「あーら、こんなか弱い子ども2人に、ずいぶん大げさなことね、ロケット団のみなさん」

 ブルーがレッドをインチキ商品で騙し、気を失うほどのキツイ仕返しを受けたその翌日。ボクは昨日、倒れていたブルーが突然目を覚まして「明日もここでアタシと会ってほしいの!」と強引に約束を取り付けてきたので、ひしひしと感じる嫌な予感から逃げようとしたのだが敢え無く彼女に捕まり、気がつくと開けた場所まで引き摺られていた。
 そして、今。ボクとブルーの二人をぐるっと囲んでいるのは揃いの黒い衣装を着たロケット団の団員たち。しかも、何やらロケット団たちはブルーを探していたらしい。彼らは一斉にボールを投げてポケモンを外に出すとブルーにミュウ、というものを記録したディスクを渡せと迫ってくるが、ブルーは余裕綽々といった態度で恐らく相手の目当てのものであるディスクを自らのカメールに咥えさせると、ボクの身体を引き寄せた。

「な……なんてことを!」
「あんまり強力な攻撃だと、ディスクが壊れちゃうかもね」

 ブルーは相手を馬鹿にするような声色でそう言うと、更に「それでもいいならかかっていらっしゃいな」と言葉を重ねた。ロケット団は悔しさからぐっと歯を食いしばると、ポケモンたちにディスクを傷つけぬように、けれどブルーのカメールに向かって一斉攻撃の指示を出した。その言葉通り、前からはカイリキーが、後ろからはサワムラーが攻撃を仕掛けてきたが、素早さの感じられないその攻撃をカメールは軽々とかわして見せる。かわされた二体はお互いの攻撃を受け合い、地面に倒れ伏してしまった。

「フフッ!ディスクを気にして、本気を出せないのかしら。悪いわあ」

 言葉と共に、ブルーは左耳の近くの髪をかきあげる。その下から、ちかっと光るジムバッジが姿を現した。

「でも、トレーナーバッジを2つも持ってるあたしに挑戦しようなんて、ちょっと身の程知らずってこともあるわね」

 どこかで──というより、つい昨日に聞いたことのあるような台詞とともにブルーはバッジを見せつける。ボクはてっきり彼女はポケモンバトルにはそこまで興味のない人物だと思っていたけれど、バッジ所持者ということは彼女もレッドと同じくポケモンバトルが好きなのだろうか。確かに、彼女のカメールはかなりレベルが高いように見えるけれども。

「ぐ……ぬ。手加減していればつけあがりやがって……。だが、コイツの攻撃は特別だ!!」

 ロケット団が新たなボールからポケモンを出す。中から出てきたポケモンは凶悪な目つきをしており、尻尾で自らの身体を数度叩くとカイリキーとサワムラーの二体が体を起こした。そして、一際強く体を叩いた瞬間、ポケモンたちが襲い掛かってきた。

「あ!」

 数体から一斉に襲われたカメールは呆気なくディスクから口を離してしまう。ブルーは慌ててカメールをボールに戻して選手交代図るが、出てきたポケモンは何と言ったらいいのか、あまり戦闘向きのポケモンには見えず、ロケット団たちが下卑た笑い声をあげた。

「お、お願い、ディディ!」

 ボクも慌ててディディをボールから出すが、相手のポケモンはロケット団の指示の元、勢いよくこちらへと突っ込んでくる。

「ディディ、スピードスターで相手の勢いを止めて!」

 ボクの指示通り、ディディがスピードスターを放つ。煌々たら星々が相手の四肢へ突き刺さり、その痛みに一瞬相手の勢いは削がれるが、しかしそれでも決して相手のポケモンは止まりはしなかった。
 どう考えてもこのままでは不味い。ディディの技をもってしても相手は止まらなかったし、ブルーのポケモンが反撃に転じる様子は見えない。

