湘北高校に転校して来て既に三週間が経とうとしている。季節は初夏。今年もまた、暑い夏がはじまる。
日々大きくなる幼なじみ≠ヨの想い。いつもと同じく隣を歩く彼の顔を見上げればどこかご機嫌な様子で呑気に口笛なんか吹いていた。
ああー、…………かっこいいなぁ。
「——!? いや、違う!!」
「……あ?」
咄嗟に大声を出していた私はハッとして口を両手で塞いだ。そんな私を彼は見下ろし不思議そうに眉を若干、眉間を寄せた。
「……どーした?」
「う、ううん……なんでもない」
「……? 変なヤツだなァ」
そう言って正面を向き直した寿はポケットに両手を突っ込んでまた口笛を吹きながら歩き出した。
……あーあ、焦ったよ。自分が一番びっくりしたよう、本当にもう……。
ふう、と息をついた私はスクールバッグから飲みかけの500mlのペットボトルを取り出すと口を付けてクイッとその水分を喉に流し込んで蓋を閉めた。
「名前、なんだよその中身」
「え?」
「ペットボトルの。」
「あ、えっと……ポカリ。」
そうつぶやいて私は、両手でペットボトルを持ち直し、そのラベルに視線を落とした瞬間——
「ひとくち。」
寿の声が聞こえた頃には、私の手の中からペットボトルが取り上げられていて、グビグビと残り三分の二を飲み干されてしまった。
「ああー!!ひとくちって言ったのに!」
「ぬっる!」
「も、文句言うなし!」
そのまま寿は空になったペットボトルを、自分のスポーツバッグへとしまい込んだ。もう……!!なんなの、ドキドキする!!あー、もうっ!ヤダ、なにこれ……!!
「名前、」
「は、はい!」
「危ねーって」
寿にグイと腕を引かれ車道とは逆の位置、寿の左隣に移動させられた。
「!!?」
「ぼーっとして。車に轢かれんぞ?」
「……あ、ああ……ごめん、ナサイ。」
しどろもどろな謝罪のあと、チラリと寿を見上げると、優し気な表情で笑う彼の瞳と目が合った。
「つか、名前」
「ん?!」
「よく飽きねーな」
「へ?」
な、なにが……?
「毎日見に来て誰かお目当てでもいんのか?」
「……はい?」
毎日見に来て……って。
え——。バスケ部の、こと——?!
なんとも……思ってないの?
(寿を見に行ってるんだけどな……)