ふたりのためのふたりの秘密(3/3)

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     翌日の放課後——。私は体育館の時計で現在の時刻を確認し、勢いよくその場から立ち上がる。

    「どうしたんだ、姐さん」
    「ねえ……今日、水戸くんってバイト?」
    「洋平?さぁー、特に何も言ってなかったけど、そういや体育館にも来てねーな」

     昨日はあのまま駅で水戸くんと別れた。これでまた、今まで通りの関係に戻れると思っていたが私は、他人の心の声が聞こえることのつらさを、十分に理解していなかった。実は昨日を境に水戸くんの心の声が聞こえなくなってしまったのだ。突然いつもの日常に戻ってしまった私は知った。感情というのは、それだけのパワーがあるのだと言うことを。

    「ありがとう。ごめん、お父さんにお使い頼まれてたの忘れてたの……私、帰るね」
    「お、おう。みっちーに伝えなくていいのかー?って、もういねーや」
    「そんなに急がなきゃなんねー用事だったのか?あっ!花道ダンクかませっ!!」

     植物の実験でこういうのがある。すくすく育てよ綺麗に咲けよと励まされながら育った植物は、罵詈雑言を吐きかけられながら育った植物よりもたくましく瑞々しく育つのだとか。

     たとえ心の声だとしても水戸くんから毎日愛でられ続けて私は元気をもらってたんだなと、今更ながら実感したのだ。心の声が聞こえなくたって水戸くんは、いつだって私を元気づけてくれた。それは彼の心の中でも変わらなかったというそれだけなのに……私は大切なことを見落としてたとこの時、ようやく気づいたのだった。


     *


     一緒にジョギングをした河川敷。日はすっかり落ちきって辺りは、ほぼ暗くなっている。
     私はベンチに座ったまま目当ての人物が戻ってくるのを待っていた。

    「名前さん……?」

     外灯の明かりの向こうから、水戸くんがやってきた。水戸くんの顔に珍しく動揺の色が浮かぶ。ベンチに座りもせずに、数歩離れた場所から私に話しかけてくる水戸くん。

    「ど、どうしたんだ?バスケ部見てたんじゃ…」
    「……水戸くんと、話したくて……」
    「……」
    「……」
    「俺も今日はもうこれから帰るとこなんだけど」
    「……。」

     もう聞こえるはずのない悲痛な彼の心の声が、私の想像の中で聞こえた気がして私の脳がゆさぶられた。ぎゅっと拳を握りしめて耐える。ここで怖じけづいては、何のために来たか分からない。私は、小さく深呼吸をしてから口を開いた。

    「——水戸くん、私……」
    「……うん」
    「水戸くんにね、隠してたことが……あるんだ」
    「……え?」
    「私、私ね……実は人の心が、読めるんだよね」
    「……」
    「真面目に話してる。ホントなの、嘘じゃない」

     私が精一杯、一生懸命に答えると水戸くんは、黙って口を噤み私の話を聞いてくれているようだった。彼と目が合う。私は動揺せず先を続ける。

    「でもいつも人の心を読んでたわけじゃなくて。人の心が読めるって夢を見た次の日から、なぜか周りの人の心の声が聞こえるようになって……」
    「……」
    「けどね、突然水戸くんの心だけ勝手に読んじゃう現象が起きるようになって、私も困ってたの」
    「……」
    「だって水戸くん——ずっと、私のことばっかり考えてたから、さ……」

     水戸くんが息を呑む音が聞こえてきた。けれどやっぱりもう心の声は聞こえてこない。人の心を読む?そんなのあり得ない、って……そんな事を思ってるのかな。こいつ、ヤバいヤツだ、って。わからない、今どんな事を考えているんだろう。

    「でも、もう聞こえなくなっちゃった」
    「……」
    「だから安心して?今の水戸くんの気持ちは全然聞こえないから、私。」
    「……」
    「なんだったら水戸くんが、これまで私に対して思ってたこと言ってこうか?私の肌がすべすべで触り心地良さそう——だっけ?」
    「え、あ……。ハハ、降参。もう結構です」

     冗談めかして言うと、水戸くんが困ったように眉をハの字に下げて首を横に振った。本当に降参と言いたそうなその姿を見てほんのちょっとだけ笑ってしまった。ずっと聞かされていた私だって恥ずかしかったんだから本人にしてみれば尚更だろう。しばらく待って、私からまた話しかける。

