バスケ部のインターハイが終わり、夏休みが明けた。まだ真夏だからなのかそれともインターハイでの興奮を未だ引きずっているのか……

いや、たぶん違う。

インターハイ前、予選の戦陵南が終わったあと、きっと幼馴染と初めて交わった・・・・からに違いない。

正直それまでは、触れるだけのキスをするだけで胸がいっぱいになって、それ以上それ未満の行為に進むたび、心臓が口から出てしまいそうだったのに。

彼とひとつになってからというもの、どうやら、私の頭はずっとお花畑状態で湧いているらしいと気付いた。思春期だからとか、多感な時期だからとかそんなものは関係ない。

だって、
私はやっぱり、おかしいのだ——。








昼休み、久しぶりに屋上にあがってみたくなって屋上の古いアルミの扉をゆっくりと開けてみた。

古代から言われている、不良の溜まり場≠ニもいえる屋上。でもここ湘北高校は流川くんが昼寝をしているかしていないかにしか過ぎない。

転校して来てから今日まで不良が屯しているところなんて見たこともなかったので。そんな屋上を占領している流川くん。どうやら今日は、いないみたいだ。


「あれっ?ここにいたんだ」

フェンスに手を付いて風に当たっていたとき誰かから声を掛けられて振り返れば、相手はまさかの流川くんのライバル、桜木くんの親友だった。

「あ、うん……」
「めずらしいな」
「たまには屋上あがってみよっかなって」
「ふーん」

彼はそう相づちを打って壁に寄り掛かると、パチンコの景品らしき安っぽいライターでシュポッと煙草に火をつける。

……何か、いつもと雰囲気が違うような。放課後の体育館じゃなくて日中に出くわしたからかな。

そんなことをひとり、ぼんやりと考えながら水戸くんの動向を目で追っていると、水戸くんが伏せていた目を持ち上げて私を見る。

「穴あく。」
「へっ?」

ハハっとへらり眉毛を下げて浅く笑う水戸くんを私は凝視する。

ああ、見すぎってことか。

私は自分でそう解釈をして、「ハハ。ごめん」と言ってから水戸くんの元まで歩み寄り、隣に並んで彼と同じように壁に背をあずけた。

スッと持っていた煙草を私のいる反対側の手に持ち変えた水戸くん。私が言葉を発する前に「タバコ臭くなるぞ」なんて注意を促してくる。

「あ、大丈夫だよ。ボディコロン持ち歩いてる」
「へえ、なんかエロい響きだな」
「……」

……え、

「……」
「……」

まさかの返しと、水戸くんってそんなこと言うんだという驚きで私は言葉に詰まる。


「名前さん」

沈黙のなか、不意に真横にいた水戸くんが私の名前を呼んだ。私が顔を上げる前に先の言葉が投げ掛けられる。

「こっち向いて」

——え。(……part2)

「……」
「……」

な、なんだ……なにかがおかしいぞ。
やっぱ今日の水戸くん……変だよ、ね?

そんなひとり脳内会議を繰り広げていたさなか、水戸くんの手が私の頬に触れた。

ドキとも、ぞわとも取れる感覚が背筋に走って、私は言葉にならない言葉を漏らすばかり。

混乱している頭の片隅で、馬鹿な私は「あ、煙草の苦い香りがする」なんて乙女みたいな思考が浮かんでくる。

え、え、そんな歌詞あったよね?
さいごのキスはタバコの……って。

いや待って、
いまはそんなことどうでもよくてさ……!!

その場に固まっている私のくちびるに、頬に触れていた水戸くんの親指がスーッと降りて来て、ここでようやく勢いよく水戸くんのほうに私は顔を向けた。

きっと私の顔はいま、赤面状態にあろう。

それでも、ああ……なんで来る前にリップ塗り直してこなかったんだ、とか、絶対ぷよぷよってよりも乾燥して潤いの無いカサカサしてるくちびるだ、いま!なんて思考で脳内が埋め尽くされる。

「な、なに水戸くん……どしたの、お、落ち着いて……!!」

——落ち着くのは自分だ。

こんなに声を上ずらせて、まるでこれじゃあ……私が水戸くんを好きみたいじゃないか——!!

「いや、名前さんのくちびる」
「……!?」
「潤いが足りてないから乾燥してるのかなーって」
「えっ、……ちょ、待っ——」
「俺も今日は特に乾燥しててさ、だから」
「——!!!」

水戸くんがゆっくりと話しながら顔を近づけてくる。不意に視線を下に落とし込んだ私の目に、水戸くんが煙草を地面に落として爪先でキュッキュと火を消す仕種が映って、カアアとなぜかさらに顔に熱が籠る。

ダイジョウブ——、この湘北高校……
こういった場面では必ず誰か知り合いがバーン!と屋上の扉を開けてくれるから。

ドラマや漫画のワンシーンみたいにさ、きっと、いつものように誰かが——。

「俺のくちびるも潤してちょーだいよ」
「あっ、ちょ——!!」

……待って、今日に限って誰も……
来ないんだが——!!!?

