君の手に触れたいよ

 こんなに近いのに

 もう一番じゃないってこと

 分かっている。




「まァ〜た探してんのぉ〜?」
「……なっ!?」
「モ・ト・カ・ノ♪」
「バカヤロウ!そんなんじゃねーよ!」
「三井照れてる、可愛い〜」
「ふ、ふざけんなっ……!」

高校三年生、二月。名前と別れて、約二ヵ月が経とうとしていた。放課後の掃除の時間に同級生の女子が窓の外を見ている俺に絡んで来る。

べっ、別に探してなんかねぇ……!でも、何だかずっと避けられている気がしていて……。何度も声を掛けようとしたんだ。でも、いつも名前を見かけるたびにものすごく遠くに感じて。

息が詰まるこの想いは……
どこで休めばいいのだろうか——。


——本音、

「ずっと一緒にいような」


——建前。

「ったく、未練がましーオンナだな。」



本当は、嬉しかったんだ。あいつと、再会できたことが……。だから——もう二度と、傷つけたくないから


「もう、その手を……離して。」


また、大事な言葉を飲み込んだんだ。あのとき、ほんとうはちゃんと伝えたかった。どんなことがあっても

「 お前の笑顔が好きだ 」


……って。もしもよ、普通に声を掛けたら名前はまた、微笑んでくれんのかな……。


「キャ……ッ」

ふと見降ろした窓の下、その目線の先に映る愛おしい彼女の姿。転びそうになったその光景に思わず「あぶねっ、」と、声が出てしまった。

「っと、セーフ……!」
「……水戸くん。」

……。

俺の視線の先には生意気な一年坊の後輩と笑い合う名前。その姿に胸が詰まる。いつも彼女が転ぶ寸前に掴んでいたその手を、今は別の誰かが支えているという現実。


 君が遠いよ

 息が詰まるこの恋は

 どこで休めばいいんですか?



「あー、水戸洋平ね。」
「あ? 水戸と仲いいのかよ?」
「ううん、あの子ヤリ手って有名だからねぇ〜」
「ふうん……」

石壇に腰を下ろして笑い合う名前と水戸を俺はそのままずっと、ここから眺めていた。もう、あの笑顔は俺に向けられる事はないのか……。

「寿は本当に嫉妬深いんだから」って。——でも「そんな寿が好きだよ」って。彼女はいつだって俺の理解者だったのに。


「持ってかれちゃうよー?水戸洋平にー。」
「……いや、もう関係ねーしな、俺には……」
「——三井、」
「あ?」
「それって……本音?それとも、建前?」

目を見開いて同級生を見たあとに俺は、もう一度視線を窓の下の二人に落として小さく呟いた。


 手のひらの中に思い出をそっと

 閉じ込めたけれど

 消えないんだ、

 この気持ちは——。



「……建前だよ。」










 



(行けば?)
(どこにだよ)
(すぐ真下の想い人のとこにさ?)
(……近すぎて、行けねーよ。)


※『 ツノルキモチ/HoneyWorks 』を題材に。

 Back / Top