メタちゃんの力を借りてナツメに変装したブルーと廊下を歩く。ブルーには目当てのものがあるようで、その足取りに迷いはない。
 ここに来るまで何度かロケット団の下っ端と遭遇したけれど、ボクが物陰に身を隠している間にナツメに扮したブルーが厳しい言葉を浴びせれば逃げるようにその場を去って行くので、ボク達の歩みを阻むものは何もない。
 ボクの想像通りロケット団がなにかよからぬことを企んでいること、そのためにマサラタウンの住民を全員攫ったことをロケット団の下っ端達は囁き合っていた。ポケモンを使って悪事を為そうとしていることも、なんの関係もないマサラタウンの人々を巻き込んだことも、全部が許せない。腹の底に怒りが溜まるのを感じながら、ボクはブルーの後ろを歩いていた。
 また前方に二人、黒い団服の後姿が見える。「マチスとキョウというロケット団がやられたこと」、「部屋の中にあるのはトレーナーバッジのエネルギー増幅装置であること」、ロケット団の下っ端が知っている情報を一通り聞き終えると、ブルーはボクに隠れているように言い、自分はつかつかとわざとらしくヒールの音を響かせながら団員に近寄った。

「なにをしている!」

 ブルーの鋭い声が前方の団員二人の背中に向かって飛ぶ。慌てた様子でロケット団の二人は振り返った。「子ども二人が逃げて来なかったか?」ブルーがロケット団を問いただす。

「イイエ!」

 二人は背筋を伸ばし、ブルーの問いに答えた。すると、ブルーは不機嫌そうに表情を歪めて「この階の警備は良い!下へ行け!」とロケット団に命じる。目の前にいるナツメが偽物であることを知る由もないロケット団二人は、ブルーの指示通りキビキビと階段を下っていった。

「これで暫くは大丈夫よ」
「ありがとう。ところで、結局ブルーの目的ってなんなわけ?」
「ヒミツよ、ヒミツ!」
「えぇ〜……」

 軽く答えて見せたブルーは、さっきまでロケット団二人が警備していた部屋の中へ入っていく。ボクもブルーに続いて中に入ると、中は薄暗く、台座が一つあるだけで他にはなにも見当たらない。さらに奥を見てみようと足を踏み入れたところで、カタと何か固いものが床に当たった音がした。素早く反応したブルーが音がした方向を睨みつける。

「ム!誰かいるのか!」
「こ……こうなりゃ攻撃だ!ピカ!」

 台座の影から人──レッドとピカが飛び出してくる。真っ直ぐにブルーに向かってきたピカは、はじめのうちは好戦的な表情をしていたものの、ブルーの足元に降り立つと甘えるようにブルーに擦り寄る。

「!? ど……どうしたピカ」
「レッド!ボクだよ!」
「パープル!?な、なんでお前がロケット団と……!」
「かわいい子だこと、攻撃すべき相手ではないと知っている」

 目を白黒させているレッドを他所に、屈みこみピカの頬を指先で優しく撫でるブルー。そしてブルーが次に目を付けたのはレッドが抱えている謎の機械──恐らく、先ほど下っ端が言っていたトレーナーバッジのエネルギー増幅装置だろう──だった。一方のレッドは、一向に攻撃態勢に移らないピカとナツメの隣にいるボクとを見比べては慌てふためいている。
 取り敢えず、このナツメはメタちゃんの力を借りて変装しているブルーだということを説明しようとしたところで、後ろにいたブルーがボクの肩を掴んだ。

「話せば長くなるんだけど……」
「おや!?その機会を発見したか」
「ちょ、ちょっと……!」

 事情を説明しようとしたところで、グイグイとブルーがボクを押しのけてくる。今話してるんだけど、と文句を言おうとしたところで、ブルーの表情がどろりと溶けた。「ヒッ」、と思わず怯えた声が喉から出る。

「ねぇ、レッド」

 伸ばされる指先。溶けだしたナツメの顔。

「うわああ!?」

 それがブルーにはりついていたメタちゃんだ、とボクが気づいたのも吃驚したあとなのだから、何も事情を知らないレッドが悲鳴をあげるのは当然のことなわけで。
説明が間に合わなくてゴメン、レッド。
 青い顔で腰を抜かしたレッドを見てそう思った。



 それからしばらくして、ようやく落ち着いたレッドとボク達は情報交換を始めた。
 ボクとブルーはさっきまで下の階でナツメと戦っていたこと、そしてブルーはブルーの目的で動いていることを話し、レッドはここに来る前に下の階でグリーンとともにロケット団の幹部と戦ったこと、グリーンは家族とマサラタウンの住民を助けに地下に向かったこと、やはりロケット団はなにか良からぬことを企んでいるらしいことを教えてくれた。
 レッドの言う通り、ロケット団がなにか良からぬことを考えているならば、止めなければいけない。そうは思うものの、建物の中はあっちもこっちもロケット団の下っ端ばかりで、ロケット団の企てを潰すにもこのまま突き進んでいれば、それよりも先にこちらが疲弊しきってしまいそうだ。そう考えて、これからどうするべきか決めあぐねていると、不意にブルーがポケットからバッジを取り出した。ブルー曰く、それは”ゴールドバッジ”というらしく、先程ナツメから掠め取ってきたものらしい。