慌てふためいている私を置き去りに、水戸くんのくちびるが……わたしに

触れた——。




「———!!!」

ガバッと起き上がった私の目に映ったのは、見慣れた壁に見慣れた部屋。

……私の、部屋だ。

また・・……夢、だったのか——。

「はあ……いや、すっごい汗……」

溜め息混じりに自分の首筋に手を滑らせてみればじっとりと嫌な汗でしめっている。

彼氏の夢を見るならまだしも、どんな世界線か、最近わたしの夢に出て来るようになったのは……

私が愛してやまない、その私とひとつになった彼、寿の後輩なのだ……。








「はあ〜……」
「なによ、辛気臭い顔して〜」

両手をついてお弁当を目の前に大きな溜め息をつく私に、親友の彩子が楽し気に抑揚つけて言う。

昼休み、あいかわらず賑やかな我がクラス、二年一組の教室の中で私はいつも通り彩子と昼食を取っていた。

インターハイが終わり、新生湘北バスケット部のキャプテンになったのは、このクラスでも人気者のリョータくん。

今年のインターハイまでの道のりに大いに色を添えた一年生の桜木くんはいま、リハビリ中で練習には参加していない。

もうひとつ大きな変化と言えば、その桜木くんの愛しの君、晴子ちゃんが正式にマネージャーになったことだ。


そして……

最近よく見始めた私の夢の中での登場人物は、その桜木くんの親友でもあるから、桜木くんが練習に来ないとすれば放課後の体育館に来ることも少なくなるだろう。

そう思って高を括っていたのに、彼らは相も変わらず応援に駆け付ける。

もう、彼らは桜木くんというよりか、湘北バスケ部のれっきとしたファンであり、応援団になったのだろう。

「ええ?……いや、」
「んー?」
「最近、あんまりよく眠れなくてさ」
「あら、珍しい。三井先輩と喧嘩でもしたの?」

ギクッと本気でマンガみたいに効果音を放った私を見た彩子が、とたんニヤ〜と顔色を変える。

なんか、どんどんリョータくんに似て来ると感じているのは気のせいだろうか……。

いや、もともと似たモノ同士なのかもしれない。私はいま、できればその人の話をしたくないというのに。

「してないよ、喧嘩。いたって普通、そっちは」
「へえ、じゃあなに?」

「眠れなくなるほどの悩みって」と、フゥと息をついた彩子も片手で頬杖をついてみせる。

「……誰にも、言わない?」
「ええ」
「とくに、リョータくんとかバスケ部員にも?」
「言わないわよ、アンタの話だれかにしても得しないもの」

はは……、今日も直球ストレート。
まあ、これが彩子の性格だから今さら痛くも痒くもないけどさ。

「……なんかね、最近……夢みるの」
「夢?」
「うん、同じひとが出て来てさ……」

はじめてこの話を他人にした。そう、インターハイ後から見るようになった私の謎夢。

相手は決まって水戸洋平——しかも、いつも今朝見たようなちょっと、ピンク色がかった怪しいやつ……。たぶん、夢の中の私と水戸くんは恋仲にある。ああ、わたしの頭は湧いている。

はじめこそ、なんか夢に水戸くん出てきた気がするなーくらいで流せていたのに、最近はこうして内容がリアルすぎて、もう夢から覚めても本気で頭が湧きっぱなしだ。

寿とも、最近そういえば触れていないかも……。それもこんな夢を見続ける原因にあるのかも知れない。

まったく、どっちが盛りのついた猿なんだか……これじゃあ寿をバカに出来る立場じゃない。

彼は試合、練習と忙しかったし私も補習とか委員会の仕事とかで寿にと別々に帰ることが増えた。その寿に限らず水戸くんとも久しく長時間会ってないな。そういえば。

「誰が出てくんのよ?」
「ええ?……水戸くん。」
「ええ?! 水戸洋平?」

そう、水戸洋平。なんならついに今朝(昨晩)はキス——、までしてしまった始末。

「——昨日ね、」
「うん?」
「しちゃった、の……」

尻すぼみしていう私の言葉に彩子は「なにを?」と間髪を入れず聞いてくる。

「……ス、」
「えっ?なに? スって。」
「……、だからっ! キ……、ス。」

勢い着けても、やっぱり尻すぼみする私の言葉を聞き終えた彩子が、きょとんとしている。その顔をチラと一瞥したとき、彩子が破顔して「アッハハハハ!」と声高らかに笑った。

待ってよ、笑いごとじゃないんだってば。きっとこの目の前の親友はチュ、みたいな。犬か猫とでもするようなキスを想像しているのだろう。そんなんなら私だって夢を見てないフリでこんなに悩まないよ。あ、なんか変な夢みたなってやり過ごすっての。

