この世界には、最悪の世代の“ルーキー”と呼ばれる海賊がいる。
けれど我が国、万国にだって、そんな肩書に引けを取らない者が沢山いると思っている。

万国を納めているビッグマム率いる、シャーロット家の中でも、一際輝いて見えるのその男は、無愛想なくせに気品高く、超人で、完璧。

“最高傑作”と称される彼は、男前で、誰よりも強くて、そして死ぬほど女にモテる。
遠くから眺める女、積極的に話しかける女。黒髪ストレート。茶髪ウエーブ。いろんな女が奴に好意を寄せている。

モテ男の名は、
シャーロット・カタクリという。

しかしカタクリの彼女はと言うと、決闘における勝利のみ。(あと、家族とドーナツ)
これくらいは公認の事実だ。

しかしここ数ヵ月、
特に彼、カタクリにまとわりつく女がいる。
その名も、ナマエ。
突如、この国に降り立った謎だらけの女だ。

今日は11月24日。
3将星、次男の誕生日は明日だ。
さて、彼の様子をちょっと覗いてみようか。
(CV:シャーロット・オーブン)



11.25
CharltteKATAKURI
Happy Birthday





「カタクリさん、今日スイートシティの島民に告白されましたよね」
「……なぜ知っている」

ナマエは、てこてことカタクリの後ろを歩いている。カタクリはいつもよりも歩くの遅い。もしやナマエに合わせているのか。あの天上天下唯我独尊男が?……まさかな、思い過ごしだろう。

「遅くまで御守り、ありがとうございました」
「……」
「コムギ島でのお仕事、お休みいつまででしたっけ?」
「明後日だ」
「27日までかぁ…」

港までの帰り道。秋といえども夜は冷える。
カタクリは隙の無い動作で前を見据えながら、ナマエのペースに合わせて歩く。

カタクリは今日も、遅くまで仕事に追われていたナマエの監視官をしていたので、もう時計の短針は10を差していた。
バースデーイヴだと言うのに、大儀なこった。

「寒いですねぇ……」

ナマエの口から出た息が、若干白くなって消える。寒そうな両手がぷらぷらと揺れている。

「………」

さりげなくカタクリがナマエを一瞥した。

「荷物を貸せ」
「へ?ぎゃっ!」

ナマエはびっくりしたような顔をし、カタクリを見た。けれどカタクリは、真っ直ぐに前を見据えたまま。

急にカタクリが、ナマエのバッグをひったくり、自身の肩に乱暴に掛ける。カタクリがナマエを見ると、彼女は困ったように笑う。

「女性らしからぬ声出しちゃいましたね…私」

彼女は苦笑する。

「ありがとうございます」
「ああ」

もうすぐ港に出る。
通常ならばカタクリはナマエを船に乗せて、自身も別の船に乗り込みコムギ島に帰省する。
しかしカタクリは、港の入り口を通らず、そのまま右へと歩き出した。

「え!?ちょ、カタクリさん!」

ナマエは慌ててカタクリを追いかける。
大股で歩く彼に、彼女は小走りでついていく。

時計の長針は35を差していた。

「カタクリさん、どこ行くんですか!入り口、あっち!」
「知らん」
「まぁ、私はいいんですけど…」
「なら問題ねェだろう」

実はカタクリは、自らナマエの御守りをペロス兄に申し出ていた。ここ数ヵ月ずっとだ。
仕事がなくてもスイートシティに来やがるナマエは、結局、ダイフクやクラッカーから仕事を押し付けられて、そのたびに、わざわざカタクリが御守りをして、こうして帰りが遅くなる。

