たとえばの話をしよう(1/2)
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僕は優しくささやく。今夜きみは
僕の天使だ——って。
理由なんて要らない、ただきみが欲しい。
この先も、長いことずっと
どうかこんな僕と、ずっと
死ぬまで、僕と一緒に居てほしい。
この先も、ずっと。
きみがどこにいようと、きみを泣かせない。
きみがどこにいようと、さよならは言わない。
心から愛せる人、心から愛しい人。
この僕の、愛の真ん中には
いつも、きみがいるから。
愛してるよ。今夜、これだけは言うよ。
きみがどこにいようと
いつだって、きみを笑顔にする。
きみがどこにいようと
いつだってそばにいる。
きみがなんて言おうと、きみを思う気持ちを
いまここに、永遠を誓うよ——。
*
五月中旬——三井サンの婚約者が二泊三日で、父親と二人で旅行に行ったため晩飯も兼ねて三井サンがひとりで水戸の店にくることになったと、オレと花道、野郎軍団4人の計6人だけで作ったグループトーク内に、あの水戸洋平から直々に、情報が飛んできた。
このグループトークはいつだったか酔っ払ったノリで野間だったか大楠だったか、高宮だったかいずれその中の誰かが勝手に作ったもので基本的には水戸と花道意外のメンバーが日常的な会話というかくだらないやり取りをツイッターのごとく壁打ちしているというだけの、なんとも馬鹿げたものである。
そこに水戸から直々に連絡が入るのは、本当に稀なことであるゆえあたり前にみんな集まろうと言う流れになった。なんなら水戸は、ご丁寧にも三井サンから届いた『急に悪い。きょう店に行くから。で、そっちで改めて言うけどお前に頼みがある』との内容のメッセージのスクショを、そのまま貼り付けてきた。だが、それ以外にはとくに水戸からの文章で『だから集まろう』とか、そういったのは一切なかったので、オレたちが勝手に集まることにしただけの話ではあるのだけれど。
とはいえ、結局ほかの人たちにも声をかけようとの話になり三井サンが到着するまえ段階の今、店の中ではもはや��いつメン�≠ニもいえる花道を抜かした野郎軍団、彩ちゃん、木暮サンとオレがすでに宴会を開いているって話。
そんな中、バスケ部の練習終わりの三井サンがようやく登場した。彼はオレたちの顔を見るなり「結局、全員集合かよ。」と、昭和の定番お笑い番組のソレみたいな台詞を吐いて、呆れていた。
飲み会がはじまってかれこれ数時間が経過したころ、三井サンが、おもむろにバッグのなかから小さな箱を取り出した。そしてなぜだか得意げにオレたちをじろじろと眺めた彼は「見ろ」と言いその箱の底に手を添えてパカっと中身を開いた。訝しげにその様子を見ていたオレたちは、突如として「おー!」と、歓声をあげる。
「本物のダイヤモンドだ。それもたくさん……」
「まぁ〜な。すげーだろ?これを水戸に預かってもらおうと思って持ってきたんだよ」
「洋平にィ? また、なんでよ」
「なんでって......一番、あ、安全そうだから?」
「ミッチー。洋平の店に置いておいて、ほんとに大丈夫なのかぁ〜、これ?」
高宮、野間が言ったあと、やや心配そうにそう問い掛けていたのは大楠だ。水戸に預かってもらおうなんて一体全体どーいう風の吹き回しなのだろうか。でもたしかに。一番安全そうではある。座敷席。酒や飯がずらりと並ぶ中その開けられた指輪のケースを取り囲むように、全員が身を乗り出して、そのキラキラと光り輝く代物を凝視している。そして、そんなオレたちをざっと見回した三井サンが答えた。
「おん?なんだよ、だれか盗むつもりかぁ〜?」
「おいおい、俺たちを何だと思ってんだぁ?ミッチー。さすがに金に困ってもそれはしねーって」
野間があたりまえと言ったふうにそんな返しをして、三井サンはそれに、ふはっと緩く笑った。たしかに、すっげーキラキラしている。思わず、水戸の店の照明が原因では?とオレはテーブルのうえに両手をべたりとくっ付けて、そこにあごを乗せながら真上をチラと見やる。しかしそこにはなんとも古風でありきたりな居酒屋の電気がぶら下がっていただけだった。
「家に置いといて、見つかると困るからよぉ。」
未だ指輪をじいっと凝視している全員を横目に三井サンはやっぱりなぜかやや得意げにそう言い手元のジョッキの杯を呷る。
「きれいな指輪だな、おめでとう。三井。」
木暮サンが俺の隣で品よく、ノンアルコールのウーロン茶を飲みながら言う。それに対し素直に「ありがとな」と、三井サンは言い返していた。
「これみたら名前ちゃん、ぶっ飛ぶだろうねぇ」
「これを買ったお陰でいつか産まれてくる子供の大学資金が減って、あの子も働かなきゃならない羽目になるかもねー」
オレと彩ちゃんのそんなやり取りに三井サンはわざとらしく鼻で笑ってから、勝気に言った。
「わかってねえなーお前ら。そんなに金は使ってねーんだな、これが。貯金は、残ってるっつの」
「でも婚約指輪を買うときくらいは、思いっきり贅沢しないとなー」
飲み物のおかわりを運んで来た水戸がそう言いそれに面を食らった三井サンは眉を少し顰めた。これ、ぜったいにいい額しただろうからほんとはそれなりに高価だったことを水戸に目敏くも悟られて、動揺したからだろうと思う。ほんと、いつまで経ってもわかりやすすぎるよ、この人って。