「っ、危ない!」

 痛みを覚悟してブルーの腕を引っ張り、その身体を抱き締めると相手のポケモンへと背を向ける。けれど、相手のポケモンがボク達にぶつかるよりも先に、何者かがボクとブルーに覆いかぶさってきた。ボクとブルーは押されるがままに地面に倒れ込み、何かが崖下へ落ちていく音だけが聞こえてくる。

「あら!あなた……」
「れ、レッド!?」

 上から人が退くのを感じて、ボクは身体を起こす。そこでようやく覆いかぶさり、助けてくれた人物を知ることが出来た。

「ど、どうしてここに……?」
「もしかして、助けに来てくれたの?うれしいわ」
「冗談言ってる場合かよ!おまえのポケモン、落ちちまったぞ」
「え、お、落ちたのってブルーのポケモンなの!?」

 助けてくれた人物──レッドが憤慨した様子で崖下を指さし衝撃の事実を口にするが、レッドの応答よりも先に相手のポケモンが地面を激しく蹴る音が会話を遮った。ボクは何故レッドがここにいるのか、どうしてロケット団の制服を着ているのかも利きたかったのだが、この状況ではそうも言ってられないだろう。

「フ……このくらいの段差なら、ケンタロスはどうってことあるまい」

 ニッと笑みを深めたロケット団がボクらを追い詰める。そして、再び攻撃の指示を出そうとしたところで、相手のポケモンはくるりと後ろを振り向いた。そのまま、先ほどと同じく尻尾で強く自身の身体を打つ。
 
「!?」
「……な、なぜ我々に!?」

 身体を叩く尻尾の音に従い、ロケット団のポケモンたちはロケット団を追い回し、次々となぎ倒していく。レッドもボクも、何が起きたのか分からずに目を白黒させていると、ブルーがボクらの腕を引っ張った。それに気がついた一人の団員の視線がレッドを捉え、大声を上げる。

「お……お、オイ!おまえ、なにしてる!はやくそいつらを倒さんか!!」

 どうやらロケット団は未だレッドのことを仲間だと思い込んでいるようで、ブルーはそれに気がつくと一層強い力で素早くレッドの身体を引き寄せた。

「ブブーッ、残念でした。この人はアタシの……、ダーリンでーす!」
「ぼ、ボクはそういうのには無関係です……」

 レッドがロケット団の衣装を剥ぎ取られ、代わりに見慣れた赤い服装へと戻る。同時に一番近くにいたロケット団員の顎にサワムラーの足が強かに打ち付けられ、その隙にブルーは再びボールから別のポケモンを出した。現れたまるまるとしたピンク色の可愛らしいポケモンは、みるみるうちに大きく膨らんでいく。

「そういうことなの、バイバーイ!」
「オ、オイちょっと……」

 ブルーはレッドを抱え込むとピンクのポケモンの足に素早く掴まった。ふわ、と二人の身体が浮き、取り残されたボクは思わず「え!?」と声を上げてしまう。

「ちょ、ちょっとブルー、ボクは!?」
「もういいわよ!パープルをお願い!」
「え!?」

 ブルーが地面に向かって叫ぶと、暴れ狂うポケモンたちの中心にいた一体のポケモンが姿を変えていく。やがてそれはブルーが掴まっているのと同じピンク色のポケモンへと変化すると、ふわりと浮き上がった。

「早く掴まって、パープル!」
「わ、分かった!」

 実際はなにも分かっていないのだけれど、咄嗟にディディをボールに戻してブルーに返事をすると、急いで地面を強い力で蹴り上げ、やや浮き上がったポケモンの足へとしがみつく。そのままボクの身体も二人と同様に空へと浮かび、地面が遠くなっていった。

「ぶ、ブルー、この子は……?」
「その子はアタシのメタちゃん!なんにでも変身できちゃうのよ」
「変身って……もしかして……」
「そ!さっき落ちたのはロケット団のポケモン。あのときメタちゃんは変身して入れ替わったのよ」
「はあ……やるなあ……」
「ウフフ、アタシのメタちゃんは変身自由自在なのよ!」

 ブルーの晴れやかな笑顔を見てボクは心配して損した、と思うことしか出来ないのだった。

20180206
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