そんな簡単な話じゃないんだってば、リアルすぎる。ああ、水戸くんってこんな感じでキスするんだと想像してしまうくらいリアルで生々しかったんだってば。

なんなら今朝起きたとき、あれ?わたし……まじで水戸くんとキスしちゃった?昨日の昼休み。 って思ったくらいにはリアリティーがあった。

「笑いごとじゃないんだってば〜」
「なんでよ、そんなことで悩むなんて、アンタもウブね♡」
「違うんだってばー、そーいうんじゃなくてぇ」

私の心底勘弁と言いたげな姿を見て、彩子が顔色を変えた。急に真面目くさった表情を向けてきて「……なんなのよ、じゃあ」とさとす。

「……、はあ。……リアルだったの」
「リアル?」
「うん。その……感触とか、なんか……彼っぽいっていうか」
「なにその、彼っぽいって」
「……み、水戸くんっぽいやり方っていうかァ」

もはや話しているこっちのほうが恥ずかしくなって来る。私、なんでこんなこと彩子に話してるんだろうと思い返してしまうくらいに私、真面目になに言ってんだろ……。

「ふーん、目覚めちゃったわけ?」

彩子はまた頬杖をついてニヤッと笑う。
私は彼氏のそれみたいに思わず片眉を歪める。

「言い方がね……、なんか、卑猥だよ?」
「あんたが卑猥な相談してきたんでしょーが」

彩子はくちびるを尖らせて呆れた顔をする。

「なんかさ、寿に気まずくて」
「ええ?……夢なのに?」
「う、うん。——だって! ほんとうにリアルだったんだってば、まるで……」
「まるで?」
「自意識過剰だけど……」
「……」
「水戸くんが、私を……好き、みたいに見えた」

ふいっと顔を背けてぽつりと呟けば、彩子からすぐにでも笑い声が聞こえてくると想定していたが彩子の笑い声は聞こえてこない。

不思議に思って彩子に視線を戻す。

「アンタさ、」
「ん?」
「それ、リアルに、水戸洋平に恋しちゃったんじゃないの?」
「——え。」

わたしの頭は、本当に湧いている。








放課後、彩子にあたりまえに今日は練習を見に行かない旨を伝える。

うまく寿をごまかしといてとお願いしたとき、「めんどくさいわね、貸しよ」なんて言い放たれて面食らう。

寿とも水戸くんともすれ違いませんようにと、そそくさと生徒入り口に向かっていたとき、聞き慣れた声が階段の上から聞こえてきた。

この笑い声は、桜木くん含む桜木集団の声だ。
その中に、たしかにあの夢での登場人物の声も混じっているのを確認する。

平常心、平常心……とスタスタと歩き出せば背後から「名前さんじゃないですか!」と声を掛けられて数秒前の平常心はどこかへと飛んで行った。

びくんと肩を揺らして振り返る。
油断したらこのまま後ろに転んで階段から落ちて死んでしまうと思い、足にもぐっと力を込める。

「ああ、なーんだ、桜木くんじゃ〜ん!」

知ってたけどね。いま偶然会いましたふうを意地でも装う。

しかも、いつもより少し声のトーンをあげて楽し気に。飛んで行った平常心よ戻ってこいと祈りながら。

「これからリハビリ?」
「はい!病院の鬼、桜木花道と呼んでください」
「なにそれっ」

……平常心、平常心。

私はどこに視線を向けて良いのか分からず、桜木くんの胸元辺りを眺める。それでも目の端にあの夢の主が入ってきて、わたしは一気に顔面が紅潮していく。

「名前さん」
「——!」

待って——!!!
急に名前、呼ばないで……!!!

「……、んっ?」

私はフイッと水戸くんのほうに顔を向ける。

「顔、真っ赤だぜ? 熱あるんじゃないのか?」
「あー、なんかこのへん熱くなーい?だからだと思うー、アハハハー」

……。

え、なんでシーンとなる?この状況で。

私はくるりとみんなに背を向けて階段を降り切る。間もなくしてばらばらに踵を鳴らして階段を降り切ったみんなの足音を背後に感じた。

いつもならばこんな状況下だと、みんなに混じって会話を弾ませて生徒入り口まで行くのだけれどきょうはそうもいかない。

さっさと靴を履き替えて校舎を出て、ダッシュで駅に向かいたい、そんな気分だった。

「まじで体調悪そうだぜー?」

大楠くんの声が背後から聞こえたので「大丈夫だってばー」と振り返りもせずに言葉を返す。

すぐに「そうか?」という大楠くんの声が飛んで来たあと、高宮くんが助け舟を出してくれたみたいに、昨日の晩ご飯の話をしはじめたので私はフウと一息ついてから靴を履き替えた。

