リザードンを伴って現れたグリーンは一瞬でゴースを倒すと、軽やかに地面に降り立った。どうしてここに、というエリカちゃんの問いを鮮やかに無視して、ボクたちが話していたりかけいのおとこを連れ去ろうとしていた人物に心当たりがあると言う。

「おそらくゴースト使いの四天王、キクコだ」
「四天王って、ジムリーダーをもしのぐという4人の実力者?でもグリーン、なぜそんなことを……」

 カスミがグリーンの言葉が信じられないとでもいうように狼狽える。しかしグリーンは以前四天王のキクコと戦ったことがあるらしく、その時と今回の攻撃のパターンが同じだったのだと言い切った。
 グリーンは懐から一通の書簡を取り出し、話を続ける。キクコと戦ったのは無人発電所というところでのことだということ。レッド失踪の経緯いきさつはオーキド博士から届いた書簡で知ってはいたけれど、その時点では敵の正体は不明だったということ。そして詳しくは語らなかったがキクコはオーキド博士に深い恨みを抱いているらしく、先ほどのゴースの攻撃もあり、キクコが敵であると確信を持ったらしい。既にグリーンは敵を警戒して盗聴の危険があるパソコンでの通信を控え、博士とは書簡で情報の連絡をしているとも言った。それはボクも同感だった。

「言っておくが四天王やつらは手加減ということをしらない。ポケモンを守るのもいいが、余計な優しさをもって敵につけいられたのでは元も子もない。さっきのゴースも……あの釣り竿のちゃちゃがなければ最初の熱風圧で核ごとふきとばせていたはず」

 グリーンは鋭い眼差しをイエローに向けながらそう告げる。相変わらずぐさりとくる物言いだとイエローのことを心配していると、グリーンはため息を一つ吐き出してからボクに視線を向けた。

「パープルは緊張感を持て。お前ならあの程度のゴースに苦戦しなかったはずだ」
「……ちょっとボクのこと買いかぶりすぎじゃない?」
「二年前、オレやレッドと共にロケット団幹部を退けたのはどこのどいつだ?」
「……」

 確かにレッド、グリーン、ブルーと一緒にロケット団の幹部であるナツメと戦ったのは事実だけど。ボクはポケモンリーグにも出場していないし、ジムバッジだって持っていないのだ。ボクの強さを証明するものは一つもないし、ボク自身自分を強いと思ったことなんて一度もない。いつだって誰かに手を貸してもらって、何とか旅を続けられていた。そう考えている。今回だってどこまでイエローの力になれるか分からないけれど、いてもたってもいられなくなって行動したのだ。
 けれど決して相手を過剰評価しない冷静な判断能力を持ち、トレーナーとしての腕前も非常に高いグリーンに素直な物言いではなかったけれどボクとボクのポケモン達の力を信じているなんて言われれば、落ち着かない気持ちになってしまう。

「大方別のことを考えていて反応が遅れたんだろうが……」

 そわそわし始めたボクを見てグリーンは再びため息をつくと、視線をイエローに向けた。そして二年前と少しも変わらない、鋭すぎる言葉を紡いだ。

「優しさと甘さは違うことは知ったほうがいい」

 思わず言葉に詰まる。イエローも険しい顔つきではあるが、グリーンの言葉が胸に突き刺さっているようだった。
 
「ちょ……ちょっとグリーン!ポケモンを守ったこの子の行動が間違っているっていうの!?」

 カスミがイエローを庇うように声を張り上げる。暫しの沈黙の後、グリーンは口を開いた。

「そいつを責めるつもりはない。だが、あいつなら……。レッドなら、あの状況でもキャタピーを助けて敵も討つ方法をひねり出せるはずだぜ」

 実際のところ、グリーンの指摘は最もだ。ボクがもっと警戒していれば、酷い考えではあるがキャタピーの救出をあきらめていれば。男が操られるような危険な状態には陥らなかったはずなのである。
 しかしグリーンも血も涙もない冷血漢かと言われればそんなことはない。ただ言葉があまりにも鋭いだけで、その内側にはポケモン達への愛情であふれているのは彼の手持ちを見れば一目でわかる。だから、グリーンがイエローを責めているわけではないのはわかっていた。ボクには割と本気で呆れていそうだけど。

