「三井サン、」
「あ?」
「いーんスか?アレ、」
いつもと変わらぬ放課後の体育館で練習に励む俺含むバスケ部員たち……と、入口のヤジ集団の。
シュート練習の最中、後輩の宮城が、不意にそう問い掛けて来た。アレ≠ニ、宮城が指さす先に目を向けるとそこには、それはそれはバスケ部員よりも大きな声(しかもはちゃめちなに楽しそうにして)をあげる幼なじみ≠ェ居た。
その笑顔の隣には、俺を散々ぶんなぐってくれた一年生の問題児、水戸洋平の姿。
「いーって、なにがだよ」
「やっ、何かイイ感じスよね?アイツと名前ちゃん」
「……。そーかぁ?」
「そースよ、俺でも分かるよあんなん」
赤木の妹が顔を真っ赤にして野郎軍団にキーキーと雄叫びを発している横でバシバシと水戸の肩を叩きながら涙を流して笑う名前。
「……。」
なあーにがそんなに面白れーんだよ……クソが。
「あーあ、捕られちゃうスよ?」
「あン!?」
咄嗟に目線を宮城に勢いよく向けるとニヤニヤと笑っている後輩のムカつくツラがお出ましなわけで。いつも生意気なんだよ、テメーのその顔……。
「三井サンがもたもたしてっからさー」
「……ンなっ、」
一気に顔に熱が集まってきて赤面してるのが自分でも分かった。口をパクパクとしている俺に宮城は「オレ知ーらねっ♪」と反対側のゴールに向かって走って行った。
「……ったく、なんなんだよ、アイツ」
—
その日の部活の帰り道、いつものように名前と肩を並べて歩いていた。歩幅の狭い名前に合わせて俺もスピードを調節する。
「今日さー?水戸くんがね」
「……」
あーあ、もっと練習したかったわ。赤木の野郎がうるせーからな。あんま遅くまでは残れねーし、それに今はコイツもいるから長居させらんねーしな。
「帰り際に水戸くんがね」
「……」
腹減ったな……今日の晩飯なんだろ。肉食いてえ気分だ、肉。でもカレーも捨てがてぇよな、上にソースたっぷりぶっかけたやつ。俺ソースかける派なんだわ。
「明日水戸くんたち」
「……、」
お、気づいたらもう最寄り駅着いたのか。なんか今日はいつもに増して早えーな。気のせいか?
「水戸くんのバイト先に」
「……っ」
…………。
「水戸くんが……」
「名前」
俺はその言葉をさえぎって彼女の名前を口にしてから立ち止まった。話を遮断されたことで彼女も立ち止まり俺の方を振り返ったあと不思議そうに首を傾げる。
「どうしたの?寿……。」
「……」
『水戸』→計5回。
『寿』→計1回。
体育館から出て歩いて来ていま、この瞬間までのあいだに水戸と俺の名前を呼んだ回数だ。何故か自然とカウントしていた俺の頭の中で黒い何かがグルグルと埋めき始めた。
「お前……あんま水戸と仲良くすんなよ」
「え?水戸くんと?どうして?」
……6回目、か。
「……やっ、なんとなく」
「何となく?何で?水戸くんが何かあったの?」
「……7回。」
「へっ?」
「あっ、いや。……なんでもねえーよ」
目を逸らしてそう呟いたあとに、また歩き出した俺を早歩きで追い掛けて来た名前は、俺の顔を覗き込みながら「どーして?」、「なに?」と煽ってくる。
シカトしていると「水戸くん…」と8回目の奴の名を呼ぶ声がして、ようやく名前の方へ俺は顔を向けた。
「……」
「寿?」
8回 VS 2回。(惨敗)はっ、クソすぎる……。
「アイツ、なんか危ねーとか聞いたから」
「え?危ない?そうなの?」
「軽いだのなんだの、聞くからよ……」
いや、待て待て、そんな悪口を吹き込みたいんじゃねぇのに!いや……でも何て言えばいーんだ?なんつーか、、、
「そんな人じゃないよ?水戸くん。」
「……、」
……あー、ダメだ、もう——。
「だから……っ!」
「へっ!?」
「俺が……、嫌なんだよっ!」
顔に熱が籠った気がして、ふいっと名前から顔を逸らした俺は早歩きで駅のほうへ向かった。
ったく、何 も分かってねぇ……!
(えー!分かんない寿どゆこと?)
(……3回か。)
(へっ?3回?)
(……ハァ。もういーわ。)
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