    「信じて、くれる?」
    「うん、信じるよ?」
    「え……ほんとに?なんで?頭がおかしいって、思わないの?」
    「思わない」
    「じゃあ誰にも言わないって約束してくれる?」
    「ああ、もちろん」

     今でも心を読まれているのを疑っているのか、表面上は、なんとか取り繕う水戸くん。いよいよ私は、本題へと入ることにした。ベンチから立ち上がり一歩前へ進み、意を決してまっすぐに彼を見つめると先に言葉を発したのは彼の方だった。

    「でも、驚いたなぁ……」
    「え?」
    「俺も似たような夢を見てさ?名前さんが俺の心だけを読めちゃうっていう変な夢」
    「……」
    「本当にそんな事があったら面白いなーと思って揶揄ってたんだよな、まさか本当にそんな事態になってたとはねぇ……ごめんな?」
    「えっ?じゃあ……か、可愛いとか、そのあの」
    「このまえの告白の件?」
    「あっ……!」

     私が一気に顔を赤くした。水戸くんはハハハと浅く笑っている。そうして、そっぽを向いた私はいたずらっぽく尋ねてみた。

    「私が好きってやつ、あれ……嘘ってこと?」
    「んー、嘘……ねぇ」
    「……」
    「いや……?うーん。嘘、ではないと思うけど」
    「……ほんとっ?」
    「はは。名前さんは欲張りなんだな。みっちーって彼氏がいんのに俺に何を言わせたいの?」

     水戸くんが目を細めて困ったように笑う。待ち望んでいた答えを噛み締めるように、私は微笑んだ。目を細めたままの水戸くんが、私を見返している。彼は一歩ずつ私に距離を縮めながら、先と同じ言葉を口にした。

    「嘘じゃない」
    「……」
    「��ベストフレンド�≠ネんだろ?俺と名前さん」
    「あ……」
    「友達として、好きって事でいーんじゃない?」

     私は唇を震わせる。何度か唇をぱくぱくと動かしていたが喋りたくても喋れなくて嬉しいんだか悲しいんだか、よくわからない感情に苛まれて、今にも泣き出してしまいそうだった。

    「今は、好きさ」
    「え……?」
    「みっちーのことも、みっちーを好きな、名前さんのことも」
    「……」
    「——ってことでOK?満足したかい?」
    「もう……ほんと読めない、水戸くんって。」
    「ハハハ。読まなくて、結構です」

     何だか力が抜けて、思わずしゃがみこんだ私の目の前に水戸くんもしゃがんで、私の背中をぽんぽんと叩きながら、彼は楽しそうに笑っていた。
     心が読める事で不快になる事もあるし、読めなければ良かったと思う事もある。でも私は、心を読めた相手が水戸くんで良かったと思った。やっぱり心が読める能力を身につけたとて彼の心の中は嘘なのか本当なのかよくわからなかったから。だからこそ、水戸くんでよかったと思う。

    「今の俺、絶対汗臭いよなー」
    「……?」
    「って、心の声……もしかして聞こえた?」

     思わず小さく吹き出してしまった。こんなときでも相手を安心させる事を忘れない彼の心遣いに目を細め私はゆっくりと首を横に振った。聞こえなかったよって事と、全然、汗くさくないよ、と言う意味も込めて——。

     何故、水戸くんの心の声だけが聞こえるようになったのかは分からない。水戸くんが私を好きになったからなのかとも思ったけれど私を揶揄っていただけだったらしいので、違うだろう。
     じゃあ他に考えられるのは、私の制御がヘタなせいで、うまくコントロールできていなかったという事なんだろうけど初めはお父さんや寿、安田くんや彩子たちの心の声も聞こえたので、それも違う気がする。

    「名前さん、サトリって妖怪知ってる?」
    「人の心を読む妖怪でしょ?夢を見た翌日に調べたの、携帯で」
    「はは、そっか。誰か、特定の人の声が聞こえる原因は二つあるらしいぜ?それも知ってた?」
    「えっ?それは知らなかった」
    「ちょっとね、俺も気になって調べたんです」
    「それで?原因って、なに?」
    「一つは、その相手が自分に対して並々ならない感情を抱いてる場合ね」
    「なるほど……」

     え——でも、それってつまり、水戸くんの私に対する好意が強くなりすぎて、心の声が強制的に送られてきていたという事になるのでは?いや、ないか。「友達として好き」って言われたばかりだった。でも、そういう言い方をされると、ちょっと照れくさくもあるなぁ……なーんてね。