「それにしても、マジで嬉しいニュースだよな」
「おめでとう、みっちー。」と、おかわりの酒やら追加のつまみをテーブルに置いたあと水戸が眉を下げて優しげな目をして言う。それに対し、「おぅ」と三井サンは小さくつぶやいて首を縦に振っていた。照れてるんだ、きっとその感じは。
「ねぇ——三井サン。オレが司会を務めよっか?もしくは、付添人とか。」
「えっ?やだ、ブライズメイドを誰にするかは、もう決まってますよね?」
オレが悪い顔で言ったあと、彩ちゃんが素早く口を挟んでくる。ニヤニヤして三井サンを見る、オレと彩ちゃんが鬱陶しかったのか、三井サンはたいそうめんどくさそうな顔をした。
「花嫁は私の親友ですからねー?三井先輩、そこちゃ〜んと、わかってるわよねぇー?」
「いや、アネゴ。付添人は洋平にやらせたほうがいいんじゃねーか?」
「たしかにな〜洋平は昔から二人のめんどくせー恋バナばっか聞かされた、張本人だからな!」
「オイオイ……みんな待てよ。一気に話をまえにすすめすぎだ、バカが。」
彩ちゃん、高宮、大楠の順に、矢継ぎ早に話を勝手にすすめていると、あたりまえに三井サンがそれを軽くあしらうようにしてそう言い、全員の視線が一斉に三井サンのほうに向く。それに対しぎょっとした三井サンが溜め息まじりに言った。
「俺に、あんまプレッシャーかけんなよ。まずはもう一度、ちゃんとしたプロポーズしなきゃなんねーってのに。」
「——えっ、まだしてねーの!?」
思わず突っ込んだオレに三井サンがすこし身を引き、そして目を泳がせてから「四回目…」とかつぶやくから、その場にいる全員が息を呑んだ。ちなみにカウンターの客と楽しそうに話し込んでいた水戸にもそれは聞こえていたらしく、ヤツに関しては、完全にドン引いた顔をしていた。
「え、それ……意味あんスか?」
「あ?」
「だって、四回目なんでしょ?もう、よくね?」
オレからのその言葉に三井サンは、一気に顔を赤くさせて「いーんだよっ!」と、声を張った。
え……いーの?それって。しつこすぎにも程があるような気しかしないんだが。とは言わないでおこうと思う、後々めんどくせーから。
「——三井。ちなみに、どんなプランなんだ?」
そんなドン引きムードも、もろともせずに声をかけてあげたのは、やっぱり前世が��優しい�≠ニいう言葉疑惑の木暮サン。しかしそれに対しては揶揄い口調で野郎たちが、あーでもないこーでもないとつづく。
「おいおいメガネくん。ミッチーだぜ?きっと、バシッと、キメるに決まってるってぇ〜」
そして最後に野間がそう締めて少々酔っ払っているのかカウンターのほうにいる水戸に向かって「なあ?」なんて同意を求める。きっと聞こえていないだろう水戸はそれでも「あー」とちゃんと相づちを返していた。うーん、きっとアイツも、前世は優しい系か……。でもなあ、アイツの場合ぜったい前世は悪魔か閻魔様だろうと思うけど。
「あ!ほら、ちょっと前にさ、海外のニュースでスカイダイビングしながら、プロポーズした人、いなかったっけー? あれでいけば?」
「あらリョータ。それって降り立った時に両足を骨折して、肋骨に三本ヒビが入った人のこと?」
「あっ!そーそー、それそれっ♪」
オレと彩ちゃんがそう言い合って笑っていると三井サンは横目にオレと彩ちゃんを流し見てまた自分のジョッキに口をつけてからそのジョッキをダン!とテーブルに置いて言った。
「宮城てめぇ、俺にプロポーズしながら死ねって言ってんのかよ」
「えっ?だいじょーぶ、だいじょーぶ。アンタはぜったい死ななそうだから♪」
「あン?」
「この世がほろびたって、生き残ってるって〜」
そんなオレの冗談半分本気半分の言葉に全員がどっと笑う。三井サンはそんな笑い声を聞き捨て溜め息をつきながら、手に持っていたジョッキをまた持ってぐびっと呷る。そうして、テーブルにそれを置いてゴホン!とひとつ、咳払いをした。
「——シンプルに、やろうと思ってんだよ。」
「え? シンプルって?」
オレからのおうむ返しに三井サンは片眉を吊り上げて、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、得意げに鼻を鳴らして言った。
「レストランで夕飯食った後にでも片膝をついてジャーン!ってな。」
「お〜!」と、もはやただ言いたいだけの野郎軍団の声が、バカみたいに、その場に響き渡る。しかし先輩が意気揚々と言ったそのプランに対しオレと彩ちゃんは思わず目を合わせた。そうしてオレが、ぽつりと言う。
「——それ、もう見たし。」
目敏くもちゃんと聞き入れていたらしい野間が「え、なんだなんだ」と食い気味に聞いてくる。それに合わせて大楠と高宮も「どーした」とか、「なになに」と、興味津々にオレのほうを見た。オレは手元のグラスに口をつけながら目を伏せてひとり言のようなトーンでつぶやいた。
「土下座してお願いしてんの、もう見たって話」
一瞬だけシン、となった空間に突如プッと笑う声が響いて犯人は言わずもがな彩ちゃんだった。ちらっと三井サンを見ればぜったいに酒の力ではないだろうと言うくらいに先ほどよりもはるかに顔を真っ赤にして押し黙っている。そうして彼は「宮城、テメェ……」と、うめき声のような声を発してやっぱりそのあとは口を噤んだのだった。
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