検査の数日後、結果を聞きにやってきた宮城と彼女。しばらく待っていると神が面談室にやってきた。
「おはようございます」
そう言って、軽く頭をさげて部屋に入ってきた神にふたりは軽く会釈をする。神が目の前の席につくと微笑みながら言った。
「検査の結果がでました。」
「……」
「名前さんの肝臓は、アンナさんに移植可能です。」
ほっとしたように息を吐いてうつむいた宮城が小さな声で「よかった……」と言った。その声は微かに震えていた。そんな宮城の姿をただ彼女はじっと見ていた。
「あとはアンナさんの様子を見てから移植のことを話して、同意書にサインをもらいましょう」
「うん……わかった。」
「——名前さん、」
「……?」
「これからも、頑張りましょう。」
「……はい。」
神はアンナの肝移植が可能であることを二人に伝えたあと午後の回診でアンナの病室に行った。
ベッドの上で��ウェルカムボード�≠フデザイン画を描いていたアンナがその手を止めて神を見ながら言った。
「あれ?先生、今日はなんだか嬉しそうだね〜」
「……そう?」
これからアンナにドナーが決まったことを話し手術の同意書にサインをさせるのは宮城家、兄の役目だが、いずれにせよアンナの病気が治る可能性が一気に高まったのは確かで、医師としてこれ以上嬉しいことはなかった。
「どう……?そろそろ完成かな?」
スケッチブックに色とりどりのペンで描かれたウェルカムボードのデザイン画に目をやった神の頭の中で、突如クエスチョンマークが点滅した。そこに書かれていたのが『RYOTA & AYAKO』となっていたからだ。
おかしい。どうして『主人公NAME』ではなく——
『AYAKO』なのか……。
「——えっ? アヤコって……」
神が思わずつぶやいた言葉をアンナは聞き逃さなかった。しかし事実、なにも知らないアンナはあっけらかんとして応える。
「リョーちゃんのお嫁さんになる人だよー」
「へえ……アヤコさん、って言うんだ——」
「そう!」
アンナはうなずくと携帯を操作して写真を神に見せた。それは以前、宮城と彩子のウェディングドレスを選びにいったときに、アンナが撮影したものだった。画面には、つい先に会った女性とは全くタイプの異なる、ウェディングドレスを着た三十代くらいの女性と宮城が仲良く並んで写っている。
神も写真の女性には見覚えがあった。これは、湘北高校バスケ部の、元マネージャーだ——。
神の表情が、みるみるうちに固くなっていく。だがアンナはその変化に気付かず無邪気な笑顔を向けてくる。
「ねっ、美人でしょう?」
「え、うん。……そうだね」
携帯をアンナに返すと神は動揺を悟られぬよう「午後の回診に行こうかな」などと言って足早に病室を出ていった。
第三章 完