「寿、ひさし、ヒサシ!!」
「アんだよ!聞こえてるっつーの!」

いつもの部活の帰り道。あれやこれやと話がコロコロと変わる名前に、俺は思考が追い付かず少しイライラしていた。

「ねーねー、リョータくんて彩子の事いつから好きなの?」
「あ?……知らねーよ、本人に聞け」
「えー、ケチ。」

あ、拗ねやがった。……フっ、そんなに頬っぺた膨らまして口の中に何入ってんだよ。

「名前、」
「?」

尚も頬を膨らましたままの名前が俺を見上げた。

「——!」

……危な!!今、危なかったマジで!キスしそうになったぜ……ったく、あーあ。


「……そン中、なに入ってんだよ」

人差し指で頬を軽く押してやると、わざとらしくプシューと言いながら口から空気が抜けた。その付き出したタコみたいな唇に見惚れてたら途端にニコッと微笑んだ名前が言った。

「いまチューしたいなーって思ったでしょ?」
「バ……!!なにバカな事言ってんだ!」
「寿のスケベ」
「バ、バカやろう!んなわけあるか!」
「……そんなムキになるぅ?」

恥ずかしさで赤面しながら俺は、馬鹿!と、もう一度名前に浴びせて、スタスタと先に歩いて行くと「待ってよ」と笑いながら追っかけて来た名前の靴の音が聞こえた。


『彩ちゃ〜ん!!もうずっと側にいて!!』
『何バカな事言ってんのよ!練習に集中!』

『彩ちゃ〜ん!ずっと俺の隣にいてよ〜』
『あらリョータ、私たち席、隣じゃない。』
『そうだけど…その、精神的な部分で…』
『バカ!ほらコート戻りなさい!』




ああ、こんなときに……なんで、あのバカのこと思い出すんだよ。……いいよな素直でバカ正直に想いを口に出来る奴は。


「寿、寿!」
「……なんだよ」
「楽しいねっ!」
「あ?……そ、そーかよ。」

知らぬ間に追いついて来た俺の隣を並んで歩く名前を見降ろせば、本当に全力で楽しそうに笑顔ではしゃぐ彼女に俺は小さく溜め息をついた。

「あー、なんで溜め息吐いたの〜?」
「……」
「寿、なんで、なんでっ?」
「……、うるせーからだよ。」

そんな言葉とは裏腹に、無意識に頬が緩んだ俺が、名前の頭をポンポンと軽く叩くと、名前は「ひっどーい」と言ったあと嬉しそうにまた全力の笑顔を向けて来た。


あぁ、もうクソっ……!










 ずっとずっと、
  俺の となり にいてくれないか!




(なんて口が裂けても言えねぇ……。)

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