    「で、もう一つは逆に名前さんの方がその相手に強い感情を抱いた場合」
    「……え。」
    「——ま、迷信だから。本来は、みっちーの心を読むべきところが何故か俺に移っちゃったとか、そんな感じだろーな」
    「……、」
    「あ。」
    「ん?」

     水戸くんが突然真顔になって立ち上がり、軽く中腰になる。私が不思議に思い首を傾げたと同時に、オイという低い声が私の頭上に降り注いだ。その場から立ちあがろうとした私の腕が背後から誰かに強く掴まれ手をほどこうと腕に力を入れるが、ぐいっと無理矢理に近い形で起き上がる羽目になってしまった。そこでようやく、相手の顔を見て、私は目をひん剥いたのだった。

    「ひ、ひさしっ!!?」

     頭上から聞こえた、やけに聞き慣れた低い声がこの人かと思えば納得ができた。そこにはなぜか幼馴染、彼氏の寿がいたのだ。部活帰りなのだろうか、服装がジャージのままだ。彼は心底不機嫌だと言いたげに口を尖らせながら問う。

    「何やってんだよ、二人してコソコソと」
    「コソコソって……何で寿こそここにいるの!」
    「てめーらを見たって宮城から連絡入ったんだっつーの」
    「あ〜、なるほどね〜」
    「なるほどね〜、じゃねーよ、バカやろうが!」
    「ごめんってば!ねえ痛いから腕、離してよ!」

     寿が「あ、悪ィ」と素直に手を緩めた隙に私はようやく離れることが出来た。しかしすぐに手を恋人繋ぎで握られてしまい、驚いている私を置き去りに寿が言い放つ。

    「ほら、帰るぞ」

     寿がくるりと振り返ったことで私も自然と水戸くんに背を向ける体勢になった。寿が来た道へと歩いていく。そのとき「みっちー」と、背後から声がかかり反射的に二人で足を止めて振り返る。

    「名前さん、人の心が読めるらしいから」
    「は?」
    「ちょ!?水戸くんっ!」
    「みっちーも気をつけて。常に心の中では、愛の言葉を囁いてあげるよーに」

     私たちに背を向けて立ち去る間際に水戸くんが言ったそれに、誰にも言わないでって言ったのにと私は赤面した。

    「はぁ?アイツ、ついに頭打ったのか?」
    「……さ、さぁ?」
    「意味わかんね。なんでアイツに忠告されなきゃならねーんだよ。クソほど囁いてるっつの」
    「……」

     嘘つきめ……。私は、上機嫌で去っていく水戸くんの背中を睨みつける。睨んだところで私が他人の心を勝手に読んでしまった事実は消えないし約束を破って、しれっとそれをバラしたことを、あの水戸くんが反省する事もないんだろうけど。

     そばに置いてあったピンク色の原チャに跨って颯爽と走っていってしまった水戸くん。遠ざかりながらも使えなくなってしまった能力で、今でも彼の心の声が聞こえてきそうな気がしてきて私は顔を押さえた。
     今自転車に乗ったら事故りそうだ。完全に彼の気配がなくなってから帰ろうと、私は一つ大きくため息を吐いたのだった。


     *


    「……」
    「……」

     私の乗ってきた自転車を押してくれている寿の背中を見つめながら少しだけ距離を取って歩く。何故か無言を貫く彼に合わせて、私もずっと口を噤んでいる。何か話しかけなくてはと頭を捻っていた私を置き去りに、彼がようやく口を開いた。

    「今日の帰りに宮城の野郎が急に立ち止まって、彩子の気配がするとかほざき出してよ」
    「うん……」
    「そしたらマジで後ろから赤木の妹と一緒に歩いてきやがった」
    「へえ、すごい」
    「あいつ、彩子専用のアンテナやべーよな」
    「……うん、だね。」
     
     でもまぁ、彩子とリョータくんみたいな関係になれたら良いなと、実際には思ったりもする。
     ずっと心が繋がっていて、それを苦にすることなくお互いに好意を隠さず伝え合える関係、か。それって、桜木くんと水戸くんの関係にも言える気がする。私たちもなれるかな?ねえ、寿……