それでもその会話の中、水戸くんの声が聞こえてこないので心配性な彼のことだから、私の態度を気にしているんだろうな、なんて思ったら……

え、……なんで私、水戸くんのこと考えてんの?ほんとにこれじゃあ、まるで私が好きみた——

そう頭の中でぼんやりと考えていたら突然、真横から手が伸びて来てビクッと肩を揺らす。

そのまま私が後ろに尻餅をついてしまったことで、個々に靴を履き替えていたらしい桜木軍団がまたシーンとなって、私を一斉に見る。

私も顔をあげて見れば、やっぱり手をのばしてきたのは、水戸くんだった。

「あ、ごめんな。肩にゴミついてたから」

へらっと笑った水戸くんが「ハイ」と立ち上がりなよと言わんばかりに手を差し出したままでいる。

「……ッ、」

待って、ダメ、助けて……
心臓のおと……、やばいって——!!

私はもう、どうしたらよいのか分からず条件反射でぶわっと涙が溢れてきた。

人間、ずっと赤面状態にあるとどうやら反射的に涙腺が緩むらしいことを、このとき知った。

「え?」

と、水戸くんは案の定困った顔ような、なんだか迷惑だとでも言いたそうな顔をしているし、桜木軍団もどうしたもんかとざわざわとしはじめる。

「——花道、病院。」
「あ?」
「時間遅れるだろ、早く行けよ」

ずっと尻餅をついていた私を一瞥した水戸くんは桜木くんのほうを見やって、そう言い放つ。

「うおっ、そうだった!では、皆の衆。天才は、最速でリハビリ王になるため病院に向かうぞ!」

本当に背中を痛めたのかと言いたくなるようなスピードで走って行った桜木くんに、やっぱり水戸くん以外の軍団が「花道待て!走るな!」とか「歩くのも気遣えって言われてるだろ!!」とか叫びながら走って追い掛けて行った。

