真冬の恋〜あなたを想う風〜
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「寒っ……!」
宮城や桜木がダラダラと雑談しているうちに、俺はパパッと着替えを済ませ部室を後にし、外に出た。けれども、予想だにしていなかった寒さに思わず口からそんな軽率な言葉が飛び出る始末。
身体が訛るとか身体を温めたいんだとか、とにかくそんな理由を付けて相も変わらず練習に参加していたけれど本心はただ単に、何かしていないと落ち着かないというか色々と余計な事を考えてしまい頭がパンクしそうになるので、もちろん、推薦狙いということもあるが、こうして引退した今も尚、部活動に顔を出していた俺。
「雪降んじゃねーのか、コレ」
初雪か……?と、ついついそのまま独り言が、ポンポンと出てしまうくらいに今日は寒い。
あーあ、ひとりって寂し。——いやっ、違ぇ!バカ!寒いからだ。寒いから感覚が麻痺してそんな発想にっ!なんて一人ノリツッコミを心の中で展開ながら寒さを少しでも紛らわせるため、ポケットに手を突っ込んで、足早に歩いていると、「三井サーン!」と後輩の大きな声が背後から聞こえてきたので反射的に舌打ちをして振り返る。
「待ってよー!」
そう叫ぶ後輩の首にはこれまた派手な柄のマフラーが巻かれていて両手はご丁寧に手袋までしてやがる。そんな姿を流し見てまたそそくさと歩きだせば「寒い寒い」と言いながら歩幅を合わせて来た後輩が、俺の隣を並んで歩く。
「三井サン、寒くないんスか?」
「寒みーよ」
即答して俺は白い息をわざとらしく「はぁー」と吐いて見せた。そんな俺を覗き込んだ宮城は、下から上まで舐めるように全身を眺めたあと俺の首元に視線を止めて無遠慮にも、「マフラーやめたの?あの赤いの」と、心の傷口を容赦なくえぐってくる。馬鹿野郎が。着けれっかよ、あれは——アイツからもらった……
「あのマフラー似合ってたのに——!」
「……」
こいつわざとだろ。絶対わざとだ。ああ、嫌いだ……俺、やっぱコイツ嫌い。と心の中でつぶやいて「うるせーなぁ……」と小言をつけば、特にそれには反応を返してこなかった宮城が、早々に話題を切り替える。
「勉強はかどってます?」
「はかどってねーよ」
これもまた短く即答。寒いんだっつの。口開けるのも嫌だっつのに……とか、ぶつくさとまたも心の中で文句を零している俺をよそに「三井サン頭わりぃもんね」とか「今から気合い入れたって推薦取れんの?」とか、揶揄い口調で質問攻めをしてくる始末。はぁ……あーうるせェうるせェ。そもそも、なんで毎度毎度コイツと下校しなきゃなんねーんだ。ったく、罰ゲームかよ。
そんな思いを込め、メンチを切って宮城を見下ろしてみれば、こともあろうに奴はニコニコと笑っていた。……まぁコイツなりに気を遣ってんだろうな、ということは理解している。だから最近はあまり強く反撃はしないことにしている。もう大丈夫だっていうのに。さすがにもう、落ち着いたよ、あの——大失恋の痛みからは……。
「あっ!」
急に大きな声を発した宮城に驚いて俺が宮城を見ると、奴はガサガサと小さな袋から何かを取り出してシャカシャカとその長方形の代物を上下に振り回していた。「温ったけ〜!」とか言っているそれをよく見ると、なんとホッカイロだった。振り回したホッカイロを、すりすりと頬に当てる宮城の姿を見て俺は思わずブッ!と、品なく噴き出してしまった。
「お前、女子かよ!」
「あ、三井サンにもあげるよ!」
俺のツッコミを無視してそう言った宮城はもう一つの未使用のホッカイロをバッグから取り出して「はい」と俺に手渡して来た。なんとなく流れで素直にそれを受け取ったとき自然と、悪ィな、とお礼を言っていた自分がいた。だって、本当に寒かったんだ、これは変えようのない事実だ。
「気の遣い方まで、彩子の性格のり移ったんじゃねーのか?」
この際マネージャーやれよ、お前。と、それでもいつもと変わらぬような憎まれ口を叩いてしまうのは俺の性分なので、仕方ないだろうと勝手に自己解決させて受け取ったその袋からホッカイロを取り出し軽く上下に振っている俺に前を向いたままの宮城の、落ち着いた声が聞こえた。
「名前ちゃんからだよ」
俺は振っていたホッカイロを危うく落としそうになったけれどギリギリのところで持ちこたえて宮城を、ゆっくりと見やる。そうして、もう一度聞き返すみたいにして「あ?」と言えば宮城は、相変わらず前を向いたままで「ハハハ」と楽しげに笑った。その後は言葉もなく、はぁ〜と白い息を吐く宮城の姿になぜか俺は押し黙ってしまう。
俺は心に嘘を残したまま、上手く言葉に出せないでいた。後輩が遠回しに話すその言葉の隙間に彼女を想う風が、そっと吹き抜けていく。
それでもやっぱりその先は何も言葉を発しない宮城に俺も前に向き直ってから、またホッカイロをシャカシャカと振った。
ようやく温まったホッカイロを強く握りしめて両手をその長方形の温もりと一緒に、ポケットにしまい込んだ。
「なんかねー、二個くれたんスよ」
「……、あっそ」
——温ったけ……。
彼女にとっての自分は何なのか、いつだって、この想いが頭から離れない。こうして抱え切れなくなるほどの、息が出来ないくらい本当の大きな愛が今も尚、生まれ続けている。
彼女を想う全てがこんなにも切なくて、彼女を愛することがこんなにも……彼女を想う全てが、こんなにも嬉しくて、こんなにも幸せだ。
この気持ち、彼女は今でも、受け止めてくれるだろうか——。
そんなことを考えながら、ふと夜空を見上げてみれば、この冬の寒さとは裏腹に空は満点の星が瞬いていた。
きみの
温
かさを知る。
(名前ちゃんありがとう!でも何で二個?)
(……、)
(名前ちゃん、)
(……ん?)
(三井サンに渡しておくね?)
(リョータくん……うん、ありがとう)
※『 あなたを想う風/HY 』を題材に。
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