    「なれんじゃね?」
    「……え?」
    「アイツらみてぇになりてーって思ってただろ」
    「……すごい、もしかして私の心の中読んだ?」
    「おぅ、名前のことなら何でも分かるぜ」
    「えー、怖っ」
    「おいっ!怖ってなんだ、怖って!お前は、人の心の中が読めんだろ?俺の心の中読んでみろよ」
    「——!?やめてっ!その話金輪際出さないで!出したらマジで絶交するからっ!」
    「なァーんだ絶交って。オトモダチかよっ」


     ……びっくりした。本当に私の心の声を読まれたのかと思った。
     なんとも自分に都合のいい現象だけどおそらくきっと寿の言う通り、彼なら私のことを、何でもわかってくれるのだろう。それだけは例え、彼の心の声を聞かなくても、断言できる。

     夏の終わり、あなたといると何でもない日常もいつも、特別な日に変わる。願わくば、このままずっと、あなたと二人で。青春は、音速だから。
     あなたは気づいていないと思うけれど、ずっと好きだったんだよ、私……寿の事。この気持ちもどうか目の前のあなたに、届きますように——。





     *


     俺の周りで唯一、何を考えているのか全く掴めず、いつも揺さぶられる女の子がいる。
     春先に、ツレの部活をぶっ壊しに来た二個上の先輩と付き合ったその彼女の名前は名字名前。

     言わばどこにでもいる普通のカップルなんだろうけど、いつも俺たちを振り回すから敵わない。そんな彼女がまた斜め上からの発言をしてきた。今回はどうやら、人の心を読めるらしい。なんと彼女はサトリになってしまったと言うのだ。そういう始まり方のアメリカのコメディドラマがあったのを思い出した。そっちはサトリではなく魔女だったが。

     それはともかく。初日は、他の人の心も読めたらしいが、最終的には俺の心の声しか聞こえなくなったと言う。だが偶然にも俺も彼女と似たような夢を見たのだ。彼女が俺の心の声を読み取ってしまうという、何ともメルヘンな夢だった。
     夢を見た翌日、遊び感覚で本当に心の声を読まれていたらどうなんだろうと想像して彼女の前で彼女が動揺するような言葉を、心の中で呟いた。それが本当に知られていたのだから驚きだ。自分の思考が常に筒抜けだという事は、死ぬほど恥ずかしい事で、知っていたら不用意な事を考えないようにできたけど実際のところどうだったのか、不安な部分はあった。気持ちを伝えるのに、声を必要としないというのは、かなり便利だとは思うけれど……。

     でも、そんな不思議で困った能力を身につけてしまった事を知りもしない俺は彼女本人のことを深く考えてあげられていなかった事に気づいた。
     しかし時すでに遅し。俺を避けるようになった彼女を見て後悔した。周りに人がいようが他人の心の中を読めると言うのはどれだけ静かな場所だろうが関係ないのだから、本人からしたら普通に生活しているだけで十分疲弊していたことだろうと思う。
     こちらとしては彼女の反応が、単に楽しかっただけで彼女を見かけてそっと背後から呼びかけると最初は無視をするのだが何度も何度も呼びかけると、恥辱に耐えるような表情で俺を睨む。その様子が、すごく可愛くて。

     そういうわけで彼女から人の心が読めると告白されてからますます毎日楽しく過ごしているわけだが、今ではもう相手の心の中は読めなくなってしまったらしい。が、どんどん欲が出てくるのが人間というもので。もう俺の心の中を読まれる事はないと知っていても揶揄いたくなってしまう。「君が好き」だと示すために、一日中ずっと心の中で相変わらず言い続けてみた。朝会ってから、休み時間も昼ごはん中も放課後一緒にバスケ部を見学している時もジョギング中も絶えることなく思い続けた。彼女から返事はない。時折ぴくぴくと眉の辺りが震えているのを見ておかしかった。

     もうすぐ��体力テスト�≠フ日を迎えてしまう為密かに一緒にしていたジョギングも間も無く終了となる。今日もジョギングを終えていつものようにベンチで談笑している時、ついに彼女の我慢が限界に達したようだった。

    「あーもうっ!降参!参りましたっ!!」
    「はい?」
    「朝からさぁ、ずっと見つめてきすぎ!」

     このとき俺は勝利を確信した。表情には出さずにいたつもりだったがこちらをジト目で見た彼女が「勝手に勝利を確信しないで」と、ボソボソと言う。けど、そんなことを言っているが、本当に嫌なら、話題に出さずにいればいいだけ。それをせずに、ここで切り出すというところが可愛い。

