君の笑顔に会いたいよ
近すぎて言えないよ。
ああ、
流れて消えた雪の涙
「え〜!? 木暮先輩かぁー」
「私は絶っっ対、三井先輩派っ!」
「でも怖いじゃん?三井先輩ー」
「そこがいいんだよっ!あの、マイルドヤンキーみたいな感じが!」
高校二年生、二月。私と寿が別れて、約二ヵ月が経とうとしていた。放課後の掃除の時間、同級生たちのそんな他愛も無い会話が不意に耳に飛び込んで来る。
「なに?マイルドヤンキーって」
「んー……ヤンキー風味の、好青年?」
「ははは!なにそれー」
マイルドヤンキーね……確かに。久しぶりに再会したときの彼は、確かにちょっとツンとしてて、少し怖かったけど。
でも、それから一日が過ぎて一ヵ月が過ぎて……やっぱり貴方の、変わらない優しさを知ったよ。
初恋との再会に戸惑い、
「じゃあ隣り歩けよ!うっせーな!」
彼の優しさに、ときには遠慮して
「え、いいよ!クレープもご馳走になったし」
何度もすれ違って
「なんか、逆効果だったみてーだな…」
気持ちが、迷子になって……。
「ここが今の私たちの限界なの。」
もう、
分かんなくなっちゃたの。
でも——、
「 ずっと一緒にいような 」
あの日の言葉がずっと消えないの……。
―
そう言えば最近、見かけてないなあ……。まあ、私が避けてるってのもあるけどさ。
「バカヤロウ!そんなんじゃねーよ!」
ゴミ袋を手に持って校外を歩いていると、聞き慣れたその声に思わず立ち止まり校舎を見上げれば教室の窓際に人影がふたつ。可愛らしい同級生とじゃれ合う、寿の姿があった。
「三井照れてる、可愛い〜」
「ふ、ふざけんなっ……!」
……。
一番大切だって気づいたのに
遅すぎた私は、
ねぇ……
どこに歩けばいいんですか?
私はすぐに俯いて顔を隠す。そのまま駆け足でゴミ捨て場に行き乱暴にゴミ袋を投げやった。教室に戻る途中も同級生と仲良く話しているその姿を目に入れないようにと無意識に小走りになる。
けれど、相も変わらず間抜けな私は進行方向から歩いて来た人物と思い切りぶつかって後ろに転びそうになったことでバランスを崩してしまった。
「キャ……ッ」
「っと、セーフ……!」
「………、水戸くん」
気が付いたら転ぶ直前に誰かに腕を掴まれていてその掴まれた腕の延長線上に、水戸くんが居た。ああ、私……水戸くんと正面衝突したのか……。
もうあの人は手を取ってくれるはずが無いのに、私は今でも、つい期待をしてしまう。いつも寿がその手を取って、救ってくれていたから……。「ヘラヘラ笑ってっからコケるんだよ」って。
でも——、「お前の笑顔が好きだ」……、って。彼はいつだって、私の理解者だったから。
「あらら、泣かせちゃったか」
「ごめ……、水戸く……ん」
眉をハの字に下げた水戸くんが、大袈裟に両手を上げて降参の意思表示をする。
「——名前さん、」
「ん……?」
「一服、どうスか?」
俯いて目尻に滲んだ涙を拭いていた私が見上げた先に、ピンク色をした、「イチゴミルク」の缶が見えた。
「へへ……、アリガト。」
手のひらの中に思い出をそっと
閉じ込めたけれど
消えないんだよ、
この気持ちは——。
すぐ側にあった石壇に二人で腰を下ろして、水戸くんから受け取ったイチゴミルクの缶を握り締めた私が、ぽつりとつぶやく。
「水戸くん、」
「はい?」
「遅すぎた私の気持ちは、さ?」
「うん」
「どこに、行けばいいのかな……」
ツ ノ ル キ モ チ
(会いにいけよ)
(え?)
(すぐ真上に居るぜ、その会いたい人は。)
(近すぎて、行けないよ……)
※『 ツノルキモチ/HoneyWorks 』を題材に。
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