翌日、宮城たちはカオルの発案で��家族三人�≠ナドライブに行った。ドライブと言っても遊びに行ったのではなく結婚しているのに写真のひとつもないのは不自然だということで、その『二人の思い出』を作るためのドライブだ。
出掛けた先で何枚か写真を撮り宮城が鍵につけていた物と同じ『7』の数字が付いたストラップを見つけた彼女がそれを手に取る。気付いた宮城が側まで寄って来て声をかけた。
「なに見てんの?」
「ん、これ」
「……ああ、よく見つけたねぇ」
「お揃いで付けちゃうー?」
「え……」
フンと鼻を鳴らしてその場を立ち去った彼女であったが最後には結局それを買い安価なものではあるが、ちゃんと結婚指輪も揃えた。
その日の夕方、カオルはアンナの着替えを持って行きながら様子もみてくるとのことで、病院に向かった。宮城は、母親からスーパーで買い物を頼まれておりカオルを病院に送り届けてから車を自宅に置いて、彼女と一緒にスーパーに向かう。
店の中、ふたりで肩を並べて買い物をしている最中、湘北バスケ部に顔を出した帰りにスーパーに立ち寄っていたらしい三井と木暮が偶然二人の姿を見つけてしまう。
「——おい、木暮っ!」
「ん?」
「見ろよ、あれ……」
「あ、クリオネを確保した肉食のアカウミガメか」
「オイオイ、なァに馬鹿なこと言ってんだよ!なぁ声かけてみよーぜ」
「やめとけよ三井……見つかっちゃ、まずいかもしれないだろ?」
「あ? なんでまずいんだよ」
「だってほら、彩子……あ。別れたんだったな」
面を食らう木暮をニヤリと覗き込んだ三井が、カートを押しながら宮城たちのもとへと向かう。
「よう、宮城!」
「……ゲッ、三井サン……」
これから自分のマンションで木暮と軽く晩飯を食べながら飲むのだと言う三井。宮城はなんとかその場を逃れようとしたが三井に気圧されて結局三井に誘われるがまま宮城と彼女も三井の家へと行く流れとなってしまった。見つかってしまったいま、断るのも変だろうと耳打ちしてきた彼女に従って、宮城もその誘いに小さくうなずいた。
*
「まあ、飲めよ」
三井のマンションにて宮城と彼女、木暮がテーブルを囲んでいた。
三井が彼女にワインを注ごうと瓶を掲げたとき宮城が「あ、彼女は……ダメ」とワインに軽く手を翳して断りを入れた。
「……あン? なんだよ。酒、苦手なのか?」
宮城に従って、持っていたワインをテーブルに置いた三井がそう問う。彼女はフッと鼻で小さく笑ったあと応えた。
「あぁ……好きなんですけど、ダメだって。」
彼女は「この人からそう言われている」とでも言いたげに、宮城をちらっと横目で見やる。
「ほら、言っただろう?」
木暮がすかさず三井に耳打ちをした。
「ウミガメ、恐るべし……だな。」
木暮がそう微笑みながら呟くと三井がコホンと白白しく咳ばらいをしてから、改まって言った。
「——で?」
「へっ? なに?」
「何ヶ月なんだよ」
「え?」
「デキちまったんだろ?」
「はっ!?……ちげーし、」
「どーせ若い女の方がよかったんだろーがよ!」
わざと大仰に抑揚をつけて三井が言う。
「だから……ほんと、そーいうんじゃ」
「いとこなんです、私。」
「へっ?……そーなのか?」
宮城の言葉を遮った彼女に、ケラケラと笑っていた三井が目を丸くして聞き返した。
「借金しちゃって家を追い出されて……それで、ちょっと、お世話になってるっていう……」
「え、じゃあ……一緒に住んでるのか?」
今度はふしぎそうに木暮が問う。それに対して宮城が気まずそうに「ま、まあ……」と応えた。
「なんだ、そうだったのか。まあ、そうだよなー。だいたい彩子と別れてばっかりで、なあ?」
そう言って左の眉を吊り上げながら頬杖を付き宮城をじとっと見やった三井を木暮が「こらっ、三井!」と制して軽く小突く。しかし彼女がすぐ聞き返した。
「え……? アヤコ、って?」
「あ?なんだよ宮城、お前まだ言ってなかったのかよ?」
頬杖を解いて言った三井の問いかけに、宮城があいまいにうなずく。三井はやれやれとでも言いたげにわざとらしく溜め息を吐いてから言った。
「あのな、婚約者だよ。宮城の。」
三井が真面目そうな顔つきで彼女を真っ直ぐに見据えながら言った。
「マネージャーやってたときのあのピタッとしたパンツがまた、セクシーでなあ〜」
「三井、もうワインはそれぐらいにしとけよ」
木暮は情けない顔をしながら三井からワインのグラスを奪い取ると「ごめんな?」と宮城に言い「俺の青春の影が〜」などと言って、テーブルに打っ伏す三井の介抱をしていた。
「……いたんだ、彼女。」
「……おかげさまでネ。」
目のまえの二人を眺めながら、ニヤッと笑って揶揄い口調で言った彼女に宮城は溜め息混じりにそう返した。
そして数時間後、三井の家での飲み会がお開きとなりその帰り道、家の前の坂道を宮城と並んで歩いていた彼女が先に口火を切った。
「——三井さん、だっけ?」
「え? あぁ、さっきの?……うん。」
「あの人が言ってたアヤコ……さん?婚約者ってことは、結婚寸前だったってことでしょ?」
「……」
「なんで、別れたの?」
「……」
「あっ、別にいいけどね。私もフラれたばっかりだから、一緒だなあって思って」
しばらく沈黙が続いたが、宮城が「きっと」と不意に夜空を見上げて、そっとつぶやいた。
「ヒレが、小さかったからじゃねーかなあ……」
「ヒレ?」
「そー、ヒレ。魚の世界ではさぁー、ヒレが大きい魚ほどモテるからねえー」
「……」
「……」
「……そーいうこと言ってるからフラれるんじゃないのー」
「あっ……、へへ、……そーかもねっ」
宮城が後頭部に右手を当てながら参ったというように面を食らって苦笑いしているうちに彼女はそそくさと宮城家の玄関のドアを開けて、中へと入って行った。