ああ、これってセットなんだな、なんてみんなの姿を見送りながら呑気に考えていたら、もう一度「はい」と声を掛けられて顔をあげる。

当たり前に水戸くんだった。今度はいつもの情けないような顔をして私に手を差し伸べ続けてくれている。

なんだかようやく冷静になってきた私も、おずおずとその手を借りて立ち上がった。

「よいっしょ」と水戸くんが引いてくれたことで急に彼との距離が縮まる。

不意に香ってきたタバコの苦い香りがふわっとして、本当に脳内にあの有名な失恋ソングのイントロがチャラララ〜♪と、流れだす始末。

一気にいま一瞬だけ忘れかけていた昨日の夢の内容が鮮明に思い出されて、思わず私は水戸くんの胸を両手でトンと押してしまった。

本来なら、びくともしない私の力だろうけれど、演技なのか空気を呼んだのか、珍しく水戸くんがすこしだけその反動で後ろにさがった。

そして、これまた珍しく目を見開いて驚いた顔で私を見ている。

「あっ——、ご、ごめ……ん。あの、なんていうか、ほら……風邪気味でさ、移ったら」

しどろもどろで言葉を繋ぐ私を凝視していた水戸くんが「ハハ」と顔を背けて浅く笑う。

そして鞄を脇に抱えてポケットに両手を突っ込んだあと、くるりと私に背を向けた。

「なーんか、嫌われちまったらしいね」
「え! ち、違うんだってば、」

もう一歩踏み出せば外、というところで、こんな茶番を繰り広げていたため、水戸くんはそのまま生徒入り口を出て歩いていってしまう。

「待って! 待ってってば、水戸くん!」
「いーよいーよ、嫌いな奴には無理に近づかないこった」

私はパタパタと水戸くんのあとを追うのだけれどきょうの水戸くん、歩幅が大きい。

人間と言う生き物のはめんどくさいものだ。自分で避けるのは良くて、避けられると追い掛けたくなるという習性があるらしい。

ぴたっと足を止めてくれた水戸くんにならって、すこし距離を開けたまま私も足を止めた。

くるりとゆっくり振り返った水戸くんと正面から目が合って、私はすこし身を引いた。

「俺、なんかした?」
「……っ、」
「名前さんに嫌われるようなことしたかな?」
「いや……その、違うく、て……」

……なにこれ、本当に恋人同士みたい……。
だって、飄々としている男子と、ずっと赤面している女子がいま、ここにいるんだもん。

水戸くんを好きな子ってこんな気持ちなのかな。言葉に詰まって、でもちゃんと思ってること伝えたくて、でもドキドキして——

え……?ドキドキ……?
なんで、なんで、水戸くんにドキドキなんか——

じっと水戸くんを見つめたまま言葉に詰まっている私の目の前、水戸くんが溜まらず「ハハハ」と楽し気に笑った。

「名前さん」
「は、はい……」
「ほんと顔、真っ赤。」

……。

——ダメ、吐きそう。


「オイ!!」

上から降って来たドスの効いた叫び声ともとれるその声に、すっと顔の熱が引いて反射的に頭上を見上げる。

「このゴミ袋も持ってけ」

声の主はまさかの寿で、その彼が教室の窓から下にいる同級生めがけてゴミ袋を落下させた。

受け取り損ねた同級生は「上から投げるなよ!」とかなんとか文句を垂れながら、無様に着地したゴミ袋を拾い上げてゴミ捨て場へと向かう。

もちろん顔を出した寿はそのまま姿を消すことなく、窓枠に片手で頬杖をついて、私と水戸くんを見下ろしている。

……と、いうことは、全部見ていたのか。ああ、そうだよね、その顔はきっとそうだろうねえ。

その目つきが、上から見下ろしているからなのかなにか私情を挟んでいるからなのかは分かりかねるが、いまにも人を殺めそうな形相だった。

——どうしてこう現実のこの高校は、いつもバッドタイミングで身近な重要人物が登場するのだろうか。

学年によっては、多くて10クラスもあるのにも関わらず。だったら、夢の中でもそうしてくれよキスするまえに、さ……って、キス——!

私はガバッと水戸くんのほうを見やる。
水戸くんはきょとんとして「あ、顔色落ち着いたね」なんてヘラッと笑って返してみせる。

頭上には寿、目の前には水戸くん……。

なに——、この状況。
でも、なにか……言わなければ。

この位置からの会話なら、さすがに寿には聞こえないよね?小さい声で話せば……。

「……水戸くん」
「はい?」
「バイト?」
「うん」
「……、そっか。頑張って、ね。」
「ああ。」

すこし流れた沈黙も、水戸くんが「じゃ、お先に」と言い置いてくるりと正門に体を向けて歩いていったことで破られた。

その姿を呆然と見送っていたとき、もう一度「オイ」とドスの効いた声が外に響き渡る。正確には私の耳にはしっかりと届いたというレベルなのだろうけれども。

チラと、三年生の校舎の窓のほうを見上げれば、寿がそれはそれは不機嫌な顔をしてくちびるを尖らせている。

私と目が合うや否や「ん」と体育館のほうを顎で指す。

……見学に来い、ということなのだろう。

きょうは寿と水戸くんと会わずにバスケ部の見学も避けて、そっと下校する計画がすべて水の泡となって消えた瞬間だった。


その日の練習は桜木軍団もいないし、今まで一緒に見学していた晴子ちゃんも今や彩子の隣に並んでいるわけで。

だから体育館の隅っこに座って、とりあえず見ている風を装う。

「……。」

……帰り道、どうしよう。
水戸くんの前であんなにテンパっていた私が、寿と普通にやり過ごせるわけもない。

「十分休憩ー!」という彩子の声がぼんやりと聞こえてきて俯いていた顔をゆっくりあげると、目の前にヤンキー座りで不機嫌な顔を晒している寿がいてぎょっとする。

「ちゃんと見てんのか?」
「え? あ、ああ……見てる、よ?」
「じゃあさっきのゲーム、俺が入れた点数は?」
「ああー、14点……?」
「はい失格。」

……ハイ、見てませんでした。
てか今は、それどころじゃないんだってばっ!

顔をぐしゃりと歪める私を見てか、寿が浮かせていたお尻を体育館の床にドスンと下ろしてあぐらを掻く。

「どーしたよ?……なんかあったのか?」
「……ないっ、……なにも。」
「じゃあさっき、水戸となに話してたんだよ」
「……、」
「顔、真っ赤にしてな。」
「……!」

