レッドと二人、オツキミ山への道を歩き続ける。何度かトレーナーとの戦闘をしてはいるが、比較的平和な道のりに安心していると、突如視界の中にボロボロになった女の子と女の子の前に立ちはだかる大きなポケモンの姿が入ってきた。女の子のポケモンは相手に大ダメージを喰らわされたのだろうか、地面に倒れたまま動かない。ボクとレッドは顔を見合わせると、素早くモンスターボールに手をかけた。
「ずいぶんでっけえのを相手にしてるじゃんか。助だちするぜ、おねえちゃん」
「後はボクたちに任せて、キミは後ろに下がってて」
「ちょっと、何言ってるの!?止めなさい、アンタたち!危ないのよ!」
「へへへ。大丈夫!オレたちをそのへんのガキと一緒にすんなよ」
「そう、大丈夫だよ。キミのこと、ちゃんと守れるさ」
「それから、オレの名前はレッドさ。よーし、頼むぜフシギダネ!」
「ボクの名前はパープル。お願い、リュリュ!」
ボク達は女の子に名前を名乗ると、ボールからポケモンを出した。相手のポケモンは飛び出したフシギダネとリュリュへ鋭い視線を向けたかと思うと、すぐに口から大量の水を勢いよく吐き出す。ボクはリュリュにかわすように指示したが、レッドのフシギダネはその攻撃を真正面から受け止めた。
「……さすが」
女の子はかわす指示をしなかったレッドに驚いた様子だったが、大量の水が降り注いでもフシギダネは苦しそうな表情を一つも見せない。それどころか、気持ちよさそうな顔している。それもそのはずだ。フシギダネは草タイプ。水は草木にとって恵みだ。
「よし、今度はこっちの番だな。やれ!フシギダネ!!」
「リュリュもフシギダネにタイミングを合わせて!」
ボクとレッドの指示に従い、フシギダネが背中から種を吐き出し、リュリュは微量の電気を地面へと流す。やがて相手にぶつかった種は芽吹き、逃げ惑う相手を雁字搦めにし、その体力を吸い始めた。そこへ追い打ちをかけるリュリュの電撃。避けることは叶わず、相手はあっけなく”まひ”状態になった。
「”やどりぎのタネ”……に”でんじは”?」
「あったりー」
「正解!」
相手の様子を見てすぐに技名を当てた女の子。どうやら、彼女もまた相当手練れなトレーナーなのだろう。やがて女の子のポケモンが”じこさいせい”で回復すると、ボク達は漸くやどりぎとまひから解放されてこちらを苛立たし気に睨みつけるポケモンと向かい合った。
「そんじゃ、最後はトリプル攻撃といきますか」
フシギダネ、リュリュ、そして女の子のポケモンであるヒトちゃんが鋭い視線を相手に向ける。そして、ボクたちは一斉に自分のポケモンへと指示を出した。
「”つるのムチ”!」
「”バブルこうせん”!」
「”たたきつける”!」
三体からの一斉攻撃が直撃し、相手は唸り声をあげる。そこにレッドが素早くボールを投げ、漸く辺りに静寂が戻った。女の子はほっと安堵の息を吐くと、へなへなと地面に座り込む。落ち着いてきたので、どうしてポケモンとこんな場所で戦っていたのか訳を尋ねると、女の子曰く、今まで戦っていたポケモンの名前は”ギャラドス”と言うらしい。水タイプなのにこんな水の一滴すらない場所で暴れまわっていた理由は、如何やらギャラドスが本来は女の子のポケモンだからだ、とのことだ。
女の子のポケモンなはずなのに、なぜレッドの投げたボールにギャラドスが入ったのか。首を傾げながらも更に詳しく聞くと、彼女のギャラドスは一週間前に何者かに盗まれ、帰ってきたときにはすでに強暴化していたらしい。しかし、もともとはこんな無差別に暴れまわるような子ではなかったはずなのに、と彼女は言う。ならば、とボクたちは女の子のギャラドスを盗み、そして強暴化してしまうような”なにか”をしたと思われる犯人を捕まえるため、もしかしたら情報を持っているかもしれないオーキド博士から話を聞くため、近くのポケモンセンターへと向かった。
早速ポケモンセンターへと向かい、オーキド博士と連絡を取る。図鑑の状況を報告したり、博士のうんちくを聞き流したりしたあと、漸くレッドが本題に入った。女の子から話を聞くと、手持ちのポケモンが盗まれたのは如何やら彼女だけではないらしい。オーキド博士はボクとレッドからの話を聞くと、やや考え込んでから一つの可能性を提示した。──”ロケット団”の仕業ではないか、と。
ロケット団とは、ポケモンを使い悪事を働いている秘密結社とのことらしい。噂では、ポケモンで実験をしているのではないかというものもあり、たしかに彼女のギャラドスの様子を思い出せば、もしかしてと思わざるを得ない。そしてボクたちがこれから向かう先であるオツキミ山、その中にあると言われる月の石をロケット団が狙っているのではないかという話を聞くと、オーキド博士との通話を切り上げてポケモンセンターを後にした。