どうしてうちの男衆は、こうも書類業務が苦手なんだ。決闘やら遠征には喜んで出向く癖に、事務処理は到底ダメだ。

「ほんとに、どこ行くんですか?」
「さあな」
「さあなじゃないですよ、どこですか?」

そして、

歩いて、歩いて、歩いて、
辿り着いたのは、船の出ていない反対側の海。
このあたりは、島民すらも寄り付かない。

「………」

時計の短針は、11を少しずれたところ。



「カタクリさん……」

まともな会話もないまま着いてしまった。

「もう11時半過ぎちゃいましたよ」
「………」

カタクリは足を止め、階段を降りる。
秋に似つかわしい潮の匂いが、鼻をかすめる。

カタクリの後を追って、ナマエもその急な階段を手摺伝いに降りる。
砂浜にナマエの靴が沈む。
ナマエがカタクリの隣へ来たとき、彼は口を開いた。

「ガキの頃から」

ナマエは、自分よりもゆうにでかいカタクリを見上げる。

「なにかある度に、ひとりでここへ来て海を見ていた」

淡々と言葉が紡がれる。
カタクリはまっすぐに、海を眺めている。

「………」

こんなカタクリは、初めてだった。
そんな驚きを隠しながらも、ナマエは彼の言葉を聴いていた。

「じゃあ、ここはカタクリさんの大切な場所なんですね」

カタクリも悩んだり、悔しがったり、哀しかったりするのだろう。誰もいない夜の海で。

温度を感じさせない彼からの、初めての告白。
けれども、確かな事実。

「………」

時計の長針は50を差している。

彼の持つナマエの鞄から、電伝虫の着信音が響く。その音からするにプリンからだろう。

「カタクリさん、電伝虫」
「俺じゃねぇ」
「じゃあ私です、貸してください、鞄」

ナマエはカタクリの腕から、自分の鞄を取ろうとしてジャンプする。けれどカタクリはその手を躱した。

「え、なんですか?」

カタクリの行動の意図が読み取れないナマエの頭に、疑問符が浮かぶ。
絶え間なく鳴り続ける電伝虫。波の音に混じって微かに響いている。

「あの、返しくださいよ」
「断る」
「えー…、返してくださいってば」
「返さねェ」
「プリンからですきっと、うるさいから出ます」
「そのうち切れる」

ますます意味のわからないカタクリに、ナマエはどうしようもない。

「だから、あの」

ナマエが言った瞬間、ふっと鳴り止む電伝虫。

「………」


 時計の長針、55。


「もぉ〜………」

ナマエは溜め息を吐きながらしゃがみ込む。それを見下ろしたカタクリも、あぐらを掻いて座った。真っ黒な海が、視界に広がる。

「なんでそんな、カタクリさんにとって大事な場所に私をつれきてくれたんですか?」

ナマエは砂を触りながら言う。

「じゃあ何故おまえは俺にまとわりつく」

ふたりの視線が、ゆっくりと絡まる。


 時計の長針、56。


「……私の話はスルーですか」
「おまえもだろう」

空白の中にゆっくり吐き出す言葉は、あまりにも少ない。

「もう今年も終わりですねぇ」
「まあ、あと1ヶ月もあるがな」


 時計の長針58。


「カタクリさんはあけおめ派ですか?ハッピーニューイヤー派?あ、謹賀新年?もしくは迎春?」
「なんの話だ」
「年賀状ですよ」
「謹賀新年派だ」
「はっはー!ぽい、ぽい!」


 時計の長針、12時59分。


もうすぐ日が明ける。
ナマエは砂の付いた手を掃って立ち上がった。

「好きだからですよ」

ザザ…と、波が岩にぶつかる音がやけに響き渡る。カタクリは微かに両の目を細めた。

「……」
「カタクリさんのことが、好きだからです」

いつの間にか出来ていた砂の山を、足で崩して慣らしてナマエは、笑いながらカタクリを見た。


 「カタクリさん、お誕生日おめでとう」


 11月25日、午前0時。

ナマエはカタクリに抱き付いた。

「………ああ」
「カタクリさん」
「なんだ」
「……ありがとうございます」
「……」
「あなたが生まれたこの日に。
 世界で、このばかみたいに広い世界で、
 1番に私に祝わせてもらえて。」


すすり泣くナマエを、カタクリは小さく笑いながら、抱きしめ返した。

ゆっくりと腕を解いて、ナマエはまっすぐにカタクリを見た。

きらきら光る、きれいな目。
君のその目にこの世界は、いま、
どう映ってる?





Happy Birthday

一番に、祝って欲しかった