——来た。
やっぱりその話だ。

……言えないって、水戸くんと……夢でキスしたなんて、さ。

「……し、」
「し?」
「しり、もち着いちゃってさ、転んで」
「……」
「で、引っ張ってもらって一気に血がこう——」

あ——、ダメだと思った。なぜなら顔をあげて見た寿のその表情は、優し気な言葉に反して般若みたいに歪められていたから。

「へえ、血がねえ」
「……な、なんか変なの。わたし。」
「あ?」
「なんか陵南戦のあと寿とこう……お家でシて・・シて、から……」
「——!?」

寿が目を見開いている。私はそれを一瞥してからまたふいっと顔を背けた。

「変なの、たぶん……頭、湧いちゃってて」
「……」
「なんでもないとこで、顔赤くしたり、ずっと、ドキドキしてたり……なんか、変なんだよ」
「……」

ちゃんと大まかなことは、伝えれたはず。いまの説明なら寿でも、なんとなく状況は把握——

と思ったとき不意に寿が私の頬に手を伸ばしてきて、また一気に赤面した私は思わず「イヤっ」と言って、その手をパシンッ!と振り払ってしまった。

寿は一瞬びっくりした顔で固まっていたけれど、すぐに眉を吊り上げて得意の舌打ちをする。

「あんま、いい意味での変な気分じゃなさそうだな」

心底俺は機嫌が悪いですと言いたげな声と口調でそう言った寿に面食らって、私はうつむくしかなかった。

すくっと立ち上がった寿の動向を顔をあげて眺めていれば、私を一瞥もしないで彼は私に背を向けた。

「おまえのやることは、」
「……」
「いっつも、腹立つことばっかだぜ」

そう吐き捨てて、ドリンクを貰いにか晴子ちゃんのところへ向かった寿。

スタスタと隙のない動作で歩いて行くものの、その背中が本当に腹が立っているということをしっかり物語っていた。

「……。」

わたしは……不器用にも、ほどがある。

本当に、彩子の言うように、浅いし、ウブだし、免疫が無さすぎるのだろう。

だってそれもそのはず。恋愛経験は、いま怒らせてしまった彼、幼なじみの寿としか経験が無いのだから。

思春期、多感な時期——。
もっと、青春らしい高校生活を送れるものだと、中学のときなんかは道行く女子高生を見ながら夢に見てた。

けれど私の妄想も想像もいつも隣にいる異性は寿しかありえなくて、寿と青春を謳歌したかった。

好きな人と両思い、手を繋いで、キスをして。
体を触れ合って……そんなことを想像したって、いつも相手は寿しかありえなかったのだから。

免疫がなくて当然。

寿以外の男の子を異性として認識したのだって、言ってみれば、高校二年生、湘北高校に転校して来てからと言っても過言ではない。

ウブであたりまえ。

その想像した、いろんなことを一緒に経験したかった、唯一無二の異性≠、私は昔もいまも、怒らせて、苛つかせてばっかりだ。









「……」
「……」

バスケ部の練習終わり、いつもの帰り道。
あたりまえに寿は口を閉ざしている。

それでも、歩幅を合わせてくれているのだろう。とぼとぼと歩く私を追い越して行くことはない。ずっと、真横を歩いてくれている。

本当は、寿と両思いになった先、失恋なんかも経験して、悲しい想い、切ない思いを経て、他の子に恋をしてみたりしてさ……

それが本来、青春時代の恋愛の醍醐味なのだろうか。ずっと、同じ人を好きで居続けるのは、あまり良くないことなのかな。

数十年後の私に問いたい。
私の高校生活、どうすれば恋愛、友人、勉強と。うまいこと謳歌できますか、って——。

寿と別れたら、わたしは水戸くんを好きになるのかな……。でも、毎回あんな心臓が潰れそうになっちゃう恋なんて、私に耐えられるのだろうか。

——って、また考えてるし。


「水戸くんさ……」
「……!」

あ——。

「……」
「……」

や……っばい、これは。
本気でやってしまった、わたし。

いま、脳内で会話していたつもりだった。補足させていただくと、その「水戸くんさ」のあとに続く単語は「夢に出て来る意味、ある?」だった。

だから、決して恋焦がれて思わず口をついて出てしまったわけでもなければ、考えすぎて思わずぽろっと出たわけでもない。

そして、あたりまえに寿と水戸くんの名前を間違えて呼んだわけでもないのだ。

でも、いまの私はうつむくしかない。だって、恋愛の免疫がないから。こういった場合の回避方法を持ち合わせていないから。

また……、怒るんだろうな。
おまえはいつもあーだこーだって、怒って罵声を浴びせられるのだろう。

でも仕方ない。私が怒らせるようなことばかりしているのだから。

私が寿だったら、もう無理になって、嫌になってわざとだろって。おまえめんどくせーな、とでも言ってとっくにサヨナラしてるところだ。

だって、
それだけ本当に、恋愛の免疫が——

「名前」

意外にも、落ち着いた口調だった。そのお陰で、ぱっと寿のほうに顔を向けた私。けれども、寿は正面を向いたままで私を一瞥もしない。

「……、ん?」
「……」
「……」
「水戸と、なんかあったのか?」

やっぱり怒ったような声色ではなかった。もう、私なんかには愛想が尽きたのかもしれないけど。

「うん、あったよ。」
「……」

おかげで私も、落ち着いた心持ちで返事を返すことができた。

「好きに、なっちまったか?」
「え……」

思わず足を止めた私を追い越した寿。すこし先で寿もぴたりと足を止めた。それでもこちらを振り向こうとはしない。

「なんか、よ……」
「……」
「ちょっと、疲れちまった。」
「——。」

本当に疲れたと言いたげに、顔をすこしだけこちらに向けて吐き捨てた寿の声は、なんだかとても弱々しく聞こえた。

「なんなんだよって苛ついたり、でもしかたねーかって納得したり」
「……」
「おまえにばっか翻弄されてんの、疲れた」
「……、うん。」

あ……、いまちょっとわかった。
青春時代の、恋愛の醍醐味——。

このあときっと、寿はこう言う。
『 別れよーぜ 』……、って。

案外、自分もあっさりしているんだな。寿と別れるなんて泣き喚いてぐちゃぐちゃになりそうだな、なんて想像したことはあったけど、実際になってみると私って、こんなに冷静なんだな……。