「く……くれよブルー!」

 ゴールドバッジを見たレッドは目の色を変え、前のめりになりながらブルーに詰め寄った。しかしブルーはひらりと軽い身のこなしでレッドを躱すと、「取引よ」とレッドに条件を持ちかける。
 自分はゴールドバッジを、レッドは月の石を。それぞれの交換が、ブルーの提示する条件だった。月の石──ポケモンを進化させる力を秘めている、不思議な石。ブルーの手持ちにはピッピとプリンがいた。そのどちらもが、進化に月の石を必要とするポケモンだ。ブルーからすれば、是が非でも手に入れたい石と言えるだろう。
 しかし、事情を全く知らないレッドは渋い表情を浮かべて代替案を提唱してくる。ブルーに一蹴されてしまったが。

「いいじゃんレッド、それとも月の石が必要なポケモンいるの?」
「いや……そういうわけじゃないんだけどさ……」
「ならいいじゃん!また欲しくなったらボクも一緒に探すからさ。ね?」
「んぐぅ……」

 レッドが言葉を詰まらせる。しかし、感触からしてあともう一押しといったところだろう。確かに貴重な石ではあるのだが、次にナツメに会ったときのことを考えると、少しでも強くなっていきたいのだ。
 「なにも悪用するわけじゃあないんだから……違うよね?売り飛ばそうとか考えてるわけじゃないよね?」とブルーに最後の確認を取ると、「勿論考えてないけど……今パープルがアタシのことどう思ってるか分かって複雑な気持ちだわ」と言葉がかえってくる。

「ほら。ね、レッド」
「……わかったよ。信じるからな、ブルー」
「勿論よ」

 無事にゴールドバッジと月の石の交換が行われた。ブルーは喜びを抑えきれない表情で自分の手に渡ってきた月の石を眺め、そして随分と機嫌を良くしたのか、レッドが抱えるトレーナーバッジのエネルギー増幅装置について自分が知っている情報をレッドに伝えた。
 「その機械は奴らの切り札」、「7つそろったトレーナーバッジはポケモンの力を上げるエネルギーを生む」、そんなことをブルーはどこで知ったのか。そもそも、彼女の情報は確かな筋から手に入れたものなのか。素直に感謝の気持ちを述べたレッドに一抹の危機感を感じつつ、その情報は確かなのか確認しようとしたところで、「そこまでわかっているのなら、なおのこと生かしておくわけにはいかない!」と怒声が響く。

「!」
「このナツメを……よくもコケにしてくれたな。ガキどもめ!」

 見れば、激昂した様子のナツメとユンゲラーが入り口に立っていた。そしてレッドの持つトレーナーバッジのエネルギー増幅装置をよこせと詰め寄ってくる。しかし、明らかに悪事を働こうとしている人間に渡せと言われて素直に渡すほどボクたちは馬鹿ではない。まして、この機械が本当にブルーの言った通りのものなのか、それとももっと危険なものなのかも分からない状態なのだ。

「ブルー、パープル、危ないぞ!さがって!」
「ハイ!」

 レッドが片手を広げ、ボクとブルーを庇うように立つ。ボクも一緒に、と言おうとしたところで、やけにあっさりとレッドの後ろに下がったブルーに嫌な予感がした。あっさりしているだけではない。ブルーという少女は、こんなにも素直だっただろうか。そしてそのボクの疑念は、直ぐに確信に変わる。

「奴らの狙いは増幅機!それなら、逆に利用すればいい!これで7つめだ!さあ!いくぞピカ!」

 七つ目のバッジ、ゴールドバッジをエネルギー増幅装置に嵌め、それをピカに翳すレッド。しかし、いくら待っても装置はうんともすんとも言わなかった。「どーなってるんだ、ブルー!」とレッドがブルーを非難すると、「ちょっとかしなさいよ」とブルーがレッドの手から機械を奪おうと引っ張る。

「……ええい。こぬならいくぞ!”サイケこうせん”!!」

 そんなやりとりに痺れを切らしたナツメの強烈な一撃がボク達を襲う。慌ててそのわざを避けると、不意にブルーの耳元がちかっと煌めいたのが分かった。その光景に、タマムシで髪をかきあげたブルーを思い出す。ブルーもボクの視線に気が付いたのか、レッドに向かって謝罪の言葉を口にした。

「レッド、ごめんね」
「?……あ!」
「あの時返したのはニセモノよ、ホホ。せっかくのバッジをそう簡単に返したりするもんですか!」

 ブルーの耳で輝くのはレッドのバッジ。あの時──タマムシで去り際に渡してきたバッジは、真っ赤なニセモノだったということだ。本当にいい性格をしている。勿論褒めてはいない。

「ちょ……どうするつもりなのさ!」
「レッド、パープル、あとはまかせたわ!」
「な!ブ……ブルー!」

 ひらりと身を翻し、機械を持ったまま部屋から姿を消すブルー。慌てて後を追おうとするも、ナツメのユンゲラーがボクの行く手を阻んだ。

「あ……のヤロウ!」
「さ、流石にサイテー過ぎる……」
「フン、仲間われか、しょせんはガキども。いでよ、ファイヤー!ユンゲラー!フリーザーとサンダーを呼び戻せ!」

 それどころか、見たことのないポケモン──ファイヤー、フリーザー、サンダーが現れ、ボクとレッドは囲まれてしまう。あわや絶体絶命。そう思ったところで、今度は目が眩むほど眩い光の塊が飛び込んできた。

「フフ……きたな!」

 勝利を確認したように笑うナツメ。何が起こったのか分からないボク達。光の塊は、真っ直ぐにファイヤー達に向かい、包み込むと三体の姿を変質させた。
 ボク達を見下ろす、三つの頭。しかしその体は、光によるものか一つになってしまっていた。

20190804
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