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性別も年齢も、家柄も国籍も
外見も年収も、過去も何もかも全部

関係ないのが恋だろう
乗り越えられるのが、恋だろう

誰に断るでもなく勝手に
今日もただ君が好き……。





なにも知らされずに連れて来られたお屋敷。
どこの誰の家かもわからないのに、見たこともない上流階級の女性が着そうなドレスなんかが、目の前にずらーっと用意されている。

デ〇ズニーのお姫様みたいな、タイタ〇ックの船に乗った女性が着ていそうな、重くて複雑な構造のドレス。

こんなものを着たら、
まるでお見合いのようだ。

おかしい。
夢にしては生々しい感触。
ドレスの締め付け、自分の呼吸の速さ、
屋敷内の微かに香る、甘い匂い。
すべてが、現実的すぎるほどリアルなのだ。

こんな苦しそうな格好嫌だ、と持ち前の頑固さで着替えを拒んでいたとき、聞こえてきた会話に私は凍りついた。

『家の次男はまだ帰らねえのかぁ?』
『ええ、大切なお食事会があるから早くお帰りください、とはお伝えしてあるのですが……』
『許婚のお嬢様をお待たせして……全く困った最高傑作だよ、ペロリン』

はい……?
い……いいなずけとは……?

わたしが!?

待って、待って聞いてないよ〜!!って、
ダチ〇ー倶楽部みたいにやっちゃうよねー。
って、んなことどーでもいいんだよっ!
わたしは今日、ひとりで映画館に行く予定だった、ただの一般OLだよって!

そういう家柄?そーいう夢?
でも中途半端にはじまりすぎじゃない?この夢の世界……。もっとこう、話のはじまりからとかさ。もっとわかりやすい夢を見たかったよ。

だって私は、もう何年も恋人がいないっていうのに!!いきなり結婚だなんて、ありえないよ〜!!って。

ましてや夢の中とはいえ、親に決められた相手との結婚なんて……嫌ったら嫌!
だから今は、親への説得はとりあえず後回しにして……

「あっ!お嬢様?!お待ち下さい!!!」

ここは、逃げるのみ……!!!

「お待ちください、お嬢様!!」

何人かの使用人らしき人たちが追ってくるけれど、ここで捕まるわけにはいかない。

運よく目の前に窓があった。
まさか窓から逃げるなんて思ってもみないだろうから、追っ手は私を見失うだろう。

何階建てかもわからない広いお屋敷だったけれど、ここが二階でよかった!

私が勢いよく窓から飛び出した、
そのとき…。

「わっ!!危ない――!!!」
「? ………?!!!」

ドカン…と。

「あいたたた………」
「……、なんだ」

ドスの効いた低い声に驚いて我に返ると、私は見事にその大柄な男性に馬乗りになっていた。

「ごっ、ごめんなさい!!!」
「……、早く降りろ、パンツが見えるぞ」
「……!!?きゃあー!!」

無理やり着せられたドレスの裾をおさえながら、私は慌てて彼の上から飛び降りる。

続けて立ち上がったその人は、すごく(すごくとかのレベルじゃない程に)背が高くて体格もいい。おまけに派手な刺青が肩から腹にかけてびっしりと彫られている。

怖そうにも見えたけれど、怪訝そうに左の眉を微かに吊り上げたその表情は整った顔立ちで、風に揺れて口元に巻かれたストールがさっと揺れたとき、少しドキッとしてしまった。

だって男の人となんて、しばらく関わったことないから慣れてないし……。しかもイケメン、

「……大丈夫か」

まだ立ち上がらないでいる私を見て、彼は屈んで手を差し出してくれた。

「あ、ありがとうございます……」

戸惑いながらも、私はその大きな手を握った。

「なぜここの二階から―――、」
「……あ、これには深いわけが……」
「……! もしや、お前」

手を引きながら彼は、私の顔を覗き込んでくる。その顔面偏差値の高さに、思わず身を引いてしまう。

「へっ……?」

その瞬間、バタバタと数人の足音が聞こえた。

「お嬢様!! お怪我はありませんか?!」

屋敷?城?の二階の窓から、使用人の声がした。

「すぐそちらに向かいますので!!!」

……バレた!!
連れ戻される……!!

「やはり、お前……!!」

彼は私を知っているような口ぶりだけれど、私はこんな人に会ったこともない。

「え? あ、あなたは……?あ、でもそれよりとりあえず逃げなきゃ!」
「 は?」
「本当にすみませんでした!!急いでるので、失礼します!!」
「……おい、待て。」

軽く頭を下げて逃げようとすると、突如手首を掴まれた。

「えっ?!」

ぶつかったこと怒られる――?!
かと思っていたけれど、いきなり彼は私を抱きかかえ、すたすたと城を背にして歩き出した。

……お姫様抱っこ――!!!?人生初!!!
って、そんなん浸っている場合じゃない!

「あっ、あのっ。」
「逃げたいんだろう、心配するな。」

出会って間もなくて、どこの誰かもわからないけれど、抱きかかえられる彼の胸板を見ながら、私は吞気にも、胸が熱くなるのを感じた。