    「あれ?もう他人の心の声は、読めなくなったんじゃなかった?」
    「よっ、読めないけどっ!だって水戸くん絶対に揶揄ってるもん、心の中で!わかるもん!」
    「えー、心外。じゃあ俺が何て思ってるか言ってみて」
    「えっ……それはぁ……」

     俺はもちろんサトリじゃないから彼女が本当はどう思っているのかは分からない。けれど俺から見ても彼女が本気で迷惑しているようには見えなかった。こうやって俺が未だに懲りずに揶揄っていても、何も言ってこないのがその証拠だ。

    「わ、わかんないよ……」
    「……」
    「——っ、だからっ!そんな見つめないでって!死ぬ!死因は、絶対に恥ずか死!それ一択っ!」
    「ははっ、何それ。センス……」
    「うるさいっ!」

     俺は基本的に、他人に興味はないけれど一人の人を想い続けるっていうのに関心が無くもない。彼女もその内の一人だ。暇があれば喧嘩をしてるけど。一人で不貞腐れている彼女を見ると、不憫だなと思いながらも何故だか放っておけないんだよなぁ……俺ってとことん、お人好しだな。
     俺は顔を赤くして手で顔を仰いでいる彼女に、切り札を使うことにした。体を横に向けて、顔をぐいっと近づける。

    「名前さん」
    「……ん?」
    (俺の好きな人が名前さんだって言ったら、どうする?)

     と、目を見て心の中で同時に尋ねてみる。真っ赤な顔でしどろもどろになりながらそれでも最後の壁を守ろうとする彼女に俺はふ、と微笑んだ。
    そのとき彼女が、小さく首を横に振っているのに気が付いて「どうかした?」と問う。

    「水戸くん……」
    「ん?」
    「私達、ずっと��ベストフレンド�≠ナいようね」
    「——、」

     気持ちを声で表すのは難しい。頭の中で自分の感情を整理して言葉を選び肺から空気を外へ送り声帯を震わせ、唇と舌を動かしてようやく気持ちは声となって外へ出ていく。人は喉を使って生きている。
     言うか言わないか。自分の喉が自分を守る事もある。けれども、うまく言えない言葉が実は一番届けたい気持ちだったりするんだよな。


    「——あぁ、ずっと��ベストフレンド�≠セな。」


     声を出すっていうのはとてもエネルギーが必要なことだと思う。だから人は度々、声に出す事を面倒くさがり、その結果、家族や恋人同士でも、喧嘩をしたりする。その点で言えば俺は、なんて恵まれているのだろうか。何も言わなくても理解して支えてくれる、一緒に歩いてくれる、そんな仲間がまた一人増えたのだから。
     アイツらと出会った時にそういうのはあの四人だけでいいって思ったんだけどな。でもこの子はもしかしたら俺が、一番本音を剥き出しに出来る相手なのかもしれない。一緒にいると気取らなくていいから楽だし何より心が穏やかでいられる。

     喜ばせる事より嫌がることをしない方が関係は長続きするという。大切な人が大切にしている事を大切にしていれば同じように自分も大切にされる。人は尊敬なしに誰かを愛する事はできない。
     願わくば、彼女とは……大人になってからもう一度会いたいな、とか思ったりする。

     ��ベストフレンド�≠ネんて、柄じゃないなって思うし、そういうの向いてないし、面倒くさいし今でもよくわからない。
     そんな括りにしてしまったら、お互いに恥ずかしくなるようなこともたくさんあるだろうからと避けて生きてきたけれど、何となく、ほんの少しだけ、それ以上の幸せがあるのだと言い切れる。

     彼女と出会えたことが今はこんなにも嬉しくて誇らしいから。この気持ちもどうか目の前の君に届きますように——。










     その 想い は、届いてるよ。



    (いた!まったお前ら二人で逢引きしやがって!)
    (げっ、寿……!)
    (げ、じゃねえ。部活来ねーと思ったらこれかよ。
     ……ったく、油断も隙もあったもんじゃねーな)
    (まぁまぁ、三角関係の方が燃えるじゃん)
    (水戸——っ、テメェはなぁ!!)
    (ほんと、恋愛って難しいなァー)
    (オイこら!逃げんな水戸ォ!!)
    (さ、さんかく、カンケイ……?)
    (あ!名前、お前も真に受けてんじゃねぇ!)


    ※『 Your Best Friend/倉木麻衣 』をお題に

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