「よっしゃあ!こーなったらポケモン図鑑を完成させる途中で、そのロケット団とかいう奴らをさがしだして、おねえちゃんの分までぶっとばしてやる!」
「ギャラドス、すごい苦しそうに見えた。……このまま放ってなんて置けないよね」
「ああ!……おねえちゃん、どうしたんだよ、だまりこんで」
オーキド博士から話を聞いてからずっと黙り込んだままの女の子へレッドが声をかける。彼女はややためらった様子を見せた後、固く結ばれていた唇を開き、こう告げた。”自分も共に戦う”と。レッドはそれを聞くと目を白黒させたが、彼女が腰から取り外したボールの中にいる育て上げられたポケモンを見ると今度は口をあんぐりと開けた。
「あなた、気づいてたんでしょ?」
「ん?うん、まあね。強いトレーナーなんだろうなあとは思ってたよ」
「は?パープル、気づいてたって……」
「彼女──えっと、」
「カスミ、よ」
「そう、カスミが守られるだけの女の子じゃないってことに、さ」
「ふふ、なかなかいい観察力を持ってるわね」
「ありがとう」
カスミはボクに向かって微笑んで見せると、そのまま両手をボクとレッドに向けて差し出した。
「私はカスミ。ハナダシティのカスミよ。よろしくね、レッド、パープル!」
「うん、こちらこそよろしく」
ボクは素直に手を伸ばし、彼女と握手を交わす。レッドはというと、彼女の勢いに圧倒されているようでタジタジだ。しかしカスミはそんなレッドの手を強引にとると、ボクとレッドの手を引っ張り駆け出した。
「さあ!それでは元気よく、出発〜!」
「お〜!」
こうしてボクたちはオツキミ山へと足を踏み入れることになった。
三人で走り出してから数十分。オツキミ山の入り口付近に着いてすぐに人の気配を感じとるのと同時に、視線の先に如何にもという格好をした複数人の見つけた。一拍遅れてからカスミ、レッドもその不審な団体に気が付き、ボクたちは咄嗟に草むらに身を潜める。
「あいつらがロケット団かしら?」
「だろうね。ちくしょう、うじゃうじゃいやがる」
「オーキド博士の言ってた通り、月の石を探してるのかな……?」
「どうだろう。でも、どっちにしろオツキミ山にはポケモンを強化するのに重要な力を持つ、”月の石”があるんだ。引きさがるわけには、いかねぇぜ!」
「よし、じゃあとにかく洞くつの中へ入ろう」
ボクたちは音に気を使いながら、匍匐前進で洞窟の中へと入る。暫し立ち止まり、後ろから足音が聞こえてこないこと、そして追いかけてくる気配も一切ないことを二人に合図で伝えると、立ち上がり、洞窟の散策は始まった。洞窟の中は暗かったが、そこは幸いにもレッドのピカチュウが身体から電気を発したことで辺りが明るくなり、問題はなく洞窟を進む。
「……それにしてもパープル、貴方、気配に敏感なのね」
「……そうかな?」
「そうよ。さっきだって、私たちより先にロケット団に気がついてたし、洞くつに入ったときだって……」
「ああ、うん……まあ、人より少し敏感、かな」
カスミのふってきた話題はあまり話したくないもので、思わず返事を濁してしまう。カスミはそんなボクの様子に不思議そうに首を傾げたが、ボクの気まずそうな雰囲気から察してくれたのか、会話をそれきりだった。洞窟の中にはレッドが陽気に話す声だけが響く。
ある程度進んだところで、突然感じた人の気配にボクは顔を上げる。しかし、それは遅かった。
レッドが岩に──岩のように見えるポケモンにぶつかる。そしてそのポケモンの背後から、入り口付近で見た人たちと同じ服装に身を包んだ男性がゆらりと姿を現す。
「子供がこんなところを、ウロついていてはダメじゃないか……」
「おまえら、ロケット団だな!」
「ホウ、我らの名前を知っているとは……、何者だ?」
鋭い視線がこちらに向けられる。ボクは一瞬たじろぐが、勢いよく相手に向かって行ったレッドのピカチュウの後に続くようにボールからサンサンを出す。
「ゆけっ!”いわおとし”だ!」
「サンサン、”きりさく”で岩を切り裂いて!」
ピカチュウとサンサンへ向かって落ちてくる無数の岩を、サンサンが自慢の爪で次々と切り裂いて行く。その間に充電を終えたピカチュウが、サンサンが切り裂いたときに出来たバラバラとなった小岩を電気で集めると、そのまま相手のポケモンに勢いよくぶつける。相手のポケモンはその一撃で苦しげな声を上げて地面に倒れた。ロケット団の 男はそれを見ると、懐から一つの注射器を取り出し、そして、それを。
「ひねりつぶせ!!」