きっと寿はすこししてから、ゆっくりと……

——ほらね、振り返った……。


「……」
「……」

私はゆっくりと一度だけ瞬きをした。
寿もそれにならって一度、瞬きをする。

「別れたくねえ」
「……、え……?」
「やっぱ、お前じゃなきゃダメだ……」
「……。」

意外な展開にきょとんとしている私を置き去りにぽつりと言った寿は、すこしだけ顔をうつむかせる。

そして顔を上げて私を凝視した。寿は一歩一歩、こちらへと歩み寄ってくる。

突如、冷静だった私の体はドクドクと脈打ち始めて、どんどん顔にも熱が籠って来るのがわかる。

動揺している私なんかよりも、やっぱり寿は二枚も三枚も、うわ手だった。

だって……放課後のように尻餅をつく間も、逃げる間もなくガシッと腕を掴まれてしまったから。

咄嗟に顔を背けた私の頬をあいた手で鷲掴みにして自分と視線を合わせるようにした寿のおかげでまた寿とがっつり目が合ってしまう私。

鷲掴みにされていた手がスッと顎に落ちて行き、くいっと顎を上に持ち上げられる。

寿が少しかがんで顔を近づけてくる動きが、やたらとスローモーションに見えて、私は「イヤ、」とまた、さきほどの体育館同様に言葉を零す。

それに一度だけ目を細めた寿だったが、顔を近づけて来るのを止める気はないようで、くちびるとくちびるが触れ合う瞬間、私がぽつりと言った。


「水戸くんと、キスした——」
「——は?」

案の定、ぴたっと止まった寿の動き。
目を見開いた寿と目が合えば、寿がすっと私から離れて行った。

「なに言ってんだ、おまえ……」

軽蔑しているのか、それともぐるぐると頭を巡らせて考え込んでいるのか、そんなよく分からない感じの表情だった。

「あ、違うくて!違うの……!」
「なにが……」

寿は片手を後頭部にあてがって、まるで参ったみたいな感じに顔を背けたが、私が矢継ぎ早に言ったことでチラを眉を歪めて私を見た。

「あの、その……夢で!!」
「……はっ?」

ぽかんとするとは、まさにこのこと。
寿は言葉の通り、後頭部にあてがっていた手を離してぽかんと口をあけていた。

「なんか、さ? 寿とそーいうことしてから……インターハイ終わって、ね?」
「……」
「そっからなんか、見るんだよ、夢。」
「ゆ……、夢?」
「うん、変な夢ばっか」
「……、で?」
「あ。……で、ねっ? その相手が、なぜか水戸くんなの、水戸くんしか出てこないのっ!」
「……」

今度こそ「はあ?」と、いつも通りの不機嫌だと言いたそうに顔を歪めた寿とご対面した。

「ど、どんな……夢だよ」
「いや、はじめは一緒に下校したりね?あ、あと手、繋ぎそうになったり、あとあと、電車乗ったりもしてた」
「……」

このとき、夢の中で私と水戸くんが恋仲になっているということは言わないでおきなさいと、私の中の天使が私に指示を出す。

「……なんだそれ、付き合ってんのか?」
「はいっ!!?」
「バカヤロウ。夢の……、中でだよ」
「……」

天使の助言も虚しくストレートに切り込んできた寿の質問に私はブルブルと必死に首を振る。

「でも、昨日——」
「……、」
「……屋上で……、学校の……」
「……」
「キ——、ス……してしまいまして……」

やっぱり勢いが減速して尻すぼみした私の言葉に寿はすこしのあいだ目をぱちくりとさせたあと「ああ!?」といつもの如く声を荒げた。

「あー!!ごめんなさい、ごめんなさい!!」

反射的に平謝りしたあと、思わず後ろにズズズ、と食い下がる私の元へズカズカと歩み寄ってくる寿により、今度は両腕をガシッと掴まれる。

「やだ、無理っ!!」
「無理じゃねえだろ! てんめ、誰の許可とって水戸なんかとっ」
「夢見るのに誰かの許可なんか必要ないでしょーが!」

腕を掴んだまま顔を勢いよく寄せてきた寿を回避すべく、無理と口走った私に寿は更に声をあげて怒るし、なんだかいつもみたいな言い争いになってしまったし、と私はパニック状態に陥る。

「あーっっ!! まだ無理だってば!」
「なにが無理だ!無理じゃねえっ!俺はおまえとしてもいい立場なんだよ!キスっ!!」

隙を見て、つかまれた手を振り払ってそそくさと駅方面に逃げる私の背後から「あ、こら待て!」と追いかけてくる寿の声が聞こえるが、とりあえずいまはダッシュすることに神経を集中させる。