「やつを助けに行くのなら、そのくらいのレベルが必要だということだ。四天王に対抗するなら、せいぜい自分を鍛えるんだな」
「ボクも連れていって下さい!レッドさんを助けるために……。ボクはもっと強くなりたいんです!」

 グリーンはリザードンに飛び乗り、この場を後にしようとする。しかし、イエローがそれに待ったをかけた。

「……好きにしろ」
「ハイ!」
「あ、イエローが行くならボクも行くよ。後ろ乗せてね」
「……」

 はあ、とグリーンが三度目のため息をつく。そうため息をつかれても、手持ちに空を飛べるポケモンがいないんだから仕方ないじゃないか。そんな意味を含めたボクの視線を、グリーンは冷たく振り払う。

「二年の間でもっと手持ちを育てておくべきだったな、パープル」
「う……」
「お前のリュリュ──ミニリュウは進化すればカイリューになり、空を飛べるようになる」
「色々忙しかったんだよ……!」
「お前はもっと知識と集中力と警戒心を身につけろ」
「足りないものが多すぎる……!」

 いやでも、リュリュがカイリューに進化して腕や翼を手に入れることは最低限調べてある。まあ、調べてあるというか、スピネルの情報を集めるために二年間色々な船に乗ったけれど段々チケットの手配が面倒くさくなってきたし、お金もかかるし、カメカメに頼ろうにもボクより遥かに強いトレーナーが泳ぐ海上でバトルするのは怖いし、何日も波に揺られていると気分が悪くなるし、と苦痛が重なりとうとう我慢の限界が来て、人を乗せて空を飛べるポケモンを調べたときに偶然知ったというのが正しいのだけれど。
 ボクがあまりバトルを好むトレーナーじゃないから、進化に必要なレベルが高いリュリュは未だにミニリュウのままだ。出会ったとき野生のポケモン達に一方的に痛めつけられていたリュリュを進んでバトルに出したくない、というのも理由の一つではある。

「お前もレッドを助けるつもりなら、四の五の言わずに強くなれ」
「……んん……」
「グリーンさんパープルさん、準備出来ました!」

 タケシさんからゴローン、カスミからオムナイトを託されたイエローがグリーンに向き直る。グリーンはそれを確認すると、リザードンに身を屈めるように指示した。

「手を貸すよ」
「あ、ありがとうございます!」
「パープル、待ってください」

 イエローがリザードンの背中に乗るのを手伝って、ボクも乗せてもらおうとしたときだった。背中にエリカちゃんの声がかかって、ぴたりと動きを止める。

「どうしたの?」
「……これを」

 振り向いたボクの手に、エリカちゃんが何かを握らせた。袋に入れられているが、ごつごつした感覚が手のひらに伝わってくる。

「……これは?」
「進化の石が入っています。きっと、あなたとハナナ、ディディの役に立つはずですわ。持っていって下さい」
「……うん、わかった。ありがとう、エリカちゃん」
「気を付けて、パープル」
「エリカちゃんも。無理はしないでね」

 今度こそリザードンの背中に乗る。グリーンはボクが丁度いいポジションに収まったのを見届けると、リザードンに飛ぶように指示した。リザードンが羽ばたき、少しづつ地面が遠ざかっていく。

「どこに行くの?」
「修行に適した場所だ」
「へえ……」

 思ったような返答ではなかったけれど、答えてくれただけ良しとしよう。修行に適した場所ってやっぱり人里離れた場所なんだろうか、とか考える。グリーンの手持ちを見れば彼がポケモンの育成に秀でているトレーナーではあることはわかるから、野生のポケモンが多く出るような場所かもしれない。
 結局のところ、修業というものをボクは一度もしたことがないから見当もつかないのだけれど。手持ちの状態や本人の様子、それからブルーから聞いた情報を総合すると、イエローのトレーナーとしての技量はそう高くは見えない。彼女に合った修行場所を選んでいるだろう。

「ボクも強くならなきゃいけないんだ。一緒に頑張ろうね、イエロー」
「はい!グリーンさん、パープルさん、よろしくお願いします!」

 イエローが何度も何度も首を縦に振る。彼女の腕の中にいるピカにも「よろしくね」と声をかけると、ピカはにこりと笑った。

20201014
20201120//修正