「!!」
勢い良くポケモンへと突き刺し、中の薬を投与した。
倒れていたポケモンは突然目を覚まし、急激にその姿を変えてゆく。ボクはこの現象を知っていた。
「進化……!?」
相手のポケモン──サイホーンがサイドンへと姿を変える。しかし、今の今まで進化の兆しは見当たらなかった。つまり、今目の前でサイホーンがサイドンに進化した理由は、たった一つだった。
「ま、まさかあなたたち、あたしのギャラドスにもそれを……!?」
「ん〜〜〜!?なんだって?実験はそこら中でやったからな。いちいち覚えちゃおれん!」
男の返事に激昂するカスミ。腰のボールからヒトデマンを素早く出すと、サイドンへとみずてっぽうを放った。しかし、それもサイドンの”つのドリル”で一蹴されてしまう。それどころか、サイドンへ向かって放たれていた大量の水がボクらの方へと逆流してきた。
「きゃあ!」
「うわっ!」
「っ、カスミ、危ない!」
咄嗟にサンサンにあなをほるを指示すると、ボクはカスミと壁の隙間へと強引に割って入った。ドン、と背中がごつごつした壁に勢いよくぶつかり、一瞬息が詰まる。
「パープル、カスミ!」
「ゲホ、ッ、だ、大丈夫……それよりレッド、前!」
「ふふふ……次は……おまえたちの番だ!」
「っ……させるか!いけっ、ピカチュウ!」
ピカチュウが再びサイドンへと向かう。サイドンはそんなピカチュウを片足で容易に踏みつぶしたかと思うと、ドリルで岩を破壊し始めた。ぶつかったら一溜りもないほどの大きさの岩が、ボクたち目掛けて次々と飛んでくる。
「今だ、サンサン!」
「たのむ、ピカチュウ!!」
けれどボクたちはその隙を見逃さなかった。ピカチュウをつぶしたことでいい気になり、足元への注意が疎かになっていたのだろう。サンサンが何処に行ったのかも、ピカチュウの勝気な性格も忘れたわけでもないだろうに。そして、そんなボクの声に応えて、サイドンの左足の下から姿を現したサンサンが、同じようにレッドの声に背を押されるように、渾身の力でピカチュウがサイドンの右足の下から起き上がる。当然サイドンはバランスを崩し、背後へと倒れ込んだ。
「ワハハハ……!どこを狙っている!」
起き上がり、飛び上ったピカチュウは尻尾へ電気を集中させると、そのまま天井付近で電気を放出していく。それを見た男は笑っていたが、不意にその笑い声が途絶える。ピカチュウの行動──その真の目的に気がついたのだ。けれど、もう遅い。天井から巨大な岩が落ち、大量の煙が上がる。ボクたちはその隙をついて、洞窟の出口から外へと脱出したのだった。
「っ、はあ、」
「……うーん。ここは……どこ?」
そのタイミングで気絶していたカスミが目を覚ます。ボクは背中から彼女を下ろすと、カスミが意識を失ってからなにが起こったのかを大雑把に説明した。
「そう……ところでパープル」
「うん?」
「その……庇ってくれてありがとう。背中、痛かったでしょう?」
「ああ、そのことか。ボクは大丈夫だよ。それより、カスミに大きい怪我がなくて良かった」
「ふふ、パープルったらかわいいのにかっこいいこというのね」
「……かわいい、かな……」
「?ええ、とっても。同じ女として、見習いたいわ」
「や……ボク見習うのは、やめたほうがいい、って思うけど……」
「ったく、そんなことよりこれみろよ!」
「え?」
ボクとカスミの何処かふわふわした会話にしびれを切らしたのか、レッドが声を上げる。そしてズボンから一個の石を取り出した。その石には、中心に半月の模様があり、それが探していた月の石であることが直ぐに分かった。聞けば、洞窟が崩れたときにたまたま発見したとのこと。
「すごい!」
「さっすがあ!」
ボクは脱出することに意識を集中させてたから見つけられなかったが、流石レッド、抜け目がない。そのまま話題は今後どうするかへと移り変わり、カスミが自分の家にこないか、と提案をした。服もボロボロに汚れてしまったし、是非来てほしいと詰め寄られる。
「んー……うん、そうしたいのはやまやまなんだけど……ごめん、ボク先を急いでいるんだ」
「……そうなの?」
「うん。ハナダシティには行くけれど、あまり滞在するつもりはないし……」
「そう……残念ね」
「本当にごめんね。でも、ハナダシティまでは一緒にいてもいいかな?」
「勿論よ!」
「へへ、ありがとう」
「……オレは?」
そうしてカスミとボクは別れを惜しむように、レッドをそっちのけでハナダシティまでの間ずっとしゃべり続けるのであった。
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