なんとか寿から逃げ切ることに成功した私は、閉まりかけの電車の中へと吸い込まれるように急いで飛び乗る。

寿はギリギリのところで乗り遅れたらしく、電車の扉がしまったときホームに駆け込み乗車の注意喚起の放送が流れていたのが微かにここまで届いて来た。

きょうイチで顔を歪めている寿にニコッと微笑みかけ、手をふれば何か言っているのが口の動きをみてわかった。

「……明日、覚悟しとけよ……って、言った?」

思わずそう口に出して復唱した私は、背筋にぞっと悪寒が走るのであった。


その日の夢は、リョータくんと彩子、そしてなぜか木暮先輩が出て来ていつもの学校生活を送る夢だった。

あさ目覚めたとき、もう私はしっかりと湘北高校≠ノ翻弄されてしまっているのだと認識する。

水戸くんに限ったことではなくて、寿を筆頭に私はちゃんと、青春を謳歌してるのだと思えば昨日まで悩んでいたこととか、寿と険悪になりかけた帰り道のことすらも幸せな思い出の1ページのように思う。

昨晩からスルーを貫いている寿からの着信もメールも、携帯を開けば何事もなかったかのように。


 ――――――――――――――――
  
  🕑 9/1 6:07
  FROM 三井 寿
  件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:
  本文

  おはよ。
  朝練するから早めに学校行く

 ――――――――――――――――


と、メールが入っていて、スルーを決め込んでいた私も素直に『おはよ!頑張ってね』と返信をした。








その日は一応、寿とは会わないように過ごしていたが、やっぱり我が校、湘北高校には青春の神様≠ェいるらしく。

昼休みが終わる予鈴が鳴る頃、急いでいちごみるくを買いに一階に降りたとき、偶然にも彼氏と遭遇した。

恐るべし、湘北高校、青春の神様——!


目を合わせないようにささっと人影に隠れて自販機に向かう。

ガタン!と自販機の中、私の押したいちごみるくが落下した音に気付いた寿が友人らと会話をしながらこちらを見たことで、自販機まえにいる生徒が自身の彼女だと彼も認識する。

「あっ!」

いつもは低く男らしい声のくせに、やたらと楽し気な甲高い彼氏の声色にびくっとした私はさっさと缶ジュースを取りあげ、すたすたと階段のほうへと向かう。

「てめえ、隠れてやがっただろ」

なんて声は聞き捨てて、階段に踏み出そうとした瞬間、後ろからヘッドロックをお見舞いされて「ひやっ」というなんとも品のない声を発してしまうオチ。

「なあ、名前」

その体勢のまま、耳元で囁かれたさっきとは違ういつもの低い声に思わずぞくっとする。

「おれ昨日の夜な?」
「……ッ」
「おまえが他の野郎とキスしてんの想像したら、興奮して寝れなかったんだよ」

ニヤニヤと話す寿の言葉に、別の意味でぞくっとした。それはもう、性癖という領域に突入してますよねと言いそうになった口を噤む。

階段から離れたところ、壁に私を追いやる寿が背後を行き交う生徒にバレないように私の耳を甘噛みする。

「——!!」
「……なあ、」
「……ッ」
「わかってるよな?」
「やだってば! 無理っ!」
「無理じゃねえって」
「……無理無理ッ、」
「無理じゃねえだろ?」

そう耳元で言われたとき、キーンコーンカーンコーンと昼休みを終える予鈴が鳴った。

気付けばたくさんいた生徒は散り散りになっていて、体育の授業で移動する少数の生徒や、先生に呼ばれたのか職員室に向かう生徒のみで、あたりは閑散としていた。

私は寿の腕が緩んだのを見計らって、くるりと回転し、寿と向き合う。自然と寿に抱き締められる体勢を取ったとき、右の手のひらで寿の目元を覆い彼の目を一瞬隠す。

チュ、と寿の唇に触れるだけのキスをお見舞いすれば、ガバッと私の手を振り払った寿が呆気にとられ驚いた顔をしている。

その表情を確認する間もなく、すでに階段を駆け上って行く私に寿が叫んだ。

「おまっ、おい! 逃げんなっ!」

すぐさま追いかけて来る寿に逃げながら迷いこんだ廊下は、一年生の校舎だった。

寿から追いつかれないように、一組から十組までの廊下を走り抜けたとき一年七組で授業をしていた体育会系の鬼教師がガラガラー!と勢いよく教室の扉を開け放ち、廊下に響き渡る声を上げた。

「三井っ!名字!もう授業はじまってるんだぞ!こんのバカップルがっ!!」

それを聞き捨てて今度はその先生から逃げるように笑いながら寿と手を繋いで階段を駆け上った。










 世界はに落ちている。



(……ぬ? ミッチーと名前さんか?)
(ハハ、みたいだなー)
(なにやってんだ、あのふたり)
(校内鬼ごっこじゃねーのか? 手、繋いでな。)
(ほう、なるほど……。)


※『 世界は恋に落ちている/CHiCO with HoneyWorks 』をお題に

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