気がつくと、赤かった空は何時の間にか黒へと移り変わっていた。ポケモンセンターを出てから数時間、聞き込みをして回ったが新しい情報はゼロ。覚悟はしていたけれどなかなかうまくいかないものだなあと肩を落としながら宿泊施設までの道のりを歩いていると、不意に爆発音が聞こえてきた。
吃驚して音がした場所を探る為に周囲を見まわすと、ポケモンセンターがある方から煙が上っているのが見える。
「た、大変だ!」
急いで足をポケモンセンターの方へ向けて駆け出す。幸いなことにそう遠くない場所にいたので到着までにあまり時間はかからなかったが、目の前に広がる光景に思わずぽかんと立ち尽くしてしまう。
「燃えてる……」
赤赤と燃え上がるポケモンセンター。一瞬呆けてしまうが、中から聞こえてくるジョーイさんの必死の声が耳に入り、我に返る。
きっと中に取り残された子がいるんだ。そうと分かればボクはボールからカメカメを出し、みずてっぽうで全身に水を浴びるとポケモンセンターの中へと踏み入った。足を踏み入れた途端、ボクの全身に炎が付きまとう。しかし、ジョーイさんのため、ポケモンのため、そして何よりリュリュが取り残されているかもしれないと思うと、引き返すという選択肢はなかった。
「ジョーイさん!リュリュ!」
名前を呼びながらあちこちの部屋を見て回る。しかしどこにも姿はなくて、焦りだけが募る。無事でいて。その一心だけでボクは次々に部屋を見て回った。途中、避難が遅れているポケモンを保護しつつ見回っていると、足になにかが絡みつく感覚がした。
「!……リュリュ!」
視線を下に向ければ、ボクの足に絡みついていたのはリュリュだった。大分元気になったのか、うろうろとボクの足に絡みついて無事であることをアピールしている。
「無事だったんだね……よかった。よし、外に出よう」
まだ逃げ遅れた子を探したい気持ちはあるが、リュリュは勿論のこと、両腕に抱えただれかのポケモンたちに外の空気を吸わせてあげなければいけない。
リュリュを右腕に絡ませ、両腕には逃げ遅れたポケモンを抱え、ボクは放火犯に叩き壊されたのであろう窓から外に飛び出した。
「パープルさん!!」
「ジョーイさん!」
外に出て咳き込んでいると、ジョーイさんとラッキーが駆け寄ってきた。二人はボクの両腕に抱えられているポケモンに視線を移すと、安堵の息を吐く。
「ありがとう、助けてくれたのね」
「はい。……あの、ボク、もう一度中に入って様子を……」
「いいえ。その子たちが最後よ。もう大丈夫。ありがとう」
「そうですか……よかった」
やがて消防隊が到着すると、ずっと消火活動を頑張ってくれていたカメカメが疲れた様子で傍にやってきた。ありがとう、と彼の甲羅を一撫でしてからボールに戻す。
ジョーイさんはポケモンたちを預けられていたボールにすべて戻し終えると、ボクに振り返った。
「ごめんなさい。リュリュくんを危険な目に合わせてしまって……」
「いえ。それより、一体何があったんですか?」
「それが、分からないの。突然爆発音が聞えて、それで……」
「……そうですか。でも、みんな無事でよかったです」
ジョーイさんは勿論、彼女の仕事を手伝うために中で忙しなく動いていたラッキーも、何が起こったのか分からないらしい。突然爆発音が聞こえて、ポケモンセンターが炎上。入院しているポケモンの中には自力で移動することが困難な子が多々いる。信じがたい、許しがたい卑劣な行為だ。
だからといって、ボクに出来ることもないのだけれど。警察が放火犯を捕まえてくれることを祈るばかりで、結局ボクはそのままポケモンセンターを後にすることになった。明日の朝迎えに来ると約束していたリュリュも、ポケモンセンターにある機械の大半が故障してしまったのでボクとともに宿泊施設へと向かうこととなり、上機嫌な様子のリュリュをボールに戻すと、カメカメを休ませるためにボクは足早に宿泊施設へと戻り、気絶するかのように眠りについたのだった。
翌朝、窓の外から聞こえてくる人の声で目を覚ました。カーテンを開けて外を窺えば、腕の中にぐったりとしたポケモンを抱えた人が困ったように道を歩いているのが見える。昨日の今日だ、勿論まだポケモンセンターは復帰していないのだろう。それでもやっぱりボクに出来ることなんでないよなあと思いながらいつも通りの着替えと朝食を済ませて外に出ると、突然人とぶつかった。
「わっ」
「チッ、」
「ご、ごめんなさい!」
「……気を付けろよ」
ぶつかった相手は同い年くらいの、ややキツめではあるが整った顔立ちをした男の子だった。切れ長の緑の瞳をボクに向け、柳眉を不快そうに寄せると、彼はそれだけ吐き捨てて足早に去っていった。
「なんだか、感じ悪い人だったなあ……」
「パープル!」
「レッド?」
去っていく紫色の服がようやく見えなくなった頃、今度は後ろからレッドに声を掛けられた。えらく焦った様子のレッドは、ボクのバッグに視線を向けた後、ボクの肩を掴んで詰め寄ってくる。
「え、な、なに?」
「きずくすりとか持ってない!?」
「少しならあるけど……」
「良かったらオレにくれない!?」
「い、いいよ……?」
「ほんと!?」
「う、うん……」
がくがくと揺すられて若干気持ち悪いが、つまりレッドもポケモンセンターでの回復が出来なかったということなのだろう。なんでここまで焦っているのかは分からないが、きずぐすりは別にケチるほどのものでもない。ボクはバッグから二つきずぐすりを出すとレッドへと手渡した。レッドは心底嬉しそうにそれを受け取ると、早速自分のポケモンたちに吹きかけている。
「ほんとに助かったよ。ありがとな、パープル!」
「それなら良かった。でも、やけに急いでるね。これからなにかあるの?」
「パープル知らないの?」
「……何を?」
「これからジム戦があるんだ。そうだ、よかったら見ていかない?」
レッドは懐をごそごそと探ると一枚の紙を差し出してきた。受け取って見れば、この町のジムリーダーであるタケシがジムバッジを賭けて戦う挑戦者を求めているらしい。ジムの開放時間は今日の12時。まだ時間には余裕があるが、ここからジムまではやや時間がかかるので今から向かった方がよいだろう。
「……うん、そうだね。この町に来てからバタバタしっぱなしだし……折角だから、見ていこうかな」
「よし!そうと決まったらさっさと行こうぜ!」
「ボク、頑張って応援するね」
「へへ、まあ見てろって!」
20171026
20191001//修正