も見た真っ黒の服がまず目に入る。ああ、と侵入者──ブルーを認識すれば、青い双眼がきゅっと細められ、口元には笑みが浮かんでいた。
「パープル!こんなところで会えるなんて、これは幸運かしら?」
「キミ、ボクだと分かって突撃してきたでしょ」
「アラ、失礼しちゃうわ」
数日前の涙は幻だったのかと思うほど綺麗な笑みを浮かべるブルーに、ボクは肩を竦めた。
「アタシ、傘持ってないのよ」
「あんなにインチキ道具は持ってたのに?」
「あれで荷物がいっぱいなの。だから雨が止むまでお邪魔するわね」
「……別にいいよ。風邪引いたら大変だろうし」
「!……うふふ、優しいのね」
二人で入るには少し小さい傘を、見るからに寒そうな格好をしているブルーの方に傾ける。肩や足が少し濡れてしまうけれど、女の子に風邪をひかせる訳にはいかないので、仕方ない。
「パープル?」
「……なんでもないよ」
「ふぅん、そう」
ボクにだって一応プライドがある。ブルーもそれを汲み取ってくれたのか、ボクの雨に晒され続ける肩を見ても、ただ黙って笑うだけだった。若干の羞恥心を感じながら、それを吹き飛ばすためにわざとらしく咳き込んで、ボクは話題を変える。
「ねえ、そういえば、」
「なあに?」
「ブルーって何歳?見たところ、そんなに違わないってボクは思うんだけど……」
「今年で十一よ。パープルは?」
「ボクも今年で十一。へえ、同い年なんだ」
「そうだったのね」
「ブルーは大人っぽいから、ボクよりも年上だと思ってた」
ふと思い出して尋ねてみると、返ってきた答えに少しばかり吃驚した。同じくらいだろう、とは思っていたけど。一つか二つはブルーの方が年上だとも思っていたのだ。その予想はあっさりと覆されて、六年前、彼女は誘拐された当時ボクと同じただの五歳の女の子であったことを、思い知る。
「……ブルー、これあげる」
「なあに?」
同い年の女の子。六年前から家族と会えていない女の子。それに何より、ボクの大切な妹を守ってくれていた女の子。ブルーに対する様々な感情が体の内側で混ざり合って、気が付くとボクはバッグの中に手を突っ込んでいた。そしてそのまま少し前に自動販売機で買ったばかりの缶ジュースを引っ張り出すと、彼女に差し出す。
「つめたい……」
「ボクが小さい頃から好きなジュースだよ。キミが好きかどうかは分からないけど……」
「え、好きなものなの?……どうして?」
きょとんとした顔のまま差し出されたジュースを受け取ったブルーは、手の内にあるジュースを暫し見つめたかと思うと、今度は心底不思議そうにボクを見上げた。
海のような青い瞳は不安げに揺れていて、当然の事なのだろうけど、その表情から彼女が人からの好意に慣れていないのだと簡単に見て取れた。ボクは若干考え込むように唸って、それからどう答えても結局言い訳のようにしかならないなあと気がついてしまったので、思った通りのことを言葉にする。
「今年のキミへの、誕生日プレゼント」
「……プレゼント?」
「うん。キミにはスピネルが本当にお世話になったし、この間色々教えてくれたし……お礼、かな」
「……お世話になったって、それ……」
「いいんだよ。ボクがキミにプレゼントをあげたかっただけでもあるし。ボクの自己満足。嫌いな味だったら捨てたっていいから」
「ふうん。……ふふ、そこまで言うならしょうがないわね。本当はジュース一本で満足するような安い女じゃないけど……今年は、これで満足してあげる!」
ブルーはボクを見て、にこりと笑った。その表情は美しい花のようで、思わず見惚れてしまう。しかし。
「今年は……って来年はせびるつもり!?」
「せびるなんて失礼ね!これからもパープルの自己満足に付き合ってあげるって言ってるのよ!」
20180118
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